プロローグ
大きな争いも無くなり、完璧とはいかないまでも一定の調和が気付かれていた世界。だが、突如として異世界から現れた侵略者によって、平和だった世界は一変する。世界各地は異なった世界の侵略者達によって支配され、調和は混沌へと変貌する。そこに悪しき野望を阻止するべく侵略者達と世界を同じくする英雄達が集結した。
だがそれも、既に昔の話。歴史の一部となりつつあった。けれど、その苦痛の時代を越えて、新たな文明、新たな時代が産声を上げた・・・。
※ ※ ※ ※
第一話 ようこそ、日向荘へ
『ファーストコンタクト』
うららかな春の陽射し。新たな生活の門出に相応しい陽気だが、行きかう雑踏は太陽からの祝福にさえ足を止める事無く忙しなく交差し続ける。
(聞いていた通り。やはりこの世界には私達の存在が必要な様です)
だけど、全員ではない。すくなくともここに一人。決意と信念を胸に新たな世界への一歩を踏み出す少女がいた。
(・・・ここがこれから私の暮らす場所)
辿り着いた場所は都心から少し外れた郊外にある住宅街。鉄筋コンクリートの建物が軒を貫く中で、木造の門か仁王立ちしていた。修復を重ねられ、所々に痛みが目立つその姿は、それだけ長い時間この場所を守り続けていた証。その門の表札には“日向荘”と記されていた。確かにここで間違いない。
よし!と気合を入れ直して門に手を伸ばすが、その手は空を切る。ここの住民が門を開けたのと被ってしまったせいで、折角の気合も透かされてしまった。だが、そんな事さえも一秒後には吹き飛んでしまう。
開いた門の先には光沢のあるやけに生々しい皮膚、鋭い爪、長い尻尾、流線型の頭部の宇宙からの侵略者の様な異形の生物がジャージ姿で現れたのだから。
※ ※ ※ ※
『異形の好青年』
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
少女は完全に硬直し、向こうは様子を探るようにじっと見つめてくる。そして獣の様な口を開いた。
「ギシァッ。ギシャァァァ」
どんな動物にも当てはまらないその声に、少女はズザザッと5歩分ほど一気に後退る。
その姿に住民?らしき生物はまるで失敬失敬と言わんばかりに胸元まで上げた右腕に視線を落としつつ、そこに巻かれていたリストバンド型の装置をもう片方の手で軽く叩く。
「驚かせてゴメンね。安物の翻訳機だから時々調子が悪くなっちゃって。ここに新しく住む人でいいのかな?」
謎の生物の鳴き声は好青年の口調に代わる。
かつての騒乱によってこの世界は幾つもの異世界と繋がり合った。その内の一つが怪界。そこは他のどの世界とも共通しないフリークと称される異質な進化を遂げた生命体が跋扈している。
彼はその怪界の出身であり、凶悪な生物ではなく知性を持った、少しばかり異形な姿をしているだけの夢への挑戦の為に故郷を旅立った立派な人物である。
だが、少女も人の事は言えない。何故ならこの少女も現代において時代錯誤な祭服を纏っていたのだから・・・。
※ ※ ※ ※
『神官と大家』
「君がイルミナさんだね。話は聞いてるよ」
「はい、今日からお世話になります」
怪界出身である人型フリークの青年、ギーシャ(本名は他の世界の人間には発音不可能な為、こう呼んでもらっているらしい)に自己紹介を交えながら大家の許へ案内してもらっていた。因みにギーシャは日課のランニングに出かけて行った。
そうして出会ったのは大家にしてはかなり若くはあるが極々普通の人間だった。その穏やかそうな雰囲気にイルミナは安堵を覚える。
別にギーシャが苦手と言う訳ではない。話した感じでは良識がありそうで、うまくやって行けそうだと感じていた。ただ、幾つもの世界と繋がる交流の基盤となっているこの枢軸界では既に馴染まんでいるフリークも、他の世界からきたばかりの人達は面食らってしまうのは致し方ない。それはギーシャも承知の上。
「僕は峰岸 拓真。ここの管理をしてるから、困った時はいつでも相談に来てね。て言っても、平日は学校に行ってるから留守にしてるんだけど」
「学生なんですか」
「うん、ここの持ち主は父さんなんだけど、母さん共々旅好きで、殆ど帰ってこないんだ。あ、でも、おじいちゃんの時からずっと手伝ってたし、ちゃんと管理出来てるから心配しなくていいよ」
「お若いのにご立派です」
「それはイルミナさんもじゃないかな。布教活動の為にこっちの世界にやってきてるんだしね」
「・・・布教を始める前に天に召されるかと思いましたけど」
「?」
ギーシャとの初遭遇を思い出すイルミナに対して拓真は笑顔のまま首を傾げる。
※ ※ ※ ※
『異世界荘の新しい住民』
イルミナは魔法の世界、幻界からやってきている。その目的は太陽と月を司る天空神、アルレーネへの信仰を伝え、人々が幸福に生きられるよう導く使命を託され、枢軸界にあるここ、
文化や生活、慣習の違いから基本的には種族や世界に合わせて受け入れてくれる場所が変わってくるのだが、ここ日向荘は全てを平等に受け入れていた。その為、異世界荘などと呼ばれる事も有り、様々な住民が暮らしている。
だが、住民全員と出会うのはまだ少し先になりそうだ。
「他に住んでる人達もいるから紹介しておきたいけど、みんな生活のリズムが違うから直ぐには無理かな。まずは部屋へ案内するよ」
「お願いします」
そうして拓真の案内に従って共有スペースとなっている居間を出て、母屋から続く渡り廊下を歩いていく。その右手には小規模ながら庭園があり、中央には池まで備わっていた。
「あそこで釣り糸を垂らしているのが筒井さんと子筒君」
幅一メートル程度の池で鯉はおろか、他の魚一匹いない池の前でじっとしている姿もさることながら、筒井と子筒はそんな事がどうでもよくなるぐらいの存在感を醸し出していた。
筒の様な円柱状のボディに四本の足。竿を構えているのはボディから伸びる細長いアーム。筒井は和国人(わこくじん)の苗字を名乗っているが、発達した人工知能を持った機械達の生きる機界出身のロボットである。型式番号が本来の名前に該当するのだが、呼びにくいのとこの世界の一員になると言う意味合いを兼ねて筒井と名乗っている。同じく機界出身の子筒は筒と言うよりはブリキの玩具に似ている。大きさは幼稚園児ぐらいだが。
「もう挨拶はしてるかな?」
「はい、ギーシャさんに案内してもらった時に」
「そっか。それなら大丈夫だね」
筒井の後ろを通り過ぎようとした二人に筒井は無反応だが、代わりにと振り向いた筒井が手を上げてくれる。それに会釈しながら住民達の部屋が連なる離れの一室に到着する。
「ここが君の部屋だよ。荷物はもう運び込んでるから」
「有難うございます。改めてこれからよろしくお願いします」
こうしてあらゆる世界の住民達が暮らす、通称“異世界荘”の住民がまた一人、増えるのであった。
※ ※ ※ ※
『六畳一間の祭壇』
備え付けの箪笥と布団が収納されている押し入れなど、部屋の説明を終えて拓真が部屋を後にすると、イルミナは早速荷ほどきを開始する。部屋の脇に積まれていた段ボールは服などの生活用品が入っているのだろうが、年頃の女の子にしては四つだけとかなり少ない。それも神に使えるからだろうか。ただ、その四つの中で一つだけ、イルミナの身長ぐらいありそうなやけに大きな段ボールが一つだけあった。
イルミナは真っ先にその大きな段ボールを開けると、次々に中身を取り出し、部屋の奥にてきぱきと組み上げる。そして最後に六対の翼の生えた女神の像を取り付けると、趣のあるアパートの一室に祭壇が完成する。フローリングに張り替えられてはいるが、木造の家屋に祭壇が設置されるのは中々にシュールな光景である。だが、それもあらゆる異世界の人々を受け入れる異世界荘ならでは。これもまた趣と呼んで差し支えないのかもしれない。
祭壇に火を灯して、イルミナは祈りを捧げると残りの荷物を取り出して箪笥や押し入れに仕舞っていく。
(さて、これで一通りは済みました。・・・残りはこれだけですね)
荷ほどきを終え、不要となった段ボールと祭壇を守る為の緩衝材を捨てる必要があるのだが、どこに出せばいいのかをまだ知らない。
拓真に確認しなければと部屋を出て、渡り廊下を歩いていると、部屋から出てきたイルミナに気付いた子筒がてくてくと近くまでやってくる。イルミナがその姿に気付くと、子筒は何処から取り出したのか、立札を掲げる。そこには“どうかしたの?”と書かれていた。
「ゴミを出したいんですけれど、どこに持っていけばいいのか聞こうと思いまして」
“それなら手伝ってあげるよ”
子筒が次の立札を掲げている所に、筒井もやってくる。子筒と違って立札を出したりもしなければボディランゲージ的な素振りも見せない。じっと佇んでいるだけだが、恐らく子筒と一緒に手伝ってくれるつもりらしい。
「ご迷惑をかける訳には・・・」
“同じ住人なんだから困った時はお互い様”
「そういう事でしたらお願いします」
“いっちょ任せな!”
子筒は筒井の足からアーム、そして頭の上へと軽快に飛び移っていく。ブリキの玩具だとカクつくような動きを想起させるが、自立行動をする子筒は滑らかに動いていた。なかなかに可愛らしい。
※ ※ ※ ※
『機械式ブラックジョーク』
部屋へ戻ったイルミナは子筒に書かれて、全部のゴミを部屋から出していた。
“まずは分別しないとね”
「分別ですか?」
“ゴミを出すのにもルールがあるから”
「そうなんですね。私達の世界だと魔法関係のアイテムや武具とかは処分方法を気を付けなければなりませんけど、一般的なゴミは全部焼いて済ませられるんですけど」
科学技術の発展していない幻想界では大気汚染に繋がるまでの大量のゴミを出される事はなく、大気汚染物質も殆ど含まれてはいない。その為、前時代的な方法でゴミの処理が行われている。但し、魔法関連では物によって大気汚染よりも深刻な問題を発生させてしまう危険性も孕んではいる。
「それでどのように分ければいいんでしょうか?」
“ここにあるのだと段ボールとそれ以外でいいかな”
「分かりました」
“それじゃまずその段ボールに入れられてるのをこっちに移して”
筒井の側面の装甲が開いて、中に手を突っ込んだ子筒がゴミ袋を取り出す。子筒がゴミ袋の口を開いている所にイルミナが緩衝材や、段ボールを塞いでいたテープを流し込むと、子筒は器用にパパっとゴミ袋の口を結ぶ。
“次は段ボールだね。全部纏めて立てて支えておいて”
「はい」
子筒は筒井の中から今度はガムテープを取り出して、段ボールの周りをぐるっと回りつつガムテープを巻き付ける。そして残ったガムテープは筒井の中へと戻す。その様子をじっと見つめるイルミナに子筒が気付く。
“どうかした?”
「いえ、色々と出されて便利なんだなと思いまして」
“日常生活に必要になる物は何でもあるから。掃除用品から通信機器、果ては宇宙侵略者撃退用グッズとか”
「宇宙侵略者撃退!?」
“ははっ、僕達の世界で宇宙に行った人と星に残った人との間で戦争があってね。宇宙に行った人の事を宇宙人扱いしたりするんだよ。ちょっとしたブラックジョークってやつさ”
「そ、そうですか・・・・」
イルミナの脳裏には最初に遭遇したギーシャの姿が浮かんでしまっていた。
(まさかあの人用に・・・。いやいやいや、そんなまさか。話した感じはいい人だったし・・・でも・・・)
イルミナの中に疑念の種がちらちらと芽を出しては引っ込んでいた。
※ ※ ※ ※
『最初の失敗』
“それでここに分別したのを種類ごとに分けておけば、後は拓真君が指定の日に全部出してくれるから“
雨除けの天井と燃えるゴミなど、種類事に分けられるように仕切りのされたゴミ置き場が敷地側の門の近くに用意されていた。他とは違ってコンクリート製で、時代の移り変わりの中で後から作られたのだろう。
だが。それよりもイルミナが気になっていたのはゴミの種類の方だった。
「・・・色々と種類があるんですね」
“面倒だよね。僕達の世界ならゴミを全部仕分けしてくれる機械もいるから出す方は特に気にしなくていいんだけど”
「そうなんですか」
“こっちの世界でも導入しようって意見もあるみたいだけど、なんでもかんでも取り入れだすと歯止めが利かなくなるし、費用や手続きの問題もあるとかって難航してるらしいよ”
「便利なのはいいですが、それだと人は堕落してしまいます。戒める為にも技術よりも信仰の方が先です。なので筒井さんと子筒さんもアルレーネ教に入信しませんか?」
“そう言うのは間に合ってるかな”
イルミナの最初の勧誘は失敗に終わった。
※ ※ ※ ※
『生活感の増す祭壇』
「でも、ゴミの分別って大変そう。私には全然分かりません。この資源ゴミ?って何ですか?」
“資源ゴミって言うのは再利用可能なゴミの事だね”
「これをまた使うんですか?」
“このまま使い回すんじゃないよ。薬品とか、処理を行って素材に変えてまた利用するんだ”
「成程。物を大事にするのは大切な事です。・・・でも、どれがどれになるのか全部覚えるのは大変そうですね」
“その内に慣れるよ。それに全部覚えなくてもいいよ”
子筒の説明に合わせて、筒井の背面の装甲が開いて、その内部にあった線状の隙間から紙が印刷されて出てくる。そこには分別するゴミのリストが簡潔ながらも図解付きのポップな色彩で描かれていた。筒井には質朴な見た目と寡黙な行動では測れないセンスがあるらしい。
“最初はこれで確認しながら分ければいいよ”
「これは助かります。何から何までありがとうございます」
“いやいや、気にしないで”
こうして筒井と子筒の協力もあってゴミ出しを無事に終えたイルミナは部屋に戻ると、筒井と子筒に渡された分別表を部屋に貼る。こうして祭壇の備えられた部屋に更に生活感が追加されるのだった。
※ ※ ※ ※
『歓迎会と大家の強権』
その夜、毎日の夕食も兼ねたイルミナの紹介が、住民を集めた居間で行われる。
「初めましてイルミナと申します。これからよろしくお願いします」
頭を下げたイルミナの前には十人は囲える食卓があり、その周りに住民が揃っていた。
フリークのギーシャ、それと場所を二人分取っている代わりに頭に子筒を乗せているロボットの筒井は勿論の事。他には猫耳で豊満な体つきの女性と、片目を包帯で覆った青年、それと大家の拓真。
その中でイルミナの紹介に猫耳の女性がその耳をピコピコと動かし、イルミナの自己紹介が終わるや否や飛びついた。
「あ~ん、もう、お人形さんみたいで可~愛~い~」
抱きつかれて押し付けられる胸に埋もれて苦しそうにするイルミナを助けるべく、拓真が二人を引っぺがす。
「落ち着いてください。みゃおさん。お酒を禁止しますよ」
「ぶ~ぶ~、こんな可愛い子なんだから仕方ないじゃない。それに男所帯に現れた女の子よ。可愛がるしかないじゃない」
「それは結構ですが、相手の事も考えてくださいね」
不貞腐れるみゃおを見つめたイルミナがその手を握る。
「衝動に振り回されるのは禍を招きます。律する為にもアルレーネ様の教えを・・・」
「ここに住んでる人への布教も禁止だよ」
「そんな~、ぶ~ぶ~」
拓真の大家としての強権にイルミナも不貞腐れる。
※ ※ ※ ※
『猫のおねぇさん』
「ちゃんと自己紹介してください」
「分かったわよぅ。あたしは猫柳 みゃお。気軽にみぉおお姉ちゃんって呼んでね。お姉ちゃんでもいいし、ねぇね、ねぇたま、なら尚の事よしっ!」
イルミナと入れ替わりで自己紹介を始めたみぁおがビシッと親指を立てる。そんなみぁおに入居者順になっている席順でイルミナの隣になっているギーシャが注釈を加える。
「あの人はノリと勢いで適当に生きてるだけの人だから本気にしなくていいよ」
「そうなんですか」
「そこ!間違ってるわよ!私は全力で人生を楽しんでるの!」
“一日中寝てる人が良く言うよ”
「仕方ないでしょ。半分猫の妖怪の血が入ってるんだから」
みゃおは父親が妖界から来た化け猫の一種である火車であり、その血の影響からか一日12時間以上は寝てないと寝不足に陥ってしまう。
「でも、お酒は良い訳にはならないだろ」
寝る事は仕方ないとしても酒瓶を抱えたまま寝ている姿を目撃されており、ギーシャのその指摘は言い逃れ出来ない。なのでみぁおは堂々と胸を張る。
「それは私が好きなだけだから!」
何を言っても無駄だと住民が意見を一致させている所でイルミナには気になる事があった。
「そんなに寝てて生活は大丈夫なんですか?その、お金とか・・・」
堕落しきった生活を思い浮かべるイルミナからすれば、自堕落な生活もそうだが、ここの家賃とかの生活費をどうしているのかも疑問も一緒に浮かんできた。それもイルミナの暮らしは教会からの支援から成り立っており、最低限の生活は保障されているがそれも布教活動と言う前提があるから。ただ、自堕落に生活しているらしきみぁおの生活費の出所があまりにも謎過ぎる。
「それも大丈夫!夜のお仕事してるから!」
イルミナは説教をしたい衝動を必死に抑えた。拓真に禁止さえされていなければ・・・。
※ ※ ※ ※
『日常に紛れる邪眼の転生者』
「それでは次は我だな。万応じしての登場!さぁ、喝采で彩る事を許可しよう!!」
両手を広げて立ち上がる包帯の青年に誰一人拍手は送らない。それに対して「照れ屋さんめ」と髪をかき上げながら、みぁおと入れ替わる。
「我の名は鈴木 太郎。だが、それはこの世界での仮の名。真名を告げる訳にはいかないのでな。偽る無礼を赦して頂きたい。真名を告げれば、我の邪眼が目覚める恐れがあるのでな。正式な契約の許以外で目覚めてしまったら我の制御下から離れてしまう。君も気を付けてくれたまえ。それも全ては我の前世に起因する。かの厄災の魔神、オーバーギルティロードを封じる為、その身を犠牲にした七賢人。その一人の魂を受け継ぎ・・・」
”そう言うのいいから”
仰々しく長ったらしい太郎の自己紹介を筒井がアームを延ばして胴体を掴みあげ、席に無理やり戻す。その際に「しかし、正確な情報を伝えねば」と尚も自分の生い立ちを話し続けようとするが当然無視。
だが、イルミナは目をキラキラ輝かせながら太郎の話に食いついていた。
「そんな宿命があるだなんて・・・。もっと聞かせてください!」
魔法の世界である幻想界出身のイルミナにとってみれば太郎の話は自分の世界の史実と重なる部分もある為か、興味津々なご様子。それに太郎も気を良くして「七賢人とは世界を救うべく立ち上がった者達で・・・」と軽妙に話を再開する。だが、それも拓真によって阻止されてしまう事となる。
「取り敢えず自己紹介はこの辺で。ギーシャさんと筒井さんと子筒君はもういいでしょうし」
“全然OK”
「どうせ聞いてなさそうだしな」
異存はないと三人も了承する。実はもう一人住民がいて、その話をしておきたい所ではあるが太郎の話に食い入るイルミナの姿に今はまぁいいかなと棚上げする。
「それじゃ、夕食にしましょう。イルミナさんの入居祝いにケーキを用意していますから」
拓真の一言に太郎はピクリと反応し、ノリノリだった話を中断する。
「この話はまたいずれ時間のある時にするとしよう。生きる為に糧は欠かせない。肉体的にも精神的にもな。その時間を感謝し、楽しむ事が生きる者としての義務だ」
「成程。確かにその通りです。私達の教義にも似た教えがありますから」
イルミナが感銘を受ける間に台所から料理を運んでくる拓真の姿に対して、太郎は「ケーキ♪ケーキ♪」と両手で軽く机を叩き続けるぐらいワクワクが溢れ出していた。
※ ※ ※ ※
『ほっこり食文化交流』
「イルミナさんに食べられない物が無くて助かったよ。宗教によっては制限があったりもするって聞くし」
食事を用意するのもここでは大家の仕事の一つになっている。今時珍しいが、異世界から来た人によっては食べ物さえも苦労してしまう場合も有り、そのサポートとして請け負っている。
とは言っても、特別な食べ物が必要になるのはロボオイルを必要とする筒井と子筒だけ。但し、機械とはまた別の方向で人からかけ離れているギーシャだと食材は普通でいいのだが、大きく裂けた口から人間向きの料理だと食べづらく、基本的には肉や魚をグリルで焼いた物になっている。
その違いから、ロボオイルを口っぽい所から飲んだ筒井は吸気口からシュコーと空気を取り込み、子筒はちびちびと飲み進める。ギーシャは骨を掴んだままかぶりついた肉を噛みちぎり、咀嚼すると言うちょっとだけ見る人に恐怖を与えかねない食べ方をしていた。
そんな中、イルミナは見慣れない異世界の食事を食い入るように凝視していた。
「和食はちょっと早かったかな」
箸ではなくスプーンとフォークを出していたが、和食も考えた方が良かったかもと申し訳なさそうにする拓真にイルミナも意を決する。
「い、いえ、何事も挑戦です」
フォークで崩した煮魚をスプーンで掬って口の前まで持ってくると、そこ詩だけ躊躇いながらも思い切ってパクっと口に入れる。
「・・・美味しい。凄く美味しいです!甘いんですけど少し辛い感じもあって、それがお魚の味を活かしてて・・・。私達の世界にはない味ですけど、斬新で興味深いです」
「くすっ、気にってもらえてよかった。さぁ、どんどん食べて」
「はいっ」
煮魚以外にも漬物やみそ汁、ご飯も美味しそうに食べるイルミナに拓真以外の住民も微笑みながら各々のペースで食事を食べ進めていった。
※ ※ ※ ※
『ようこそ、日向荘へ』
そして食事の後のお待ちかね。拓真が食べ終えた食器を流しへと運び、代わりにホールのショートケーキを大皿に乗せて運んでくる。
「お待ちかねのケーキです。では、太郎さん、お願いします」
「ふっ、任せたまえ」
太郎が頭上高く翳した指を鳴らすと、ケーキに刺されていた蝋燭に火が灯る。くどい性格をしているが、太郎もまたれっきとした異能界からの来訪者である。
「それではイルミナさん。蝋燭を吹き消してください」
「私が、ですか?」
「はい、主賓にしてもらうのが決まりで、今日はイルミナさんの歓迎会ですから」
「分かりました」
「は~い、それじゃ電気消しちゃうよん♪」
夜目が聞くみぁおが出入口近くのスイッチを押して電気を消すとさっさと席に戻ってくる。そして揺れ動く蝋燭の小さな火が住民全員を照らし出す中、イルミナが大きく息を吸って蝋燭の日を吹き消す。その後、拍手の中、みぁおが電気をつけて席に戻ってくるとイルミナを除く全員が声を揃える。
「ようこそ、日向荘へ!」