ガールズバンドに振り回される日常   作:レイハントン

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こんにちは。

さて今回はデート回です。

それではどうぞ。


第3話 夕と紗夜

第3話 夕と紗夜

 

 日曜日の朝。今日は以前紗夜と約束したドッグカフェに行く日。当然ながらいつも通りに紗夜に起こしてくれ、と頼んだはいいが少しおかしなことになっている。気がする夕。

 

 ベッドの上に寝転がったままで、まだ意識は覚醒しきっていない。そんな中、半開きの目で入り口付近に居る紗夜に視線を向ける。

 

「紗夜……もう時間か?」

「起こしてしまってごめんなさい。まだ寝てて大丈夫よ」

「そう……か。じゃあ……そう……」

 

 言い切る前に意識を手放してしまう。

 

 起こすつもりはなかったが、タイミング悪く一瞬目を覚ましてしまったらしい。しかし、さすがというべきか。一瞬で再び眠りにつくのはすごいと思う。

 

 静かに歩み寄り布団をかけ直してあげた。相変わらず枕があるのに使わないらしい。もはやなんのために置いてあるのかと疑問に思う。

 

「いつも……ありがとう」

 

 その言葉が、彼に届くことはない。

 

 

 

 

 

 

「ゆーくん! ゆーくん! そとでおにごっこしようよ!」

「ひな! ゆうはわたしとあそぶやくそくしてたのよ?」

「まてまて。……じゃあいっしょにあそぼう」

 

 ずいぶん懐かしい記憶だ。小さい頃はよくああやって2人に遊ぼうってねだられた。学校終わりは3人で宿題を終わらせて、遅くまで遊んで怒られて。そんか日々がずっとつづ────

 

 

─────☆

 

 ふと目を覚ます。そういえば朝早くに紗夜が来ていたような……。眠くてあまり覚えてないが、なんの理由で早く来たんだろうか。リアルすぎる夢……だとしたら。いや、やめておこう。

 

 ベッドから降りて軽く背伸びをする。まだ完全にはっきりとしない意識の中、リビングに向かう。この時間はまだ父さんは寝てる……よな? リビングから聞こえてくるテレビの音にドアを開ける手が止まる。となるとやっぱり。

 

 意を決してリビングに通じるドアを開けた。

 

「紗夜か」

「自分で起きてきたの?」

 

 あまり見慣れない光景なのか少しだけ驚いたような表情を浮かべる紗夜。

 

「たまたま目が……。それより悪いな。1回起きたような気もするんだが」

「大丈夫よ。まだ出かける時間じゃないから」

 

 いや、それはそうかもしれない……まぁそう言ってくれるならいいか。そんなことよりも腹減ったな。割と遅い時間に起きたし。

 

「雨は降らないみたいね」

「それはよかった。いろいろと面倒だし」

 

 何食わぬ顔をしてダイニングテーブルに座ると、スクランブルエッグが乗った皿、トーストが2枚乗った皿、サラダが乗った皿が出てきた。これはありがたい。自分で何か用意する気もあまりないというぐーたらぶりが発揮していたところだ。

 

「ありがとな」

「え、ええ……。食べて片付けをしてから行きましょう」

「だな。いただきます」

 

 ここでも俺のめんどくささは発揮した。スクランブルエッグをトーストの上に乗せはじめる。それを見て明らかに呆れたため息が聞こえてきた。

 

「別々に食べるという発想はないのかしら?」

「いやだって。めんど……こうした方が美味しそうだったから」

 

 明らかに取り繕えてないが、それでも問題はないらしい。乗せ終わると同時に俺はあるものがないかテーブルの上を探す。

 

「ケチャップなら今とってくるけど」

「悪いな」

 

 なぜ伝わったのかは謎だがまぁいい。持ってきてもらう間にサラダでも食べるとしよう。

 

 一旦トーストを皿の上に置いてからサラダを食べはじめる。

 

「久しぶりに野菜食べた気がする」

「そうだと思って、用意したたのよ。もっとバランスのいい食事をしないと」

「わかってはいるんだけどな」

「わかってるだけでは意味がないわ。行動に移さないと」

 

 この言よう。いつもの紗夜だ。だが言わせてほしい。ほぼ1人暮らし状態の男が出来ることなんてたかが知れてる。料理する男子の方が俺は少ないと思う。だいたい買って済ませた方がはるかに楽だしな。作ると片付けと洗いものというめんどくさいのが待っている。

 

「それが出来たら」

「苦労しないのでしょう? 聞き飽きたわ」

「そ、そうか……」

 

 なぜか朝から怒られてるんだが? 俺が悪いのはわかるけど、そんな朝から怒らなくてもな。

 

 持ってきてくれたケチャップをトーストの上にかけはじめる。

 

「カフェまでは電車でいいのよね?」

「駅の近くだからな。前にも話したけど、人混み大丈夫か?」

 

 なんて聞きながらケチャップをかけたトーストにかぶりつく。

 

「心配してくれてありがとう。でも大丈夫よ」

「ならいい。無理はするなよ」

 

 紗夜は昔から人混みが苦手らしい。対照的に日菜は催し物が好きでよく行こうって誘われた。そこにいつも紗夜は居なかったな。日曜日の電車は出かけたりする人で溢れかえるのは目に見えてる。だから別の方法でもいいって提案したんだが……。本人が大丈夫って言うなら信じるか。余計なお節介はやめておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 紗夜の作ってくれた朝ご飯を済ませ、家の戸締りを確認して家を出た。俺の家から駅まではそう遠くない。歩いて数分くらいか。

 

 今日の外は雲が多めだ。天気予報では雨は降らないらしいが少し心配だな。折りたたみ傘の1つでも持っていれば安心か。

 

「雨は降らないみたいだけど、一応折りたたみ傘持ってきたわ。夕の分も」

「……俺の折りたたみ傘いつ持ってきた?」

「夕が寝てる時よ」

 

 さすが紗夜だな。出かける時いつも頼りなる。俺か? 雨降ったらその時はその時だ。カバンにパソコンが入ってなければいつでもダッシュで家に帰れる。

 

 そうだ。寝てる時といえば。

 

「寝てる時にありがとうって聞こえたような気がするんだが。テレビでも観てたのか?」

「そうだけど……うるさかったかしら?」

「いや、なんとなく」

 

 寝落ちの寸前というか。寝ている時って不思議だよな。夢なのか現実なのかよくわからん。

 

 ふと紗夜に視線を向けた。

 

「顔赤くないか?」

「き、気のせいよ」

 

 そんな暑いわけでもないはずだが。感じ方は人それぞれか。

 

 特に問題はないという紗夜を横目に駅まで雑談しながら歩いた。時折当たる紗夜の手は少し冷たく感じた。

 

 

 

 

 

 

 数十分歩き、着いた駅だが案の定人がたくさん居る。人混みが苦手な人は酔ってもおかしくないくらいに。俺は特に大丈夫だが、問題は紗夜だ。

 

「大丈夫か?」

「ええ……2駅くらいでしょ?」

「2駅だが、この時間と日にちを考えるとかなり多いぞ」

 

 時間は午前10時前後。日曜日。東京。この条件がそろえば大抵人が多いのは目に見えている。17年も住んでいればおのずとわかることだ。

 

「考えても仕方ない。行くか」

「えっ? ちょっと夕?!」

 

 紗夜の手を握り、人ごみの中に紛れていった。この人の多さだ。誰も見ていないだろう。それに好き好んで人のつないでる手なんか見ないだろ。

 

「改札通る準備しておけよ。それと…手離すな」

「え、ええ……」

 

 改札を2人で順番に通り抜け、人があまり居ないであろう端の方まで移動する。

 

 紗夜の手は少し冷たい。手が冷たい人は心が暖かいと聞いたことがある人がほとんどだろう。外から見ると厳しい紗夜だけど、優しい一面だってある。

 

 さすがに端の方に来ると人の数が減る。手を繋いだまま列の最後尾に並ぶ。

 

「……そろそろ離してくれないかしら?」

 

 申し訳なさそうに言われ、手を繋いでいたことを思い出した。そっと繋いでいた手を離す。

 

「悪い。急に握ったりして」

「気にしないで」

 

 本人が大丈夫というならと思うが、俺はどうも思えない。さっきから目を合わしてくれない上に、少し距離を取られた気がする。それでも無理に追求せず、電車が来るであろう方向に視線を向けた。

 

 さすが東京。少しすると目的地方面に行く電車が来るアナウンスが入った。

 

「そろそろ来るみたいだな」

「そうみたいね」

 

 こうやって話している間にも電車の走ってくる音が聞こえる。数秒もしないうちに俺と紗夜の前を通過。2人の間を抜ける風。ふと右に視線を向けると、左手で髪を抑える紗夜の姿が目に入る。ぐーたらな俺にはもったいない美人な幼なじみ。もっとちゃんとした奴と幼なじみだったら紗夜はどうなっていたんだろうか。2人は───

 

「夕?」

「なんでもない」

 

 少しぼーっとしすぎたか。

 

 2人で電車に乗り込むが、かなりぎゅうぎゅう詰めだ。ドアが閉まると同時に少し体制も楽になる。そう思っていた。

 

「2駅だから我慢してくれ」

「わ、わかってるわよ」

 

 ぎゅうぎゅう詰め過ぎて俺は今紗夜の目の前に居る。顔の近さは今までで1番近いんじゃないかと思う。電車が発車する小さな揺れ。どんどんスピードが上がっていくのがわかる外の景色。視界の1部に映る紗夜の顔が少し赤い気がするのは気のせいだろうか。

 

「5、10分くらいよね?」

「まぁそのくらいだな。東京は駅の感覚が近いから長く感じる」

「確かにそうね。いつもよりも長い気が───」

 

 紗夜が話していた時。割と大きな電車の揺れが車内を襲った。さすがに何も掴まないで立ってられるほど俺は鍛えていない。

 

 ドンと軽めに音を立てながら紗夜の顔の左に手を着いた。言う所の壁ドンというやつだ。

 

「悪い。悪気はないんだ」

「わ、わかってるわよ……。わかってる……」

 

 今までこんな距離が近かったことがあっただろうか。いや…….確実にない。

 

 こんなまじまじと紗夜を見たのは初めてだ。整った顔立ち。日菜とは対照的に垂れた目。綺麗な緑色の瞳。長いまつ毛。街中でモデルにスカウトされてもおかしくない。

 

「夕…? 私の顔に何か付いてる?」

「いや。綺麗だなって思ってさ」

「け、景色が?」

「そ、そうだな」

 

 その言葉の直後。紗夜が重たいため息を吐き出した。この場合はなんて言うのが正解だったのだろうか。教えてくれ。

 

 

 

 

 

 電車で2つ先の駅にたどり着いた俺と紗夜。人混みの中、また手を引きながら駅を抜ける。駅を出れば少しはマシになるもんだ。次々目の前を通って行く人の間を縫ってカフェがある方に歩く。少し歩いていくとある行列にたどり着いた。

 

「ここみたいだな」

「ええ。さすがの行列ね」

「この前開店したばかりだしな。待てば大丈夫そうだし待つか」

「そうね」

 

 待っている間俺は特にやることはない。すると紗夜は鞄から楽譜を取り出した。

 

「ごめんなさい。こんな時まで」

「気にするな。来週だろ? ライブ」

「ええ。ありがとう」

 

 ライブか。今回は割と長くバンドとして活動出来てるな。話を聞くと、どうも紗夜と価値観が合う人間が居ないらしい。音楽のことになるとひときわ自分にも他人にも厳しくなるからな。妥協という言葉おそらく紗夜にはない。

 

 そのせいなんだろうな。バンドのメンバーとは磁石のように反発しあい最後は紗夜だけ脱退。なかなかバンドメンバーが見つからない。なら代わりにと言ってやりたい気も昔はあった。だが紗夜の夢を叶えるのはなんとなく俺じゃないと勝手に思い込んでいつもフォローする側に回っている。

 

 FUTURE WORLD FES.

 

 紗夜の目指す音楽の祭典。

 

「夢か……」

 

 1人ポツンと放った一言。誰の耳に入るわけでもない。

 

 俺には夢はない。だけど守ることは出来る。

 

 昔テレビでやってた特撮のヒーローが言ってた言葉だ。その後に始まる女の子向けの番組を観るためにいつも日菜と紗夜に捕まってたのを今でもよく覚えている。

 

「どうしたの夕? 思いつめた顔して」

「なんでもない」

 

 いつか紗夜と日菜の夢を守れる日が来るのかもな。

 

 行列に並んで30分くらい経っただろうか。ようやくお店の中に入ることが出来た。あまり待たなくて済んだのはラッキーだったな。見た感じ1時間は余裕で待ちそうだったし。

 

 お店のドアは二重になっている。カフェの中に子犬がリードなしで放たれてるから、逃げないようにだろうな。ふと隣を見るとにやにやが止まらない紗夜の姿が目に入った。

 

 あまり触れないでおくか……。それとも少しばかりいじるか。

 

「紗夜。口元緩み過ぎてるぞ」

「わ、わかってるわ」

 

 まぁ今回は仕方ない。店内には様々な種類の子犬が居るんだからな。もふもふしたもの。特に犬が好きな紗夜の口元が緩むのも仕方ない。いつもの姿からは想像できないな……。

 

「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」

「2人です」

「2名様ですね。席に案内します」

 

 奥の席に案内され、席に座ると店員が水の入ったコップをお盆に乗せてやってくる。

 

「ご注文お決まりになりましたらそこのボタンを押してください」

 

 笑顔でそう告げていくと俺たちの席から離れていった。対応はどこのカフェと変わらないか。ただ看板娘と一緒にお茶出来ないくらい。それが出来る方がおかしいな。

 

「夕はコーヒーよね?」

「ああ。紗夜はどうする?」

 

  メニューを見ずに会話を進めていくが、さすがになかった時が恥ずかしい。横に置いてあるメニューを取ってお互いが見えるように真横にしてテーブルの上に置いた。パラパラとめくっていくと、普通にコーヒー類の飲み物はあるようだ。少し変わってるのは子犬にあげる用のおやつがあることくらいか。

 

「せっかくドッグカフェに来たんだ。あげてみるか?」

「私は別に……」

 

 あげたいって顔してるけどな。

 

 俺は構わず店員さんを呼ぶためにボタンを押した。少しするとファミレスなどでよくみる物を持って、来てくれた。

 

「ご注文はお決まりでしょうか?」

「アイスコーヒー2つと、この子犬に上げるようのおやつを1つ」

「かしこまりました。アイスコーヒーとおやつですね? 少々お待ちください」

 

 注文を聞いた店員は奥へと戻って行った。背もたれに深く腰をかけながら左手を後ろに回す。頼んだものが来るまでは時間かかるだろうな。思ったよりも人が多いし。そんなことを考えていると、一匹の黒い柴犬が近寄ってくる。

 

 視線を向けると俺の左手をぺろぺろと舐めてきた。頭を指で撫でてやるとどこかへと行ってしまう。ふと視線を起こすといつの間にか別の子犬を抱えた紗夜の姿が映る。

 

「もふもふ具合はどうだ?」

「チワワはもふもふしてるタイプじゃないわ」

「じゃあつるつるか?」

「さらさらの方が正しいと思うけど」

 

 なるほどな。確かにさらさらしてそうな毛並みだ。それに小さいな。こうして紗夜と話しているが犬の犬種はよくわからん。強いてわかるのは柴犬とかそこら辺の有名どころだけだ。小学生の時はよく犬の図鑑とか一緒に見たのは今でも懐かしい思い出だな。

 

「そういえば昔子犬飼いたがってたな」

「昔の話よ。うちはずっと世話する人が居ないから飼えなかったけど」

「だだこねてたような気も」

「こねてないわよ」

 

 若干顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。普段学校じゃこんな感じには周りは見えないんだろうな。風紀委員らしいから校則とかは絶対に破らなそうだ。俺なんて制服はちゃんと着てないし、授業中はぼーっとしてるか寝てるかだな。真面目に受けないといけない。そう思っても実行できない。

 

「お待たせしました。アイスコーヒーとおやつになります」

 

 注文したコーヒーの入ったガラスのコップ2つとおやつが乗った皿をお盆に乗せて運んできた。コーヒー、ミルク、ガムシロップをそれぞれ置いていく。自分の分を取り、まずはコーヒーの匂いを確かめた。

 

 普通のブラックの香りだ。手抜きだったらどうしてくれようか。

 

 今度は一口コーヒーをブラックの状態で飲む。

 

 普通に美味い。まだ羽沢珈琲店の方が好みだけど。

 

「夕っていつもその飲み方するわよね?」

「ブラックも好きだからな。それに元が美味しくないとミルクとガムシロップ入れても美味しいかわからん」

 

 今まで沢山のコーヒー店に足を運んだが、未だに羽沢珈琲店を超えるコーヒーには出会えてない。

 

 コーヒーを飲みながらふと窓の外を見ると雨が降っていた。紗夜の言った通りになったか。降りたたみ傘持ってきておいてよかった。

 

 俺の視線の先が気になったのか紗夜も同じ方に顔をを向けた。数秒程度眺めたあと顔を戻すが、うつむき気味にチワワを見見始めた。そして頭を優しく撫でる。

 

「どれだけ可愛くても、この子たちを捨ててしまう人が居るのよね?」

「………世の中には心優しい人ばっかりじゃないからな」

 

そう言ってコーヒーを飲むが、妙に冷たく感じた。

 

 たぶん紗夜はあの日のことを思い出したんだろう。どうしようもなくて。悔しくて。泣いたあの日を。今でも鮮明に覚えてる。

 

『この子が可哀想』

 

 そう言って涙を流した紗夜の姿を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれは高校1年の梅雨の時時だ。降りしきる雨の中、たまたま帰り道で一緒になった日。いつもとは違う帰り道で2人揃って歩いて帰っていた時。道の端でぐったりしている犬が俺たちの目に入った。近寄る紗夜の後ろに着いていくと、泥で汚れて、所々怪我をしている。

 

「この犬……怪我してるわね」

「そうだな。飼い犬っぽいし、捨てられたか迷子か」

 

 犬には首輪が付いていて飼い犬ということは十分わかった。しかし捨てられたか、逃げてしまったのかはわからない。まぁこういうのには近寄らないのが面倒ごとを避ける道だ。

 

 だが紗夜は違った。

 

「可哀想……」

 

 そう言ってしゃがんで撫で始めた。

 

「紗夜。あまり触ったりするな。噛みつかれでもしたら大変なことに」

 

 しかし聞いている様子はない。噛みつかれでもしたら狂犬病とかいろいろあるのにな。

 

「ねぇ夕……この世界は冷たいのね」

 

 紗夜の頬を伝う涙。傘を差しているのに雨に濡れるはずがない。自分がやったことじゃないのになぜ涙を流す?

 

「この犬知ってるの。時々散歩をしているのを見たことがあるけど、いつも飼い主に怒られてた」

 

 だから捨てられたって言うのか? どう考えても紗夜せいじゃない。なのになぜ。

 

「私が言えばこの子はこうならなくて済んだのかしら? こんな辛い思いしなくて済んだの?」

「俺にはわからない。だけど───」

 

 紗夜の隣にしゃがみこみ涙をそっと拭った。

 

「世界は冷たいのかもしれない。人それぞれだからな。でも………紗夜はその優しい心を。暖かい心を忘れないでくれよ」

 

 自分の傘を閉じて地面に置く。そして犬をそっと優しく両腕で持ち上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「言ったろ? 世の中優しい人ばかりじゃない。だけど紗夜は優しい心を忘れるなって」

「……普段から真面目にしてくれれば言うことなしなのに」

「普段から真面目で居るのは疲れる」

 

 厳しそうに見えて結局紗夜は優しい。ただその優しさをなかなか人や自分に向けられないだけなんだ。それさえわかればいつかきっと。

 

 わかっていても無意識にポロッと出してしまった言葉が、結果的な今の状態になっているわけだが。いつかは……"紗夜は優しいな"って言える日は来るのだろうか。

 

 コーヒーを飲んでガラスのコップを置く。いつの間にか降っていた雨はどんどん弱まっている。外に雨が降っている様子はこの遠い席じゃ確認出来ないほどに。

 

だが、暗い表情だった紗夜はどこか楽しそうに子犬たちに頼んだおやつをあげていた。こんな日常が……ずっと続けばいいな。

 

 

 

 

───────☆

 

 

 

 ないものほどねだってしまう。

 

 どう願おうが、奇跡が起きようがあの日の日常は戻らない。彼の残したものはあまりにも大きすぎた。

 

 忘れたいのに忘れられない。

 

 辛いはずなのに涙は一粒足りともでない。まるで乾いてしまったかのように。

 

 赤いヘッドホンを首にかけたまま少女はベッドに寝転がっていた。天井を見つめ続けてどれくらいの時間が過ぎたのだろう。

 

 過ぎ去った時間すらも確認するのが面倒になってしまった。ただ時間を無駄にしているのがわかっていても動けない。

 

 

 

 彼の姿が………頭から離れない。

 

 

 

 

 

 ドアの隙間から彼女を見つめる1人の少女。心配な表情を浮かべ見守る。

 

 

「おねーちゃん……」

 

 その言葉が届くことはない。

 




もはや夫婦なのではというくらい行動が読まれている主人公笑
普段はぐーたらなくせにいざという時には動く。そんな主人公です。
そんな主人公と一緒にいる紗夜さんを見守っててください。

もう少し読んでくださる方が居たら投稿スピード上げようかと思う今日この頃ですね。多くの人に読んでもらえるよう頑張ります!

感想、評価お待ちしております!
些細なことでも!

最後に1つ。先に進むと話が重たくなってきます。主人公とヒロインがどうなるかまだ決めてない感じです。

それではまた次回。
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