前回の使徒出現から2週間と少しが経過したころ、使徒は再び姿を現した。それぞれを使徒と一括りにしても、それぞれは別個の個体であるため「再び」と表現することは誤用かもしれない。しかし、今そんなことを気にしている時間的余裕は無い。
「既存兵器ではATフィールドを破れない。分かっているが、こうも見事にやられると嫌になりそうだよ」
「しかし、時間稼ぎにはなりました。既にエヴァ初号機と弐号機が配置についています」
「初号機が単独で使徒の撃破に成功した事実がある以上、2機体制なら確実に撃破できる。ただ、私としては全機を運用するフル投入がしたかったよ。残りの零号機は両機に比べて信頼性に欠ける。今回は我慢してもらって、零号機は待機してもらうしかない」
使徒出現に応じて、使徒関連の全権を持つNERVは直ちに緊急避難命令を発出し、市民の強制避難を実行した。そして、同時に無用な住居やビルを収納して、山々に秘匿された無人砲台から速射砲から誘導弾まで全ての兵器を活用した攻撃を行っていた。しかし、案の定で使徒は絶対無敵のATフィールドを展開し、これを破ることは無理。エヴァでなければ突破できない壁なのだから、まぁ当然と言えば当然。それでも、使徒は途切れることの無い猛攻撃の中を悠々自適に進むことは至難の業である。どうしても減速した、徐行運転をせざるを得ない。したがって、無人砲台の攻撃は遅延戦術として効果を発揮していた。
そして、その稼いだ時間でエヴァ初号機と弐号機を出撃させ、迎撃に有利な位置につかせることに成功している。前回は諸事情により「とりあえず初号機をぶっこんでみる」的な恐ろしい博打を打ち、ギリギリの勝利を納めた苦い思い出があった。その反省から、使徒が作戦範囲内に入る前にエヴァを出撃させる、余裕を持った行動をとるようにしていた。
「基本的に対使徒戦における各機の行動については、パイロットの判断を優先します。私たちから指示やアドバイスを飛ばすことがありますが、各員の判断で行動してもらって構いません。その代わり、必ず使徒を殲滅してください」
実質的な作戦指揮を執る葛城ミサトが最後の指示を行って、後は現地での戦いとなる。いくら本部と言っても、所詮は地下に埋め込まれただだっ広い空間なのだ。実際に戦うのは地上で孤独な子供たち。彼らの意思を優先すべきなのは言うまでもない。
「頼んだよ…2人とも」
「アスカ…こっちで気を引くから後はお願いね」
(わかってる。あたしに念を押すのはいいから、シンジは自分の心配をしないさよ)
配置についているエヴァ両機は、敢えて使徒を入り込ませての挟み撃ちをしようとしている。使徒の推定侵攻ルート上にピッタリ重なるよう初号機を置き、弐号機はルートから外れている側面部に置かれていた。使徒をキルゾーンに迎えた瞬間、側面から弐号機が使徒の背後を塞ぐ。後は簡単で、使徒を煮るなり焼くなりと調理するだけ。
ちょっと待って欲しい。「いやいや、そう簡単に上手く行くのか」と疑問が噴出するのではないか。まったくその通りである。だからこそ、せめてものの配慮で初号機には強力なガトリング砲を携行させた。これは実弾の兵器で、弾頭に劣化ウラン弾を使用し、使徒と言えども直撃を貰えばただでは済まない。弐号機の方は、近接戦を想定したNERV特製の大型プログレッシブナイフを持たせた。
(来るわよ…準備)
「うん…」
全天周囲を確認できる光景の中で使徒の現在位置が逐一更新される。その動きを見てタイミングを図る。一番危険な仕事を請け負うシンジは緊張を押し殺し、今か今かと時を待っている。極度の緊張をしていると、最早逆に時間の流れが早く感じてしまう。そのせいか、覚悟を決めてから割とすぐに機会が訪れた。
(今!)
彼と同じく使徒の動きを見ていたアスカが一言で告げる。コンマのゼロ秒遅れることなく、初号機は使徒の目の前に躍り出た。使徒は停止して防御から初号機への対応に移ろうとしたが、シンジの方が早い。訓練で幾度となく繰り返してきた動きは洗練されていて、使徒に一切の隙を与えない。ガトリング砲から呆れを超してしまう程の射撃量を誇る攻撃が襲いかかる。速射砲と比べ、一発当たりの威力は劣ってしまうが、それを補って余るのが射撃量だ。数を稼ぐ攻撃故に、使徒の行動を阻害する副次的な効果も期待できた。たとえ有効打を与えられなくても、弐号機が付け入る大きな隙を作ることが可能と考えられる。
だが、使徒だって進化を遂げていた。
「っ!?」
(シンジっ!)
その怪物じみた射撃量は圧倒的な威力を誇る一方で、着弾時に生じる煙やらで視界不良を引き起こす弱点が存在した。戦闘ヘリに搭載される物ならまだマシかもしれないが、これはガチガチの対使徒用である、よって、視界不良も半端ではなくなる。そうなると、使徒からも見えないはずだが、使徒は甘ったるくない。見えないはずなのに、初号機を確実に捉えて攻撃して来る。カウンターをしてくるとは予想していなかったため、シンジは反応が一瞬だが遅れてしまった。回避機動に転じるも、放たれた光の鞭に胸部を貫かれる。その光景を見たアスカは、彼の名を呼ぶ悲痛な叫びを挙げる。しかし、彼女は一から鍛えぬかれた精鋭。瞬時に気持ちを切り替える。愛する少年が使徒と呼ばれる、邪悪極まれる存在に傷つけられたこと。それがどれだけ彼女の怒りを生み出すものであったか。わざわざ説明する必要性は皆無であろう。
(よくも…よくもシンジをぉぉぉぉぉぉ!!)
怒髪冠を衝くとはこのことを言うのだろう。怒りに支配されたアスカは、彼女が元々有する才能の上に築かれた叩き上げの卓越した操縦技術を見せつける。初号機に追撃しようと試みた使徒は、新たな脅威を察知し反転する。そして、弐号機に対して空いていた光の鞭を振るうも綺麗に空気を切る。弐号機がいた地点のビルは真っ二つになっている事実から、使徒の鞭をモロに喰らえば、一発でアウトなことが窺えた。
(邪魔ぁ!このATフィールドってやつぅ!)
攻撃をしくじったことを見越して、既に策は打ってある。仮に攻撃を避けられたとしても、自分がやられなければどうとでもなる。被撃破さえなければ、勝機は幾らでも生むことができるのだ。よって、使徒は安心と信頼のATフィールドを以てして弐号機を弾いた。アスカは怒りをパワーに転用してATフィールドを何とか突破しようとするが、どうしても無理だ。前例(前世)として、初号機が第四の使徒のATフィールドを中和した異常事態があったが、それは初号機が暴走状態で行ったことであり、詳細は未だに不明である。
ガンガンとナイフを刺して破る努力を続ける。しかし、どうしても破れない。なんて硬さなんだと悪態を吐きたくなる。このままでは埒が明かないし、消耗戦に引き込まれて絶対的不利に引きずり込まれる。それは最悪の事態に尽きる。そこで、一か八かの勝負に打って出る者がいた。
(シンジっ!その状態じゃ)
「いいんだ…使徒を倒せるならっ」
胸部を貫かれている状態を維持したまま、初号機は挺身に賭ける。使徒の攻撃手段を封じつつ、使徒に纏わりついた。ガトリング砲は邪魔でしかないから早々に放棄して、何も持たない己の肉体を武器にしている。背後から奇襲を受けた使徒は初号機に確保され、ジタバタとジタバタとして抵抗を試みるしかない。紆余曲折あれど、これは初号機と弐号機による使徒の挟み撃ちが成功したと言えよう。ただし、シンジは重症に近いダメージを負っている。口から血を出して、胸に走る激痛を耐えて、渾身の力で使徒を封じ込める。
彼の挺身と努力を無碍にするな。
(おんどりゃぁぁぁぁぁ!!)
思わず初号機に意識を向けてしまった使徒はATフィールドを消失させ、弐号機へ突破口を自ら作り出すことになった。そんなことをしてしまっては、自分でチェックメイトを王手を打たせることと同義なり。アスカの怒りがたっぷりと充填されたナイフが使徒の赤い球体に突き刺さる。妥協を知らない彼女は、ただでさえ大型のナイフを何度も何度も突き刺しては切り裂くを行う。そんなことをされては、とてもとても耐えられるはずがなかった。
使徒は限界を迎えて盛大に自爆する。その爆心地には、以前見た光の十字架が形成される。かくして、初号機に大きなダメージとパイロットに負傷させてしまったが、何とかNERVは第五の使徒撃破に成功したのであった。その時より間髪を入れず、地上へ医療班の救急部隊と回収班が送られて、初号機パイロットを本部の病院へ連れて行く。その後に回収されたアスカだが、着替えることも忘れて病院に直行したらしい。
彼女の彼を想う気持ちには敬服の念を示すべきだ。
続く