ガールズバンドに振り回される日常 作:レイハントン
今年は紗夜さんのみとなります。
日菜推しの方には申し訳ないです。
2023氷川紗夜誕生日記念回
花咲川高校 教室
3月上旬の昼休み。
「夕くんはプレゼントもう決めたの?」
南雲紘翔の唐突な言葉によって旭日夕は現実に引き戻された。現実逃避をしていた訳ではないが、もうそんな時期かと思ってしまったのは事実。
3月20日は氷川紗夜と氷川日菜の誕生日。
誕生日プレゼントを必ず用意しないといけない。というわけでもないが、毎年なにかしら送りあってきていることを考えると、あげないわけにもいかない。
しかし、旭日夕という人間はギリギリまで決めることが出来ない。氷川紗夜に関して言えば尚更。
「日菜の分は決めた」
「紗夜ちゃんの分は……?」
「まだだ」
「決める気はある?」
「もちろんだ」
嘘をついている様子はない。むしろ真面目に考えている方だろう。投げやりになった時は「終わってないが知らん」と言い出すことを考えると。
「ずっと一緒に居るが、なにを渡すと喜ぶのかよくわからん」
「(確かに紗夜ちゃんもあまり顔に出さないからね。でも……夕くんのプレゼントならなにをあげても喜ぶと思うんだけど)」
かと言って適当なことを言うわけにもいかない。
「今井さんに相談してみるのはどう?」
「めんどくさい事態になりそうだな」
「わからなくもないけど……。白鷺さんはどうかな?」
「もっとめんどくさくなる気がするんだが……紘翔の言う通り他の誰かに聞いてみる」
どんな事態になるかは想像つくが、いつまでも迷ってるわけにはいかない。早めに事を進める方がいいことは今までの経験でわかっている。早速2人にほぼ同様のメッセージを送った。
授業中
おそらく返事が返ってくるのは向こうが小休憩の時だろう。そんな事を思いながら、急遽自習になった数学の時間をいいことに外を眺める。
意外と目立たない1番窓際の前から3番目の席。後ろには相棒が居るが、珍しくうたた寝をしている。午後の自習なんてそんなもの。中には突っ伏して寝ているものも何人か見受けられる。
「(プレゼント……)」
直後ポケットに入れているスマホが震えた。
「(今井か)」
取り出す頃には2回は震えていた。届いたメッセージを確認するべくアプリを開くと。
『珍しいこともあるのね』
『あなたがそんな事を聞いてくるだなんて』
『授業中だったらごめんなさい』
相手は今井リサではなく白鷺千聖の方。
『自習だから問題ない』
『どうしてもいい案が思いつかなくてな』
『悪いがどんなのがいいのか教えてほしい』
送って5分もしないうちに次の返答が返ってきた。相手はどうやら授業中ではないらしい。
『問題しかないと思うわ』
『本当になにも思いつかないの?』
『思いついたらこんな相談はしていない』
『それもそうね』
メッセージのやり取りを繰り返すこと5分───。
『どこかへ連れて行ってあげたらいいと思うわ』
『そういう選択肢もあるんだな』
『助かった』
『どういたしまして』
静かにメッセージアプリを閉じ、今度は検索用のアプリを開いた。
授業後。夕は後ろの席に座る紘翔の方へと向いた。
「午後の授業は眠くなるね。少しだけ寝ちゃってた」
「珍しいな」
自分はずっとスマホをいじっていたなんて言った時には小言が待っていことだろう。
「紘翔。俺は紗夜と出かけることにした」
「えっと……なにがあったかはわからないけど、いいと思うよ」
そう言ってくれるだけで、それ以上の追求はなかった。
駅前
デート当日。
時は休日の午後。午前中バイトだった為、集合場所は家ではなく駅前。
休日とあってか、駅前には常に人で溢れかえっている。ちらほら見覚えのある制服を着た人も通っていく。そんな姿を見て、内心「紗夜と2人で居るのを見られると面倒だな」と思う旭日夕。
普段から迷惑をかけている事を考えると、よからぬ噂でさらに迷惑はかけられない。しかし、普段もっとしっかりしようと微塵も思わないのは彼の悪い所だろう。
ちなみに今は集合時間の30分だ。
「(10分前に来るだろうと予想して20分前には着くようにしようと思っていたんだが……)」
遅れたら申し訳ないと思い、バイトが終わった1時間後を待ち合わせ時間とした。待たせすぎて紗夜に余計な罪悪感を与えてしまうかもしれない。そこはうまく嘘をつけば問題ないはずだ、と甘い考えに至った。
ふと数日前のことを思い出していた。
CiRCLE Aスタジオ
数日前。Roseliaのバンド練習─ではなく。白金燐子と宇多川あこの2人を引き連れ練習へとやってきた今井リサに突然呼び出された。ちなみに2人は外のカフェに行っている。
「いい? 旭日君。まずは服装を褒めるんだからね?」
Aスタジオに入ってから数十秒も経たずに、リサから突然そんなことを言われた。
「待て。どういうことだ」
「だーかーらっ! 今度紗夜と出かけるんでしょ?」
「そうだが?」
「まず服を褒めること。映画見てる間は寝ないこと。遅刻しないこと。あとは……」
これほどまでにダメな奴認定されているとは思っていなかった。さも出来てないから教えてあげるみたいな感覚で話されていることに、少しばかり憤りを───。
「服を褒めるのはわかった。だが映画見てる間は寝ないはたぶん無理だと言っておく」
感じてはいなかった。
「え〜。そこは頑張る」
「あんな暗い所、寝てくださいと言っているようなもんだろ」
「じゃあなんで映画に……」
そこまで言ったところで口籠る。リサの脳裏に浮かんだのは数日前の出来事。
『ねぇ紗夜。映画のチケットいらない?』
『映画のチケット……ごめんなさい。映画はあまり興味ないわ』
紗夜がそう答えると困った表情を浮かべながら裏面を見る。
『そっか〜。もったいけど捨てるしかないかな。よくわからないけど、この前やったNFOだっけ? 特典ついてくるんだけど』
『特典……ですか?』
『うん。燐子とあこにも聞いたんだけどホラー系の映画だから燐子がね。見ないと貰えないみたいだし』
差し出されたチケットを受け取りよく見るとそこには。
『この特典は───!』
結局紗夜はチケットを受け取った。特典欲しさに。
「急に黙り込んで、どうかしたのか?」
「ううん……なんでもないよ?」
少しというかかなり怪しいが今は触れないことにした。
「それよりも、映画ってホラーでしょ? それでも寝るの?」
「あの空間自体がダメなんだ。種類は関係ない」
「ん〜。映画以外のところで挽回しよう」
結局デートをする上で気をつけた方が良いことを長々と話されて、休憩時間は潰れた。
そして時は過ぎて15分前。
「夕? 来るの随分早いのね」
今日のデート相手に声をかけられ、ヘッドホンを外す。横から話しかけられたからか、全く存在に気づかなかった。
「いや、さっき来たところ……だ」
茶色のコート。白色のマフラー。左肩に小さなショルダーバック。
「(今、服を褒めるのは無理か)」
「夕?」
名前を呼ばれ現実に引き戻された。
「いや、今日も寒いなって」
「寒いって……そう言っていれどマフラーも手袋もしていないじゃない」
「ヘッドホンの邪魔になる」
「はぁー……毎年毎年聞き飽きたわ」
紗夜が呆れたところで時間を確認し、改札の方へと振り返った。
「行くか」
「ちょっと話はまだ……」
「また今度聞くことにする」
「夕…?!」
こうなると長くなることを知っている彼は、手をとって歩き始めた。
「(15分早いが問題ないだろう)」
「(こういう事に対して本当にためらわないわね……)」
昔からそうだ。普通の人間なら躊躇ってしまうようなことも平然とやってのけてしまう。狙ってやっているわけでもない。かと言って100%自然な行動でもない。この場合は。
「(よっぽど小言を言われたくないようね。普段からしっかりしていれば言うことはないのだけれど)」
それはどう足掻いても無理だろう。旭日夕という人間には。
改札を通り抜けて階段を下り、ホームに10号車と記載されている場所まで移動してきた。
「お互い来る時間が早過ぎたな」
「そ、そうね……」
ポケットからスマホを取り出して電車の時間を調べながらそう言う彼はずっと紗夜の手を握ったままだ。
「決めてなくて悪いんだが映画の後はどうする? 調べたりはしたが俺にはさっぱりだ」
出かけようと誘ったまではよかったが、その先は微塵も考えられていなかった。特に予定も立てずに行き当たりばったりが彼の性分でもある。
普通は呆れるところだろう。しかし、彼と長い時間を過ごしてきた紗夜にとっては想定内。
「そう言うと思って、いくつかお店は見つけたわ。コーヒーが美味しそうなカフェも」
「それは助かる。さすが紗夜だ」
スマホから目を離し、彼女に視線を向けてそう言う。
「電車の中で決めましょう。……ずっとスマホ触っていると、手が冷たくなるわよ」
「それもそうだな」
スマホをポケットにしまい、電車が来るであろう方向を眺め始めた。
これでも気づかない。わざとなのか。本当に気づいていないのか。真相は彼のみぞ知るところだを
「(離すタイミングを失ってしまった……。まぁ嫌なら嫌と言うだろうし、このままでいいか)」
結局電車に乗って座るまで離すタイミングはなかった。
映画館 3番スクリーン
駅と直結している映画館へと訪れた2人は真っ先にチケットを販売しているレジへと並んで早々に購入。もちろん映画の醍醐味とも言えるポップコーンや飲み物も含めてだ。
席に座って始まるまでの間に流れる広告を夕は眺めていた。
「人が来る前でよかったわね」
「そうだな。とんでもない列になってた」
ちょうど人がどっと流れ込んでくる前だったらしい。買い終えて一息ついた頃にはすっかり長蛇の列ができていた。
「特典はの武器は使えそうか?」
「ええ。アンデット系に効果的な片手剣だから、そういった場所では期待できると思う」
「あんまりないからな。アンデット特攻の効果がついた武器って」
「あなたはそういうの関係ないでしょう? 両刃剣には特攻系のスキルがちゃんと用意されているし」
たまにやっているNFO談義で盛り上がる中、さっきの長蛇の列に並んでいたお客さんが流れ込んできたようだ。
「この映画結構怖いらしいよね〜」
「そうそう! 評価高いみたいだから楽しみ!」
ちらほらそんな会話が聞こえてくると、顔には出さないが内心少しばかり不安になってくる。驚いた時、隣に座る彼に抱きついてしまわないかも同時に。
「先に謝っておくが、寝たらすまん」
「少しは努力することね」
こうして睡魔との戦いが始まった。
映画が始まって30分。奇跡的にも夕は目を開けていた。しかし、時折スクリーンと左隣を視線が行き来している。
「(意外と力強いよな……痛いし、当たってるしで寝ていられる状況じゃない)」
ゾンビがスクリーンに現れると同時に痛みと気まずさを感じる。本人は映画に夢中で気付いてない。
他のお客さんに迷惑にならないよう、出来るだけ小さな声で話しかける。
「紗夜、もう少し手加減をだな」
「あっ……ご、ごめんなさい」
すぐに左手を離して謝る彼女に視線を向けたまま答えた。
「掴むなとは言ってない。あまり締め付けないでもらえると助かる」
左腕を差し出すと何かゴニョゴニョ言ってからぎゅっと掴んだ。何を言ったのかは追求する必要はないと思い視線をスクリーンへと向けた。
「(いつの間に掴んでいたのかしら……。でもすごく落ち着く)」
この日の映画だけは夕が眠ることはなかった。色んな意味で気が気じゃなかっただけかもしれないが……。
帰り道
当初の予定を果たした2人は、夕日がほぼ沈んだ夕方の道を歩いていた。
「映画は意外と面白かったな」
「……腕を掴んでいただけで、起きていられるものかしら」
「それは別の意味で気が気じゃなかったというか……」
「どういうこと?」
「知らない方がいい」
結局、紗夜が強く左腕を抱きしめるたびに起こっていたことは気付いていないようだ。
「本当によかったのか? プレゼントが物じゃなくて」
話をそらすように別の話題を紗夜に振ると、微笑んでから答えた。
「ええ。物をもらうよりも嬉しい」
「ならいいか。男としてこういうことを言うのは情けないが、来年は欲しい物を指定してくれると助かる」
「(来年もくれるってことで……いいのよね?)」
今思えば話す機会がなくなっても毎年誕生日プレゼントだけはもらっていた気もする。ちゃんと渡しなさいと母親から催促されていただけかもしれないが、それでも嬉しい気持ちは変わらない。
「今日はありがとう、夕」
「喜んでもらえたならよかった」
少しだけ勇気を出して。そっと彼の右腕に手を伸ばして腕を組んだ。特に驚く様子もなく、いつもの変わらぬ表情を浮かべる彼の隣を歩く。
誕生日。おめでとう。
とうとう高3組が大学生に……時代の流れを感じます笑
アニメ一期の作品を書いていた頃が懐かしく思えますね。
この作品は進みが悪いのでどこかで一気に巻き返しを計りたいです笑
紗夜さんならびに声優さんもお誕生日おめでとうございます!
それではまた次回。