シンジは私のもの   作:5の名のつくもの

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新劇場版:序
終わりと始まりは表裏一体


薄れ行く意識

 

ハッキリ見えない目の前の光景

 

動かない体

 

「なんでこうなったか…その答えは簡単だった。それは、あたしが弱すぎたから。全部あいつに押し付けたから、こんな天罰が下されちゃったんだ。はぁ…バッカみたい」

 

消えそうになる思考を受け入れようとする。訪れようとする永遠の眠りを拒絶しない。このまま終わりを迎えることは、すなわち安らぎを享受することを意味する。それは破滅でもあろう。抗って、抗って、抗り切った末がこれだった。満面の笑みで許容できるかと聞かれたら、一切の逡巡をすることなく「否」の一言で片付けることになるだろう。拒絶できるのであれば、力の限り拒絶を尽くすしかない。今は、それが出来ないから受け入れざるを得なかった。

 

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…」

 

やっぱり、受け入れられない。強い拒絶を示す中で、ふと天啓に近しいことを得る。

 

「なんだ、どうってことないじゃない。世界を私好みに作っちゃえばいいんだ。何のための使徒の力、何のための神の力かを理解してなかったわ。この力で、私はもう一度生きる。そして、アイツ…アイツ…アイツ…」

 

意識が急速に戻ってくる。体も全身に力が湧いて来る。何もかもが沸々と、まさに湧き上がってくる。止まること知らぬ激情。その表情も強く、激しいものになる。少女は少年への愛を歪ませてしまっていたのである。

 

「シンジ、待っていてね。今から…私が迎えにいくから」

 

淀んでいた周りは急転直下する。視界が著しく白く染まって、何にも見えなくなる。

 

少女の復讐が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~????????~

 

「久方振りに姿を現した使徒。時間ぴったりでありがたいことよ」

 

「今は戦略自衛隊が税金の無駄遣いをしてくれているから、我々に仕事が回されてこない。だが、そろそろ限界になるだろう。葛城君が彼を迎えに行ってくれているが、迎えは早くして損は無い。先にケージで待っていたらどうだね?」

 

「司令がそう言うなら」

 

怒号が飛び交う広大な空間では、長いスパンを経て現れた人類の敵、使徒を撃破するために軍隊が決死の攻撃を行っている光景を見ている。戦略自衛隊と呼ばれる軍は航空隊やミサイルなど、ありとあらゆる兵器を投入して、文字通りの「総攻撃」をかけている。だが、モニター上の化け物はケロッとしているではないか。それどころか、人類には真似できない超常的な反撃をしてくる。有効打は全く出ず、逆に使徒からの反撃で戦力をいたずらに消耗させるだけ。いい加減、飽き飽きするだろうに。

 

それを受けて、この空間に設けられた上段部に座っていた老年の男性は、隣で立つ少女に動くことを促した。一旦、少女は置いておき、その老人を見てみると濃いめの茶色を基調とした制服を着込んでいる。ただ見れば、別にどこにでもいそうなお爺さんかもしれない。しかし、この人物こそが明主である。今でこそ戦略自衛隊に拠点を間借りされてしまっているが、すぐに彼らがギブアップして自分たちに全面的な指揮権が回って来るはず。

 

その時から、運命が始まるのである。

 

「ほぉ…NN地雷か。無駄なことをする。また地図を書き換えなければいけん」

 

見れば、人類が作った最強の兵器の一つに数えられるNN兵器が炸裂していた。通常兵器と比べ物にならない爆炎と煙が画面を支配し、使徒を確認することができない。暫く待たなければならず、目を細めてジッと待ちながらも、ボソッと意味がないことを指摘していた。まさに、その指摘は綺麗なまでに的中することになる。

 

「馬鹿な…NN地雷だぞ!」

 

「化け物めっ!」

 

下の方から軍人たちの悪態吐きが聞こえてきた。それもそのはず、なぜなら例の化け物、使徒は直立不動の状態でかすり傷すら無かったからだ。戦略自衛隊が最終手段としてNN地雷を投入してまでも撃破を試みたが、現実はいつも非情であって、何てことはない。ノーダメージだった。これを受けついに軍が動いた。よろよろとして苦悶を言葉を発せずとも理解できるよう、気遣いができる軍の高官の1人は、ゆっくりと老人の方を向いた。そして、歯切れの悪い調子で言った。

 

「現時点を以て、対使徒戦の全ての指揮権をNERVへ移譲する。戦略自衛隊は民間人保護を除いて、一切手を引く。君たちの好きにしろ。お手並み拝見だ」

 

「ご苦労様でした。これからはNERVが使徒戦の指揮を執る。エヴァンゲリオン初号機と弐号機の発進準備だ。パイロットが到着してからすぐに発進させられるようにしておけ」

 

老人は高官を皮肉を込めて労わって、同時に部下たちへ自分たちの戦争を始めるように指示した。使徒が出現した時点から第一種戦闘配置につくよう命令を下していたため、既に関係職員全員が持ち場についている。よって、後は作業に移るだけである。緊急事態のおかげで誰も異論を出さないで、黙って粛々と作業を開始した。それをサブモニターで確認してから、他者から見てギリギリ分からないぐらいの小さな笑みを浮かべる。

 

「始めよう。アスカ君…私たちの契約遂行の時だ」

 

この時からおよそ5分後、また別の区画では1人の少年が連れて来られていた。不安そうに周囲を見回す少年は、とんでもない何かに巻き込まれそうな雰囲気をびんびんに感じている。ここまでのお迎えと道案内をしてくれた女性は、若干の知り合いであって頼れるかもしれないが、それ以上に周りの物々しさが上回っていた。

 

よくわからない所に到着すると、案内の女性は急に畏まり始める。

 

「式波副司令!」

 

「第三の少年を連れて来てくれたこと、ご苦労ね。ミサト」

 

「…(誰だろう?)」

 

「んで、その子が初号機のパイロットなわけね。この場は私が取り持つから、ミサトは指揮所に戻って冬月先生の補助をお願い」

 

「は、はい」

 

係の人が交代する形で少年は、また違う人に世話されることになった。先までは成人の女性だったが、なんと今は自分と同じぐらいの少女だった。しかそ、その少女は立派な軍服を着ていて胸に勲章らしきピカピカを備えている。素人でもこの人は偉いんだと分かる。

 

「あなたが碇シンジ君…君呼びは良くないか。えっと、まずはこんな所に来てくれてありがとう。私が(一生どころか何もかもを全部)あなたのサポート(お世話)をするから安心して。あ、自己紹介が遅れたか。私は『惣流・アスカ』、ここのNERVで副司令をしつつパイロットもしてる」

 

「う、うん」

 

相手が偉いかもしれないが、今現在の状況を完全に飲み込め切れていないことに加えて、目の前の(妙にニコニコしている)人が少女であるため、思わず敬語を忘れてしまった。幸いにも相手は全然気にしていないようであり、むしろ喜んでいるように見える。

 

「ミサトの方から色々と怖いことを言われたかもしれない。でも、私も一緒に行くから。シンジが怪我しないように、苦しまないように最大限努力する。だから、私の言うことを聞いてちょうだい。変に行動すると死に直結するのよ」

 

事前の説明で、彼は自分が化け物と戦うこと。『エヴァンゲリオン』に乗り込んで戦うことが伝えられていた。とても危険であることは、もう説明を受けずともわかる。本人としては、もう怖くて怖くて堪らなかった。それでも、乗る決意を固めている。実物を見てさえいないのに。実は彼には、彼だけの悲しい理由があったのだ。その悲しい理由があって、彼は他人に必要とされ、自分の居場所を確保できるなら何でもする気だ。たとえ、それが地獄の一丁目への切符を握らされることになってでも。

 

「わ、わかった。の、乗るよ」

 

「そう。判断が早くて助かるわ。ちょうどもう1人のパイロットが大けがしちゃって出れないから、シンジが出てくれると本当に助かるの。早速だけど、準備に入るからついて来なさい」

 

いつの間にか少年は名前呼びされているが、これも特段気にしない。そんなことを気にする余裕が無い。一抹の不安を覚えながらも、頼もしさの権化と表現できる少女の背中を追って歩く。彼女についていけば、まず死ぬことはないであろう。

 

少女の方は、狂喜に震えていた。

 

(やっと、やっと、やっとこの時が来たのよ。私はシンジと永遠を生きる!)

 

それは狂気かもしれない。

 

続く




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