シンジは私のもの   作:5の名のつくもの

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またせたなぁ


贄と捕食者は時にして逆である

今日ばかりの特設された仮の発進所へ向かうエレベーターに少年が一人だ。

 

「すまないね。慣れ親しんだ初号機から離れることになってしまって」

 

「構いません。別に初号機も凍結って言うだけで本当は動かせるんですよね」

 

「もちろんだとも。私が作り上げた機体を自ら凍らせることがあると思うか?」

 

「ありません」

 

「そういうことだ」

 

中では特注品のスーツに身を包む少年の姿がある。普段は初号機に乗って使徒と戦う彼だが、今日はとあるエヴァの起動試験を行う関係で情報収集用の特注品を着こなした。もっとも、生命維持など基本的なことは全て共通し特段気にする点はない。機能面では何ら不都合なかったがファッションでは難点が存在した。それはやけにスケスケなことであり、テストパイロットに少年が選出されたことは何となく察せる。まさかだがスケスケスーツを少女に着せるわけにはいかなかった。

 

「それでは、健闘を祈るよ。私は地下で雑務をこなしているからね」

 

「はい」

 

携帯電話の通話を切り少年は最後の準備に移る。準備と言っても落ち着くだけだ。起動試験の内容はさして難しいものではなく単調な動きを行う程度である。既にエヴァ3機体制が組まれている日本のNERV本部では追加の機体は不要でありデータ取りだけで終わらせるつもりだった。

 

(エヴァ参号機かぁ。さっさと終わらせるかな)

 

先日の肆号機自爆事故を受けて参号機は日本に送られている。表向きの理由はエヴァの運用で実績がある日本で処分してもらうことであり、実際の理由は自爆事故を再び起こされては堪らないため押し付けた。なんとも酷いわけでありため息すら出なかったが当事者達は笑い合う。

 

エレベーターで上がった先には簡易的な乗降用のホームがあり、いつも通りの作業を進めてプラグに入り参号機とのシンクロを開始した。元々専用のパイロットがいない次世代型のエヴァのため試験程度ならば誰でもウェルカムだろう。日本で運用する専用機は高い戦闘力を発揮する反面で融通が利かなかった。

 

「シンクロ開始…問題なし」

 

試験用にシステムが組まれていることもあってシンクロは迅速に完了する。周囲の景色が見えて一安心できた。開始までは10分少々あるためリラックスして待つが突如として歪みが生じ始める。歪みを確認した最初は軽い不具合だと思い気にしなかった。しかし、歪みはあっという間に広がり続けて中は異様な空間に包まれる。周囲に光の十字架が立って謎の笑い声が聞こえてきた。これは異常事態としか思えない。

 

しかし、碇シンジは全く動じなかった。己の真っ正面から自分が迫って来ても何食わぬ顔を維持する。まるでドッペルゲンガーのような奇怪な現象が起きているが山の如き不動心を貫き続けるが、途端に真剣な表情から一転して表情を綻ばせて微笑に移った。

 

(ねぇ、こっちに来ようよ。そんな湿気た人生なんて送らないでさ)

 

「悪いけど僕はこの生き方が良いんだ。それに、君が僕を食らいに赴いたことはあいにく果たせないようだね。安心してもらっていいよ。君が僕を食らうんじゃなくて僕が君を食らうんだから」

 

(なにを言っているんだ…)

 

「僕は神の子なんだよ!」

 

ドッペルゲンガーらしき自分の影にシンジは猛然と食らいつく。まさに捕食者だった。

 

~指揮所~

 

NERV本部の指揮所は騒がしい。使徒出現時よりも遥かに緊張感もあった。

 

「仮設指揮所との連絡途絶!」

 

「参号機の状態、一切わかりません!」

 

「地表の映像をメインモニターに出します!」

 

試験の関係で一部職員が出払って人が少なくても残留の職員で慌てながら仕事を回している。なぜ騒がしさを急に増したのかというと地上で待機中のエヴァ参号機が突如として起動すると暴走を開始したからだった。起動した後に全ての通信が途絶して把握は不可能である。また、地上に設けられた仮設の指揮所も潰滅したらしく連絡を取れなかった。したがって、辛うじて生きている地上のカメラから送られる映像で確認するしかない。

 

実質的なトップである冬月コウゾウは上段からメインモニターを注視した。望遠された先にはもがき苦しむエヴァ参号機が映る。とても言葉にして表現できない悲痛な叫び声を発しながらバタバタと苦しんでいた。何か意思があっての行動なのかすら不明である。

 

「パイロットの状況はどうなっている」

 

「意識が混濁しており生命に関わる危機が生じているとしか…」

 

「パターンは」

 

「MAGIは回答を保留しています…」

 

あり得ない異常事態に世界最高峰の人工知能ですら回答を出せなかった。非常時に対して弱い人間が的確に動けるわけがない。しかし、冬月は年齢相応の落ち着きを見せ直ちに指示を発した。

 

「そうか…現段階を以て参号機は登録を全て抹消する。そして、あれは第九の使徒と断定して即刻の排除を命じる。エヴァ弐号機と零号機の出撃を急げ」

 

「参号機を殲滅するのですかっ!」

 

「焦るな。2機のエヴァによる救出を第一として排除はその後だ」

 

「は、はい!」

 

試験中に使徒が襲撃するは容易に予想された都合でエヴァ2機はいつでも出撃できる体勢を整えている。パイロットも着替え済みでいつでも出られるが事情を知らされると大いに動揺せざるを得なかった。あれだけ親交を深めた少年が蝕まれているという事実は信じたくなくて当たり前である。

 

「彼は必至に抵抗しているのだよ。孤独な戦いを行っている。だから我々は助けなければならん」

 

第九の使徒となった元参号機にはシンジが乗っていた。プラグの強制排出など外部との連絡が遮断されてしまい通常の殲滅手段は採れない。せめて彼を助け出してからの殲滅が良心的と思われた。もっとも、手緩い手段を採らずに断固殲滅を主張する者がいるかもしれない。彼を救出するか又は諸共殲滅するかは甲乙つけられない正解のない選択だ。

 

さて、緊急出撃で地上に放り出された弐号機と零号機は素早く山を盾にして挟撃を選択する。歴戦の2人を以てしても即座に行動に移せる事態ではないため一旦は冬月の指示を待った。

 

「聞こえるかね2人とも」

 

(はい)

 

(問題なし)

 

「よろしい、通信妨害は参号機だけだな。君たちも分かる通りシンジ君は蝕まれようとも抗っている。自らの犠牲を厭わず我々に被害を出さぬよう懸命に抵抗したが傍観は許されない」

 

(あったり前じゃない)

 

(アスカの言う通り)

 

「うむ、責任は私がとる。まずは2人で挟撃を仕掛け参号機こと第九の使徒を拘束し、それからナイフで丁寧にプラグだけ回収するしか方法はないようだ。汚染された機体に触れることになるが上手く避けてくれ」

 

随分と無理難題を言うと誰もが思う。しかし、このように指示するしかないことも事実だ。なるほど、いわゆる『如何ともし難い』とはこのことを言うのだろう。それを理解しているアスカとレイはお互いに画面越しに顔を見合わせた。そして、呼吸を合わせて少女らは参号機へ飛びかかる。

 

~同時期~

 

「なんで碇さん…」

 

世界を俯瞰する成人の女性がいた。円環は狂って一度も無かった独自のルートを紡いでいるが不安定であることは否定できない。不安定ということはどこかで付け入る隙があることを意味した。抜け目ない人物は僅かな隙を見逃さないのである。針に糸を通す精度は敬服に値したが一種の狂気が垣間見えた。

 

「私が助けに行きますからね。こんな世界は許されないんです。私にはわかります。碇さんは望んで円環を断ってやり直しを求めたんじゃない。誰かが碇さんを操って無理やり生き長らえさせている。ダメです…ダメなんです」

 

悲痛な叫びは届いているのか分からない。

 

現実と虚構の間に存在し認知できて認知できない空間に身を置く女性は一息置いてから宣言した。

 

「だから、私が行きます」

 

続く

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