ガールズバンドに振り回される日常 作:レイハントン
おそらく今年最後の投稿になるかと。
もう少し話が進んでいたら季節ネタなどなどやりたいなーと思ったのですが、なかなか上手くいかず……。
さて今回は日菜と出かける話です。ちょっとでも日菜らしさが出ていてくれればいいなと。
それではどうぞ。
第5話 夕と日菜
「マジでお前なんなんだよ!」
教室に鳴り響いた平手打ちの音。ちょうど通りかかった教室の前で見た光景はかなり衝撃的だった。
共に育った幼なじみがクラスメイトであろう男の子にビンタをされていたからだ。そんなものを見て黙って居られるほど俺は腐っていない。真っ先に乗り込んで行って、ビンタをしたであろう男の子に襲いかかった。
「なにしてんだお前! 日菜がなにをした?!」
「うるせー! コイツいつもいつも勉強してないくせに100点ばっかり取るから!!」
お互いつかみ合いあっちこっちに押し出そうともがく。俺の方が強い力だったんだろう。机を勢いよくズラしながら相手を床に押し倒した。そして馬乗りになって胸ぐらを掴む。
「そんなことでひっぱたいていい理由にならないだろ!」
「お前もなんだよ……! そいつの味方かよ……!」
相手は涙を流しながら俺に訴えてきた。確かに日菜は周りから見れば天才という部類に入る人間だろう。でもだからってビンタされていいわけがない。傷つけられる理由にはならないんだ。いくら天才だからって……日菜は。
「もういいよ、ゆーくん……! 私が悪いの!」
「悪くない! 日菜はなにも!」
頭に血が上った俺は拳を振り上げて相手を殴ろうとした。しかしこんなことをしていれば誰かが止めに入る。
「やめろって!」
後ろから押さえつけるようにして相手から引き剥がしてきたのは、のちに友達になる松風智紀だった。
なぜだ? 俺は日菜をはたいた奴を殴ろうとしているだけだぞ? 何も悪くない日菜をはたいた奴を。
天才だからって邪険に扱う意味が俺にはわからない。
ふと目を覚ますと覗き込むように日菜が俺の事を見ていた。
「おはよう、ゆーくん」
「おはよう、日菜。今何時だ?」
「9時半くらいだよ。起こしてって頼んだ時間」
そう言うと俺の横に座ってくる。
日菜は紗夜と違って美人系ではない。可愛い系だな。天真爛漫な性格で男子からも人気があった。でも結局俺のところに来るもんだから、周りの男子からはいい目では見てもらえなかったな。あれはめんどくさかった。
「そうか……」
ゆっくり上半身を起こして後頭部を左手でかく。そのまま日菜の頭に手をそっと乗せて優しく撫でた。
「お前は変わる必要はないからな」
「どうしたのー? くすぐったいよ〜」
結局あの案件は俺が全ての責任を負った。日菜を守れただけでも俺は十分だったから問題はない。もう5年前の話だがな。ちょうどそのくらいだったか。紗夜が日菜に一線を引くのが目に見えてきたのは。
「今日の夕くん優しいね〜」
「いつも優しくしてるだろ?」
「えー。嘘だよ〜」
「嘘言ってるのはお前だ。遅刻しそうな時送ってやってるだろ」
全くコイツは。俺が優しくないのはわかってることだろ。
撫でるのをやめて軽く背伸びをする。昨日の夜は少し夜更かしをした割にはあんまり眠くないな。睡眠の質が良かったのか?
ふと日菜に視線を向けると、机の上に置いてある腕時計を見ていた。
「ずっとその時計してくれてるよね?」
「まぁな。日菜から貰ったものだし。いちいちスマホで時間確認しなくて済む」
一昨年の誕生日プレゼントなんだ。日菜からの。物は大事にしないと怒られるからな。
スマホを持ってベッドを降りる。カーテンは日菜が開けたらしく開いていた。今頃は紗夜がギターの練習をしていることだろう。
紗夜は日菜にギターをやっていることを隠している。知られたら真似されるからって思ってるからだと思う。実際紗夜のやってきたことを真似しない方が少なかった。日菜としてはただ一緒に楽しみたいだけなんだろうけど。
「日菜。着替えるから、リビングで待っててくれ」
「はーい」
返事をすると部屋を出て行く。付けっぱなしの電気は消えてて、閉めたカーテンが開いている。確信はないが、30分前くらいからうちに上がり込んでるな。人の部屋で何をしてたのんだろうな。ちなみに俺の部屋から本を探し出そうとしても無駄だ。拾わないし買わないからな。
そんなことを考えていても仕方ない。昨日用意していた服に着替え始めた。
私服に着替えてリビングに行くと、テーブルの上にカップが2つ置いてあった。台所に居るんであろう日菜が用意したんだろうな。しかもコーヒー。
「まだインスタント残ってたのか?」
「そーだよ?」
てっきりないもんだと思ってた。父さんが仕事行く前に飲んでいたり、放課後バイトない日に帰ってきて飲んだりでな。
テーブルにつこうとすると、今度は丸い皿にトースターで焼かれたパンを1枚乗せて持ってきた。うちに食パンなんてあっただろうかと思いながら椅子に座る。ゆっくり行動してる中、日菜はせっせと朝ごはんを用意してくれている。こんな珍しいことがあるのだろうか。
「珍しく気合い入ってるな」
家庭的なことが出来るのに越したことはない。紗夜にとっては難しいみたいだけど、彼女は彼女で頑張ってるみたいだし応援していこう。日菜は……どこで覚えたんだろうな。調べてきたとか言いそうだから怖い。
とりあえずブラックのまま一口飲む。
「……変なのは入れてないんだな」
「当たり前でしょー」
「そうなんだが」
日菜はあれだ。ファミレスに行くとカオスな飲み物作ってるタイプだからな。少し疑ってしまうのも仕方ないことだから勘弁してほしい。
「ゆーくんいつもなに塗ってるの?」
「適当」
「適当じゃあ…今日はマーガリン塗るね!」
そう言うと俺のぶんのトーストに冷蔵庫から持ってきたマーガリンを塗り始めた。端から端まで塗るタイプの俺と違って日菜は端まで塗らないタイプのようだ。……気になる。
なんて考えているとトーストの端の方をちぎって俺に差し出す。
「はい、あーん」
「子供か。自分で食える」
「子供扱いしてるわけじゃないよ〜」
全く意図が掴めないが、バカにされているようにも思えない。ここはとりあえず差し出されたトーストを食べた。
「素直じゃないな〜」
「わかったから、お前もさっさと食べろ」
なぜだろう。今日の日菜はいつもと違う気がする。そもそも一緒に居てバタバタしていない方が珍しい。たまにはこんな日も。
「ゆーくん、電車止まってるみたいだよ?」
「……は?」
「今確認したら人身事故だって」
前言撤回。やっぱバタバタするのは変わらないみたいだ。
「早く外行って待ってろ。善は急げだ」
「はーい」
さてと。そんな遠くないしバスとかで行くのがいいが、きっとぎゅうぎゅうになるんだろうな。
とりあえずトーストをすぐに食べ終え、歯磨きをしながら家の中の戸締りを同時にした。遅刻しそうな時ほど何かを忘れるもんだ。気をつけないとな。
何度も遅刻しかけているからだろうか。出かける前に確認することがすんなり終わり、意外と早く家を出ることが出来た。
「とっとと行くぞ」
「うん!」
自転車の2人乗りが1番早いんだが休みの日だし危ないからやめておこう。ということは走っていくしかないわけだ。
「まだ電車止まってるか?」
小走りをしながらスマホでいろいろ調べている日菜を横目に聞くとやはりまだ動いてないらしい。ってことは走るのは確定か。
「体力は保証出来ないからな」
「わかってるよ!」
スマホをしまうのを確認してから駅に向かって走り始めた。その様子を窓から見る紗夜に俺は気付くことはなかった。
「なんとか間に合ったね〜」
「俺、映画で寝る自信しかないんだが?」
「もう疲れたのー?」
そこそこなスピードで駅まで走ってきたわけだが。なんとかバスに乗れた。あとは終点で降りるだけなんだけど、いかんせん走ったからな。ものすごく疲れた。インドア派にはきつい。
「この調子なら間に合いそうだ」
「だねー。さすがゆーくん」
「いや、俺は何にもしてないんだが」
ただ電車からバスにしただけであって。なんて思っても日菜はどこか楽しそうで、全く疲れを感じなかった。
映画というのは苦手だ。なぜなら暗い空間に1時間、2時間座っていなければいけないからだ。明るいところでやっている授業中さえ眠るんだぞ? そんな俺には起きてるのは不可能に近い。
走ってる途中で明らかに日菜は楽しんでるように見えたのは気のせいではないんだろう。スリリングなことをいつも求めているような気がする……。日菜らしいっちゃ日菜らしいか。
ってなわけで絶賛暗い場所で座ってるわけだがもう眠い。隣でまだ映画も始まってないのにポップコーンを食べながら広告の映像を見ている日菜を横目にあくびをした。
「ゆーくん眠いの?」
「この環境寝てくださいって言ってるようなもんだろ?」
「え〜ゆーくんだけだよ〜」
俺以外にも居るだろ。例えばあそこの女子同士で来てる……寝るわけがないか。じゃあ右下の方のカップルも……寝ないか。ほう…俺だけとは。
「おかしいだろ」
「あはは! ゆーくん面白いな~」
「どこがだ」
日菜の笑いの感覚は何年一緒に居てもわからないものだな。天才と凡人では感覚の差もある。テストに例えるのが1番簡単だが、あえて例えないでおく。
同じような広告に飽きかけていたところ、ようやく映画の本編が始まった。今回は半分くらいは観てやろうという気持ちを持って映画に望んだ。
「ゆーくん…なんで助けてくれたの?」
小学校の帰り道。ふと日菜が立ち止まって言った。暗い表情を浮かべて。
「あたりまえだろ? 幼なじみなんだから」
「でも…ゆーくんまで怒られちゃった」
「だから気にするなって」
俺は日菜の手を取って歩き始めた。
見ただけで何でも出来てしまう日菜は昔から努力している人に恨まれることが多かった。今回の出来事もその類だ。努力している人から恨まれるのは100歩譲ってもいい。俺が一番許せないのは、そいつに合わせておかしいだろって言うやつだ。何も被害にあっていない奴がなぜそんなことを言える? おかしな話だ。
確かに他人に合わせることも大事だと思う。だが本当にそれでいいのか? 毎回同じように他人に合わせて人を馬鹿にして。
「日菜は変わらなくいいんだからな。またなにかあったら俺が守るから」
「うん……。ありがとう、ゆーくん」
教えてくれ。俺はあと何回日菜を守ればいい? あと何回守れば、普通に過ごせる日常が来る?
次に目を覚ました時は見事に映画が終わって、そしてなぜか日菜は楽しそうに俺を見てにこにこしていた。一体何があったんだ?
しかし、聞いても答えてくれる日菜ではなかった。
映画を見終わった俺と日菜は映画館を後にして、近くの大型ショッピングモールに向かっていた。
「昼はどうするか」
「ん〜ハンバーグ食べたい!」
ハンバーグか。たまにはそういうのもいいな。
「でもこの時間人多いよね」
「昼時だからな。仕方ない」
ショッピングモール内のフードコートとかファミレス等は人で溢れかえってるんだろうな。もう少し時間をずらしたい所だ。人が多いところはなにかと面倒だからな。
「少し時間を潰してから行くか」
「そうだね。とりあえずぐるって回ろうよ!」
「行き先は任せる」
その言葉が地獄の始まりだったことを俺はまだ知らない。
いいか。日菜と出かける時はちゃんと寝て、体力を回復しておかないといけないぞ。でないと疲れてしまうからな。絶賛俺がそうだ。
「ゆーくん今度はあっち!」
「落ち着け。店は逃げないから…」
昔からそうだ。日菜はあっちこっちにすぐ行ってしまう。目を離すとすぐに見失って。こういうショッピングモール内で何度迷子センターからの呼び出しがあったことか。
なんて考えながら日菜の背中を追っていると、服屋の前で足を止めた。
「どうした」
「ううん。……おねーちゃんに似合いそうな服があるなーって思って」
日菜の視線の先を追うと、そこには白いワンピースがマネキンに着せられていた。確かに日菜の言う通り……かもな。ああいった服を着るような性格はしていないが、紗夜には似合うと思う。
「いつか……見に来れるといいな」
「うん」
「それまで楽しみは取っておけよ。待てば待つほど、その時が嬉しくなるもんだ」
そう言って日菜の頭をポンと叩く。俺の言ったいつかは果たして……いつなんだろうか。1年後か? それとも2年後? いや、もっと先かもしれない。
いつかは向き合う日が来るんだとは思う。その時は俺も覚悟を決めて、2人の話を聞かないといけない。何があっても……最後まで見届けたいんだ。
「で、日菜の行きたかったところはここか?」
「えっとね、ノートが買える所に行きたいんだー」
「ノート? 買い換える時期過ぎてないか?」
「ちょうど書くところがなくなっちゃって」
普通学年上がる時に買い換えるはずなんだが。どうやら日菜はそういうのは気にしないらしいな。というよりも、日菜はノートを書いているんだろうか。基本聞けば覚えるからノートなんて要らな……聞けば覚えるって異次元だよな。
「あとはお母さんから買い物頼まれてるから、雑貨屋さんも行きたい!」
「とりあえずはノートも雑貨屋行けば買えるだろうし、行くとするか」
「うん!」
ちゃっかり買い物頼んでるあたり、おばさんらしいな。遊びに行くことを知っているってことはもちろん……おじさんも知ってるよな……。今度会ったらどやされそうだ。俺に対して当たり強いし。
考えてても仕方ない。今は日菜との買い物を優先しよう。
はい。ということで日菜とはぐれてしまったわけだが。いったいどこに行った? あのお転婆娘は。
雑貨屋までの道を面倒だからと言ってエスカレーター等を使ったのがまずかったか? それとも途中のゲームセンター内を通ったことか? どちらにせよ人混みの中をスルスル通り抜けることをやめた方がよかったな。
さてと……どうしたものか。俺は今、さっきの服屋のところまで戻ってきた。あわよくばここに居ればいいなと思ったが。そんなことはなかった。
連絡したが、恐らく日菜のスマホの充電がないのだろう。よく電池切れるからな……全く。何のためのスマホなんだか。
とりあえず、今出来そうなことを考えよう。まずは闇雲に探すのは避けたい。無駄に体力使うし。次は最上階、もしくは下からどんどん下か上に向かっていく。これはどこかですれ違う可能性があるから避けたい。あとは……迷子センターは高校生にもなって頼りたくない。
はぐれる前に、はぐれた時の合流地点を決めておけばよかったな。そんなことを考えても後の祭りだ。残る選択肢は……日菜の思考パターンを先読みして探す。結局はこうなる運命か。
雑貨屋にずっと居てくれるならすぐに解決するが……はぐれた時無闇に動くほど日菜も馬鹿ではない。なんなら買い物を普通に続けそうだ。俺が見つけてくれることを信じて。
それならば……買い物を済ませてレストランに向かったと見るか。行き先はハンバーグが食べられるレストランだな。
いざ目的地を決めて進もうとした直後。泣きじゃくる小さい女の子が居た。迷子なのだろう。だったら他の人が迷子センターにでも連れて……。
「日菜…悪い」
そう小さくてつぶやいてから、女の子の元へと歩いた。
おねーちゃん……なんて言われたらさ。見て見ぬふりなんて出来ない。
少なくも、俺はその子と日菜を重ねてしまったんだろう。ぼんやりとしか覚えていないが、いつの日かの迷子になった時の話だ。雪が降る帰り道で2人から聞いた思い出の話。
迷子センター。
とりあえず迷子センターに連れていき、探している人を呼び出してもらうべく来たわけだ。日菜には悪いことをしてしまった。はぐれた上にまた一から探さないといけないしな。
「あー! ゆーくん居た!」
なんて考えていると、後ろの方から日菜の声が聞こえてきた。それと同時に俺の後ろに女の子が隠れてしまう。怖い人じゃないんだが。
そしてなぜか向こうも女の子を連れている。恐らく同じような状況になったのだろうと想像が出来る。
「日菜も迷子を連れてきたのか?」
「うん。ゆーくんも同じみたいだね」
「まぁ合流出来たし、よかったな」
とりあえずひと段落し、安堵の息を吐く。すると俺が連れてきた迷子の女の子がチラッと様子を見るためにゆっくり顔を覗かせる。
「おねーちゃん!!」
そう言うと一目散に走っていく。どうやら日菜が連れてきた子が俺の連れてきた子のお姉さんだったようだ。どちらもまだ小学生だろう。
「もう! 勝手にどっかいっちゃダメって言ったでしょ!」
「ごめんなさい……」
こうしてみると……やっぱり昔の紗夜と日菜を思い出すな。
「なんかさ。昔の自分を見てるみたい」
「そうだな。ホント…そっくりだ」
そう言ってから日菜のことを撫でてから、離ればなれになってしまった姉妹の元まで歩み寄った。2人の目線に合わせるようにしゃがむ。
「もう迷子にならないようにな」
「うん! ありがとう、お兄ちゃん!」
「お姉さんもありがとうございます」
「うん!」
小さい姉妹を見送りひと段落したところで本題に入った。
「スマホの充電ないだろ」
「気がついたらなかった〜。ごめんね」
「バッテリー貸すから充電しておけ。また探すのはごめんだ」
まぁ見失うとわかってて見失ってしまった俺も十分悪いな。2度目はないように気をつけるとしよう。
「少し遅くなったが、昼食べて帰るか」
「そうだね! ハンバーグハンバーグ♪」
なんだかご機嫌そうな日菜。いい意味でも悪い意味でも気にしないのが、コイツのいいところなのかもな。
日菜……お前は変わってくれるなよ。
先に行ってしまう彼女の背中を見つめながらそんなことをふと思った。
「ゆーくん早く早く!」
「今行く」
いつの日か今度は。3人で来たいもんだ。
どうでしたか?
なんだかんだ主人公は日菜に甘いんです。日菜というより年下系の人にはって感じですね笑
皆さんは食パンの端までキチンと塗る派ですか? 作者は端までキチンと塗るタイプです笑 なんか端まで塗りたくなってしまいますね笑
次回はいよいよCiRCLEでのバイトの話です。様々なキャラクターが登場するのでお楽しみに!
新たに息抜き小説も投稿しているのでぜひ読んでみてください。
気になるのはお隣さん 1話まで公開していますよ。
それではまた来年。良いお年を。