双子のスタンド使い鷹野兄弟に逆恨みされ、激しい戦闘の末打ち勝った柊吾は負った傷を手当するために保健室に向かった。
【友に会いに行こう】
「保健室…あ、ここだ。」
『ガラガラ』と扉を開けると、身長が170cmくらいはありそうなスタイルの良い女性がいた。
『綺麗な人だなぁ。』と思い、桂木が見惚れていると
「あら柊吾君じゃない、どうしたのその傷。」
と話しかけてきた。どうやら柊吾とは知り合いのようだった。
「げっ、今日弥生(やよい)先生が当番の日だったのか…こりゃ家帰った方がいいかもな…。」
「この先生と知り合いなの?柊吾。」
「あぁ、中学の時も保健室の先生この人だったんだ。それにこの人俺の親戚でさ、昔から知り合いなんだよ。この人のスタンドが、なぁ…。」
「私のスタンド『The・Cure』に何か問題でもあるのかしら。」
「問題大ありだよ!『重症を軽傷に、軽傷を重症』に出来る能力、何度それでいたずらされたことか!まじでなんで先生なんかになれたのかわかんねぇ!」
「あら、随分と酷い言い草ね。それと、もう傷治したわよ。良かったわね限りなく重症に近い軽傷で。」
「えっ?」
驚いて桂木が柊吾の方を見るとたしかに柊吾の傷は完全に癒えていた。
「こんな生傷あんまり作ってくるんじゃあないわよ?柊吾、あなたまた面倒事に巻き込まれていたりしないわよね?今日体育館が爆発するなんて騒動があったらしいじゃないの。」
「…面倒事に巻き込まれている、というのは否めないんだよな。双子のスタンド使いの言っていた『あの方』っていうのがずっと気になってる。」
それは柊吾との戦闘の際に浩之が弟の幸紀に向けて発した言葉だった。
「それで、さっきのことなんだけどよ桂木。」
保健室を出てから少しして柊吾が話を切り出した。
「ん?さっきの『あの方』ってやつのこと?」
「あぁ、実はこの後俺の仲間と飯食う約束しててよ。そいつらとその事について話したい、お前も一緒に来てくれ。」
「もちろんだよ、僕にできることがあるならなんでもするさ。」
「んじゃちょっとそいつらに連絡するから待っててくれ。」
『ティロン』とメールアプリの通知が、ファミレスでなにやら話し込んでいる二人組の片方のスマホから鳴る。
「なあ、柊吾遅くねぇか?珍しいよなぁ、あいつが待ち合わせに遅れるなんてよ。」
「俺らは普段もっと遅れてるんだから文句言えねぇだろうがよ。」
「でもあいつ巻き込まれ体質だからまたなんかに巻き込まれて死にかけてんじゃあないの?」
「そりゃそうかもだけどよって、あ、柊吾からメール来てたわ。なんかケンカに巻き込まれて弥生先生に治してもらってたから遅れたんだとよ。今から向かうってさ。」
「ほら言ったそばから、あいつほんとにめんどくさい体質だな。」
「ん?なんか高校で知り合ったやつも連れて来るってさ。」
「え、誰それ。あんまり知らない人と話したくないんだけど。」
「あいつコミュニケーション能力だけは無駄にあるからな…。まぁもうすぐ着くらしいし、先になんか食って待ってようぜ。」
メールが届いてから10数分後、柊吾と桂木がファミレスに到着した。
「すまんすまん、待たせたな。」
「遅せぇよ柊吾、もう待ち合わせの時間からだいぶ経ってんぞ。」
「仕方ねぇだろうが、輩に逆恨みされてケンカしてたんだから。」
くだらない言い争いをしながら柊吾が一人を奥に座らせ、向かいあわせの奥の席に座る。
すると向こう側にいたもう1人も柊吾達の方に席を移した。
いつの間にか向かいあわせの席の片側に3人が座り、桂木が残った片側に1人で座らなくてはならないような形になっていた。
その様子を見た桂木が
『中学からの仲っていうし、さすがに割って入りずらいな…』
と思っていると、
「あんたもとりあえず座りなよ。」
桂木の様子を見兼ねた柊吾の仲間と言われていた一人が声をかけた。
「あ、すみませんありがとうございます。」
「おいおい、敬語なんて使わなくていいって。友達の友達は友達って言うだろ?俺は山之瀬 優大(やまのせ ゆうだい)だ、これからよろしくな。」
そう言った優大は身長160cmくらいと男子高校生にしては少し小柄だったがその割にはガタイがよく筋肉質な感じだった。
「そんでこっちの柊吾と言い争ってるこいつが御堂 紫音(みどう しおん)な。」
「あ、どうも…。」
今の今まで柊吾と言い合っていた紫音だったが、いきなりしゅんとなって挨拶する。
「すまんな、こいつコミュ症なのよ。」
「そうそう、意気地無しってやつなんだよこいつ。」
「んだとお前ら、黙って聞いてりゃ自己紹介くらいは自分で出来たっつうの!」
「えーと、じゃあ僕も自己紹介を。僕は桂木 蒼太です、スタンド使いではありません。でもなにか手伝えたらと思って柊吾について来ました。」
「あー、それなら俺達も別にスタンド見せたりしなくていいか、見えねぇもん出しても仕方ねぇしな。」
トントンと柊吾が優大の肩を叩く、
「いやそれがこいつスタンド見えてるっぽいのよ。ほらこいつの目見てみ。」
3人が桂木の方に目を向けると
『この人達のスタンドは一体どんななんだろう』
という心の声が聞こえてくるほどキラキラとした目で優大と紫音の方を見ている桂木がいた。
「なんというか、この純粋っつうか、遊園地の乗り物見てる子供みてぇな目で見られっと断れねぇんだよ…。俺もそのせいでスタンドの正体明かしちまったし…。」
「まじで言ってんのかお前、ありゃ企業秘密みたいなもんだったろ。まだ身内になるかもわからんやつにバラしちまってどうすんだよ。」
「でもなんか俺柊吾の気持ちわかる気がするぞ、圧力みてぇなもんがあるなこいつは。」
こそこそと3人が話していると、もう待ちきれないとでも言うかのように桂木が
「あの、会ってすぐで申し訳ないんですけどお二人のスタンドも見せて貰えませんか…?僕スタンドが大好きで、俗っぽい言い方ですけど目がないんです…。」
と言い出した。
「「はぁ…。」」
と紫音と優大が顔を見合わせてため息をつく。
「まぁじゃあ俺から説明するか。」
と優大がスタンドを出現させる。そのスタンドはボクサーの様な見た目をしており、握られた拳にはメリケンサックのような突起がついていた。
「俺のスタンドの名前は『SPEED me up』だ。能力は、名前の通りっちゃ名前の通りなんだが。1発殴ってから大体0.5秒以内に次の1発を当てられたら最初の1発よりも速度が上がるんだよ。どのくらいまで速くなるのか気になって1度だけ試したことがあるが多分上限はない。スピードはAだが破壊力だけで言えばBってとこだな。まぁこんな感じだ。」
優大が話し終えたのを見て紫音もスタンドを出現させる。中世の騎士のような鎧を着込んだ下半身が白馬の人型の周りに6枚の盾がゆっくりと回りながら浮かんでいるスタンドであった。
「じゃあ次は俺か。スタンドの名前は『エターナル・ナイト』。見ての通り結構かっこいい。こいつの周りに浮かんでる盾は物理攻撃だろうがスタンド攻撃だろうがなんであろうと通さない絶対防御の盾なんだけど……これかっこ悪いからあんまり言いたくないんだよな…。」
そう言って黙ってしまった紫音を見兼ねて柊吾が声をかける。
「いや変なプライドなんて捨てて言っちまえよ。その方が楽なこともあるだろ?」
「でもよ…。俺の心が折れる度に1枚割れるなんてダサ過ぎるじゃあねぇか…あっ、言っちまった…。」
チラッと申し訳なさそうな顔をして紫音が桂木の方を見る。
そこにはやはりキラキラと輝く目をした桂木の顔があった。
「すごい…やっぱりスタンドは絶対的な強さじゃあなくって何かしらの弱点があるんだ…。僕にスタンドがあったらなぁ〜もっと色々別な目線で見れただろうに…。」
「すごい?俺のスタンドが?そんなこと言われたの初めてだな…。」
「まぁこいつスタンドに関しては変態的だからな。持ってない分、考察とか色々とお前のスタンドみたいなやつのが捗るんだろうよ。」
「なぁ、和んでるとこ悪いんだけどよ柊吾。お前なんか話があって俺達を呼んだんだろ?」
本来の目的からズレていた会話を優大がレールの上に戻す。
「ん、あぁすまんすまん、ついな。もちろん俺達の今までとこれからに関わることだ。あの時の『あの方』ってのが何なのか分かるかもしれねぇ。」
柊吾の放った言葉を聞いた2人の表情が一変して真剣なものになる。
「……まじか。あれはあれで終わりにしようとかって思ってた所だったのに…。」
「まさか今更になって、って感じだな…。」
「あぁ、俺もそう思った。まさか進学した全く無関係の所であのワードを聞くなんて思っても見なかった。だが奴が関係しているのは確実だ。」
「そうだな…。」
「あのー柊吾?その『あの時』ってのは何のことなの?僕話についていけないんだけど。」
先程までスタンドの考察に夢中だった桂木が純粋な疑問をぶつける。
「あぁそうだよな、まずはその説明からだな。あの時俺らはまだ中学1年だった。」
そう言って柊吾は当時のことを話し始めた。
【宿敵は正体不明】
「俺達3人は中学の時に知り合ったんだが、3人で小遣い稼ぎくらいの感覚で何でも屋みたいなことをやってたのよ。最初は捜し物くらいの小さい依頼ばっかやってたんだけどよ、ちょっと物足りねぇよなって話になってちょいとばかり荒々しいこともやるようになってたのよ。」
「まぁ多分あん時は調子乗ってたんだろうな…。」
優大がしみじみとした感じで言う。
「不良に絡まれたから代わりに喧嘩してくれとかそういう感じのやつな。そんなことをするようになってから少しして、1年の冬休みの時だったか。また同じような依頼が来て、まぁ依頼自体は問題なくこなしたんだ。な?」
柊吾が念を押すように紫音に確認をとる。
「そうだな。でも依頼主に報酬を貰いに行った時に問題が起きたんだよ。」
「そう、受け渡しに指定された場所に現れたのは人型のスタンドだけだったんだ。それもそいつは俺達を見つけるやいなや速攻で襲いかかってきやがった。そん時紫音は待ち合わせに遅れてて後から来たから良かったが、奴の不意打ちを受けた俺と優大は触れられた部分が逆向きにねじ曲がった状態になっちまって動けなかった…。」
「ありゃ相当な激痛だったな…。もう二度とあれは喰らいたくねぇな。」
「んでそいつが去り際に言ったんだよ。『あの方について知り得るかもしれないものは始末しなくてはならない。君たちはもう二度とあの方を追ってはならない。』ってな。」
「なるほどね、じゃあ今回の鷹野兄弟が言っていた『あの方』っていうのがその時のスタンドの本体と関係があるだろうってことだね?」
「そうなるな、だから紫音、優大。俺達はこれから奴の本体について探らなくてはならない。勿論あの時の雪辱を果たすためにだ。」
「あぁ、やられっぱなしじゃいられねぇしな。手掛かりが向こうからきたってんなら尚更だな。」
「そこでだ、桂木。お前はスタンドがないから戦えない。かといって俺たちとこうしてつるんだ時点で敵の標的になってるかもしれねぇ。だから俺たちとできるだけ行動を共にしてくれ。」
「うんもちろんだよ。柊吾ともせっかく仲良くなれたわけだし、御堂君や山之瀬君とも仲良くなりたいからね。」
「桂木、こいつらなら君付けなんてしなくていいぞ。そんな敬うような奴らじゃねぇからな。」
「分かった。よろしく御堂、優大。」
「よし!情報共有もしたし、今日はとりあえず解散!会計は紫音が持ってくれるってよ!」
「おい、そんなこと言ってないぞ!待て、出てくんじゃあねぇ!まじで払わなくちゃならねぇじゃねぇかよ!」
過去のことを話した時とは打って変わって、最後は和気あいあいとした雰囲気で顔合わせの場は終わり、各々の家の方向にバラバラに彼らは帰って行った。
しかしそこには、共に帰る柊吾と桂木の後ろを付ける不穏な影があった。
【レッド・サンダンス】
情報共有が終わり、紫音、優大と別れた柊吾と桂木は帰路についていた。
「いやぁまさか同じアパート住んでるなんて知らなかったぜ。あんなボロ屋俺以外誰も住みたがらないと思ってたからな。」
「ボロ屋って、そのボロ屋に僕も住んでるんだけど?」
「冗談冗談、あの値段にしちゃいい場所だぜあそこは。借りれるだけありがたいってもんだ。」
「そうだね、今度からご飯作るのがめんどくさい時はそっちに転がりこもうかな。」
「え、お前ってそういうタイプなのか、以外だな…。もっとこう、『3食ちゃんと自炊します!』ってタイプかと思ったぜ。」
「いやいやそんな訳ないよ。」
他愛のない話をしていた2人が、元は家が立っていたであろう空き地に差し掛かったとき桂木が足を止めた。
「ん?どうした桂木、なんかあったか?」
「な、なんかさ、呻き声…?みたいのが聞こえた気がしたんだよ。ほらここの奥の方から…。」
そう言われて柊吾が耳を澄ますと
『うぅぅ………うぅ…』
という苦しそうな男性の呻き声のようなものが微かに聞こえてきた。
「ほら!聞こえたよね?!きっと誰か倒れているんだよ、助けなくちゃ!」
「ちょっと待て。」
声のする方に駆け出していこうとする桂木の前に柊吾が手を伸ばし止めさせる。
「どうしてさ、人が倒れていて助けを求めているのかもしれないだろう?」
「罠、かもしれねぇからだよ。さっきも言ったろ?俺達が昔やられたことを忘れなかったみたいに相手方だって俺達のことを狙っていないとも限らねぇ。だからこういうのはまず警戒するんだ。」
「たしかに、それもそうだ…。でも近寄って見ないことには本当に罠かも分からないよ。それにやっぱり無視してはいけないよ。これでもし明日のニュースにこの空き地で死体が見つかったなんてやってたら『僕のせいかも』なんて思わざるを得ないよ。」
「それもそうだが…。でもまぁそうだな。警戒だ、警戒は絶対に怠らねぇように近づくぞ。いいな?」
「分かった。よし行こう。」
そう言って、1歩、また1歩と声のする方に2人がゆっくりと近づいていく。
そして声のする場所までたどり着いた時、そこにはうずくまって倒れているサラリーマンの姿があった。
サラリーマンはちょうど柊吾の方を向いてうずくまっていた。
「やっぱりだ!帰るという選択肢を取らなくて良かった、大丈夫ですか?僕たちが分かりますか?」
安堵した表情をする桂木とは裏腹に、柊吾の顔は引きつっていた。
「どうしたの柊吾、人1人の命が助かるんだから。なんでそんな暗い顔をしてるんだよ。」
「いやよ、そ、そいつの右手やっぱりなんかおかしいよな…おかしい…普通ならこんなことありえねぇんだ…。」
「右手…?」
桂木がサラリーマンを動かし仰向けにすると、サラリーマンの腕が機械のようになっていたのだ。それもじわじわと機械の部分が広がっているように見えた。
「な、なんだこれはぁぁぁ!人の手が、機械になっている!それもゆっくりとその部分が広がっていっているように見えるぞ!」
「やはりだ…。やはり攻撃はもう既に始まっていた!警戒しろよ桂木、どっから何が来るか分からねぇ!」
「うん!な、なんてことだ…。さっき話を聞いた時に大変なことに巻き込まれそうだとは思っていたけれど、早速こんなことになるとは…。」
「あら、あなたついさっき足を踏み入れてしまったばかりなのね、可哀想に。」
柊吾でも、桂木でもない声が2人の背後からする。2人が振り返るとそこには2人の高校とは違う制服を着た女子高生が立っていた。
「なんだてめぇ、このおっさんの右手はてめぇがやったのか?さては『あの方』とか言ってるやつの差し金だな?!」
「うふふふ、えぇそうよ。そこのおじさんは私がやったのよ。私は宗宮 暁音(そうみや あきね)、スタンド名は『レッド・サンダンス』よ。能力はそこのおじさんを見ての通り、スタンドが触れた部分から徐々に相手を機械化させるのよ。」
「ずいぶんとペラペラと自分について喋るなぁ?自分語り大好きか?畜生が!」
そう言って柊吾はスタンドを人型にして出し宗宮に殴りかかろうと近づく。
「柊吾落ち着いて!警戒を怠るなって言ったのは君だろ?!」
桂木が柊吾を制していると『ガバッ』と目にも止まらないスピードで宗宮が桂木に近づき、触れようとする。
「桂木危ねぇ!」
桂木が首に着けていたルービックキューブの形をしたネックレスを引っ張り避けさせる。
間一髪で桂木は攻撃を避けたがネックレスの紐がちぎれ、宗宮の後方へと吹き飛んでしまった。
「お前のおかげで冷静になれたぜ桂木、とりあえずここは一旦退くぞ。あいつのスタンド、能力は『触れた相手を機械化』のはずだ。だとしたらさっきの高速移動はなんだ?得体が知れなさすぎる。」
「待って柊吾!今はダメだ!」
「どうしてだよ!これは完全に冷静な判断だろうがよ!」
「違うんだッ!さっき君が僕を引っ張った時に吹っ飛んでいったネックレス、あれは僕の父さんの形見なんだ!絶対に手放したくないッ!」
「まじかよ…これはちょいとばかり面倒なことになったな…。このハードモードのクリア条件は目の前の敵を避けつつ桂木の父さんの形見を回収か…こいつは相当にヘビーだな。」
「お喋りは終わりってことで良いかしら?!」
そう言いながら宗宮が一気に間合いを詰め、またしても桂木に触れようとする。それを柊吾が桂木を自身の後方に突き飛ばし宗宮から引き離す。
「さっきっから桂木ばっかり狙いやがってよォ、しつこいんだよてめぇ。」
「つれないこと言うわねぇ、でもスタンドの正体が分からない人間から狙うのは当たり前でしょう?あなたのはもう割れてるんだからそこまで気にする必要はないのよ?」
「俺のことなんか眼中に無いってか、そうかそうか…、なら思い知らせてやるよ!」
スタンドを人型にし柊吾が宗宮に突っ込んでいく。
『『あら、この子随分と安い挑発に乗っちゃうタイプの子なのね。』とか思ってるんだろうなこいつ、俺の目的はお前をぶん殴ることじゃあねぇんだよ!』
宗宮が柊吾にスタンドに触れようとした瞬間、柊吾がスライディングで宗宮の体のすぐ左横をくぐり抜ける。
もちろん狙った先は桂木のネックレス。柊吾はそれを拾い上げてすぐに桂木に投げ渡す。
「ありがとう!これで一旦退ける、行こう柊吾!」
しかし柊吾は片膝をついたまま立ち上がらず返事をしない。
「あらぁ?狙いは私じゃあなくてそのネックレスが狙いだったのねぇ。でも惜しかったわね、私の『レッド・サンダンス』は既に彼に触れたわ。」
そう言われ、桂木が反射的に柊吾の方を見る。
「すまん、桂木…。」
未だ片膝をついたままの柊吾の左上半身は既に機械化が始まっていた。
「な、なんだってぇぇぇ!」
「2人で私から逃げるためにそれを拾いに行ったのに…あなたじきに動けなくなるわよ。」
「桂木…形見は手に入っただろ…お前だけでも逃げろ…。そしてあいつらに伝えてくれ…。それまで…持ちこたえるからよ…。」
「で、でも…。」
「いいから逃げろ!お前にはスタンドがないんだ!今この女と戦えるのは俺だけだ!お前には何も出来ない!」
柊吾の言葉で桂木の表情が少し変わった。
『本当にそれでいいのか…?本当に僕には友達を見捨てて逃げることしか出来ないのか?この間だってそうだ、あの場にいたにも関わらず僕には何も出来なかった…スタンドが無いからという事実に甘えて…』
その表情の変化に気付いたのか宗宮が桂木の方に近づく。
『そんなのはもう嫌だ!こんな僕にだって何か出来ることがあるはずだッ!』
「この子さっきよりも表情が男前になったわねぇ。こういう窮地に立たされた子が一番怖いのよね。」
『お父さんお願いだ、僕に力を貸して!』
「だから真っ先に始末させてもらうわ。『レッド・サンダンス』!」
『レッド・サンダンス』の手が桂木に触れる…直前でピタッと止まる。
その手と桂木の間には20個程の小さな正方形が浮かんでおり、それらが『レッド・サンダンス』の手をその場に留めていた。
「な、何よこれ?!まさかこれがこの子のスタンド…?でも何故こんなにも小さな、そして沢山の四角形が浮いているの?!」
突然桂木の周囲に現れたスタンドに宗宮が驚いていると、足元から『カチッカチッカチッ』と規則正しい音が聞こえてきた。
宗宮が足元を見るとそこには半分が置時計に変わっている石があり、その石にもまた20個程の小さな正方形がくっ付いていた。
「まさか、『レッド・サンダンス』が触れた正方形を介して、この石が機械化したっていうの?!」
戸惑う宗宮よりも、負傷した状態で思いもよらぬ状況を目の当たりにした柊吾よりも、その場で一番驚いていたのは桂木自身であった。
『こ、これは…父さんのスタンド能力だ!たしか名前は『Rain that takes away heat』!お母さんに聞いたことがある…たしか能力は…』
「そうだ!僕のスタンド能力の役割はパイプだ。受けた力を別の場所に移すパイプだ。例えどんなに離れていても双方に僕のスタンドが付いていればどんな事象も移すことができる。」
「だ、だからどうしたのよ。あなたが不利な状況なのには変わりないのよ。」
「まだ話は終わってない、そして今僕のスタンドをあんたに付着させた。」
「な、なんですって?!」
そう言って体を見回すと、腕や脚に桂木のスタンドがまとわりついており、その部分からじわじわと機械化が進んでいた。
「あんたの負けだよ、宗宮さん。」
「ま、まだよ私はまだ…、負けてないわ…。『レッド・サンダァァンス』!」
所々が機械化した『レッド・サンダンス』が桂木に向け両腕を振り下ろす。
「はぁ…大人しく帰ってくれるなら何もしたくなかったんだけど…。『Rain that takes away heat』!全てを弾き返せ!」
桂木のスタンドがまたピタリと『レッド・サンダンス』の腕を受け止め、その能力の全てを宗宮に送り返す。
「いやぁぁぁぁぁ!絶対に…絶対に許さないわぁ、許さなぁぁぁぁい!」
壮絶な断末魔と共に、ついに宗宮の全身が機械化した。それと同時に柊吾の機械化が解ける。
「柊吾!大丈夫?!」
よろけた柊吾に桂木が駆け寄る。
「あぁ問題ねぇ…。しかしお前スタンドあったんじゃねぇか、なんで黙ってたんだ?」
桂木は出会った頃『自分にスタンドは無い』と柊吾に説明していた。
「それが、さっきの戦いの中で思い出したのだけれど、このスタンドは僕のお父さんのスタンドなんだ。」
「お前の父さんのスタンド?どういう事だ?」
「僕のお父さんが森林探検家だったっていうのは覚えてる?」
「あぁ覚えてるぞ。」
「そう、それで僕のお父さんは世界各地を回って探検で見つけたお宝とかを持って帰って来ていたんだ。そしてその中の一つがこのネックレスなんだ。」
そう言って首から下げていたネックレスを柊吾に見せる。
「これを僕に渡す時お父さんは『お前がピンチになった時、きっと父さんはお前の傍にいてやれないだろう。だからこれを握って強く念じるんだ。そうしたら父さんの力がお前に届くはずだ。』って。小さい頃はよく分からなかったけれど、今ならよくわかる。」
桂木が首から下げたネックレスを見つめて言う。
「父さんが言いたかったのは僕に父さんの力が『受け継がれる』っていうことだったんだ!」
キラキラと瞳を輝かせながら桂木がそれまで柊吾が見た事のない程に大きな笑顔になった。
「なるほどな…つまりお前の決死の思いが、お前の父さんのスタンドをお前に受け継がせたんだな。よくやったじゃあねぇか桂木!」
「うん!あ、そうだ。」
ふと桂木が我に返る。
「こんな短期間で僕らが襲われたんだ、もしかしたら優大や御堂も危ないかもしれない!」
「確かに、それもそうだな…。よしいっぺん電話してみっか。」
携帯を取りだし柊吾はまず山之瀬に電話をかける。
何度かコール音が鳴り
『はいもしもし。』
と山之瀬の声が電話から聞こえた。
「あぁ、優大、そっち大丈夫か?あぁいや大丈夫ならそれでいいんだが、え?おう、おう、いやなんでもねぇって。とりあえず大丈夫なら切るぞ。じゃあな。」
『ピッ』と音が鳴り、電話が切れた。
「よし、優大は大丈夫そうだ。次は紫音だな…。」
次に御堂に電話をかけ始める。しかし何度コール音が鳴っても紫音が出ることはなかった。
2人の表情が一気に真剣なものになる。
「これは…まずいかもな…。あいつ全く電話に出やがらねえ…。」
「どうする?優大に連絡して3人で手分けして探す?」
「あぁそうだな。」
「じゃあ電話してくる。………もしもし?うん、いや……。」
歩きながら桂木が優大に電話をする。
それを見送った柊吾の表情がより神妙なものになる。
「なにも起きていなければいいんだが…。」
しかし柊吾のその心配とは裏腹に、御堂は飛んでもないやつに捕まってしまっていた…。
今回初登場のスタンド紹介!
Rain that takes away heat
本体
→桂木 蒼太
能力
→群体型のスタンド。ルービックキューブ型のネックレスから展開される方体のビジョンをしている。力を別の場所に飛ばすパイプとしての能力を持つ。
例:対象Aに炎による熱を与えたい場合、内ひとつを炎につけ、もうひとつを対象Aにつけることにより、この2点間で熱を共有出来る。
破壊力→B
スピード→A
射程距離→C
持続力→A
精密動作性→B
成長性→C
スタンド名
→レッド・サンダンス
本体
→宗宮 暁音
スタンド能力
→スタンドが触れた物、生命体を機械に変える。機械化は触れられた部分から徐々に進行していき、最終的には全体が機械となり動くことは出来なくなる。機械に変わった物は変わった機械の性質を持つ。(例えば電動ドリルに変われば電動ドリルとして使える)
・破壊力 →C
・スピード →B
・射程距離 →本体が解除するまで止まらない
・持続力 →A
・精密動作性 →A
・成長性→C