ガールズバンドに振り回される日常   作:レイハントン

64 / 65
見えないものが見えるのは怖い

見えないものが見えるのは怖い

 

CiRCLE スタジオ

 

 とある日のこと。

 

 今井リサは焦っていた。

 

「(夢……じゃないよね?)」

 

 少し早めにスタジオ入りして練習していた彼女は後から入ってきた紗夜をじっと見ていた。いつもとは完全に違う様子に手が止まってしまう。

 

「(一旦落ち着かなきゃ。紗夜から見えてるのは……お、オーラ? で間違いないよね?)」

 

 リサの目に映る人にはオーラが漂っていた。今見えているのは白色のオーラ。これが一体なにを示しているのかはわからない。ただわかるのは、自分の置かれている状況。確実におかしなことになっているということ。

 

「今井さん。私の顔になにか付いてますか?」

「う、ううん。大丈夫だよ」

 

 なんとか誤魔化せたが、じっと見すぎるのもよくない。

 

「(あれはなんのオーラなんだろう……。やる気? だったら色とかよりも大きさ? とかに現れそうだけど。ていうか見えてるのアタシだけ?)」

 

 仮に紗夜にも見えて見えるのなら当然聞いてくるはず。聞いてこない、表情もいつもと変わらないあたり見えていないのだろう。

 

「(思い切って聞いてみる? でもそれじゃあ心配されそう……。アタシなら普通オーラ見える? なんて聞いてきたら心配するし)」

 

 悩んでいるとノックと共にドアが開いた。おそらく入ってきたのは彼だろう。

 

「ん? 紗夜と今井だけか」

「ええ。3人はまだ来ていないわ」

「(旭日君のオーラは紗夜と一緒。大きさも同じ。ってことはやる気とかではなさそう)」

 

 言い方は失礼になるがやる気だとしたら彼のはさほど大きくはないだろうと心の奥底で思う。

 

「そうか。タイミングが悪かったがまぁいい。今度のライブのセットリストって決まっているか?」

「今井さんが持っているはずです」

 

 2人の視線がリサに向いたが特に反応はない。

 

「ぼーっとしてどうした?」

「え? あ、ううん! なんでもないよ! セットリストだよね? ちょっと待ってて」

 

 急いでセットリストをカバンから出して夕に渡しに行く。

 

「(ヤバい……集中できない……)」

 

 セットリストを眺めてから夕は再び紗夜に向けた。

 

「今回は緩急なしのストレートか」

「緩急を付けてもよかったけれど、参加バンドを考えたら今のセットリストが良いという意見が多かったわ」

「順番は紗夜の意見か?」

「え、ええ……そうだけれど」

「俺も同じ意見だ。特に3番目から───」

 

 2人の会話する姿をじっと眺めていると少しだけ変化があった。紗夜のオーラが少しだけ黄色っぽく変化したのだ。

 

「(い、色が変わった……!? でも旭日君はなにも変わってない……? な、なんだろう。驚くと色が変わる?)」

 

 あまりにも少ない情報では予測するのは不可能に近い。こういう時こそ観察というものが必要なのだろう。しかし、少しテンパっているリサにそんな考えは微塵もなかった。

 

 この後も2人の会話する姿を眺めては1人心の中で騒いでいた。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ順番が決まったらまた伝えに来る」

「ええ。湊さんにも伝えておくわ」

「頼む」

 

 それだけ言い残すと夕はスタジオを後にしたが、扉は閉まることはなくそのまま開け放たれたまま。

 

「お疲れ様ですっ!」

「お疲れ様です……」

 

 入ってきたのはあこと燐子の2人。そして2人にも例のごとくオーラが見える。共に白色の。

 

「お疲れ様です。湊さんを見ましたか?」

「飲み物を買ってから……来るそうです」

「そうですか。湊さんが来たら、早速練習を始めましょう」

「……はい」

 

 いつもと変わらぬメンバーだが、余計なものが見えているせいかソワソワする。あこのオーラだけ白色から徐々に緑色に変化していくのを見るとなおさら。

 

「今日もババーンって演奏しちゃうお! りんりん!」

「うん……!」

 

 あこだけでなく燐子のオーラも同じように少しだけ緑色に変化した。

 

「(あーもう! 普段見えないものが見えるってこんなに怖いわけ?!)」

 

 1人心の中で叫んでいると、再びドアが開いた。今度こそ入ってきたのは湊友希那だ。

 

「待たせたわね」

「いえ、時間通りです」

「そう。早速始めるわよ」

 

 早くきたはずなのに練習が1つも進まなかったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

─────☆

 

 CiRCLE ロビー

 

 気のせいだろうか。今井の様子が少しおかしかった気もする。

 

「夕くん、ラウンジに置いてあったダンボール知らない?」

「ダンボール?」

 

 スタジオを予約しているお客さんのリストを眺めてきると、紘翔がそんなことを聞いてきた。

 

「知らないな」

「そっか。Roseliaが来る前まではあったんだけどね」

「萩野と海藤さんも知らないのか?」

「聞いてみたけど知らないって」

「暇だしもう少し探してみるか」

 

 いったいなにが入っていたのかは知らないが。お客さんの忘れ物……にしてはダンボールって。新しい備品? としか考えられない。

 

「中身はなんなんだ?」

「僕もわからない。さっきまで置いてあったし、もしかしたら備品かなって」

「なるほどな。ダンボールなんて持ってくる人、居るわけない………よな?」

「さすがにね」

 

 心当たりはあるんだが……まさかな? 今日はハロハピのバンド練習は入っていないし。鋼太さんが居るはずもない。神出鬼没な人でもないしな。

 

 この時。もう少し考えていれば、後々招く出来事を防げたのかもしれなかった。

 

 予約リストではなく、スタジオに入ったお客さんの名簿を見ていなかった。そこに奥沢美咲、瀬田薫という名前があったのに。

 

 

─────☆

 

 CiRCLE スタジオ

 

 あれから1時間の時が過ぎたころ。

 

「リサ、サビ前にミスが多かったから気をつけて」

「う、うん。ごめん……」

「あまり集中出来ていないようですが、大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫! 昨日練習し過ぎちゃたかな〜」

 

 というが内心全くと言っていいほど大丈夫ではなかった。

 

「(全然っ! 集中出来ない! 友希那と紗夜は全く変わらないし、あこと燐子は緑になったり黄色になったりするし!!)」

 

 演奏してる途中に考察などできるはずもない。未だに規則性やオーラがなにを示しているのかは全くわからなかった。ただ普段からよく感情が表に出る人ほど色の変化はあるように思える。今のリサはそこまで冷静に考えてられてはいない為、気づいていない。

 

「(一旦落ち着こう。前回も変なことがあったけど、旭日君は冷静だったし。……あれは自分だけなんともなかったからな気もするけど……)」

 

 すると、いつもと様子がおかしいリサを見かねた友希那が動いた。

 

「早いけど少し休憩にしましょう」

「もう休憩ですか」

「リサ、切り替えてちょうだい」

「う、うん。外の空気吸ってくる」

 

 そう言うとリサはスタジオを後にした。

 

 

 

 

─────☆

 

 CiRCLE ロビー

 

 時が経つのは早いもんだ。あれから外のカフェに人が雪崩れ込んできたせいでダンボール探しは出来ていない。急いで探すものでもないと思うしな。

 

 俺以外のみんなはカフェの手伝い。今は1人で受付に立っている。外とは違って静かだ。

 

「あれ? 1人なの?」

 

 外を眺めていると、誰かが声をかけてきた。と言ってもこの声は1人しかいないんだが。

 

「休憩早いな」

「うん……アタシが集中出来てないから」

「……そうか」

 

 そういえば紗夜と話している時もなぜか俺たちのことをじっと見ていたな。セットリストの話をした時も反応が鈍かった。

 

「なにかあったのか?」

「なんでもないよ」

「嘘をつけ。なんでもない奴が集中出来ないわけがないだろう」

「そ、そうだけどさ……」

 

 歯切れの悪い返答だな。

 

「笑わない……?」

「笑わない」

「(まだ笑った顔、見たことないから見てみたいけど……。こういう時はすごく安心する)」

 

 少しの間が空けてから今井がわけを話してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

「……とうとう人間の限界を超えたか?」

「そ、そんなわけないでしょ!?」

 

 ここまで来るとそんなことが出来るのは1人しか思い当たらない。

 

「すぐにでも元に戻れると思うが……いや、聞くまでもないか。電話してみる」

「うん。お願い」

 

 普段見えないものが見えていたんだ。不安にもなる。さて……さっさと元凶を作った人に電話しないとな。本当によく変な薬を作れるもんだ。

 

 スマホで鋼太さんに電話をかけた。

 

『おかけになった番号は現在使われておりません』

「ふざけてる場合ですか」

『悪い悪い。で、用件はなんだ?』

「今度はオーラが見える薬でも作りました?」

『おおっ!? ロシアンウォーターに当たったのか?!』

 

 なんだロシアンウォーターって……。今度はタチの悪いことにコーラではなく無色の透明らしい。そんなもの、疑えるわけがないだろうに。

 

 見ろ、今井のあの不安そうな顔。たぶんその水を飲んだんだろうな……。だが一体どこで拾った?

 

 今井も聞いてもらおうとスピーカーに切り替えた。

 

「効果はなんですか?」

『あれは感情がオーラで見えるんだよ』

「か、感情が……?」

『そうそう。まだ開発段階だから、見える数も少ない上に効果時間も短い』

「だ、そうだ」

「勝手に効果が切れるってこと?」

『今回当たったのは今井リサか。君の言う通りだ。だいたい2時間くらい』

 

 ってことはあと1時間もしないくらいに効果が切れるんじゃないか? 未完成なだけに効果時間は短いんだな。前回は戻る薬を飲むまではそのままだったのに。

 

「ってことだ。後少し頑張れ」

「う、うん。ちなみにどんな感情が見えるのかは……」

『興味深々だな、今井リサ。奥沢美咲と瀬田薫で為した結果を連携しておこう。俺は忙しいからこれで』

 

 そう言うと電話は切れてしまった。しれっと奥沢さんと瀬田が実験台になってるのは不憫でならないが。

 

 すぐに届いたメッセージを確認する。そこには割と衝撃的な内容が書かれていた。

 

「この人はいつノーベル賞をもらうんだろうな」

「なになに……実験結果。黄色は喜び、赤は怒り、青は悲しみ、緑は楽しさを表しているようだって……。これ普通にすごくない?」

「すごいな」

 

 今井にはこの4つの人の感情が見えているわけか。表情に出なくてもわかるわけだな。

 

「あまり害はなさそうだし、問題ないだろう」

「うん、話聞いてくれてありがとう。旭日君」

「俺はなにもしていない。あと、その水は練習終わったら俺に渡してくれ。処理の仕方を鋼太さんに聞いておくから」

「(普通に捨てるのじゃダメだから……だよね。旭日君ならいっか。変なことには使わないだろうし)」

 

 少しだけ間が空いた。

 

「わかった。旭日君なら任せられるよ」

 

 それはどう言う意味だ……?

 

 よくわからないまま練習に戻っていく今井の背中を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

─────☆

 

CiRCLEスタジオ

 

 オーラの色の秘密を知った今、演奏中余計に気になりはしたが、あれからの練習は特に問題はなくいつも通りにこなしたリサ。

 

「リサ、今の感じ。忘れないで」

「うん♪ 友希那もいい感じだったよ!」

「私はいつも通りよ」

「(あ、少しだけ黄色になった。嬉しいんだ〜友希那)」

 

 そんなことを思いながら今度はあこと燐子に視線を向ける。2人ともオーラの色は緑。

 

「(いつも楽しそうに演奏してるな〜とは思ってたけど、心から楽しんでるんだ。あこと燐子は)」

 

 普段は見えない景色に不安だった。それを1人の人間に話すだけでこんなにも薄れるのかと、改めて相談の大切さを知ったリサ。

 

 ふと冷静に返ったからか。

 

「宇田川さん。サビ前、かなり走ってましたよ」

「そうね。気持ちだけが先走らないようにして」

「(2人のオーラが少し赤くなった……)」

 

 怒っているのだろう。そう言われてもあこのオーラは変わらず緑色のままなのは、良いところなのか。それとも悪いところなのか。判断に困る。

 

 表情が変わらなくても感情は変わっている。人はみんなそういう───。

 

「(そういえば紗夜、旭日君と話してる時は……オーラが黄色に……。そっか)」

「今井さん。さっきの感じ、忘れないで」

「わかってるよ〜」

 

 あの時のことを思い出して少しだけ笑みが溢れるリサ。彼に気づいてもらえて。共感してもらえて。少なからず嬉しかったんだろう。

 

「(待って……休憩の時、旭日君とずっと話してたような気がするけど……。まさかね。流石に見逃してただけだよね?)」

「リサ、練習再開するわよ」

「うん」

 

 見えるオーラが少ないとはいえ、彼女はまだ知らない。あの時の旭日夕の感情がさほど揺れていないことを。

 

 




今回はヒロインと主人公を外から見てる感じですかね。
描写は少ないですが……
本編の方で関係が進展したらこっちもって感じです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。