「使徒、相模原方面から進行中!」
「第十九砲台による攻撃が行われていますが、ご覧の有様です」
NERV本部の指揮所のメインモニターにはみんな大嫌いの使徒がズンズン進んでくる様子が映されていた。そして、使徒へ向けられる豪勢な大量の火線も鮮明に映されている。この部分だけを切り取れば、アニメ映画に見えるだろう。だが、残念なことにこれは現実である。使徒が全ての攻撃を無効化していることも受け入れたくない現実だった。
そんな使徒は知恵と工夫を凝らしてきたようだ。
「己の外殻を変形させ、それぞれに特化させた姿になることで防御力と攻撃力を両立する。ついでに見た目の良さもまでとは…まったく恐れ入る」
「大型ミサイルを使徒の四方を囲むように発射させましたが、それはどう対処するのでしょうか」
「さぁ。見ているしかない」
使徒は極めて珍しい正八面体の姿をしていた。しかも表面は太陽の光を反射させる材質で、姿を見るだけなら美しいガラス細工に見えてしまう。しかし、それは見せかけに過ぎない。加えられる攻撃を受け止めるために自由自在に体を変形させている。超強力なATフィールドを展開したり、飛んでくるミサイルの群れをエネルギー砲を撃ったりして、人類に絶対的な防御を見せつけた。既にこの時点で、今までの使徒の中でもぶっ飛んだ防御力を有していることがわかる。同時に、MAGIの分析によって、あの使徒は無尽蔵にエネルギーを放出することが可能だとも分かった。
エヴァを出撃させる前から、ある程度の情報を得られたのは大戦果だと言えよう。
使徒出現に合わせて直ぐさまエヴァ発進は過去の大失敗として捨て去られた。何のための第三新東京市の無人砲台だろうか。これを使わずしてどうする。NERVは建前は水際防御と称し、無人砲台による先制攻撃(迎撃)を採用していた。もちろん、既存兵器が有効打を与えることは不可能だ。それでは意味が無いと思われるかもしれないが、目的は撃破ではない。本当の目的は使徒の行動パターンを引きずりだして、相手の能力を知ることだった。無人砲台は端から捨て駒として運用しているので、破壊されても痛くない。いや、やはり少し痛いかもしれない。
「大型ミサイルまで迎撃するなんて…」
山にある砲台から発射されたNNミサイルは全て事前に迎撃された。また別の形に変わり、中心部のコアから全周囲にエネルギー砲を撃ち、これを事前に無効化せしめたではないか。そして、また体を変形させたかと思えば、発射元である山を向く。まるで、己の体を大砲のようにして。その直後、使徒内部に表現のしようがない強さの超高エネルギー反応を検知し、使徒の怒りの咆哮が放たれる。アウトレンジにはアウトレンジで対抗したようだった。山は端から中間あたりまでが吹き飛ばされる。これによって、山に埋められていた砲台は完全に溶解した。
指揮所の面々は沈黙するしかない。
「攻撃(防御)パターンを見るに近接戦が致命的な弱点のようだが、それを補うのがあの圧倒的な火力か。それに、進化した探知能力。安易にエヴァは出せん。さて、どうするか…」
今までの使徒は人型や生物らしき姿をしており、ある程度の近接戦闘に対応してきたが、今回は正八面体をしている。おそらくだが、あれでは対応できないと思われる。それは本人も重々承知していて、「近づかれるのが致命的なら圧倒的な火力で近づかせなければいい」と強引に解決してしまっていた。エヴァは主として近接戦闘を採用していたため、このように対策されては極めて難しくて危険だ。
いやいや、そう判断するのは些か尚早だろう。
エヴァは汎用ヒト型決戦兵器なのだ。
何のための「汎用」か。
とある人物が声を挙げた。
「冬月司令。私に作戦立案を一任してもらえますでしょうか」
「何か策があるのかね?」
「はい。司令には面倒をかけてしまいますが」
上段部に座っている老人に対して声を挙げたのは、葛城ミサトだった。彼女には実質的な指揮権を与えられているとは言え、何から何まで独断で動けるわけではない。トップが上にいる現状では許可を得ることは必須だ。
「いいだろう。今回は非常時として、君をリーダーに据えた特設作戦班を設置する。各員と協力し必殺の作戦立案をするように」
「ありがとうございます」
かくして、葛城ミサトを首班に置いた、対使徒決戦のチームが結成されることになった。このチームはそれぞれの部や班から精鋭が集められた大所帯である。それをミサトがまとめ上げ、あの使徒を撃滅するための作戦を立案する。そして、作戦を実行に移して、使徒を叩きのめす。
さぁ、忙しい日が始まる。
学校を特別の理由で休んだ3人は小さな会議室に呼ばれ、実際に立てられた作戦を説明されていた。この場において作戦を説明するべきは葛城ミサト本人だったが、彼女は現地で戦闘以前の指揮を執らなければならない。まさに、多忙の極みにある。そこで、代理として司令が出張ってきた。
「使徒から遠く離れた山に狙撃陣地を建設して、そこから超アウトレンジの一撃を叩き込むってことでいいのね」
「その認識で構わんよ。使用するのは、嘗て戦略自衛隊が構想を練り、試作までこぎ着けるも有効性に疑問が噴出してしまい、今まで破棄されていたヤシマ計画の申し子。ポジトロンライフルだ。これは専用の狙撃装備をエヴァに装着した上で使用するが、拡張性に乏しい零号機は最初から弾かれた。残った2機だが、特に汎用性に秀でた初号機が選ばれたよ。シンジ君…君が撃つんだ」
「はい。わかりました」
冬月の言う通りだった。拡張性に欠けてる零号機に専用狙撃装備を付けるのは不可能とまではいかないが、そこそこ難しい。時間が足りない今では現実的と言えなかった。残った初号機と弐号機だが、ここでも拡張性で弐号機が脱落する。弐号機は比較的新しい機体であり、所々に新機軸を詰め込んでいることが逆に働いてしまったのだ。また、パイロットの性質から格闘戦向けのチューンアップを施していたため、今回の作戦にはあまり向いていないと判断される。結果的に、バランスよく纏まった、古き良き初号機が射手となった。
「君がやることはたった一つ。落ち着いて引き金を引くだけ。面倒な射撃演算はMAGIの子機が勝手にやってくれる。絶好のタイミングを逃さないように注意するだけとも言える」
パイロットに射撃演算までをやらせるのは酷すぎる。そのため、現場近郊に配置された作戦指揮車のコンピューターが本部と連携して、必要な計算の全部を行ってくれる。それから出されたカウントダウンを聞き、ゼロの瞬間に引き金を引くだけのお仕事。訓練も何も必要ない。精々、事前にもっと詳細な説明を受けるだけだろう。
「水を差すようですが。全て上手く行くんですか?」
「確かに、話が良すぎるな…」
レイが差し込むように心配を述べた。彼女の心配は尤もなことである。ポジトロンライフルなんて使ったことも聞いたこともない。しかも、超長距離狙撃なんて、初めてが恐ろしく多すぎる。また、戦場には常にイレギュラー発生の可能性が存在している。使徒やこちらにイレギュラーが無くても、第三者的な環境がイレギュラーを起こすかもしれない。全てが上手く行くことが前提となるこの作戦は、彼女にとって危なっかしく思えてしまった。
「うむ。それは私も危惧している。そこで、私の方から無理やり捻じ込ませてもらった。それはだね、アスカ君に頼みたいことがある」
「何?」
「つい最近実用化に成功した、エヴァンゲリオン用狙撃装備を使ってくれ。これにポジトロンライフル程の面倒な装備は不要だ。弐号機で問題なく運用できるから、安心してくれ。もし、第一射に失敗したとしたら。間違いなく、使徒は狙撃地点を探知するはずだ。そして、あの砲撃を放つ。その反撃は強力だが、攻撃に全てを割く代償に心臓部を丸見えにしている。また、強力過ぎる故に融通が効かないと見えた。シンジ君とレイ君が反撃を耐えている間、使徒は丸裸同然」
「そこを私がカウンターの狙撃をして、使徒を撃破するわけね」
「その通り」
冬月が捻じ込ませてもらったのは、使徒に隙を与えない二段構えであった。第一の構えは言うまでもなく陽電子砲の攻撃で、第二の構えは伏兵のアスカの狙撃だ。一の矢を放って満足しない。二の矢を放ってこそ、勝利を掴むことが出来る。
冬月は己の老獪さを遺憾なく発揮していた。
「どうも年を重ねると慎重になってしまってね。このぐらいしないと、満足できんのだよ」
笑って言う冬月は、3人にとって頼りになる大人でしかない。
さて、同時刻。
地上は盛大な工事が行われている。巨大なトラックや大型重機が駆け回って、物資を運んだり建設作業をしたりと音が途切れることは無いだろう。現場の周囲一体は隔離され、民間人は誰一人入れないようになっている。当該地区のインフラは全部NERVに接収され、関係者だけが使えるように全部がシャットアウトされている。文句の声が至る所から聞こえてきそうだが、市民は強制避難をさせていた。よって、声は聞こえてこない。
大きな音だけが支配する空間。そこをミサトとリツコの親友ペアが歩いていた。
「よくもまぁ、あんな代物を戦略自衛隊から接収して来たわね」
「接収って、悪い言葉を使わないでよ。ちゃんと話し合って、お互いに合意して頂戴したの。向こうは喜んでいたわよ」
「あなたのことだから、その喜びはぬか喜びに過ぎないことを教えていないでしょ。度重なる戦略自衛隊の妨害や不法活動は筒抜けだから、後々で手痛い仕打ちがされるというのに」
「ま、一回ぐらいは夢を見させてあげたいじゃん」
歩きながら話している2人は、急ピッチで建設が進む陣地と敷設がされる極太ケーブルを眺める。これを壮観な工事風景と美化できるが、やっていることの実際は人類存亡を賭けた一大プロジェクトでしかない。誰もが休み返上の大忙しで作業に当たっている。なぜなら、皆が一様に生きたいから。ここで人類が使徒に屈するわけにはいかないからだ。
「それより、あのレールガンは使えそうなの?元々は無人砲台用に開発していた奴。あれをエヴァに転用するため、随分とスケールダウンしたと」
「確かに、エヴァで使用するために小型化したわよ。小型化に伴い出力も低下したから威力も弱い。だけど、十分な射程距離と威力を持っている。冬月司令の話では、今回は動かないで使用するから多少出力を上げることが出来るし、弾頭も新型にしてある。あなたの心配は払拭できると自負できそうよ」
ミサトはミサトで作戦に必要となる武器を調達して、リツコはリツコで急遽頼まれた物を倉庫から引っ張り出していた。奇しくも両装備は埃を被っていた、陽の目を浴びることがなかった者同士である。
「そう、リツコのことだから、確実に仕上げてくれる。いつも頼ってごめんなさい」
「何を今さら言うの。私とあなたは長い付き合い。もう、慣れっこよ。私に謝る余裕があるなら、彼と彼女達に運命を託してしまうことを考えなさい。あなたがするべきことをね」
「そうね…後で最終説明がてら、皆に伝えなきゃね」
現場を歩く2人は仲が良いことこの上なかった。
更衣室で1人プラグスーツに着替える少年。
「一発で決めればいいんだ」
着替えと同時並行にて脳内では最終説明を反芻している。彼が行うことはエヴァ初号機に乗り込み、専用の装備を用いて狙撃を行うこと。これだけだ。面倒ごとは全部機械がやってくれるから、本当に引き金を引くだけでよい。だからと言って、とても簡単な仕事だと楽観視することはご法度である。仮に外した際には、使徒から怒りの咆哮を一身に受ける。あの一撃は山を半分ほど消し飛ばす威力があることを自分も目の当たりにしたから、もしものことを考えると怖いと思うしかないだろうに。
その「もしも」を考えないよう、イメージトレーニングを繰り返す。ボタンを押して、プラグスーツをピッチリと着用したら、残り少ない待機時間を潰しに外へ出た。
外では同じ陣地に配置された零号機と初号機が置かれていて、その真横には乗り込むための土台が建っている。土台を上がった先で外の景色でも眺めるが、零号機用の土台には綾波・レイが座っていた。シンジとレイは全く申し合わせをしておらず、偶然にも同じ目的でここに昇ってきたようだった。
「碇君」
「いつも準備が早いね。月を見ていたの?」
「そう」
レイは体育座りをしながら星空に囲まれる月を見ていたらしい。今日の月は一切文句のつけようがない。空に雲の類はなく、空気も澄み切っていて、月夜には最高の環境が整っている。せめてもの贅沢を言わせてもらうならば、採掘工事に勤しんでいる使徒がいなければよかった。今からその使徒を除去する作業を行うので、なんとか勘弁してもらおう。
「アスカは大丈夫かな。もし、使徒が僕達じゃなくて、アスカの方に意識を向けてしまったら」
「そうならないように。私たちが一回で仕留める」
「確かにその通り。うん、そうだね。分かってはいるけど、やっぱり怖いや。使徒とは2回戦っていて、今日は3人で協力して戦うのに。僕はまだダメだなぁ」
初めて使徒と戦った時と比べれば、今は最高の環境で戦える。NERVの全面バックアップがあって、且つ3機のエヴァによる総力戦である。彼には心強い味方が沢山いるのだ。何も不安に思うことはないと見えるが、実際に彼と同じ立場になれば変わってくる。今現在において、外野の見方と本人の見方は全く異なるため、常時重要とされる第三者的な視点はポンコツと化してしまう。
「怖くない」
「え?」
「碇君が怖がることはない。だって、あなたは私が守るから」
そう、この作戦内で陽電子砲の射手を初号機が務めることになっているが、武器特性上から全くの無防備になってしまう。エヴァ自体の装甲を信じるとしても、あの使徒の火力を見せられては、到底信じることはできないだろう。まさかだが、防御ゼロで挑むわけがない。初号機が碌な防御態勢を取れない弱点は、他のエヴァで塞いだ。具体的には、零号機が攻撃を捨てた盾役を務めることになっている。零号機は急ごしらえだが、特殊装甲版を何重にも重ねて、且つ耐超高熱材質を表面にした大きな盾を持たされていた。計算の理論上、この盾は使徒の砲撃を数十秒間は耐えきることが可能であり、盾で耐える間に二の矢を放つ。
この意味でレイはシンジを守ると告げたのだ。
「あ、綾波…」
月に照らされる彼女は、この夜で最も美しかった。
作戦開始が迫る。
3機のエヴァが所定の配置についた。堀り堀りに忙しい使徒から遠く離れた山に建設された特製の狙撃陣地には、初号機がゴツゴツした機械を後ろに控えさせ、超長大なポジトロンライフルを伏せて構えている。外付けの専用装備を着用し、エネルギー充填の時間を待つ。その近くの山肌に零号機が潜んでおり、狙撃の邪魔にならぬよう配慮している。
視点を移し、また別の街中では、弐号機が偽装用のビル群に隠れていた。息を潜める弐号機は、第一撃が失敗した場合に使用するレールガンを装備している。
今回、ポジトロンライフルを運用するにあたり、関東中で計画停電が実施された。ありとあらゆる発電所で電力が作られ、変電所や極太ケーブルを通って供給されていた。既に初期段階の充電作業が実行され、現場指揮車では画面に表示されるパーセンテージがゆっくりと上昇している。別の画面ではレールガンの状況が確認できる。レールガンは比較的威力が数段劣るものの、必要な電力も抑えられるため、本部の電源供給で賄える。また、その威力の問題も気にしないで構わない。使徒の心臓を破壊するだけなら、レールガンで十分である。
「データを初号機に送ります」
「一部の送電ケーブルに限界を超えた負荷がかかっています」
「ケーブルの1本や2本、100本が焼けても気にしないわ。全部織り込み済みで準備して来たんだから」
史上初めてと言える、莫大な電力を一点に送り込む壮大なプロジェクトは、本当に僅かな期間で実行に移されていた。何とか仕上げることが出来ていたが、現場では随分な無茶をしている。電力供給を担う極太ケーブルの一部は限界以上の送電による高熱で悲鳴を上げている。このままでは盛大に焼け焦げる。もっと時間があれば、超耐性のあるケーブルを用意できただろうが、いかんせん時間が足りなさすぎる。この問題については、強引にもケーブルを必要以上に余裕たっぷりとすることで解決を図った。一部が焼け飛んでも、他の部分でカバーする。つまり、20が必要とされる事に対して、100を用意したと言うことだ。
「エネルギー充填…30%を突破」
規定のラインまで進行したことを確認し、供給はスピードアップする。とにかく時間が時間がであるので、無茶無茶をしてでも、早く発射準備を整えたい。絶好のチャンスを「エネルギーが足りないでのダメです」で無駄にすることは許されない。それこそケーブルを犠牲にしてでも早さを求める。
「50%…60%…70%。最終段階に入ります!」
ここで懸念が現実となった。道路や山に敷かれていたケーブルの内、複数の区画が丸ごと焼け切れた。指揮車では監視していた現地からの報告で知った。
「構うな!このまま続行!」
全ての指揮権を一身に背負う葛城ミサトが鶴の一声を打つ。振り返るな。自分たちが見るべきは3人の子供たち。車内は報告だけが響いている。
「エネルギー充填、90%を突破!」
「初号機、セーフティロックを解除及び強制発射装置起動!」
「頼んだわよ。シンジ君」
肝心の初号機の中にいるシンジは襲って来る不安や心配、体を突き抜ける心臓の鼓動に耐えていた。いや、耐えていない。それらを思考から切り離して、狙撃に全ての意識を集中させている。語られるミサトからの指示を受けて、それを実行するだけ。彼が見ている先には無人砲台からの攻撃を軽くいなす使徒がおり、その使徒の中心部のコアが丸見えちゃん。あそこを最高のタイミングで撃ち抜く。そのタイミングは機械が示してくれる。間髪を入れず引き金を引くのみ。
「フゥ…フゥ…フゥ」
早い心拍は呼吸を激しくする。彼が空気を吐く頻度は高く、極度の緊張状態にあることが容易にわかる。
(カウント…)
「っ!」
口を閉じて激しい呼吸を抑え込む。歯を食いしばって集中する。表示されている2つの図形がピタリと重なり合った時、彼は人類の運命を決めることになる。否が応にでも聞こえてくる。聞かされる数字の下降。
(6…5…4…3…2…1)
ピーッ!
耳をつんざく電子音が鳴ると同時に2つの図形が重なり合って、一つの図形になった。
思い切りトリガーを引いた。
初号機後部にあった柱から光線が銃身に伝い、銃口から人類の雷が放たれる。その雷は真っすぐに使徒へと向かって行き、まさにコアを直撃するか。
と思われた。
されど、勝利の女神は簡単には微笑んでくれない。
「磁気が狂った!?イレギュラーですっ!」
「こんな時に!」
地球が持っている磁気が突発的に狂ったことで、ほんの少しだけではあるが雷が影響を受ける。その結果はどうなるか。コアを綺麗に貫くはずの光は距離もあってか、軌道がずれてしまう。
イギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!
使徒は痛みを表現するべく、全身をウニのように棘らせた。あれに刺さったら痛そうだ。一通り痛みを表現し終えたら、滾る怒りの矛先を向けるべき場所を見つけた。初号機が伏せている山を察知し、体を変形させる。
「使徒内部にて爆発的なエネルギー加速を探知!」
「まずいっ!レイ!」
非力な人類とは違って、使徒は超常的な力を誇る。僅か数秒で陽電子砲と同等かそれ以上のエネルギーを生産して、それを一気に収束させて撃ち出すことが可能なのだ。初邂逅の時に見せつけた怒りの咆哮が初号機に向けられている。そして、今、放出された。
コンマ秒の猶予をレイは逃さない。偽装を解き、初号機の前に躍り出て仁王立ちする。
「碇君は私が!」
両足で土を踏みしめ、受けの体勢を採る。あとは、もう根性だ。ピンポイントに襲来した灼熱の暴風雨を大盾で受け止める。感じたことが無い衝撃が伝わり、一瞬でも気を抜けば飛ばされてしまう。片時も意識を緩ませず、総力を以て耐える。
(ぐっ…ううっ)
通信越しにレイのうめき声が聞こえる。盾から漏れる砲撃の欠片が全身に当たり、地味ながら強烈な痛みを伴わせる。熱傷には至らない軽度な火傷でも痛いものは痛い。
「再充電は間に合わない。アスカっ!」
(ったく!使徒ってのはぁ!)
何のための弐号機だ。
そう、この時のための弐号機だ。
「こっちの電力は余りに余ってる!悪いけど、あんた(使徒)の目論見通りにはいかないのよ!」
初号機の狙撃がされた時点で弐号機はレールガンを構えていた。充電はとっくに済み、装填されている新型砲弾をぶっ放す準備は整っている。使徒が完全に初号機に意識を向け、攻撃に全てを振り切った大きな隙を見せる時を待っていたのだ。冬月の分析では、使徒が超強力な砲撃を行う時は射撃に全力を尽くし、防御や索敵を捨てている。よって、レイやシンジには辛い思いをさせてしまうことになるが、今が最高の攻撃タイミングである。
「悔やんでおくことね。私たちを敵に回したことを」
瞬く間に加速を重ねた砲弾は、今度こそ、一切の妨害を受けることなくコアに驀進した。防御ゼロのむき出しのコアに砲弾が突き刺さり、コアは強力な運動エネルギーによって完全に破壊された。赤い液体を周囲にまき散らし、使徒は再び聞くに堪えない絶叫を挙げる。
異様な姿から当初の正八面体に戻り、己の維持が不可能になった。そして、大崩壊を開始した。
「パターン青は完全に消滅か。それより!シンジ、レイ、無事だよね!?」
(僕は無事だよ)
(私も。盾とあなたのおかげで無事)
通信で2人の安否を確認し、両名共に話せるぐらいに元気なことがわかった。この中で最もダメージを受けていそうなのはレイの零号機だったが、幸いにも盾が想定された防御力を発揮したこと。アスカが二の矢を迅速に放ったこと。この2つのことにより、レイが受けたダメージは許容範囲内に収まっている。
多少ごまついてしまったが、勝ちは勝ちであろう。
「シンジとレイのおかげでアイツを撃破できたわ。ありがとう」
(それを言うなら僕の方さ。なんせ、あれを外してしまったから)
(ありがとうアスカ。あなたのおかげで助かった)
「はいはい。じゃ、皆が皆に感謝するってことでね。後で私も合流するから」
一区切りついたので通信を切り、プラグを排出させる。内側から安全に扉を開け、弐号機の右肩にちょこんと座った。赤のプラグスーツに身を包む彼女の直上には、彼女らの勝利を祝うように輝く月がある。
その月を見て。
「どうせ、見ていたんでしょ?」
「もちろん、見ていたよ。さて、僕も活動を始めようかな。この円環を断ち切ろう。そして、全ては君の幸せのためだけに。碇シンジ君」
つづく
次回から破です。