ガールズバンドに振り回される日常 作:レイハントン
ようやく気が向いた今日この頃。
だいぶ話を書きためることができたのもあります。
あと2話でバンドストーリーが終わります。
それではどうぞ。
第44話 ハロー、ハッピーワールド!
松原を送った帰り。俺は紘翔と共に帰路を歩いていた。母親とタクシーで帰るのではなく、わざわざ一緒に帰ってくれるのは素直に嬉しい。だが少し申し訳ないとも思う。
「気がついたらいろんなことに巻き込まれてばかりだね。君は」
「そういう星の元に産まれたんだろうな」
ここまで来るとやはり巻き込まれないようにするのではなく、巻き込まれた時いかにして乗り切るかを考えたほうがいいかもな。
「あかりちゃんの件だけど。一筋縄じゃいかないかもね」
「どういう意味だ?」
珍しく心配そうな表情を浮かべる紘翔。
「松原さんが居たから言わなかったけど……あの子、見てわかる通り全く心を開こうとしないんだ。お母さんも悩んでいてね」
そういうことか。まぁあれだけ小さな子が居て、1人だけ笑ってなかったら気にもなるか。あの手の子が心を開いてくれるのは一筋縄ではいかない。それは外から見ていても容易にわかる。
「こればかりは俺たちじゃどうしようもない。後は松原たちが上手くやってくれるさ」
「そうだね。どんな方法であかりちゃんを笑顔にするのか気になるよ」
「ある意味、予測不能な奴らだからな」
そこが良い意味でもあり。悪い意味でもある。今回はそれがよく出ていたと思う。それでもフォロー出来る人間が居る。奥沢さんには酷だろうが、彼女なら出来ると思う。
「さて、少し寄り道して帰りたいんだが大丈夫か?」
「うん。少し遅くなるとは言ってあるから大丈夫だよ」
「さすが相棒。よくわかってる」
グータッチをかわして俺と紘翔は夕日に照らされた道を歩き続けた。
CiRCLE ロビー
あれからこころ達に絡まれることはなく。平穏な日常が過ぎていった。
ただそれでも。なにかしら物事が進んでいる……気はするんだ。あの後先考えずに思ったことを実行するこころならあり得なくもない話だ。
もしかするともうとっくに解決してたりは……流石に無理があるか。
「またぼーっとしてるわよ」
「ん? あぁ……紗夜か」
今日はスタジオにRoseliaが来る日だが……ずいぶん早くきたもんだな。1時間前だぞ。
「自主練か?」
「ええ。空いているスタジオはあるかしら?」
「運がいいな。ちょうど1つ空いている」
特に確認もせずに答えると紗夜の冷たい視線が俺に刺さった。適当なことばかり言っていると思われているだろうか。
「空いていること、確認するか?」
「いいえ。そうではないわ」
じゃあいったい……という言葉を発する前に紗夜が言葉を続けた。
「最近、ぼーっと考え事をしていること。増えた気がする」
「俺がか? ただぼーっとしているだけだ気に……」
そこまで言いかけて言葉を止めた。
確かに病院に行ってから増えたのかもしれない。でもそれは……後悔とかをしているわけではないんだ。ただ忘れないように思い返していただけで。
それよりも。
「ただぼーっとしているのか、考え事をしているのかよくわかったな」
「ずっと見ていればわかるわよ」
「……紗夜」
そこまで言ったところで、なぜか紗夜の顔がどんどん赤くなっていった。
「(こ、これじゃあ私がずっと夕のことを……)」
あぁ……そういうことか。
「ずっと一緒にいればそれくらいわかるよな」
「……そ、そうだけれど。そうじゃ……ない」
「ん? 悪い。最後の方聞き取れなかった」
「なんでもない。早く受付を済ませてほしいのだけれど」
なんで若干怒ってるんだ? 怒らせるようなことを言った覚えは全くないんだが。……単純に練習時間が減るからか。
「悪い。Dスタジオが空いてるからそこを使ってくれ」
「ありがとう」
お礼を言ってロビーを離れていく紗夜の背中を横目で見送ってから再び正面に視線を向ける。俺が言葉を詰まらせた辺りから紗夜の後ろに立っていた人物が1人。
なんだか楽しそうだな。ニコニコ笑顔を浮かべて。
「楽しそうだな。早乙女」
「旭日さんは……そういうお方なんですわね」
「どういう意味だ」
それ以上追求しても答えてくれることはなかった。
ロビー
時は過ぎて2時間が過ぎた頃。小休憩で飲むためのコーヒーを自販機で選んでいた。今日は微糖を飲みたい気分だが、いつものブラックも捨てがたい。
後ろに人が居ることだし、いつものでいいか。
後ろに並んでいたお客さんもどうやら同じものが欲しかったらしい。ちょうど最後の一本だったらしくボタンには売り切れの文字が赤色で光っていた。
「おっ。おつかれ〜美咲ちゃん。今から休憩かい?」
「は、はい。そうです」
「よかったらお茶しない?」
「バイト中じゃないんですか?」
今日は奥沢さんが市野木さんに絡まれているようだ。
「大丈夫大丈夫。いざとなったら旭日が居るし」
「そうですね。俺もいざとなったら市野木さんは仕事もせずにサボってばかりだとチクるしかないですね」
「あー待て待て。冗談だから。な? 旭日〜目が冗談として捉えてないって〜」
全くこの人は……。しばらく誰も出てこなさそうだしラウンジでいいか。備品のチェック表も確認しないといけないしな。
チェック表を左手に。ブラックの缶コーヒーを右手にソファーに腰を降ろした。少しすると市野木さんに絡まれていた奥沢さんが2人分離れた場所に座った。手には微糖の缶コーヒーが握られている。
「今日はブラックじゃない……」
「はい?」
「いや。ブラックはさっき売り切れたことを思い出した」
「そう…なんですね。一足遅かったです」
奥沢さんはコーヒーを買う時はいつもブラックだったな。
「よければ交換しないか?」
そう言うとキョトンとした表情を浮かべてからすぐに首を左右に振った。
「そ、そんな! 悪いですよ」
「実はな。微糖の方を買おうと思ったんだが、いつもの癖でブラックを買ってしまってな」
「あーいつもの癖ですか。……先輩がいいならあたしは構いませんけど」
「決まりだな」
少しだけ嘘をついてしまったが、微糖かブラックで迷っていたから問題ない。奥沢さんがどうかはわからないが。
お互いの缶コーヒーを交換し終え、俺は再び口を開いた。
「大変そうだな」
「そうですね。頭が痛くなる程には……」
あのメンツだしな。無理もないだろう。今度は何をしようとしているのかはわからないが、苦労せずに成し遂げることは出来なさそうだ。ある意味、退屈ではなくなるか……。
「1つ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「この前、花音さんに何を話したんですか?」
「大したことじゃない。松原が今なにを思っていて、どうすればいいのかを話しただけだ」
「そうだったんですね」
少なくとも道は1つじゃないことくらいは示せただろう。いったいどんな選択をして進もうとしているんだろうな。周りが周りだから………いや。
土壇場でどうにかしてしまうのが弦巻こころという人間か。
「結局今はなにをしているんだ?」
「花音さんに手伝ってもらって曲作ってます」
「ライブか。こころらしい」
「はい……。でもめちゃくちゃ大変ですけど」
「あのグループで曲作るなんて君にしか出来ないことだと思う。頑張れよ」
それだけ言い残してラウンジを後にした。近いうちライブはするんだろうが……いったいどこでやるつもりなんだ?
病院という単語が浮かんできたが、その可能性もないわけではない。普通は考えられない選択肢。それが残るところがあのハロー、ハッピーワールド! というグループだ。
病院 ロビー
本当にハロー、ハッピーワールド! というバンドはおかしいのかもしれない。
「まさか病院のロビーでライブを見やるとは思わなかったよ」
「同感だ。話には聞いていたが、実際にやるとはな……」
おそらく奥沢さんが頑張ったか、謎の黒服集団が何かをしたんだろう。後者なら、さすが弦巻財閥といったところか。鋼太さんなら喜んで手を貸すだろうな。
なぜ俺たちが居るかって? たまたまこころたちと出会して連れてこられた。以上だ。
彼女たちのライブに興味がないわけではないからな。むしろCiRCLE以外ではどんなライブをしているのか楽しみだ。
噂によるといろんなところでゲリラライブをしていたらしい。どんな場所でも弦巻財閥の力をもってすれば問題なしってことか。
「紘翔〜」
なにやら親友を呼ぶこの声は……。紘翔のお母さんか。何度見ても一般人にはないオーラを感じるな……。
「ライブ終わっちゃった?」
「ううん。これからだよ」
「ならよかった」
会話をかわすと今度は俺の方へと視線を向けてにっこり微笑んだ。
「いつも紘翔がお世話になってます」
「いえいえ。毎日助けられてばっかりです」
「本当にね。少しはぐーたらな部分を直してほしいくらいだよ」
「悪かったって」
そんな話をすると紘翔のお母さんはくすくす笑っていた。
「ごめんなさい。お友達に似ていたからつい」
「いえ。気にしていないので」
どうやら俺と同じような人は身近にも居るらしい。きっとその人もしつこく、厳しく注意されているんだろうな。幸い聞き流すということも出来るからしつこいとは思わない。……だから治らないのか?
すると子供たちを連れた看護師さんがロビーに現れた。もちろんあかりも一緒に。少し呆れ気味のようだが。
「それじゃあみんなは、座ってねー。あかりちゃんは車いす、ここね」
「はぐみちゃんたち、また来たの?」
「そうね。また来てくれたね。なにかたくさん、準備してくれたみたいだよ?」
もう来ないでと言っても、はい。わかりましたで済むような奴らではない。むしろ逆効果まであった。その結果がこうして今から行われるライブ。
あまりやる気を感じられなかった奥沢さんが珍しく頭を抱えていたくらいには、いろいろ準備をしてきたらしいしな。
なにやら話しているようだがここからだと聴こえない。
「大丈夫かな」
「まぁ大丈夫だろう。心配するべきことは派手に暴れ回ったりしないかだ」
「あらあら、そんな楽しそうことをしてくれる子達なの?」
「お母さん……ここ病院だよ?」
「病院だからと言って、気持ちを伝えることに遠慮をしてしまってはダメなのよ。限度はあるけど」
気持ちを伝えることに遠慮はダメ……か。確かに一理ある。言葉にしたって伝わらないことだってあるんだ。遠慮なんかしてたらなおさら伝わらないか。
そんなことを考えているとライブが始まった。
きっと想いは伝わる。まだ始まって数秒しか経っていないのに、心のどこかではそんなことを感じていた。
ライブ後。すっかり人が居なくなったロビーで俺と紘翔は話しながら横長の椅子に座っていた。
「まさかライブ中にハトが出てくるなんて」
「思いもしなかったな」
普通にマジシャンかと思うほどレベルが高かった。瀬田にあんな特技があったとはな。花びらが舞ったり、ライブ会場の色が変わったりで目まぐるしい演出。こころたちらしいライブだったと。俺は思う。
『できないことなんて、世界にひとつもないのよ! みんなそれに気づいてないだけなの!』
どうやらその言葉があかりにかなり響いたようで、最終的には自分の足で立つことができた。
敵わないな……こころには。行動と言葉だけで救ってしまう。1人で成し遂げた結果ではなく、5人全員で成し得た結果。仲間の大切さを再認識させられた。
「誰かの力になれるってすごいよね」
「ここまでくるのに強引な部分もあったみたいだが結果的には……力になれている」
「大丈夫。君も誰かの力になれているよ」
「………そうでありたいと願っている」
母さん……俺は俺なりに。出来ることをやっている。間違ってしまうこともあるけど、今は友達が。頼れる親友が居る。
「そうだ。今日の晩御飯うちでどう?」
「父さんに連絡しておく」
最近シフト勤務になって勤務帯が違うからな。今日は遅番で帰ってくるのは夜中だったはずだ。
「じゃあ決まりだね」
「おう」
そう答えて、お互いの拳を突き合わせた。
母さんにも会わせてあげたかったよ。紘翔のことを。
ハロハピは自由で楽しそうなバンドというイメージが昔からあります笑
ツッコミどころが満載で……笑
次回でようやくバンドストーリーが完結。
次はアニメ1期の後半です。
花女の文化祭辺りですね。
それではまた次回。