「一撃で特殊装甲板が全部熔けたっ!?」
「総員退避だ!君達も逃げて構わん」
NERVの切り札であるエヴァ初号機と碇シンジが使えない。この状況で第十の使徒が出現した。第十の使徒は従来通りのNERV本部を直接侵攻するタイプである。しかし、使徒の火力と防御力、頭脳と全てにおいて規格外を誇った。
「最期まで戦います。自爆も辞しません」
「それを決めるのは私だが、念のため、自爆は私の所へ回してくれ」
地上の要塞線で時間を稼ぎ、エヴァの発進を進めるつもりが、一瞬にして防御は破られる。したがって、即座に総員退避命令が発せられた。パート職員など非戦闘員は全員が避難し、戦闘員まで漏れなく避難する。
しかし、葛城ミサトやオペレーターは最期まで職務を貫徹した。
「弐号機と零号機出せます!」
「武器の無制限使用を許可する。2人の好きなようにしてあげなさい。初号機は出撃待機の状態で置くように」
「ダミーは」
「無理だ。ダミーがあの使徒と戦えるか?」
この間に使徒はズンズン侵攻している。特殊装甲板を溶解させて本部まで一直線に通ずるシャフトから地下へ潜った。幸い、パターン青の反応は常時掴めているため、発進準備を終えた弐号機と零号機は、使徒を待ち伏せる。武器についても無制限使用を許可した。武器庫から好きな物を選ばせている。
残りの初号機については、碇シンジ君の除染作業が未完だった。身体的な負傷はないが、精神汚染の影響が残る。まともに操作できないはずだが、最後の希望と言わんばかりに出撃待機を命じた。
(ディファー遂行まで順調だが、彼から報告のあった介入が来るかどうか…)
NERV中枢部の外では使徒を待ち構える2機がある。
「来たわね…尋常じゃない威圧感。最強の拒絶ってわけ」
「援護射撃」
「まだ、撃たないで。機動戦に持ち込むから、その合間に頼んだわよ」
「了解」
使徒迎撃態勢はアスカとレイの適性から二段式が組まれた。アスカの弐号機が第十の使徒に近接戦を仕掛ける。レイの零号機は後方から援護射撃を行った。おそらく、使徒はATフィールドを展開するだろうが、2人も時間稼ぎに過ぎない。
ただし、厳密には少年のための舞台を整えた。
「先手を打たれた!」
威圧感が一段階上がった瞬間にその場から大きく跳躍した。使徒が大穴から姿を見せると同時に弐号機のいた所にクレーターが生じる。思わず悪態を吐きかけるが、素早く呑み込んで行儀良くに努めた。
「あの破壊光線を封じるだけの頭脳はあるみたいね」
「だめ、効かない」
「いいから、撃ち続けて」
恐ろしきや最強の拒絶である。本来は防御のATフィールドを複数枚に重ねて攻撃に転用した。最強の盾は最強の鈍器と成り得る。クレーターは常識外の圧力がかけられて生じた。弐号機への追撃は零号機が狙撃で阻止する。流石の使徒もエヴァ2機を同時に相手するのは労力を要した。
「こいつはまさしく化け物ね。シンジが自分を犠牲にしたぐらいはある」
「っ!」
「レイ!」
一定の距離を保った射撃に辟易したのか、使徒は弐号機を捨て置き始める。今度は零号機に狙いを定めた。これを察知したレイは後退を繰り返して回避する。使徒も破壊光線は回避されると理解して本気を出した。使徒の身体を構成していた黒い布が解かれる。一見して空中浮遊や防御の機能かと考えた。
いいや、絶対の力を司る使徒が消極的な機能を持つわけがなかろう。
布は瞬く間に固められて槍と化した。
携帯していた長銃身ライフルを放棄する。
「気を付けてっ!」
今度は弐号機に布が迫った。高い機動戦を嗜んだアスカは驚異的な集中力を発揮し、間一髪の回避を見せている。これには指揮所もハラハラドキドキを超えた緊張に包まれた。もっとも、防戦一方で攻撃の手は封印を余儀なくされた。高機動戦闘を続ける弐号機と使徒は互角とは言い難い。弐号機の回避一辺倒は苦しさの表れであり、彼女にとって、この第十の使徒は初邂逅なのだ。前世と色々と違うため探り探りを強いられる。
「やばいっ!」
着地点に定めた地面が疲労で崩れた。立て直しを図るよりも早く使徒が迫る。間一髪の回避も間に合わなかった。槍を被弾すれば戦闘不能はおろか生命の危機に直結しかねない。
「あなたは生きてね。私はいつでも、どこでも、皆の傍にいるから」
「レイっ!」
弐号機の前に零号機が躍り出ては自らを盾にした。
零号機は槍に貫かれて悲惨な姿へと変わる。
頭部は抉られて左腕が吹っ飛んだ。
「おのれ…使徒風情がぁ!」
零号機と綾波レイの献身は指揮所でも把握できる。
幹部級職員と一部のオペレーターを残した空間は沈痛が支配した。
「零号機が…」
「ファーストの生体反応を感知できません」
「君たちも避難するがいい。残るのは老人だけだ」
「そうもいきません。最期まで見届けるのが、せめてもの仕事です」
ほぼ諦めている空気感である。それでも、最後の抵抗は残された。NERVは第三新東京市を丸ごとふっ飛ばす威力の爆薬が設置されている。仮に使徒がリリスへ到達しようものなら、NERV本部と第三新東京市と一緒に自爆した。
死なば諸共の精神である。
「に、弐号機まで…」
自爆の手順を自動から確実性に優れる手動に切り替えた。この間に弐号機が被弾したらしい。大モニターで確認するが、とても、とても、見ていられなかった。弐号機は零号機の支援を失い、劣勢の次ぐ劣勢に落とされる。
さらに、最悪の事態として電源ケーブルが切断された。高機動戦闘により内部電源を瞬く間に消費する。エヴァは電源を失うと鉄の案山子に突き落とされた。戦闘中に電源を確認する余裕は皆無であり、突如としてシャットダウンした虚が致命的になる。
レイに漏れず、弐号機も槍に貫かれた。
使徒は零号機と弐号機を品定めする。
「まさか、エヴァを捕食しようと言うのか!」
「エヴァを吸収することで力と知恵を両立し、自爆システムの無力化を図った。でも、残念なことに手動に切り替えたのよ」
自動システムはヒューマンエラーを回避した。何でもかんでも自動化すればよいとも限らない。コンピューターは万能でなく必ず弱点が存在した。知恵の実を食らった人間が最終的な裁可を下すべきで、アナログはデジタルに勝る。
使徒はこれを察したのか人間を駆逐しようと破壊光線を指揮所へ放った。指揮所も頑丈設計のため一発目は耐える。しかし、機器は全て破壊されて使徒と人間が対面の機会を得た。小さき人間に力を振り上げようと使徒が迫る。
「退避して!」
葛城ミサトが先んじて退避を命じたが、オペレーターたちは微動だにしなかった。今更避難しても生存の見込みは薄い。NERV本部で使徒と戦ってきた者達の覚悟は万物よりも堅くて揺るがなかった。その覚悟があるなら、子供たちに寄り添ってほしいものである。
使徒の顔面が目の前にまで到達し、破壊光線が放たれようとする時だった。
「初号機!?」
「ダミーが起動したのか?」
出撃待機状態の初号機が使徒を殴り飛ばした。初号機パイロットの碇シンジ君を完全に失念している。予想外のことに驚くオペレーターと逆に葛城ミサトは冷静に分析した。流石と言うべき観察力は見抜いている。
「シンジ君…なのね」
「早く逃げてくださいっ!僕の精神がいつまで持つかわかりません。もし、僕もだめだったら、遠慮なくやってください」
満身創痍であるがサードチルドレンは特攻に出撃した。弐号機のアスカと零号機のレイが倒れた現状では戦えるのは初号機の自分しかいない。2人のためにも徹底抵抗を押し立て、滅びの時まで戦い続けた。NERVを3人の墓標にするのは本望かもしれない。
「始めよう…シンジ君」
続く