シンジは私のもの   作:5の名のつくもの

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あと少しで10万UAなんですよね。

はい、まぁ、そういうことなんでね。

えぇ…はい。

ね?


踊り狂えマスカレード

「え?エヴァ全機の緊急点検?」

 

(そうなんだ。面倒なことに、一目散に逃げ散った臆病者達はエヴァの緊急点検を命じた。責務を果たさず我が身だけを大事にする姿勢には感心できんが、どうであれNERVはNERVとして命じられたら面従腹背でも行うしかなかった。したがって、初号機、零号機、弐号機は一時固定して点検と称した改修作業を続ける。それに伴い、各パイロットは自宅待機となった。急すぎることは承知している。本当に申し訳ない)

 

朝から電話が鳴り響き、意識をハッキリさせてから受話器を持って通話を始めた。相手はNERVのトップにして恩人である冬月コウゾウ先生だった。老人から伝えられたのはエヴァ3機が一旦仕舞いこまれて、3機仲良く総点検を受けることになったため、パイロットは暫くの休養が与えられるとのこと。何故このようになったかと言えば、先日発生したNERV第三支部の消滅事故としか言いようが無い。あれはエヴァ肆号機がS2機関の試験中に暴走した結果と仮説が立てられ、ほぼほぼ確実だと見られている。つまりは、日本のエヴァも同様の事故を引き起こす可能性が否めず、やむなく緊急の点検が命じられた。出撃は当然ながら実機訓練も不可能となり、急にパイロットは暇になった。シミュレーターを使えば良いかもしれないが、万が一のことを考えてエヴァからパイロットを引き離したい狙いが透けている。

 

かくして、彼らは手持ち無沙汰な休養を送らざるを得なくなってしまった。前々から決められた休みならば事前に計画を組んで外出できる。しかし、朝に急に連絡を受け、軽くだが路頭に迷った。自宅待機を前提として「好きに過ごしてもらって構わない」と言われても、はてさて困り果ててしまう。

 

「わかりました。こっちも動けるように整えておきます」

 

(そうしてくれると助かるよ。では、ゆっくりと過ごしてくれ)

 

受話器を置き、シンジはとりあえず朝食の準備に戻った。家族はスヤスヤ寝ているため、彼は音を生じさせないよう最大限の配慮をして家事に取り掛かる。家事を丁寧に遂行しながら頭では今日の過ごし方を懸命に考えた。

 

~朝を終えて~

 

「な~んで、私たちは悪くないのにさ。外に出れないのよぉ」

 

「仕方ない…のかな」

 

目覚めて急な休みを告げられて一日家に引きこもっていると言われては「退屈」の熟語を出す以外の選択肢は無かった。外に出ることが許されていれば街にデートへ繰り出し、マリアナ海溝より遥か深く、エベレストより遥か高い2人の愛を昇華させられたのに。まったく、残念極まれしである。

 

ただ、せっかくのステイホームなのだ。これを活かさぬ手はなく、シンジは機転を利かせて穏やかな時間を送ることを提案する。アスカは素直に受け入れてくれた。2人は家族用ソファーに身体を預け、ふわふわに甘えて程よく力を抜いている。そして、テーブルに置かれたNERV農園印のミカンやリンゴに時折手を伸ばした。収穫してから僅かな時間で送られるフレッシュなフルーツは美味の一言に尽きる。

 

「ほら始まるよ」

 

「ん、そうね」

 

2人はテーブルを挟んで映画鑑賞に興じた。上映するテレビ本体は貯めたお給料を消化する際に購入したハイグレート品である。大きさ自体は平均より少し上の55インチだが、カラーは鮮やかに彩られており画質は最上級で贅沢でしかなかった。相応にお値段は張っても、基本が高く、且つ加えて手当がテンコ盛りになる彼らのお給料は中々である。生活費など諸々を差し引いた貯蓄は笑えない程にあった。余談から本筋に話を戻し、チョイスした映画は『オペラ座の怪人』らしい。言わずと知れたミュージカルの名作を映画版で楽しむ。ただでさえ美しいストーリーと情景に、思わず聞き入る劇中歌は最高以外の何物でもない。欲を言えば、本場の劇場で楽しみたかったが、この世界で贅沢を言わせてもらうだけ有りがたい。自宅で没入させてくれることに感謝すべきかもしれない。

 

「…」

 

「…」

 

劇場とはかけ離れた自宅にも関わらず、シンジもアスカも食い入るように見つめている。2人ともに瞬きを煩わしく思う程に熱中した。一瞬一瞬が宝物に等しい。そんなこんなで鑑賞していると時間はあっという間に過ぎていった。当初は困り果て、手持ち無沙汰な休日は映画鑑賞によって有意義な日へと変貌を遂げる。用意したフルーツもドリンクも終劇を迎える頃にはすっからかんで尽きた。エンドロールが終わった後は各々で振り返って感傷に浸る。珍しくこの時間だけは相互に干渉しなかった。感想の交換などは一切行わないことがキモである。変に共有すれば忽ち喧嘩が始まってしまうだろう。滅多に喧嘩しないことで有名な夫婦が些細なことで喧嘩をするわけがない。相互に尊重する心がけは愛の形成に通用した。

 

さて、己の世界から戻って来たシンジは片づけを済ませるために立ち上がった。

 

すると、袖を引っ張られる。

 

「待って」

 

「なに?もう一回見たいの?」

 

「違う…私と踊って欲しいの」

 

アスカの可愛げのある申し出にシンジは含みのある笑みを付けて答えた。

 

「喜んでお受けます。僕のお姫様」

 

彼らの自宅は優雅に貴族らしく踊れる広さはなかった。愛の宮殿であることに嘘偽りはないが、物理的には日本らしい家だった。しかし、そんなことは関係ない。多少は窮屈だとしても2人の踊りを妨げることは不可能だ。

 

さて、踊りには音楽が必要不可欠であり、且つ適した音楽でなければならない。

 

そうとも、オペラ座の音楽が必須であろうよ。

 

カチッ!

 

♪~♪~♪

 

「仮面は無いけど、僕たちだけのマスカレード(仮面舞踏会)だから」

 

「流石ね。私の王子様」

 

奏でられるはマスカレードだ。この場においてマスカレード以外の音楽は考えられなかった。厳密には仮面を着用して顔を隠した上で踊り合うのだが、2人しかいないため仮面をつける意味は無い。今回は彼らの彼らによる彼らのためのマスカレードで勘弁願いたい。

 

さぁさぁ、体力続く限り狂ったように踊って楽しもうではないか。

 

誰にも邪魔できないのだから。

 

「ステップ…ステップ…上手なのね」

 

「これぐらいはね。じゃなきゃ、エヴァパイロットは務まらない」

 

見事なステップで繰り広げる踊りは止まらなかった。

 

奇しくも、この踊りが後に役立つとは思わない。

 

マスカレードは終わらないのだから。

 

続く

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