ガールズバンドに振り回される日常   作:レイハントン

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2025氷川紗夜誕生日記念回

2025氷川紗夜誕生日記念回

 

 次は──。次は──。

 

 心地よい音の中に混じるアナウンスの声。これが夢か現実かの区別がつかない。

 

 両腕を組みながら俯きながら寝ている彼を横目に、電光掲示板に目を向ける彼女。電車に揺られる約1時間が過ぎ、もうすぐ目的に着くようだ。

 

 

「─。そろそろ起きないと、降り過ごすわよ」

 

 いつの間に意識を手放していた彼に肩を優しく叩きながら声をかける。他の人と居る時には見せない寝顔をじっと見ていると、ゆっくり瞼が上がっていく。電光掲示板に視線を向ける。すると全てを察したのか、肩に預けていた頭を起こした。

 

「悪い、いつの間にか寝てた」

「どうせ昨日も寝るの遅かったんでしょう? 荷物も丁寧に玄関に置いてあったみたいだし、わざと夜更かししたの?」

「そんなわけないだろ」

「冗談よ」

「単純に眠れなかったんだ」

 

 そう言いながらトートバッグにしまっていたヘッドホンを取り出して自分の首に引っかける。

 

 数分もしないうちに電車が目的地に停車し、他のお客さんと一緒にぞろぞろと降りていく。流されるままホームを歩き、改札を抜けた。端に寄ってから再び駅の方へと視線を向ける2人。

 

「この時期でも人が多いのね」

「そうだな。1枚撮っておくか」

 

 ポケットからスマホを取り出し、後ろの方に下がっていく。彼女を画角に納めて1枚撮ろうとボタンを押した直後。何も言ってないにも関わらず自然なポーズをとる。

 

 撮り終わった彼の元へと歩み寄り画面を覗き込む。

 

「慣れを感じるな」

「雑誌のモデルのお仕事を貰えるのはありがたいことよね」

「そうだな」

 

 スマホをポケットにしまい、左手を彼女に差し出す。ひんやりとしたその手をとり、2人は片瀬江ノ島駅を後にした。

 

 自然に芸能人である氷川紗夜を撮っていたことを知るのは世の中のごく一部だろう。帽子を被っているのもあるのだろうが、ほとんどの人は観光に夢中で気づく様子は微塵もない。

 

 今日は3月20日。そう、彼女でもある氷川紗夜の誕生日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡り約1ヶ月前。

 

 いつもと変わらないバイトの風景を眺めていた旭日夕。つまるところ絶賛不機嫌な後輩の横で次回のライブの予定をタブレットで見ている。

 

「先輩も少しはオーダーとったらどうなんですか?」

 

 お客さんに出すためのコーヒーを淹れながら語気強めの言葉を放つのは椎名立希。

 

「じゃあもう少し作り笑いの練習でもしてもらえるか? 店員さん怖いってクレームが来てるんだが」

「それ、絶対愛音ですよね? 間に受けないでください」

 

 文句に近い会話を繰り広げながら淡々と仕事をこなしていく2人。もちろんお客さんに聞こえない小声で。

 

 淹れ終わったコーヒーをトレイに乗せカウンターを後にする立希を視界の端に、夕は確認し終えた予定表を閉じる。

 

「先輩、珍しくライブの日休みなんですね」

「予定があってな。ついでに言うと、俺はライブがあっても休む時は休む」

「私が入ってから見たことないですけど」

 

 そんな話をしていると扉が開く音と共に聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「ほらほら〜。やっぱり居たじゃん」

「失礼だよ、ひまりちゃん」

 

 Afterglowのキーボード担当羽沢つぐみとベース担当上原ひまりだ。

 

 戻ってくる時に回収したのであろうカップを洗いながら会話していた立希に視線を向けると、明らかに普段見せない表情を浮かべていた。もちろん手は止まっている。

 

「お疲れ様です。空いてるお席にどうぞ」

「椎名……」

 

 夕の呆れた声音にも特になんの反応もなく、寄ってきたAfterglowの2人に視線を向ける。

 

「ありがとう。今日は夕先輩に用があってきたの」

「そうなんですね。私は1人でも大丈夫なので、先輩はお話してきてください」

「お前な……いったいどこからその自信が……まぁいいか」

 

 考えるのは諦めた。そんな状況を察してたのか。それとも神の加護か。戻ってきた山吹沙綾にその場を任せて3人はカフェを後にし、スタジオの受付へと場所を移した。

 

「バイト中にすいません」

「構わないさ。次のライブについてだろ?」

「はい! とりあえず出れるのでそれを伝えにきました」

「助かる。今度スタジオ空けておく」

「やった〜! 早速蘭達に言っておかなきゃ」

 

 喜ぶひまりに視線を向けるつぐみ。

 

「今電話して聞いちゃった方がいいんじゃないかな? 蘭ちゃん達一緒に居るだろうし」

「そうだね。聞いてくるっ!」

 

 そう言うとひまりは一旦受付を離れていった。

 

「紗夜さんから聞いたんですけど3月20日のことでお話したくて。すいません、お節介でしたよね」

「そんなことはない。教えてくれると助かる」

 

 ひまりが戻ってくる間に2人のために考えてくれたのであろう内容を聞いた。本人が行くわけでもないのに、楽しく話してくれる姿には感謝しかない。

 

「江ノ島か……」

「そこが気になりましたか?」

「聞いたことはあるけど、なかなか行くような場所でもないなって思ってな」

「せっかくなので行ってみたらいいと思いますよ」

「そうだな。紗夜に聞いてみる」

 

 送ってもらったメッセージを見ながらそう答えると、タイミングよくひまりが戻ってきた。表情からして話はまとまったようだ。

 

「この日にちでお願いします!」

 

 そう言いながら差し出されたスマホの画面を見る。忘れないようメモ帳を取り出して日付を記入していく夕。

 

「大丈夫だと思うが、予約取れたらまた連絡する」

「了解です!」

 

 一通り会話を終えた後、カフェの方へ戻るとなぜか不機嫌な椎名立希の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は戻り江ノ島。

 

 2人が訪れたのは新江ノ島水族館。中へ入るために窓口へと並ぶ。今日はどういうルートでら回るのかは事前に決めている。確認の意味も込めて話していると、待ち時間はあっという間だった。

 

「まずは10時半からのイルカショーだな」

「すでに混んでいるけど、今のうちに会場に行きましょう」

「そうだな。せっかくなら前の方に座りたい」

 

 人の流れに沿って歩いていくと同じ目的の人が大勢居たようだ。この水族館の目玉といっても過言ではないショーだということを踏まえると納得する。

 

 それでも前の席は空いていたので、端の方に2人は腰をかけた。カッパを着るほどでもないというネットの情報もあったが、いちおう服の上から簡単に着れるカッパを紗夜は着ていた。

 

「本当にいいの?」

「コートが濡れるだけだしな。館内では脱げばいい」

「そういう所、本当に変わらないわね」

「別にめんどくさいわけじゃない。あくまでもネットを信じただけだ」

「嘘ばっかり」

 

 見透かされてるがそれ以上紗夜は追求してこなかった。

 

 イルカショーが始まり、終始2人の目は釘付けだった。トリーターと呼ばれる飼育員と動物たちとのコミュケーションに隣から小さく「こんなことも出来るのね」と聞こえてくる。

 

 イルカだけではなくアシカも見れた。本当にあっという間という言葉しか出てこない。気づけばショーが終わっていた。

 

 会場を後にした2人はお昼まで館内を事前に決めたルートで回り始めた。数え出したらキリがないと思える程、魚たちが水槽を泳いでいる。当たり前だが、映像で見るものとは全く違う。

 

 回っているとある人物が思い浮かぶ魚にも出会えた。

 

「クラゲ……松原を思い出すな」

「クラゲが好きと言っていたわね」

「写真でも後で送ってあげればいいんじゃないか? 喜ぶと思うぞ」

「そうね。今度、白鷺さんも一緒にお茶をするのよ。その時に話してみるわ」

「それがいいな」

 

 撮れるだけの写真を紗夜が撮っている横で、魚ではなく紗夜を画角に収めて写真を撮った。

 

 いつからだろうか。何をしていても可愛いと思い始めたのは。

 

 その後も館内を練り歩き、お昼を済ませてお土産を選んで買った2人は富士見浜に向かった。

 

 予定よりも長居することになったが、むしろよかったと紗夜は水族館を出る際に言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 富士見浜を一通り歩き回り、日もだいぶ傾いてきた。オレンジ色の光が照らす海を見ながら足を止める。

 

「こんなにも長く2人きりで出かけたのは久しぶりね」

「そうだな。出かけても半日だったたし。本当に久しぶりだ」

「羽沢さんには感謝しないといけないわ」

「お土産も買ったし大丈夫だろう」

 

 こうして話している間にも日は少しずつ傾いていく。暗くなる前にある物を渡しておこうと、自分のトートバッグを漁り始める。

 

 気になった紗夜はそちらに視線を向けた。そして差し出された物を両手で受け取る。

 

「誕生日おめでとう。気に入ってくれるといいんだが」

 

 小さめのケースを開けて中を見るとそこには、小さな青紫色の宝石が付いたネックレスだった。

 

「ネックレス……? この青紫の石は」

「アイオライト。3月の誕生石だ」

「そうなのね。ありがとう、大切にするわ」

 

 すぐに鞄へとしまうのかとも思ったがどうやら違うらしい。

 

「せっかくだからすぐに付けてほしいのだけれど」

 

 ケースを閉じて一旦夕に手渡すと、今度は夕に背を向けてマフラーを外した。そして左手で長い髪を左側に寄せて、首元で持ち上げる。

 

 今つけているネックスを外して紗夜の右手に乗せた。そしてプレゼントしたネックレスを丁寧に付ける。

 

 正面へと向き直り改めて感想を口にした。

 

「綺麗だ。紗夜にぴったりだな」

「そう? 似合っているなら嬉しいわ」

 

 この世に2人しか居ないのではないかと思える程、会話に夢中になった。

 

 さっきよりも落ちた日を背にする紗夜。幻想的な姿に思わず笑みが溢れる。

 

「なにか変なところでもあるのかしら」

「いいや。綺麗だなって思っただけだ」

「せっかくなら写真に残したいわね」

「そう……だな」

 

 普段はあまり思わないがこの時だけは一緒に撮りたいと思いった夕。周りに視線を向けると、ちょうど通りかかった男性に声をかけた。

 

「すいません。写真撮ってもらえませんか?」

「あ、はい。もちろん」

 

 夕と同じ背丈くらいの黒髪の男性にカメラアプリを開いたスマホを渡して、紗夜の隣に並んだ。

 

「じゃあ何枚か撮りますね」

「お願いします」

 

 言葉通り数枚の写真を撮ってもらい、黒髪の男性からスマホを受け取った。

 

「まだ足りなかったら、たくさん撮るので言ってください」

「ありがとうございます。撮っていただいたもので大丈夫です」

「ならよかったです!」

 

 気さくな笑顔を浮かべながら答える黒髪の男性。すると左肩にかけていたボンサックから何やら紙を取り出した。

 

「もし旅行とか行く機会があれば寄ってください。ここの旅館で料理作ってるので」

「ありがとうございます。機会があれば」

「じゃあ俺はこれで」

 

 去っていく男性の背中を見送り、もらった紙に2人の視線が移った。どうやら静岡の沼津にある旅館らしい。機会があればまた会うことになるのだろう。

 

「そろそろ帰るか」

「そうね。帰りましょう」

 

 夕の左腕に自分の腕を回すと、2人は駅の方へと歩き始めた。

 

 

 

 

 誕生日おめでとう

 




お久しぶりです。
いったいどれだけ間を空ければ気が済むのか……。
本編は進まなくとも誕生日回だけは頑張って書きました。
今年は間に合ってよかったです。

本編の時間軸とは全く関係ないのでネタバレとかではないですよと。
でもいつか立希との絡みは作りたいんですよね〜。
迷子の推しは椎名立希なので笑

近いうちに1話でもあげたいなと思っております。
それではまた次回。

紗夜さん誕生日おめでとう!!

ps.最近ブルーアーカイブにハマってます
最推しはノアとマリー
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