「今までと打って変わって、空から落下して自爆攻撃を行うとはね。使徒も賢いじゃない」
(使徒も学んでいる。学習機能を備えた存在よ)
平和な日々は永遠と続かなかった。また使徒が現れたわけだが、なんと出現地点は宇宙空間であり、宇宙から地球の第三新東京市に向かって落下を開始した。なるほど、宇宙に出られては迎撃は難しく、地上から攻撃してもATフィールドで防げた。肉迫する隙も最小限に抑え込めるため、使徒は極めて賢い方策を思いついたようだった。人類は懸命の迎撃を行ったが、光さえも歪ませるATフィールドに阻まれてかすり傷すら与えられない。したがって、地上でエヴァを用いるしかない。とても勝機はなさそうに思える。
(空から落っこちて来る使徒を手で受け止め、そのまま撃破するらしいけど。誰が受け止め役で誰が止めを刺す役になるか分からないや)
今回の使徒撃滅に際し、NERVは極めて原始的な作戦を採った。エヴァ3機を同時出撃させ、予測落下地点に1機だけでも滑り込ませる。超重量と推進力を以てする自爆で第三新東京市を消し炭にしようと試みる使徒を手で受け止め、まずは使徒が完全に着弾してしまうことを防ぐ。そして、受け止めている間に残りの機が急行してコアを破壊するとの算段である。まぁ、なんてこと、戦術もひったくれもない作戦で実際に戦う3名のパイロットは驚きを隠せないが、各自のエヴァへ乗り込む時には笑った。
「ま、最も無責任な言葉だけど臨機応変にやりましょ。そろそろカウントダウンくるわよ」
使徒が落下する地点は予測として常時送られて表示に反映されるが、使徒の行動は一切読めない都合で予め誰が受け止め役になるかは決まっていない。予測が絶対に狂わない、真にピンポイントで固定された時点で最も近い者が滑り込む。分かりやすく言えば「臨機応変」となろう。しかし、臨機応変と言う四字熟語ほど無責任な言葉は無い。
さて、3人で作戦を復唱したりしているとカウントダウンが始まった。既に使徒は地球へ侵入して姿はクッキリと見える。NERV本部は使徒の動向を監視して、彼らに最新情報と予測を送り続ける。死地へ送り込んだ以上は最大の支援をしなければ割に合わない。
(発進!)
臨時的に全権を委譲されている葛城ミサトの短単語で3機は駆け出した。あくまでも汎用ヒト型決戦兵器のためエヴァの初速は大して速くないが、加速性能は相応に高く数分も経てばソニックブームを発するまでの速度を誇った。各自は定められたルートに沿いながら使徒を注視し続ける。
「現状では私が間に合いそう!」
(ごめん、零号機からは遠い)
(初号機なら間に合うかも!)
「いくわよ!シンジ!」
幸いにも女の勘が見事に的中して予測落下地点は初号機と弐号機から近く、両機で若干のタイムラグが生じるが着弾まで十分に間に合ってくれそうだった。残りの零号機はやや遠くてどうしても到着が遅れ、受け止め役が頑張っている隙に止めを刺す役割を自動的に担わされる。
(頼むわ!2人とも!)
「わかってるちゅうのぉ!」
(はい!)
最短距離での移動はルートから軽く外れる。ただ、軽く機体をずらす程度なので無駄は無い。念のため、速度を維持したままルートを修正する足場が組まれているが出番はなかった。表示される各機の動きは自機を除く2機が一目散に向かっている。この調子なら時間稼ぎは果たせた。
「着弾まで、残り10秒っ!」
間に合いそうであることに偽りはない。とは言え、ギリギリ勝負になって秒単位の滑り込みセーフとなろう。使徒の姿は誰の目からも明らかで、今までは遠近法とATフィールドで小さく見えていた姿はエヴァとは比較にならない。とてつもない巨大な姿を周囲に誇示している。どうやら、落下の途中で変形したらしく、その容姿はカラフルに見えた。その実際は万物をを破壊する質量爆弾だが。
「シンジっ!」
(大丈夫!この程度の痛みは何てことない)
弐号機が滑り込む時には既にシンジが操る初号機が受け止めようと努めていたではないか。どうやら、彼は類まれな操縦技術と一切無駄が無い走行、エヴァ初号機の性能を発揮して弐号機よりも早く間に合った。だが、単騎だけで巨大使徒爆弾を受けると想像を絶する負担がかかり、機体だけでなくパイロットにも甚大なダメージを与えかねない。事実として初号機は押しつぶされかけて、特に負担がかかる両腕と両脚の装甲板が弾け飛び、中の人工筋肉が暴露された。見るに堪えないかもしれない光景だが、すぐに救援に入らねばならない。
だが。
(ダメだ!僕だけでいい!)
「ど、どうし…」
(見ての通りなんだ!ガッアァ!)
使徒直下まで入ったアスカが目にしたのは、初号機が子使徒に貫かれた残忍なことだった。子使徒は着弾を防ぐ初号機を物理的に押しつぶす以外に確実に傷を与えてパイロットを行動不能に陥れる。掌を貫通して膝にまで至る長い槍がもたらす痛みは半端ではないが、シンジは仲間が痛みを受けることを嫌った。更に言えば、美しい身体が穢れた使徒によって傷つけられることが許せなかった。全身を襲う負担と激痛に耐えて使徒を留め、到着したアスカや間もなくのレイに止めを任せることを選んだ。
彼の覚悟には敬意を表せねばならない。
「っち!こんの使徒風情がぁ!」
愛する少年を傷つけられたことで激情に駆られたアスカは白兵戦用のナイフを取り出し、二刀流でコアを切り刻んでやると。私のことを命を張って守り切ろうとするシンジを一刻でも早く助け出し、受けた傷を癒すために懸命の看病をしなければならない。
「なっ!逃げるなぁ!」
ナイフが切り刻む僅か前にコアが爆発的な加速で逃げた。基本的に使徒のコアは固定されていて、硬く守られているが今回は例外的に隙だらけである。もちろん、ATフィールドを張って最小限の防御は整えており攻撃偏重型の使徒にしては守りは硬かった。しかし、エヴァの力でATフィールドは無効化されてしまう。そこで使徒は超高速でコアを動かす逃げで対応する。外側がエヴァでも所詮は中身が非力な人間のため、残像で不動に見えるコアを捉えることは不可能。当てずっぽうにナイフを刺そうとすれば外れ、追加の子使徒から反撃を貰いかねなかった。愛するシンジが負担に痛みに耐えているのに、更に外してしまって自分も貫かれることは御免被りたかった。
「どうすれば…」
いくらアスカでもこの状況における最適手を見いだせない。想定していなかった使徒の逃避行を捉えるには一撃で確実に決める必要があった。
と、ここで待望の救援が到着する。
(は、早く!碇君を助けてっ!)
苦しみが混じった悲痛な叫びが聞こえたかと思えば、遅れた零号機がコアを鷲掴みにしている。零号機を操るレイの驚異的な動体視力が垣間見えるが、今はそんなことを思っている暇なんぞなかった。零号機がコアを掴んでいる間はまたとないチャンスに尽きる。レイが叫んだ通りでシンジを救うためにも、今の瞬間を逃す手は無かった。
「こんにゃろぉ!手間をかけさせやがってぇ!」
アスカの怒りが込められた必殺のナイフはコアに突き刺さり、X字にクロスするように切り裂いた。だが、亀裂が入った程度でまだ完全に崩壊には届かなかった。
「これで…お終い!」
最後のダメ押しに全力の膝蹴りを見舞った。膝蹴りで押し込まれた2つのナイフはコアに破壊の限りを尽くして大決壊を開始させる。ガラス球が割れるのと同じで破裂し、周囲一帯に深紅の液体をまき散らした。なんという環境汚染だろうか。使徒には自然を愛する気持ちを持って欲しいものである。
何とかしての3人がかりで間一髪の勝利を納めたシンジ、アスカ、レイの皆が疲労困憊に襲われる。ホッとした直後に猛烈な疲労感で暫くは動けそうに無い。今頃、本部の方で回収班と医療班を大至急で向けてくれているはずだ。
「シンジ…帰ったら。心身ともに満たしてあげて癒さなきゃ」
続く