ガールズバンドに振り回される日常   作:レイハントン

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こんばんは。レイハントンです。

今回はバレンタイン回ということですね。
特別回で少しずつ何かの物語が進んでいるのでそこも注目です。

それではどうぞ。


バレンタイン

バレンタイン

 

 紗夜と共に次の写真を見ていくと、懐かしい1枚が出てきた。写っているのはチョコを食べる自分自身と綺麗にラッピングされた贈り物。これはあれだ。

 

「この写真は……バレンタイン?」

「日付的にそうだな」

 

 一度裏返して日付を確認してから再び表にする。

 

「中学3年生の時……ね」

「高1の時はもう母さんは居なかったからな」

 

 恐らく体調を崩してからの写真は全くない。少しくらいは撮っておいた方がよかったのかもな。思い出の詰まった写真と一緒にしまっておくのに。

 

「チョコを食べているの…珍しいわね」

「紗夜から貰ったやつ……だと思う」

「ちゃんと……食べてくれたのね」

「1番好みな味のチョコだったからな。それに……紗夜から貰ったものだし」

 

 好きな人から貰ったものが嬉しくないわけがない。

 

 そういえば母さんは昔手作りをくれたような気もするけど、最終的に板チョコになった。シンプルでいい。決して作るのがめんどくさくなった。ではないはず。

 

 次の写真は母さんと大量のチョコの箱が映った写真だ。

 

「昔からこんなに貰っていたのね」

「ちゃんと全部食べるんだから、そこは律儀だな。だいぶ時間は経っていたが」

 

 どの写真もバレンタインらしい写真ばかりだ。と言っても貰ったチョコを写したものばかりだがな。

 

 バレンタインか……そういえば……。

 

 

 

 

 

 

 2月14日。

 

 この日、用事もない俺は部屋で1人。画面に映るある6文字を説明してくれているサイトと睨めっこをしていた。

 

 世間ではバレンタインと呼ばれ、女性から男性へチョコを贈る日……とされているがその実態は違う。独り身の人がカップルに爆発しろと妬む日……でもなく。

 

 第二次世界大戦後まもなく、流通業界や製菓業界によって販売促進のために普及が試みられたが、日本社会に定着したのは1970年代後半であった。

 

「1970年代……もう少し遅いものだと思っていたが、意外と1900年代なんだな」

 

 毎年2月に売り上げが落ちることに頭をかかえていた菓子店主が企画を発案したと云われている。「女性が男性に対して、親愛の情を込めてチョコレートを贈与する」という「日本型バレンタインデー」の様式が成立したのもこのころであった。

 

「つまりあれか……お菓子会社の企画が今の風習になったと」

 

 バレンタインってカップルのイベントかと思ったが、元を辿れば意外と違うらしい。考えたお菓子会社はこうなるとは思ってもいなかったんだろうな。

 

 毎年智紀は大量に貰っていたな。運動出来て、人当たりもいいしモテるのも頷ける。だが、俺はこんなにもらったぞ。と言いたげな表情だけは腹が立つ。人が甘いものを好きじゃないことを知っていながらその顔をしてくるのがさらにな。

 

 ふと時間を見ると、だいぶネットサーフィンをしていたらしい。珍しく午前中に起きれたというのにあっという間に午後だ。こんな調子では母さんに怒られてしまう。と言っても母さんは父さんと出かけて居ないが。

 

「さてと……昼でも買いに行くか」

 

 ようやく重い腰を上げて、俺は出かける準備をした。

 

 

 

 

 

 準備を終えて(ダラダラしていたらそこそこ時間が経っていた)ようやく家を出た。

 

 ジャージでもいいかと思ったがちゃんとした服装にしたのは、グータラな性格のことを偉いと思う。黒いカーゴパンツに白い長袖。その上に黄色いパーカー。首にかけたヘッドホン。ショルダーバックのいつものスタイル。

 

 氷川家の前を通りかかると、その直後にドアが開いた。

 

「おっと……」

「夕…?!」

 

 危ない。ギリギリでドアをかわせた。

 

「紗夜か。そんな驚くことはないだろ?」

「ちょうどばったり会ったものだから」

 

 まぁそうなるか。ほぼ通りかかる寸前にドアを開けたみたいだしな。

 

「紗夜も出かけるのか?」

「わ、私は…ずっと家に閉じこもって居ないか見に行く所だったのよ」

「母さんの差金か」

 

 ……なにか隠しているような気もするが、気のせいだろう。母さんめ。紗夜にまでお節介を焼くよう教えているとは。そんなに言われると逆に出かける気が失せるんだよな……。わかってくれる人はわかってくれるはず。

 

「(こんな所でばったり会うなんて……。さっと渡そうと思ったのだけれど、これじゃあ無理ね)」

 

 いつまでも話しているわけにはいかないな。もしかしたら母さんが帰ってきてガミガミ言われるかもしれないし。

 

「じゃあ俺は行くな」

「そ、そう。……気をつけて行くのよ」

「わかってる」

 

 やっぱ……なにかおかしいような。

 

 その違和感の正体に気づくことが出来なかった俺はさっさとこの場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 商店街

 

 まずは昼ごはんだ。いったい何を食べるか……。

 

 商店街に漂う美味しそうな匂い。お好み焼き、パン、コロッケ、それ以外にもたくさんある。

 

 まずは1つ目の候補。やまぶきベーカリーのパン。いつ食べても美味しい。安定の味だ。毎朝食べてる食パンも母さんがやまぶきベーカリーで仕入れてくる。

 

 2つ目の候補。羽沢珈琲店。お昼になるとランチタイムをやっている。普段は母さんとコーヒーを飲みに来たりするんだが、時折ランチタイムを家族で食べに行ったりするんだ。

 

 3つ目の候補。お好み焼き屋さん。店長と母さんが仲が良くて、たまに夜ご飯を食べに行く。お好み焼きやもんじゃが絶品でな。付い食べ過ぎてしまう。

 

「あ、夕君。ちょうどいいところに」

 

 お昼をどこで食べるか考え込んでいると、出会ったのは涼子だった。

 

「俺に用があったのか?」

「うん。お昼食べたついでにチョコ渡そうと思ってね」

「そういうことか」

 

 涼子も毎年チョコをくれる。去年はチョコボールキャラメル味。ちなみにチョコボールの中では強いて好きなものを言えばピーナッツだな。

 

「そうだ。せっかくだし一緒にお昼でもどう?」

「よく昼食べてないってわかったな」

「ん〜直感かな」

 

 伊達に4年間一緒に居るわけじゃないか。俺の思考がわかるんだろうな。たまに先読みされる。それはお互い様だが。

 

「とりあえず入ろっか」

「そうだな」

 

 どうやら涼子は羽沢珈琲店のランチを選んだらしい。俺としても全く問題ない選択肢だ。

 

 2人でお店の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 羽沢珈琲店

 

 店内はお昼時を少し過ぎていたからか、席が埋まっているという程ではなかった。それでも8割の席は埋まっている。

 

「いらっしゃいませ。こちらのお席にどうぞ」

 

 マスターの娘さんに案内してもらい席に着いた。すごいしっかりしている子で、1つ下の子とは思えない。俺がだらけ過ぎているというのもあるんだが。

 

「今日はなににしよ〜」

「どれも美味しいから迷うな」

「本当それ」

 

 美味しいものが多いと選ぶのに時間がかかるのは必然的な感じだからな。うちは母さんが終始悩んでていて、1番時間かかっている。俺と父さんはすんなり決めて待つことがほとんどだ。

 

「今日はパスタにしようかな」

「いいな。俺はチキンライスにする」

「飲み物はどうする?」

「涼子と同じものでいい」

「わかった」

 

 あっという間に頼むものが決まった。これくらいテンポ良く決まるのが良いんだがな。お腹空いてる時ほど早く決めないと、食べきれない分まで頼んでしまいそうになる。

 

「すいませーん。注文お願いします」

 

 そう言うとすぐに店員さんが来てくれた。

 

「お待たせしました。御注文承ります」

「ミートソースのパスタとチキンライス、あとオレンジジュース2つお願いします」

「はい。ミートソースのパスタとチキンライス、オレンジジュースが2つでお間違いないでしょうか」

「はい、大丈夫です」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

 注文を終えてひと段落した。ふとメニューを見るとバレンタイン限定スイーツというデザートがあるらしい。この季節になると割と見かける言葉だ。お菓子業界だけじゃなくて、スイーツ業界も同じってことか。

 

 なんて考えながらメニューを眺めていると、涼子から何かを差し出された。

 

「今年のチョコ。手作りじゃないけど」

「ありがとな。毎年手作りじゃ大変だろ? 俺は市販のやつでも全然ありがたい」

「あまりチョコもらえない。みたいな言い方してるけど、去年たくさんもらってるじゃん〜」

「去年のは違うだろ。机の中に入っていたのは俺宛じゃなくて、智紀宛のやつだった」

 

 去年バレンタインの季節当たりに席替えがあってな。たまたま俺の席が元々智紀の席だっだ場所になって、他クラスの人が勘違いでみんなチョコを入れていったんだ。実際、3人で中を見たが全部智紀宛だった。思い出すだけで、爆笑していたアイツの笑い声が蘇る。

 

「毎回自分の席を間違えてた智紀君も悪い」

「ニワトリみたいな脳みそしてるからな。物事によっては」

 

 俺は完全に被害者なわけで。今年はこの季節に席替えなかったから大丈夫だろう。最初に入れた奴はいったい誰なんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 お昼を食べ終えた俺たちは会計を済ませて羽沢珈琲店を後にした。

 

「じゃあまた明日学校で」

「気をつけてな」

「うん、夕君もね。寝坊しないように」

「頑張ってはみるさ」

 

 涼子と別れた俺は再び商店街をぶらつき始めた。出来れば母さん達よりも後に帰りたい。早く帰ると出かけていたと言っても半分くらい信じてもらえなさそうだし。といっても行きたいところがあるわけでもない。さて、どうするか……。

 

「とりあえず駅の方に行くか」

 

 何か用事があるわけじゃないが、イヤホンをして駅の方へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 駅前 ショッピングモール

 

 ショッピングモールの中へと移動してきた俺は人の多さと辺りの景色に圧倒されていた。

 

 どこもかしこもバレンタイン一色。フェアだのなんだの。それにカップルもたくさん居る……。なぜだろう。見ていると、とても不思議な気持ちになる。

 

 羨ましいとか……そんな気持ちじゃない。だってあの人たちはみんなお互いが好きなわけだろ? 俺にはよく……わからない。

 

 昔から近くに異性は居たが好きという感情はない。天才が故に一般的な感覚がわからない日菜と、どこか自分を追い詰めているように見える紗夜。どちらも違った意味で心配だ。

 

 異性をを好きになるのは……どんな感じなんだろう。

 

 苦しいんだろうか。それとも……切ないんだろか。少しもイメージが湧いてこない。

 

 そんなことを考えながら歩いていると誰かに腕を引っ張られた。一旦立ち止まって、引っ張り主を見る。

 

「やっぱりイヤホンをしていたのね」

「紗夜……? どうしてここに」

「用事があったのよ。夕こそ、どうして居るの?」

「俺は散歩? 暇つぶし? ってところだ」

 

 イヤホンをしていたから全く紗夜に気づかなかった。おまけに考え事をしていたからなおさらな。

 

「ぼーっとしながら歩いていると、他の人に迷惑になる。気をつけなさい」

「母さんみたいなことを……」

「何か言った?」

「なんでもない。次は気をつけるさ」

「そう言ってこの前もぼーっと歩いていたじゃない」

「人間出来ることと出来ないことがあるんだ」

「言い訳ばかりしないで」

 

 本当に母さんに見えてきた……。それにこの前って…いつの話をしているんだ? 思い当たる節がありすぎてわからん。本当に………見ていないようで見ているところも母さんみたいだな。ここまで言われてなおさない俺も俺だが。

 

「で、用事ってなんだ? チョコでも買いに来たのか?」

「ち、違うわ……。参考書を買いに来たの」

「花女って高等部上がるのに受験ないだろ?」

「ないけれど……勉強よ。成績を落とさないための」

「なるほどな。勉強か………」

 

 俺は今年受験なんだよな。受けるところは1番近い花咲川高校。だが、偏差値が高い。花女と羽丘の滑り止めで受ける人が多いからな。受ける生徒は女子が多いが、部活が強いこともあってもちろん男子も多い。近いところになんとしてでも行きたい俺は頑張るしかないんだ。

 

「私よりも。夕の方がキチンと勉強するべきだと思うのだけれど」

「わかってる。今日だけは現実逃避させてくれ……あとは気合と根性で頑張るから」

「はぁー……しっかりやるのよ」

 

 近くの高校に行くためにもな。そうでなければ朝遅くまで寝ていられない。

 

 

 

 

 

 

 帰り道

 

 結局やることがなかった俺は紗夜に着いて行った。ついでにおすすめの参考書を教えてもらってそれを買った。

 

「おすすめの参考書まで教えてもらって悪いな」

「そうでもしないと、全然勉強捗らないでしょう? 教えたのだから少しは頑張りなさい」

「頑張れるところは頑張る」

「はぁー……。キチンとやれば出来るのに……」

 

 ため息の後なんか言ったような……。聞き取れなかった。

 

「なんか言ったか?」

「なんでもないわ」

 

 まぁいいか。どうせお小言だろうし。今日は散々言われたからなー。少しは頑張らないと次は母さんと紗夜の2人に怒られそうだ。………そろそろ真面目に勉強しないと危ないか。

 

 なんて考えながら歩いていたが、

ふと隣を歩いていた紗夜が居ないことに気づいた。後ろに振り返るとなぜかその場で立ち止まって俯いている。

 

「紗夜? どうかしたのか?」

 

 そう声をかけるとなにやら鞄を漁り始めた。俺はとうとう刺されるだろうか。確かに悪いことはたくさんしてきたが、刺すのは違うと思う。

 

 冗談を考えていると、ラッピングされた小さな箱を取り出したようだ。

 

 それを持って俺の方へと歩いてきた。

 

「これは……?」

「今日は……その…バレン…タインでしょう? だから……」

「そう…か。ありがとな」

 

 そう言って受け取る。

 

 なぜだろう………家に帰って開ければいいのに。

 

「開けても…いいか?」

「え、ええ……」

 

 その場でラッピングを綺麗にとって中身を見る。そこには───。

 

「ビターチョコレートか」

 

 しかも俺が唯一好んで買うビターチョコレートだ。

 

「甘いもの…あまり好きではないのでしょう? だから……いつも買ってるやつにしたのよ」

「そうか……」

 

 甘いものは食べられないわけじゃない。ただ自分から進んでは食べないだけで、嫌いではない。そのことは家族にだって言ったことはないんだ。それなのに……紗夜は。

 

「貰ったチョコで1番嬉しいよ」

 

 チョコを見ながらそう言って、顔を上げるとなぜか頬が赤くなって居る紗夜の姿が。

 

「顔、赤くないか?」

「な……なんでもないわよ!」

 

 気のせいではないと思うんだが、いいか。

 

 そっぽを向いてしまった彼女が、再び向きなおるのを待ってから口を開いた。

 

「……本当にありがとう、紗夜」

 

 そう伝えてふっと微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの時は恋なんてものを知らなかった。それがわかるのに17年かかってしまった」

「それは……お互い様よ」

 

 あれから帰ってチョコを食べていたら写真を撮られた。それが今一緒に見ている写真なわけだ。誰から貰ったのー? ってしつこく聞いてくきたのが、すがく鬱陶しかった記憶がある。そういうのを放っておかない主義だったからな。母さんは。

 

「そう言えばまだあの箱とラッピング残ってるな」

「ま、まだ残っているの? 捨ててもよかったのに」

「本当に嬉しかったからな。そう簡単に捨てられなかった」

 

 紗夜がちゃんと俺のことを見ていてくれたことが嬉しかったんだろう。中学の時はそれすらもわからなかったが。

 

「今年も楽しみにしてる」

「仕方ないわね」

 

 微笑む紗夜を見てから写真をめくった。

 

 




主人公は進んで甘いものを食べたりはしないです笑
本編でも食べている描写はなかったはず……。
ですが貰ったものはきっちり食べてお返しをするのが旭日夕という人間です。

そして今回のバレンタインイベントの紗夜さん可愛すぎませんか? それに前回のイベントの後日談で笑っていてすごく可愛いかったです笑 いつの日か……今のイベントを書く日がやってくるのでしょうか。

次はホワイトデーの時ですね。その次はさよひなの誕生日回ということです。

それではまた次回。
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