章間 空白は本当にあったのか
「ねぇ、シンジ」
「なに?」
「ずっとこうしてたいね」
「そうだね。だけど、戻らなくちゃいけない。14年も楽しんだら、ひとまず、十分じゃないかな」
赤い海が広がる砂浜に少年と少女の姿があった。白シャツのボタンを外し、Tシャツは破れて、ズボンもチャックが開いている。そんな学生服姿の少年がいる。一方で所々がビリビリに破れたプラグスーツ姿の少女もある。そんな2人は砂浜で押し寄せる波の音に耳を傾けた。先まで行われた純情の跡が砂浜に刻まれている。砂浜の所々は波と違った液体に染められた。
「もう14年も経っているのね。レイのおかげで外部世界と繋がれている。レイもいればよかったのに」
「綾波が初号機の守護者となることを希望している。そして、僕たちがショックを受けないため、現実世界と仲介者を務めてくれた。綾波には感謝してもし切れない。だから、必ず、僕たちの新世界を創り直さないといけない」
少女は少年に身体を預け、遠くを見つめた。彼女の視線の先には2人の親友の頭だけが鎮座している。此方を見つめているが、特段の不気味さや嫌悪感は覚えなかった。むしろ、見守ってくれて安心を覚える。彼女のサラサラとした長髪は撫でられる度に艶を増した。
「NEON GENESISか…まだ遠いのね」
「簡単にできたら、なんか、面白くないよ」
「それもそうね。予想外の介入があって、面白くなってきたもの」
この世界が現実世界でないことは自明の理だ。
世界は円環の中で動いている。この円環を外れて独自の道を歩み始めたが、想定外のイレギュラーが発生した。円環を外れた副反応に別の世界と交錯してもおかしくない。その交錯がお互いに譲り合って回避する、または片方が譲って回避するが好ましかった。
問題は互いに譲らないで衝突する場合である。
「うっ」
「あたしが守るから。何も心配しなくていいから」
少女は少年を勢いよく押し倒した。豊かな母が顔に覆い被さる。彼女の呼びかけに反応したくても、モゴモゴと上手く伝えられない。沸き上がる感情が優先されて気づけなかった。むしろ、力を強めてしまった。
「あいつらには身体も魂も渡さない。慰み者にされるぐらいなら一緒に…」
力強く宣言することは中断を余儀なくされる。少女は恍惚とした表情で身を捩じらせた。
「わかった、わかった。残された期間を無駄にしなくないんでしょ。ほら、来てよ…」
あれから目覚ましい覚醒を経た少年の一撃に次ぐ一撃は重たい。
目が覚めるその時まで少年と少女はお互いを求め合った。
たとえ、目覚めても会うことに変わりない。
二度と離れることのない。
14年間を共にした。