作者「私にもわからん。本当に申し訳ない(某博士)」
初号機は絶望の使徒を指揮所から蹴り飛ばしている。エヴァの馬力は使徒に負けなかった。使徒は壁を越えて出現した初号機に驚いて一瞬でも対応が遅れる。そのまま地面へ叩きつけられた。
「アスカも綾波も…僕が連れて行く!」
初号機は使徒が起き上がる前に馬乗りになった。この使徒は多重ATフィールドに加えて本体の外殻も非常に堅牢である。非常に高い貫徹力を有する徹甲弾のAPFSFSの侵入を許さなかった。馬乗りでタコ殴りにしてもかすり傷が精々だろう。
「初号機の内部電源が足りません!」
「ケーブルは繋がってないのよ!」
シンジは特攻に出撃したが、重大な事を忘れている。初号機はアンビリカルケーブルを接続していなかった。簡単に言うと、内蔵バッテリーで行動しなければならない。当然ながら、激しい動きをする程に電気の消費量は半端でなかった。
指揮所から外へ出たミサトたちは、伊吹マヤの操作する持ち運び可能なコンピュータを介し、初号機の状態を確認している。案の定というべきか、初号機の内部電源は猛烈な勢いで消費された。あと少しで、生命維持など必要最低限に限定される非常電源に切り替わる。
「しまった!」
初号機はガクンと項垂れて動かなくなった。ついに、内部電源が底を尽きた。使徒は躊躇せず両腕の槍を突き刺し、初号機は左腕をもぎ取られ、腹部から胸部にかけて大穴が開いた。両腕を刺したまま振り回して全壊に近い指揮所へ投げつける。
「シンジ君っ!」
「初号機パイロットの神経パルスが急速に低下! 危険です!」
「万策尽きた…」
使徒は初号機を見定めるが、価値は薄いと判断した。
零号機と弐号機の捕食および吸収を再開する。
「自爆スイッチの用意を…」
手動による自爆を試みようとする時だった。指揮所の方から唸り声が聞こえてくる。あまりの恐怖と絶望を前にして幻聴や耳鳴りかもしれないが、唸り声は明確にエヴァンゲリオン初号機からだった。
「うそでしょ。エヴァ初号機からパターン青です!」
「まさか、第三の少年に潜む使徒が」
「いえ、あれは彼の意思です。きっと、自らを滅ぼしてまで」
初号機はむくりと起き上がる。そして、頭上に天使の光の輪を浮かべた。NERVの制御が外れた状態の「暴走」ではない。なぜなら、コンピュータは即座に使徒を示すパターン青を弾き出した。二つ目のパターン青は寸分狂うことなく、あの初号機を示している。
使徒は即座に両腕を投射した。初号機は試製を崩すことなくATフィールドを押し立てる。使徒の多重ATフィールドを嘲笑った。一枚のATフィールドは槍の貫通を許さない。使徒は物理攻撃が効かないと理解した。一気に距離を詰めて至近距離から破壊光線を発する。一撃で第三新東京市の無人砲台を焼却し、何十層もの特殊装甲板を溶解させた。流石の初号機も手を打たなければ、きっと、タダでは済まないだろう。
「これって、初号機の使徒化」
「いいえ。そもそも論だけど、初号機は使徒を複製している。おそらく、彼が自らの意思で使徒の力を解放した。初号機本体の力に彼の使徒の力が加わっているのよ」
初号機は両肩からニュっと2本の腕を追加した。失われた左腕も摩訶不思議な力で再生している。前者は碇シンジが保有を強いられた第九使徒の力であり、後者はエヴァ初号機が当初から隠し持つ力が顕現した。
3本の腕がATフィールドを堅持する。そして、再生した左腕をカノン砲に変えてカウンターを見舞った。周囲に絶望を振り撒いた使徒は、なんとも呆気なく、遠方まで飛ばされる。多重ATフィールドの展開が間に合わなかった。
ひとまず、使徒と初号機に距離は確保される。ここから初号機による大反撃と誰もが予想した。あいにく、初号機と第三の少年は、たった一人を除き、この場に立つ者の予想を裏切った。
「うっ!」
「何をするつもりなの」
若い女性職員は吐き気を催さざるを得ない。ボロボロの零号機と弐号機に追加の2本の腕が伸びた。新右腕と新左腕は零号機と弐号機に割り振られ、首回りの装甲板を引っぺがし、プラグを無理やりに引き抜いている。エヴァンゲリオンはロボットではない。赤い液体が噴き出したり、人工筋肉が破裂したり等々があり、弱い職員が吐き気を覚えても責められなかった。
2本のプラグは慎重にかつ丁寧に初号機へ届けられる。碇シンジは使徒化しても正常な思考と判断を失っていなかった。ましてや、心を通わせて愛し合う、レイとアスカを忘れることがあり得るだろうか。いいや、あり得るはずがないのだ。
それにしても、2人の乗ったプラグをどうするのだろうか。
「捕食した!?」
「2人を使徒から守るため、自分と一緒にいるため、一人も置いていかないため。みんなで初号機と同化するつもりね」
初号機は2本のプラグを順番に1本ずつ丸呑みした。これを分かりやすく表現すると、ペンギンがお魚を丸ごと飲み込むことである。レイとアスカを乗せたプラグはスッと初号機に取り込まれていった。
この間にも使徒が復活しそうである。初号機は抜け目のないことに定評があった。レイとアスカのプラグを丸呑みし終えると、初号機は意識を「救出と保護」から「使徒の殲滅」に切り替える。赤く染まった両目から破壊光線を発射した。使徒の真似と言われては反論できない。しかし、かの一撃は強烈に尽きて使徒の外殻はパックリと割れた。
初号機は重苦しい足音を立てながら使徒へ向かう。
「プラグ深度が確認できません! 危険すぎます!」
「もはや人に戻れなくなる! やめなさい!」
「シンジ君は選択したのよ。私達が止めることはできない」
使徒は初号機に対して反撃を絞り出そうとする。初号機は絶望を絶望で上書きするが如くだった。使徒の仮面を4本の腕がぐちゃぐちゃに潰している。超硬度の外殻は破壊光線に屈して心臓部のコアが丸見えだ。
コアは見方によればリンゴになる。いかにも、蜜が詰まって美味しそうだった。初号機は使徒からコアを乱暴にもぎ取り、何も恐れずに口へ運ぶと、恐るべき咬合力で噛み砕く。
コアを破壊された使徒は崩壊する。
それと同時に初号機も異変を生じた。
「何が起こっているの…」
「まさか、初号機は神になろうとしている」
これについては専門家に伺うが早かった。
専門家は地底湖の畔で全てを見届ける。
「これで良いんだな」
湖畔からもよく見えて、これは、これは、壮観なことである。
「初号機の覚醒はシンジ君の願いによる。レイ君とアスカ君と共にいたい。その願いが儀式を発動させた。すべては碇のシナリオでも、SEELEのシナリオでもない。彼と彼女たちのシナリオに即している」
初号機は上昇を続けるが、NERVは地下基地のため、天井が存在した。初号機はどこかで天井に突っかかる。天使の光の輪が天井へ触れた瞬間だ。地上とNERVを隔てる数十層の特殊装甲板は、ホールケーキを等分に切り分ける要領でカットされ、NERV本部から地上までが開通した。
「ガフの扉は開かれた。まさか、二度も同じ光景を目の当たりにするとはな」
初号機はゆっくりと上昇している。使徒が崩壊した後に放出する赤い液体は、いつの間にか、レイとアスカの身体を為していた。神となる初号機を2人の天使が祝福するように随伴する。老人が「ガフの扉」と呼んだ赤黒いバウムクーヘンの中心へ向かっていった。
「これって…もしかしなくても」
「セカンド・インパクトと同じ。二度目の次は三度目のサードインパクト…」
葛城ミサトの記憶に刻まれた光景が再生される。
目の前の事象と完全に合致している。
「世界が滅ぶ…」
セカンド・インパクトに次ぐサード・インパクトの帰結が目前に迫った。
「お父さん…」
そうは問屋が卸さない。
1本の光の槍が初号機を貫いた。
ガフの扉は閉じられる。
「仕事を始めるわよ。マリ、サクラ」
続く