ガールズバンドに振り回される日常 作:レイハントン
第45話 終わりと新たなる始まり
CiRCLE ロビー
あれだけあった揉め事は少しずつ片付き平和になった。つまり、ようやくいつも通りの日常が戻ってきたわけだ。長かった……本当に。
気がつけば知り合いが次々にバンドを組み、今では4バンド。Afterglowは例外か。高校に入る前から組んでたからな。
今日はお客さんも少ない。ゆっくり考え事をするにはいい機会だ。しかし……。
「珍しいな。早乙女が受付に居るなんて」
「あら、わたくしだってお仕事の1つや2つこなせますわ」
「いつもは気がついたら居ないだろ」
「今日はそういう気分ですの」
仕事をするしないを気分で決めるのはよくない……よくないが、早乙女はなんと言うか。痒いところに手が届くような人間だ。
適度にサボって、やる時はしっかりとやる子だ。まぁ…まりなさんが見ている時、狩場さん及び天堂さんが居る時は、だが。いつも全力では疲れてしまうからな。個人的にはこういうガス抜きは必要だと思う。
「ここで働けてよかったです」
「急にどうしたんだ?」
仕事のマニュアルをパラパラめくりながらそんなことを言い始めた。
「………ずっと箱入り娘だったので、こういう外の世界は知らないことばかり。流行りのものや常識を知れてわたくしは満足しています」
「まぁあれだけサボって話いればな……」
「それは旭日さんから仕事のやり方を学んだからです」
「他の人には絶対言うなよ。振りじゃないからな」
後ろ姿しか見えていないが、おそらくいつものニコニコ笑顔を浮かべているんだろうな。
前から思っていたが、お嬢様というだけあって上品だな。1つ1つの動作とか。こころとはまた別のタイプ………いや、あれが特殊なだけか。
勝手なイメージだが、高飛車な感じがする。財閥のお嬢様は。
「旭日さん、あまり話していると"小うるさい子"が来てしまいますわ」
なんというか。時すでに遅しだな。これからめんどうなことが起きるかと思うと、今すぐにでも帰りたくなる。
ロビーに鈴音がやってきたようだ。この2人もまた混ぜるな危険………いや、すでに爆発物みたいな危険なものか。
「"小うるさくて"すいません。ですが、仕事中にサボるのはよくないと私は思います」
「あらあら。サボりとは侵害ですわ。これも立派な同僚とのコミュニケーション。大事ではなくて?」
「そう言っていつもペラペラおしゃべりしてますよね? お客様とだって」
1年生組はどうしてこうも互いに仲が悪いんだ……。どちらの言い分も個人的には大事だと思うのが、また注意しづらいところ。
手を動かさなければ、仕事が止まってしまう。サボりにサボって怒られている人を何度も見てきたからな。
コミュニケーションを上手い具合に取れればライブのオファーもしやすくなるだろうし。現にハロー、ハッピーワールド! がライブに出れない時は声をかけてほしいと言ってくれている所もある。
「この前もマナーの悪いお客様にガミガミ言って問題になってましたわね」
「それは注意して当たり前なことです」
「言い方というものがあると思いますけど?」
「そ、それは……」
今回は鈴音が押され気味か。
「でもあなただって、サボりすぎて狩場さん呆れてましたよ?」
「お客様と交流することで集客や参加バンドを増やしているのです」
「ものはいいようですね。バイトをさせてくれているという自覚はないようです」
「うっ………」
と、思ったら今度は早乙女が。
このままじゃあ、どちらも手付かずで仕事が回らない。ちょうどいい塩梅というものはなかなか見つからないらしいな。仕事よりもこっちの対応の方が最近は困る。
「わかったから。喧嘩ばかりしてると、どちらの言い分も成り立たなくなるぞ」
「旭日先輩はどっちが正しいと思いますか?」
めんどくさい質問だな………。この場合どっちにつく必要はないが。
「どっちも正しい。仕事もコミュニケーションもとらないといけないことがわかってるんだ。あとはやるだけだろ? 互いに出来ていない部分は補えばいい」
2人が言い返してくることはなかった。出来てない部分がわかっているんだろう。個人が苦手なところを出来るようにするっていうのはなかなか難しい話だ。
「なにか反論はあるか?」
「ないです」
「わたくしも」
そこは素直に聞いてくれて嬉しい限りだ。
2人を別々の場所に仕向け、ようやく静かな時間が訪れた。今は紘翔が戻ってきて少し気を抜いている。
「はぁー……」
「どうかしたの? ため息なんて吐いて」
「早乙女と鈴音が口喧嘩を始めてな」
「あの2人って仲悪いの?」
「いや、人には合う合わないがあるってだけさ」
それを言ったら俺と湊もソリが合わない部分が多々ある。セットリストやライブの演出。醜い争いに結局発展するからあまり多くを語っていないだけで、割と討論している。
「そういえばSPACEって夕くんの前のバイト先だよね?」
「そうだが。気になるのか?」
「さっきお客さんがまたオーディションに受からなかったって言ってたから」
「あそこは厳しいからな……。受けるバンドも多いが、落ちるバンドも多い」
「Roseliaはどうなんだろうね」
「………そうだな」
FUTURE WARLD FES.まで特に大きな大会はないからな。機会があるのならSPACEのオーディションも受けてみるのもいいか。得られるものは必ずあると思うし。
ただ……いや。バンドに対する、音楽に対する熱意は全員本物だ。大丈夫だろう。
「休憩の時にカフェテリアで話してみる。もうすぐ出てくる頃だろうし」
「休憩だね。ここは僕が見ておくよ」
「話が早くて助かる。あとは任せた」
紘翔にロビーを任せて俺は30分の休憩を取るためにこの場を後にした。
CiRCLE カフェテリア
休憩ついでにとりあえず来てみたはいいが………。今日も大変そうだな。主に真宗が。
「オ、オキャクサマ。お待たせ……しております。ご、ご品物をお持ちしましたです」
女性のお客さん相手に接客をしている。片言になっているが話せている。……話せているのか? あれは。
まぁそれもそうだろう。なんせ後ろに笑顔を浮かべているはずなのに殺意剥き出しの天堂さんがいるのだから。流石の真宗も殺意には勝てない。
その殺気を察知したのか、早乙女も黙々と接客をしている。やる時はやりますモードってやつか。
「あれー? 旭日君じゃん」
「ちょうどいい所に。もう帰りか、」
「うん。そうだよ?」
タイミング的にはバッチリだったわけだ。
「今って休憩ですよね? あっ! もしかして、働かないと落ち着かないってやつですか?」
「あこちゃん……さすがに…それは」
「もはや社畜ね。さすがだわ」
「お前らはいちいち馬鹿にしないと気が済まないのか?」
と言いつつも白金も本当に大丈夫ですよね? 的な視線を向けている。心配してくれているのはわかるが、そこまで真剣に考えなくても大丈夫だから安心してほしい。その優しさは痛い。
「なら、なぜここに居るのよ」
「何か身近な目標がないかと思ってな。今度、SPACEのオーディション受けないか?」
「SPACE……以前夕がバイトをしていたところよね?」
「そうだ。今のRoseliaなら受かると思う」
大きな目標は依然変わらずFUTURE WARLD FES.で間違いない。だが、さっきも言ったが身近な目標がないとモチベーションにも関わると思った。本当にさっきだが。
「いいじゃん! どう? 友希那」
「……少し考えさせて。前向きには考えるわ」
話は決まりだな。あそこは高頻度でライブしてるし先でも大丈夫だろう。
「あえて言わせてもらう。SPACEのオーディションは生半可な気持ちでは受からない」
「それは旭日が1番わかっていることでしょう?」
「違いない。これでも一応たくさん落ちたバンドを見てきたからな。警告だ」
ふと一瞬。今井の表情が歪んだ気がする。気のせいだろうか。脅すつもりはなかったんだが。
「話はそれだけだ。俺は休憩に戻る」
「待って。今日の晩御飯だけれど」
「また用意してくれてるのか? 悪いが、今日は遅くなるから玄関の前にでも置いておいてくれ」
紗夜の返事を待つこともなく俺は休憩に戻っていった。
毎度ありがたいことだ。いつもコンビニで買うか、家にあるものを食べているだけだからな。なければ食べないで寝ることもある。
─────☆
「(玄関にって……マンションだけど誰かに盗られたらどうするのよ)」
ふと誰もいないリビングで1人食事をする彼の姿が脳裏によぎった。
あまり気に留めたことはなかった。いや……気に留める余裕がなかったせいで見落としていた。父親はシフト勤務で帰宅する時間がバラバラで、会わないことがほとんど。本人も子供ではない。仕事なら仕方ないと割り切っているが………。
本来家族がずっと居ないというのは普通ではない。それが普通になりつつある世の中も本当はおかしいのではないか。
気にすることでもない話。そう思いたいが、いまいち不安な気持ちが拭えない。
「夕先輩って夜ご飯くらい家族と食べないんですか? お父さんと上手くいってないとか」
「宇田川さん」
「こ、ごめんなさい……」
「いえ、怒っているわけではないんです」
つい強めの口調で言ってしまった。彼の詳細な家庭の事情を知らないとはいえ、言わずにはいられなかった。
「こんな時ですけど。みんなも感じませんか? 夕先輩って壁を作ってるような……。自分のことも全然話してくれないですし」
「他人を……絶対、内側に……入れないって……感じ? だよね?」
2人が言うことはたぶん間違っていない。彼自身が意図的にやっていることなのか。それとも意図をせずにやっているのか。
「あーなんとなくわかるかも。はぐらかされてる感じもあるしね」
いつの日か彼は息を吐くように嘘を付くようになった。もちろん些細なことなら紗夜はすぐに見抜けるが、大きなこととなると正直わからない。
「あと表情変わらないのもちょっと怖いよね。……そもそも表情変わらないのは元々なの? 紗夜」
「いえ……少なくとも…」
そういった姿を見せてくれることが当たり前だったから。忘れてしまっていた自分が居たことは事実。
『30分も遅刻。どういうことかしら?』
『悪かったって』
『寝坊?』
『まぁ……そんなところだ』
『次からは連絡くらいしなさい』
『そうする。紗夜が優しくて助かった』
そう言って微笑む彼。
よくよく話を聞いてみれば道に迷っている子に道案内をしていたらしい。なぜその場で言わなかったのかはわからない。
「以前は笑っていましたよ」
「そっか……」
「想像出来ないわね。旭日が笑ってるの」
それほど彼の表情はまるで変わらない。あの時自分の思いを吐き出した時でさえ彼は冷静だった。表情1つ変えずに淡々と言葉を並べてくる姿は機械のようにも感じる。
彼が歩いていった方へと視線を向ける紗夜の髪を───風が揺らした。
旭日家 自室 ベランダ
バイト終わり。いつものように風呂上がりにベランダへと訪れた。今日は先客が居るらしい。
「お疲れ様」
「そっちもな。今日はいろんな意味で疲れた」
「特に大変そうなメンバーではなかった気もするけど」
「そうでもないんだ」
今日あったことを紗夜に話すと少し意外という言葉が帰ってきた。早乙女がサボっているところを見る回数の方が少なかったらしい。紗夜たちは基本カフェテリアの方には出てこないからな。
「俺の話はいい。紗夜はSPACEのオーディションの件、どう思った?」
「私は……受けてみたいと思う。厳しいオーディションだと聞くし」
「そうか。まぁいつも通りの演奏なら問題ないと思う。ただステージがいつもとは違うだけだ」
仮に受かればGlitter*Grrenとの共演も観れるということか。鰐部先輩の正体を知ったら驚きそうだな。メガネをかけているか、かけていないかの違いなんだが。
そういえば………この時期なにかあったような気もする。
「紗夜、この時期ってなにかあったか?」
「花女の文化祭? くらいだと思うけれど」
「ああそうだ。去年もこのくらいの時期だったな」
文化祭といえば秋とかにあるイメージなんだが……花女は夏休み前という珍しい時期な気がする。屋台はもちろんライブとかもやってたな。母さんが軽音部と一緒に去年演奏していた。
Roseliaは……出るわけがないか。
「これから色々決めないと行けないわね」
「忙しくなるだろうけど、無理はするなよ」
「ええ。夕こそもうすぐ花フェスの時期じゃない」
花フェス……うちの高校で開かれる花咲川フェスティバルと呼ばれる音楽祭だ。通称花フェス。去年は生徒会にこき使われたもんだ……。友好関係の花女と羽丘にも出場バンドを募ったり準備で忙しいんだよな。
話を通すのに便利な俺が使いにされてな。まぁ仕方ない部分もある。去年の生徒会長はそういう使えるものは使う系の仕事人だったし。
「適当に頑張るさ」
「南雲さんに迷惑をかけないようにするのよ」
「そこは相棒に聞いてみないとわからないな」
「(本当に仲がいいわね。瀬名さんと松風さんは部活や他の友達と居ることも多いから心配していたけど……)」
花フェスまで時間はあるし、その時になったらまた考えればいい。今年も手伝いくらいしかやることはないだろう。
少しだけ暖かくなった風が俺たちの間を吹き抜けていった。
これは始まりの終わり。俺はまた新たな問題へと足を踏み込んでいた。
久しぶりの投稿です。
突然ですが、バンドリの最新状況やストーリーは基本見ないのですが(そういった情報を知ると先の先のお話を書きたくなってしまう為。悪い癖ですね)、たまたま紗夜さんが教習所に行っているという会話を目にしました。
Roselia3章で終わりにする予定でいるのですが、免許を取るとなるとどんな話に出来るのかつい考え込んでしまいました笑
さて次回からはアニメ1期の文化祭編ですね。
ギスドリです。
それではまた次回。
PS.紗夜さんがVRMMOをやり始めた日には知識豊富でゴリゴリなタンク職やってそうですよね。
運動神経もかなりいいですし、きっと最強だと思います。