休日の過ごし方は激しい
「見事な動きだな。アスカ君の空中機動戦に追いつけるものは誰一人いないだろう」
「本当です。僕なんか滑空するところから、もう既にできません」
「謙遜しないでいい。君は三度使徒の撃破に成功しているんだ。表に出さないでいいから、せめてその胸に誇りを秘めておきなさい」
港湾施設にてNERVのトップの冬月とシンジの2人は、目の前で繰り広げられた第七の使徒殲滅戦を見ていた。本来であれば、冬月は指揮所にいるべき人物だが、今回はちょっとした用事があって、指揮所から外に出ている。お爺はシンジ君の付き添いとして、第三新東京市の郊外にある霊園に墓参りに行っていた。その霊園には、碇シンジ、彼の母親の碇ユイが眠っている。シンジは幼少期に事故でその母を失っていて、懐かしき記憶が欠片も存在しないとしても、お墓参りに行かないという選択肢はあり得なかった。ただ、自分一人だけで行くのは寂しかったので、母と生前に交流があった冬月が付き添いを申し出てくれた。冬月は今回を機に、小出しではあるが彼の母のことを伝えていこうと思っている。
霊園で墓参りをして、さぁいざ帰ろうとする時に使徒出現の急報が入っていた。初号機パイロットは外出で本部を不在のため、待機していた弐号機が出動した。残りの零号機は待機の待機として、今回使徒撃滅を担う弐号機の補欠として現場に向かった。使徒はマジックを披露し、海を凍結させて侵攻してきた。こんな芸当をされては、とても水際で防御することは難しい。そこで、柔軟な戦法の一つ、新しい試みでエヴァの滑空戦術を採用しての戦闘に入った。
弐号機は大型輸送機で空を飛び、使徒の上空付近切り離され、滑空を上手に活用して使徒と戦闘していくのだが。これがまぁ、上手なことで上手なことで、弐号機パイロットのアスカの操縦技術の高さを改めて知ることになる。その戦闘の詳細は省くが、アスカの巧みな空中機動によって、あっという間に使徒は撃破された。
「あ、戻ってきましたよ。アスカの迎えに行かないと」
自然落下で港湾設備の一画に降り立った弐号機へシンジと冬月は歩き出した。先行するシンジと彼の背中を追う冬月の両者の光景は、それはそれは祖父と孫でしかないだろう。そんな2人を見つけたのか、コンクリの土台を破壊して立っている弐号機から美しい少女が降りてきた。
「あら、別に来なくてもよかったのに」
「そうはいかないよ。僕が不在の時に面倒をかけてしまったから」
「見事な戦いだったよ。それより、すまなかったね。我々が本部を不在にしてしまったばかりに、面倒なことをさせて」
プラグスーツから私服に着替えることを忘れ、少女は少年に駆け寄った。そして、彼に右腕に自分の左腕を回してピッタリンコに肩を寄せる。そうしてから2人に答えた。
「気にしないで。シンジも冬月先生も。悪いのは全部使徒なんだから」
タイミングが悪かったのは言うまでもないが、シンジは娯楽目的で外出していたのではない。大切な母親と会う目的で外出していたのだ。それを鑑みれば、彼を「無責任」などと責められるだろうか。いいや、責められるわけがない。ただ、彼女に迷惑をかけてしまったことは事実であるから、彼ら限定で好々爺となるお爺が穴埋めをすることで円滑に終わらせる。
「この後、私は仕事だが。君たちはせっかくの休みなんだ。お金は私が出す。今日は、君たち2人でデートしてきなさい。ほれ、これを」
冬月はシンジに結構な金額が入った電子マネーのカードを渡した。本日の老人は立場が立場だけに忙しいが、少年少女にとっては休日である。その内の一部を使徒戦で潰させてしまったため、この後の時間を自由に過ごさせることにした。ちゃんとお金も全部出して、好き過ごせるよう気を遣った。
「やった。お言葉に甘えて…といきたいけど。この格好じゃね。違う服に着替えないと。ここのシャワー室と更衣室を借りるわ。シンジ、行くわよ」
「え?」
目にも留まらぬ速さで腕をガッシリとホールドして、その美しい見た目からは想像できない、驚異的な力でぐいぐい彼を引っ張って行った。連行されていく少年の姿を見ながら、その場に残された老人はにこやかに笑う。この光景が年老いたお爺にとっては一番の栄養だった。
「未来のお嫁さんの尻に敷かれることは良いことだぞ。シンジ君」
~カップル~
この港湾施設は、非常時であればNERVが接収することになっている。まさについさっきまでがそれであった。現在事後だが、まだ継続中で超大型トレーラーが弐号機を運んでいるなどNERVが活動している。その一環として、パイロットの希望にも最大限応えることになっていた。アスカの希望は「シャワー室と更衣室を貸してほしい」とのことなので、別に何にも渋ること無く快諾する。ただし、少年がガールフレンドっぽいアスカに連行されている姿が珍妙に見えたことは特筆すべきだろう。
「なんかデジャブを感じる…」
「何よ。もしかして、シンジ。もう私のことが欲しくなったの?」
彼女は長い髪を透かしながら挑発するように言った。それ以前に、この状況は彼が言った通りでデジャブである。嘗て、彼が安静のために入院していた頃、身の回りのお世話をしていた彼女は彼のお風呂タイムまでも管理していた。そして、その時、彼らは互いに互いを求めて合って、限りなく愛し合った。
「それはいつもそうだけど。流石にここは場所があれだし、何より時間がお昼だから。それは、夕方以降。家に帰ってからでお願いしたいな」
「言うじゃない。明日も休みなんだし、帰ったらいっぱい愛し合うわよ。それに、溜め込んだものは一気に放出しないとね」
ある程度髪を透かしたら、アスカはシャワースペースに入っていった。ちなみに、既にプラグスーツは全部脱いでいて、スッポンポンのすっ裸だ。彼女は最愛の彼の前で、自分の全てを見せることは全く苦痛でない。むしろ一番の愛の示し方だと思っている。対して彼は、昔こそ初心さが残っていたため、オロオロすることが多かった。しかし、今はもう動じないで、自分から攻めることを覚えている。長い間を一緒に暮らしていることもあるが、何よりも、共に命を捨てて戦っていることが大きい。運命共同体と言うと分かり易いだろうか。戦うときは同じ、命を捨てる時は同じ、そして死ぬときも同じ。全てを預け合っているから、2人は強固に結ばれている。
あと1名仲間がいるが、その人は彼らに気を遣って身を引いているので問題ない。
「一緒に入る~?」
「2人だと狭すぎて体を洗えないよ」
アスカが完全にシャワースペースに入って、ジャーとシャワーからお湯が流れ出ていることが確実と分かる。その音のおかげで彼女に聞こえないように、彼はボソボソと呟き始めた。彼は彼なりに悩んでいることがあるようで、まさに頭を抱えてしまった。
「母さんは…死んでいない?」
極めて部分的な情報だが、彼の母親の死の真相が明かされていた。それは、彼の母親は死んでいないということ。では、父親と同じで行方不明になっているのかとなるが、それはそれで違う。厳密に言いたいところだが、厳密にすること自体が難解を極める。下手に真実を伝えると彼が混乱して壊れかねないので、伝えた人物はワザとぼかしていた。
(真実を知るにしては、君はまだ若い。それに時期が早すぎる。私とて君に全てを教えたいが、物事には適した時期が存在する。まったく、心苦しいことこの上ない。本当にすまないが、もう少し待ってほしい。必ずや、君に明かす時が来るだろうから。その時までな)
「いつなんだろう…その時って」
続く