ガールズバンドに振り回される日常 作:レイハントン
梅雨は帰ってもらって
花咲川高校 教室 昼休み
6月後半を過ぎるとこの時期がやってくる。大半の人が嫌いなのではないだろうか。そんなことを思いながらその時期の名前を口にする。
「梅雨か……」
そう……梅雨だ。ここ1週間はほぼ雨。朝少しの間だけやんでいた気もするが、気がつけばまた雨が降っていた。
「洗濯物乾かなくて困るー」
「主婦かお前はって言いたいけど、靴下とか乾かないよねー」
「雨の時の登下校だるい」
「傘が邪魔だよな」
「わかる」
「なぁ〜夕。外で練習出来なくて退屈だ〜」
「雨の中サッカーするのは良くないもんね」
「こういう時でも室内のスポーツはいいよな〜。体育館だし」
とまぁ智紀と涼子もこんな感じだ。智紀は特に雨の日はテンションが低い。サッカーをすることが生きがいみたいなやつだからな。
「体育館でサッカーするとかどう?」
「お前、窓ガラス何枚割る気だ?」
「カッパ着てサッカー!」
「どうせ途中で脱いで風邪ひいて終わりだ」
「グラウンドに屋根を作る!!」
「将来校長になってから頑張ってくれ」
智紀の言うことをことごとく粉砕していく。俺は間違ったことを言っているつもりは一切ないと思ってる。それでもやりたい時はどこかのスポーツが出来る施設に行ってフットサルでもやってくればいい。と、言ったら本当に行って知らない人たちと1日フットサルをしてきたと言っていた。
「あーあ。部活早く終わるしこんな時は彼女とデートしたいわー」
「サッカーと添い遂げるとか言ってた奴がなにを抜かすんだ」
「サッカーすることが好きな彼女ならいいとかも言ってたよね?」
「だって彼女とサッカーしたいじゃん?!」
「「サッカーバカ」」
1人でキーキー騒ぐ智紀をよそに俺は外を眺め始めた。ひたすらに降り注ぐ雨は止まることを知らない。梅雨という季節が1番嫌なのはじめじめするところだろう。
「はぁ〜。こんな天気だし、紗夜と相合傘して帰りたいな」
「怒られても知らないよ?」
だが俺は梅雨が別に嫌いではない。外で何かをする用事はバイトと学校以外はないからな。確かにじめじめするし、傘は邪魔だがこれが1年中続くわけでもない。
「去年は迎えまで来てくれて……好きになっちまいそうだ」
それに雨が降っている時はなんだか静かに感じていい。
「今年も来てくれないかな〜」
こういううるさい奴が居るから静かな日常が送れないのか。人が黙っていることをいいことに少し調子に乗っているようだ。
「3回は耐えたからな?」
「つ、次は…どうなるんだ?」
「ぶっ飛ばす」
「わ、悪かったって」
微塵も思ってないようなことを言うわけがないだろう。
「でも去年は相合傘したのは事実だろ?」
「良いもんでもない」
「どうして? 結構人気なイベントじゃない?」
イベントって……ゲームじゃないんだぞ。
「俺の場合は小言付きだぞ? それに肩は濡れるし、自分のペースで歩けないし、良いことないだろ」
「「(ちゃんと歩幅合わせて、濡れないようにしてあげてるんだ)」」
1つ始まると10終わるまで続くからな。困ったもんだよ全く。あっちこっちから話を持ってくるもんだから、把握してないことまで言われる始末だ。
「人生に一度くらいはしてぇな〜」
「じゃあ俺がしてやろうか?」
「せ、せめて涼子ちゃんに……」
「私はパスで」
こういう時こそ、断られてて草って言うんだろうな。
今年は折りたたみ傘持ってるし大丈夫だろう。紗夜も忘れるような性格ではないし。智紀の望むような展開はない。
放課後。
「夕くん、バイト行こうか」
「そうだな。今日は面倒なコンビはいないし楽そうだ」
帰り支度をしていると紘翔がやってきた。言葉の通り、今日は混ぜるな危険コンビはいない。ここ最近喧嘩の頻度が増した気がしてならないんだよな。
「よし、今日もがんばるかー」
「あまりやる気のない言い方だね……」
「そういう時もある」
そういう時しかないでしょ? と紘翔の言葉を背に、ベランダに立ち寄る。
「紘翔のはこれか?」
「うん。ありがとう」
傘を取ってから教室を後にしようとした直後。
「最悪、置き傘誰かに取られた」
「傘持ってこなかったわけ?」
「朝は親に送ってもらったし、その時雨止んでたからさ」
「折りたたみ貸そうか? って言いたかったけど家に干しっぱなしで置いてきたわ……」
俺たちよりも後に傘を取りに行ったのであろうクラスメイト2人の話が聞こえてきた。
「夕くん?」
「廊下で待っててくれ」
「わかった」
リュックから折りたたみ傘を取り出してクラスメイトの元へと向かった。
「折りたたみ傘でよければ貸すぞ」
「え? マジで?」
「明日ちゃんと返してくれるならな」
「もちろん返すって。ホント助かる〜」
「旭日君優し〜」
「じゃあ俺は帰る」
廊下に出て外を見ると、昼よりかは雨が弱まって見えた。このままやんでくれたらいいんだけどな。傘を差さずにCiRCLEまでいける。
CiRCLE ロビー
案の定、雨はやまなかったがそこまで強くもなかったから足元もあまり濡れずに済んだ。
「2人ともお疲れ様」
「お疲れ様です」
ロビーに行くとまりなさんが珍しく受付の仕事をしていた。
「珍しいですね。まりなさんが受付に居るの」
「そうかな? 昼間は割と受付に居るよ」
「この時間はバイトに任せられますもんね」
「うん。今日は後、李乃ちゃんと奈菜ちゃんだから安心」
紘翔はともかく俺は安心の部類に入るんだな。受付に居る時なんてほとんどぼーっとしているんだが……。
「そうだ。夕君にお願いがあるんだけどいいかな?」
「なんですか?」
「倉庫の整理を虚生君がしてくれてるから手伝ってきてほしいの」
「わかりました。手が足りなかったら呼んでください」
「うん。お願いね」
俺はロビーを後にして倉庫の方へと向かった。
手伝ってきて欲しいってことは処分するものとかが結構あるんだろうか。……そういえば備品の予備は数えたりしているが、いらないものの整理はしていないな。
予備の機材等が置かれている倉庫に来ると、中で狩場さんが1人そこそこ量のある傘を整理していた。
「お疲れ様です、狩場さん」
「旭日か。手伝いにきてくれたのか?」
「はい。……結構数ありますね」
壊れた傘がほとんどだが、壊れていないのもいくつか見受けられる。単純に忘れていったものなんだろうな。
「去年から整理していないらしい。傘もそこそこあるし」
「この傘ってどうするんですか?」
「全部処分だ。ゴミの日に出さないとな」
外のゴミとかを置いておく倉庫に置いてくるとしよう。手前のものから出していかないと広げられないしな。
「傘、外の倉庫に置いてきます」
「悪いな。頼んだ」
10本くらいで束ねられた要らない傘の束を持って今度は外の倉庫へと向かった。
CiRCLE ロビー
倉庫の整理を終えた俺はロビーに戻った。狩場さんは他にやることがあると言って喫煙所の方に行ってしまった。おそらく休憩だろう。
「お疲れ様、夕君。結構大変だったでしょ?」
「そうでもなかったです。狩場さんが整理して俺は運んでいただけなので」
どうやらロビーにはまりなさんしか居ないようだ。
「いつまで雨降ってるんだろうね〜」
「明後日には一旦やむみたいですけど」
「明後日かー。洗濯物乾きづらくて困るのよね」
「そうですね。教室でもそんな話をしてましたよ」
この季節はみんな思うことは一緒か。うちはすぐに乾燥機を使うから乾かないってことはあまりなかったな。俺含めて家に居る時間が短い人ばかりだったし。
気がつけばもう上がる時間だ。いた今日は特にこれといった問題は起きなかったな。毎日こんな平和ならいいとは思う。が、そうもいかないのがCiRCLEという場所だ。
「紘翔、先上がるぞ」
「うん。お疲れ様」
「お疲れ」
まだ外は雨が降っているようだ。やむ気配はないか。
なんて考えながらCiRCLEを出るとそこには───。
「紗夜?」
「夕…バイトお疲れ様」
「お疲れ。遅くまで残っていたんだな」
「ええ。区切りの良いところまでやっていたらこんな時間になってしまって」
「なるほどな」
遅くまで練習していた理由はわかったが……なぜ帰らないんだろうか。スタジオには他に知り合いは居ないはずだし。
ふと傘立てを見ると傘が1本もなかった。
「傘ないのか?」
「誰かに持って行かれたようね」
「とんだ不届き者がいたもんだ」
そのまま帰るわけにもいかないしな。かと言って一緒に帰るとなると……。
頭によぎったのは智紀の望むような展開にはならないという自分の言葉。今まさにそういう状況になりつつある。
折りたたみ傘はクラスメイトに貸してしまったしな。廃棄する傘の中に使えそうなものもないと言っていた。
仕方ない。意地を張るところでもないしな。
「帰るか」
「えっ? 帰るって言われても……」
「いいから」
傘を差して一歩踏み出してから振り返った。
「帰る方向同じなんだ。構わないだろ」
「そうだけれど……」
渋る紗夜の右手をとって無理やり傘の中に入れ、出来るだけ紗夜が濡れないように左手で持って歩き始める。
「去年も……同じようなことがあったわね」
「俺が傘を忘れた時だな」
「雨降っていないからって傘も折りたたみ傘も持たずに学校へ行くからよ。時期を考えれば持っていくでしょう?」
「傘な……俺はあまり───」
「手荷物は好きじゃない。だったら折りたたみ傘くらい持ちなさい」
紗夜には敵わないな。まるで未来を見ているかのように、俺の行動を全て予測してしまう。
「今年は持ってたが、あいにく貸してしまってな」
わかるのは俺も同じなんだろう。遠慮しているのか、距離が少し遠い。それでは肩が濡れてしまうのに。
付き合っているわけでもないのに、こういう行為自体が良くないのかもしれない。周りからはどう見られているのかはわからないからな。
少しだけ左側に距離を詰めた。
付き合っていると思われても俺は嫌ではない。
「腕疲れない?」
「大丈夫だ」
ギターケース背負ってるからいつもより高く差さないといけないのは事実だが、大した問題にはならない。
お互いの間にあまり会話はなかったが、意外とあっという間に自宅付近まで来た。時間帯が遅いからは特に花女や羽丘の生徒らしき人は見なかった。噂になるようなことはないだろう。
歩いていると後ろの方から車が来る音が聞こえてきた。そこそこスピードを出しているようだ。
ふと車道と歩道を隔てている所に目がいった。大きな水溜まり。この状況で水溜まりと車の掛け合わせで生まれる答えは1つ。
「止まれ」
傘を一瞬車道側に向ける。車が通った瞬間───水溜まりの水が大きくこっちにはねてきた。
大丈夫か?
そう言えるのならかっこいいんだろうな。現実は上手くいかないもので、わかっていてもすぐに動くことはできない。
傘を傾けられたのはほんの少し。
結局盛大に水溜りの水を浴びた。
「冷た………」
「だ、大丈夫……?」
「大丈夫に見えるか?」
制服はびしょ濡れ。髪からは水が滴り落ちて。とても気持ち悪い。
「どこも濡れてないか?」
「え、ええ…ありがとう、夕」
「気にするな」
ふと紗夜の背中に視線を向ける。幸いにも傾けた分がちょうどギターケースを守ったらしい。
「小さい頃にも……こんなことがあったわね」
「………あったか? こんなこと」
「小学生の時、あなたが傘を忘れた時よ」
話を聞いてみるとよくよく俺には覚えがない出来事だった。だが、状況はほぼ同じだったらしく結局水を全部被ったのは俺。昔から背だけは2人よりも高かったからな。
「風邪には気をつけなさい」
「わかってる」
再び俺たちの横を車が通った。
「………熱を出しても看病くらいなら」
ぼそっと何かを言ったような……。
「ん? なにか言ったか?」
「なんでもないわ」
まぁ何もないならいいか。
結局、智紀の思うような展開になってしまったが……言わなきゃバレないだろう。傘が取られてしまうのはどうにかしないとな。
それと……梅雨明けが近いらしい。
梅雨明けてしまったようなのでまたしても間に合いませんでした笑
評価あったり感想たくさんもらっているのを見るといいなーと思う反面自分には絶対書けない内容(日常のみや恋愛要素のみとか)なので、個人的に書きたい事を書いていこうとも同時に思います。
作者はギスドリ系の要素を書いてる時イキイキしてたりします笑
最初からラブラブよりもいろんな問題を乗り越えてから付き合うとかそういうパターンの話が書いていて好きなので書いてます。この作品は……どうなるんでしょうね。