シンジは私のもの   作:5の名のつくもの

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武をたしなむ

NERV本部は地下に設けられているが、最深部に当たる区画には第二の使徒リリスを事実上の封印をしている。その空間は非常に広大であり、下手をすれば指揮所よりも大きいのではないかと思える。そんな最深部はリリスの封印所だけではなかった。

 

極僅かどころか、たった3名(場合によっては4名)しか入ることが許されない禁忌の地がある。

 

「誰もが私のことを狂っていると言うだろう。自分でやっておいて、まさしく狂気だと思うよ」

 

老人の前には、いかにも水族館にありそうな大きな水槽が鎮座している。その中で泳ぐ魚の代わりと言っては何だが、裸体の少女が大量に流れていた。また、水槽内の液体は皆が良く知っているお水ではなかった。海水でも淡水でも汽水でもない。その色はオレンジ色で、一見すれば果物ジュースかと誤認しそうになる。もちろん、この液体はジュースどころか、とてもだが水分補給にはならない。清らかな命を保つための一種の緩衝材と表現するのが適当だろうか。

 

「データ上ではオリジナルの彼女の協力があって、アドバンス・シキナミシリーズの生成に成功した。まさか、ユイ君を取り戻そうとした時の研究がここで役立つとは思わなかったな」

 

口ぶりから分かるだろうが、老人は冬月だった。NERV内で特に年齢を重ねているのは冬月以外にいないため、消去法をするまでもなく彼だと導き出せる。老いても切れ味を増す彼は過去の自分の産物がここで活きていることに対して苦笑した。彼は嘗ての教え子で、エヴァ初号機パイロットの母親の碇ユイを実験で失っていた。彼女は自分が見て来た者の中で、最もずば抜けた才能を持っていた。それだけに限らず、誰からも好かれる人間でもあった。1人の学者としても、人間としても最高の人物だとしか言いようがない。

 

彼女を実験で失った時は教育者として打ちひしがれた。なぜ、自分は何もできなかったのか。確かに承認はしたが、それは本当に正しかったのか。自問自答の日々を過ごす毎日。まだ若かった彼を突き動かしたのは、謎の少女たちである。少女たちは彼の願いを叶えることを約し、そのバーター取引で協力を依頼してきた。これを断るわけがなくすぐに快諾し、彼は外には出さないでずっと貯めて来た貴重な研究データを基にし、とある壮大な計画に組み入れたのであった。

 

感傷に浸る冬月のことを水槽に浮かぶ少女たちは十人十色の表情で見つめる。常人がここに立っていたら、たちまち腰を抜かしてしまう。見た目はお爺さんでも精神は強靭に尽きる。

 

「ユイ君…君の子は私が責任を持って君と再会させる。その時私がいるかは分からんが、私にできることは全てやり切らせてもらう。それが私の願いだ」

 

その頃

 

~中学校の武道室~

 

エヴァパイロット3名は今日も中学校に登校して学に励んでいる。ただ、学問限定では体が鈍ってしまう。健康な体を作ることを目指して、学校教育には体育の授業が存在している。今日の体育は武道をテーマとしていて、体育教師が昔取った杵柄の武を披露して教えていた。無論、素人には危険だから基本中の基本しか教えない。それも防御が大半で身を護る術に限った。本当なら柔道技の投げや固めも教えなければならないが、先生が進んで生徒を危険に曝すなんてことをするだろうか。少なくとも、パイロット3名の担当教師は特にの慎重派でしないだろう。

 

安全を幾つも重ねた武道室では、体育の先生監視の下で実戦形式の練習試合が行われていた。危険なのだからやらない方が絶対に良いが、それは素人の場合である。互いにいっぱしなら問題ない。

 

「腕を上げたわね」

 

「いつもアスカに負けてばっかりじゃ。いられないからね」

 

畳みの上でアスカとシンジの両名が組みあっている。少女と少年が柔道で組みあっているだけで問題だが、それ以前に体育は内容次第でも普通は男女別で行うはずだろうに。なぜ、混合となっているのか。その答えは簡単で、アスカ、シンジの両名については引き離すことが逆に難しかったからである。引き離すと保安上の危険が生じるため、敢えてくっ付けさせて彼らを守護る。となると、片方どちらかが超アウェーな状況に放り込まれてしまうことが容易に想像できた。それも踏まえて、授業はレイとアスカ、シンジの3名だけの特設クラスを開講している。体育の授業時間に男女別々加えて3名を更に分ける手間をかけている。先生がもう1人必要になったり、改めて場所を取ったりの問題があったりするが、それで彼らの安全が確保されるなら両手を挙げて万々歳だ。

 

「そう簡単に引っ掛からなくなったのは成長の証」

 

第三者視点で両者の動きをつぶさに観察しているレイはシンジの成長を感じていた。今まではアスカの罠に引っ掛かり、そのまま地に突っ伏すことが多くあった。だが、彼も学んだようで誘いには乗らないで忍耐の防御に徹している。彼から仕掛けるのはアスカの体勢が僅かに崩れるなどの隙を見つけた時だけ。要はカウンターである。

 

「ギア上げるわよ!」

 

「碇、無茶し過ぎるな」

 

「はい!」

 

シンジには悪いが軍人上がりのアスカの方が圧倒的な実力を持っている。彼だって使徒との戦いを経験したことで腕っぷしは悪くない。また、度重なる彼女との戦いで技術を培って確実に手強くなっている。彼女は彼が強くなったのを内心で喜び、一段階引き上げようとギアを上げると宣言した。彼は食らい付こうとするのだが、いつでもストップをかける先生が釘を押した。柔道は下手をすると重症どころか死の危険を有するから至極当然の措置だった。

 

組み合いが始まってから4分程経って、勝負がついた。今までカウンター狙いで消極的なシンジは一転しての奇襲を仕掛ける。しかし、やはりアスカは強かった。その奇襲を上手いことを躱した彼女は皮肉でも何でもないが彼の基本戦法のカウンターを決めた。先生が感嘆の声を挙げてしまう程のお手本な背負い投げによって、シンジはビタンと畳に打ち付けられた。ちゃんと受け身をしたのでダメージは最小限で済んでいる。

 

「一本!」

 

「ふ~手強くなったけど、まだまだね」

 

「強いなぁ…」

 

「お疲れ様」

 

悔しがるシンジだが、これは決して意味がない敗北ではない。近接の格闘戦を身に付ければ使徒との戦いに転用できる。エヴァパイロットとしては素晴しいことだ。ただ、本人としては違う方向で活用したかった。

 

いつか、彼女を組み伏したい願望を抱いて。

 

続く

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