シンジは私のもの   作:5の名のつくもの

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偽物のアスカ

「君は…アスカなのか?」

 

(やっぱり、封印装置が埋め込まれていない。第九の使徒を摂取させた上にネブカドネザルの鍵まで使うなんて。私のオリジナルはどこまでシンジを滅ぼすつもりなのよ)

 

強化アクリル板を挟んで見るガキに抱いた感情は、もはや「怒り」を通り越した「憂い」だった。この世界のシンジは良いように使われている。きっと、それが愛だとしても、正気の沙汰じゃない。

 

「いや、君はアスカじゃないんだね。ごめん…」

 

あんたが謝る必要性は皆無なのよ。色々と恨まれることは、仕方ないのことでも、私なら救い出すことができる。そのためにマリとサクラと一緒に時空を超えてきた。私が救いの手を差し出すから、その温かいを手を重ねてほしい。

 

「碇シンジ君の身柄は我々が預かります。あなたをNERVに戻すわけにはいかない」

 

「少なくとも、ここがNERVじゃないことはわかりました。でも、僕の居場所はNERVだと思います。だって、こんなに僕を拒絶する所が居場所だなんて。そんなの、おかしいですよ」

 

「あなたに決定する義務も権利も何もありません。厳重な監視下で過ごしてもらいます。もしもの場合は殺すことも厭いません」

 

「なんでですか。僕は戦ったんですよ! ミサトさんも見ていたでしょう!」

 

シンジの叫びに反応してあげたかった。あいにく、私は反NERVの組織に所属する者の立場がある。シンジの呼び声に無視を余儀なくされた。非常に耐え難い苦痛だった。それでも、今はひたすらに耐えなければならない。

 

ミサトもミサトで組織の長としての立場が存在する。やむを得ず、冷たい対応を採らざるを得なかった。周囲に立っている人間は真実を知らない。碇シンジとNERVを心底憎んで当然な人が並べられた。

 

「あなたはインパクトのトリガーになった。再びトリガーを引かせるわけにはいかない。理解しろとは言いません。代わりに、黙って言う事を聞きなさい」

 

(ちょっと、さすがに、言葉が足りなさすぎる。ミサトも仕方ないことを差し引いても)

 

「それって!」

 

シンジの足元へ銃口が向けられた。

 

「あまり痛いことはしたくないです。だから、心苦しいのですが。どうか、お願いを聞いてください」

 

(ナイスよ。サクラ)

 

強化アクリル板の向こう側の部屋には、鈴原…碇サクラが世話役と護衛に立っている。もちろん、まったく、嫌な気は起こらなかった。なぜなら、私はこの世界のシンジと密接に重なり過ぎる。オリジナルのアスカとほぼ同一だった。よって、下手を犯してシンジに拒絶されると、修正は不可逆に追いやられる。

 

かく言う私もオリジナルの方へ舵を切りそうだった。

 

人の振り見て我が振り直せ。

 

そういうことね。

 

「…」

 

サクラはシンジの足元へ銃口を向ける。私と違って「実力行使」という「発砲許可」が与えられた。ここでも数少ない職員の一人を務める。私は電気ショックのテーザーガンが精々なのにね。サクラは必要に応じて様々な武器を用意される。今は弾が内部で溶けることで比較的に殺傷力の弱い拳銃を構えた。

 

「せめて、説明してください。この世界がどうなっているのか、アスカとレイはどうなっているのかを」

 

「いいでしょう。副長から説明があります」

 

サクラは「指示を聞け」を「お願いを聞いてください」に変えている。内包されることは変わらない。ただし、後者の方が圧倒的に柔らかくなる。そして、伝え方も心に問いかけている。事務的に冷血を強いられるミサトにできないことだった。

 

簡単に聞こえることは、実は簡単じゃないもの。

 

私が入る間は無く、副長のリツコから説明が行われた。

 

シンジが知ることを希望したにもかかわらず、絶望ばかりが突きつけられる。

 

何というか、もうちょっと、手心を加えないと。

 

~強化アクリル板越しの少年~

 

「本当に僕が起こしてしまったんですね。そこのアスカは違う世界のアスカだなんて」

 

一旦は唇を噛んだ。

 

「最初から救ってくださいよ! 僕はもう止まることができないんです!」

 

自分でも訳の分からないことを言っている。

 

僕はニア・サード・インパクトを起こした。そして、リリスのサード・インパクトを誘発した。

 

本来は人類を守る者が滅ぼしかけている。

 

でも、不思議と後悔の念は抱かなかった。

 

「僕は誰かに愛されることを知りました。君じゃない方のアスカに愛してもらって、綾波にも愛してもらって、僕は幸せを得られました。だから、もう、どうだっていいです」

 

アクリル板越しに見えるアスカは別世界から来たらしい。見た目は同一でも中身が違うようだ。なんとなくの感覚で把握できる。こんなことを言うのは憚られることを承知で宣言した。彼女はアスカじゃない。僕を「救いにきた」と主張することは、彼女の視点に依るのであって、僕の視点と整合性が取れていない。

 

僕のアスカは一人だけなんだから。

 

「またインパクトを起こすつもりなの? これ以上の罪を犯したくなかったら、安静にしていることが賢明です」

 

「別に人類ってどうでもいいじゃないですか。あれだけ、僕を矢面に立たせておきながら。ちょっとぐらい、自分の願いを叶えたら。目の敵にすり替えるなんて。都合が良すぎませんか」

 

労いの言葉をかけてくれるならともかく。碇シンジは人類を滅ぼす存在と指を向けられた。今は面会に参入できる人数が限られ、先の空間で押し寄せる悪意の波は骨身にこたえる。人数制限はミサトさんなりの配慮なんだ。

 

「残念ながら、あなたは檻の中に閉じ込められる。それ以外に生きる道は無いの。その首輪はあなたを封じるだけでない。インパクトを起こすなど、著しく危険と判断した際は、逡巡なく処分する。そのためのDSSチョーカーです」

 

「外してくださいよ」

 

「いいえ、外しません。DSSチョーカーは人類の保険です」

 

目が覚めた時から首に違和感を覚えた正体は首輪だった。この首輪が邪魔で首を回しづらい。首輪に慣れる以前として、是非とも、外してもらいたかった。あいにく、首輪は僕みたいな不穏分子を束縛する。そして、非常時は情け容赦なく速やかに排除した。

 

簡潔に纏めて「人類の保険」の『DSSチョーカー』と呼ばれる。

 

(わかった。十分にわかったよ。もう、いっぱいだ)

 

(シンジ…シンジ…私のシンジ)

 

幻聴かな。

 

いや、紛れもない本当のアスカの声が響いた。

 

「艦隊にNERVのエヴァが接近!」

 

「エヴァMk-4は空へ誘い出す囮か!」

 

突如として、アクリル板に隔てられた向こう側が騒がしくなった。

 

「緊急事態なので、碇さんは再び隔離室に行って貰います。お願いを聞いてい…」

 

「お断りします。僕は僕の居場所があるんです。」

 

後方で熱い視線を送っていたサクラさんが拳銃を取り出す。実力行使をチラつかせているが、今の僕は明確な拒絶しか持たなかった。不動の構えを貫いていると、指が引き金に吸い寄せられる。拳銃の所持者の意思が無くても、ひょんなことから発砲に繋がった。

 

今更ながら、彼女は鈴原トウジの妹さんらしい。

 

どうりで、僕の事を知っているわけだ。

 

「痛いのは勘弁してくださいっ!」

 

パァン!

 

パァン!

 

乾いた音が二度ほど響き渡る。

 

「あ、え?」

 

「僕の身体は人間じゃなくなっているみたいです」

 

弾丸は碇シンジの肉体を通過している。弾速をさして損なうことなく、強化アクリル板に着弾し、ビシッと亀裂を走らせた。弾の貫通は許さない自らの使命を全うした強化アクリル板の仕事に敬意を示したくなる。

 

「さぁ、帰ろうか」

 

一呼吸を置いてから。

 

「来い! 僕のアスカ!」

 

耳をつんざく音と共に大穴が開いた。

 

「NERVのエヴァ弐号機ぃ!?」

 

「ありえない! 弐号機はWilleが保有しているのよ!」

 

「まさか、アダムスの器か!」

 

大穴から赤く塗装されたエヴァが左手をねじ込んだ。

 

そして、左手は開かれる。

 

その手へ収まろうとするが、ミサトさんが制止した。

 

「行ってはいけません!」

 

「それもお断りします。僕はミサトさんの指示に従えませんよ」

 

「そっちは破滅の道なのよ。わかってるの」

 

「ミサトさんの見方と僕の見方は、それこそ、決定的に異なりました。世紀の英雄気取りはいい加減にしてください。僕を悪に染め上げるなら、僕だって、徹底的に悪となりますよ」

 

完璧に手のひらに収まる直前になって、偽物のアスカとサクラさんから釘を刺された。

 

「エヴァにだけは乗らんでくださいよ」

 

「エヴァに乗ったら。その時は殺すからね」

 

なぜか、嬉しさを覚えて笑ってしまう。

 

「さようなら」

 

続く

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