「2本の槍を使ってこの世界を書き換える。その下準備だね」
「シンジが望む世界に置き換えるとも言える。とにかく、あなたが望む新世紀を」
「2本の槍はサード・インパクトの爆心地であるセントラルドグマに保存されている。僕はニアサーを起こしてリリスを目覚めさせた。その責任がある以上は放棄するわけにいかない」
「リリスは如何なる生物の侵入を阻む結界を残した。己の骸と贄となったエヴァMk-6の保存も図っている。リリスの結界を突破するためにエヴァンゲリオン第十参号機が建造された」
大人アスカと子どもシンジは、仲良く並んで赤いドームを眺める。
シンジの空白の14年による記憶を回収する日程は最終日を迎えた。そして、彼が回収した記憶を元手にした未来の書き換えに移行する。現行のNERVの方針は『フォース・インパクト』の発動に収まった。NERVの中心人物たる碇シンジは、奇しくも、実の父である碇ゲンドウを継承している。
少年は己の幸せを追求する姿勢へ転換した。
「僕は様々な物や事を犠牲にしている。そして、世界を救ってきた。なのに、皆が僕を敵視してきて、僕を縛ろうとしてきて、極め付けは殺そうとしてきた。僕の肉体と魂は共に人間じゃない」
「大丈夫だからね。私がいる上にレイは任務を遂行次第に帰投するから。あなたのお母さんを取り戻すの」
「そう、僕は皆と平和に過ごしたいだけなんだ。それを奪おうと言うなら、この世界を書き換えるっ!」
彼の転換に関して、簡潔に申し上げると、大人たちの因果応報だった。
碇シンジは貴重な青春時代を消費している。エヴァンゲリオンのパイロットを務めて使徒を撃破してきた。人を形成するに非常に重要な時代をエヴァで過ごしている。使徒と戦うことは命がけな上に人類の存亡を一身に背負わされた。大人の自分勝手な都合に振り回されて消耗する。彼は最後ぐらいは自分の願いを叶えようとしたが、あいにく、ニアサーを起こしサードを誘発させた。
「皆が僕から全て奪おうとする。だから、僕は皆から奪ってやる」
「それでいいの。この世にあるべきは神と天使たちの楽園だからね。あの赤い砂浜も悪くないけど、あなたが願う園を創造するべき」
碇シンジの不退転の覚悟は表面に出現した。彼の両眼は充血どころでない程に赤く染められる。第十の使徒を圧倒した初号機の覚醒と同じだった。彼はアスカの愛情をタップリと受けている。
もはや、人を越えた神に限りなく近い存在だった。彼は全てをかなぐり捨てる覚悟を有し、アスカとレイが様々な道具を用意し、少年少女がインパクトに次ぐインパクトを起こした。
この世に現存する神の碇シンジを降臨させる。
「本当に僕の自由でいいんだよね?」
「もちろん。何をしても咎められない」
「僕が母さんを取り戻すだけじゃあさ。アスカが可哀想だなって」
「あ」
予想だにしていない答えに変な声が出でしまった。
碇シンジの願いの中に実の母である「碇ユイを取り戻すこと」が含まれた。これは至極当然を極めた。誰にも否定のしようがない。なお、実の父である碇ゲンドウと共通する。母を知らぬ子が母を欲することを咎められるだろうか。いいや、咎めることはできない。
これを前提に設けた。
彼は愛する人の母も取り戻そうと提案する。アスカはシンジの過去を抉らない配慮を欠かさなかった。よって、彼女は自身の母に関して、多くを伝えていない。とりあえず、現世に不在である旨を伝えた。
「いいの? あたしの母さんがどんな人か知らない…」
「僕をここまで愛してくれる。アスカのお母さんは、間違いなく、素敵な人だと思うよ。仮に、そうじゃなくても、アスカと仲直りして欲しいな。アスカを僕にくださいって挨拶もしたい」
「シンジ…あなたは本当に」
アスカの家庭事情はあずかり知らない。しかし、自分ばかりが母を求めることに罪悪感には至らずとも、彼はアスカに対して少しばかりの負い目を感じていた。彼女が尽くしてくれる分をお返しする。最後の一文に本気と冗談を混ぜることで、会話の重苦しさを排除した。
「言われてみれば、まったく、そのとおり。私もシンジのママに挨拶しないとね」
「お互いの母さんを取り戻そうよ。こういうことは片方だけなのは、全然というか、納得できないんだ」
「そんな優しいシンジが大好きぃ!」
まさかの申し出を拒否する理由がどこにある。
アスカは感動を覚えた途端に少年に抱き付こうと試みた。彼女は抱き付く際の勢いの調整を誤る。抱き付きは力の押し倒しに変わった。床はカチカチの鉄製である。少年は頭部を強く打ち付けた。頭部に衝撃が与えられることは、洒落に落とし込めないため、アスカは一瞬で心配に陥る。
心配した直後に幸福が来訪した。
「もう…シンジったら」
彼女が浮かべた焦りと心配の表情は、一瞬にして、恍惚の表情へ切り替わった。彼女が意図したことではない。思わずの反射的な反応だ。力の調整ミスが生んだ押し倒しは、アスカがシンジに覆い被さることを意味する。これに14年の空白が生んだ年齢差に伴う身長差が追加された。
少年は大人の女性の胸部に突撃を敢行する。
「ママにシンジの洗礼を施してね。アタシばっかりなのも考えものでしょう」
「え、アスカのお母さんだよ?」
「この世はシンジを中心に回っている。全てが思うがままなのよ。シンジの欲望は叶え放題なんだから。ママのことも愛してあげて」
アスカの服装は非常に軽装と言わざるを得ない。上半身をレディースのYシャツで下を短パンで包んでいた。これを軽装とする以外の評価を教えて欲しい。もっとも、彼女の軽装は正当な理由が提示された。
というのも、現在のNERVは見渡す限りが廃墟に次ぐ廃墟だろう。そこら中に破損や障害物を確認できた。重ったるい服装は動き辛くて堪らない。本当は特殊作業に対応した作業服が好ましい。荒廃した世界で満足な物品を求めることは贅沢だ。
したがって、NERVで暮らす全員が必要最低限を賄える服装に満足する。シンジは上下ともに学生服だった。上半身は白いYシャツに袖を通し、下半身は学生ズボンを穿いた。渚カヲルもサイズ違いの学生服を着用する。年長者の冬月司令は旧NERVから制服を引き継いだ。
「ごめん。アスカ…」
現NERVにおいて、アスカは最もラフだろう。彼女のYシャツに短パンというスタイルは一切否定しない。しかし、Yシャツを着る際は、何らかのTシャツを肌の間に挟むところ、Yシャツと肌の間に一枚も挟まなかった。ボタンさえ一つも留めていない。したがって、彼女の動きや風に合わせ、Yシャツがヒラヒラと開かれた。シンジはアスカと常時行動を共にし、Yシャツからチラチラと見える彼女に誘い込まれた。
「いいよ。シンジの好きにして」
彼女に覆い被された少年は、逆襲と言うと変だが、一転して攻勢に転じる。
シンジは心ゆくまでアスカを貪り食らった。
アスカはシンジに貪られることを至上の喜びに感じた。
「サード・インパクトは、人類の強制的な進化を果たしました。SEELEの皆様のご理解とご協力を賜りましたこと、あらためて、感謝申し上げます」
「よい、これでよい。我らの望みは人類の恒久であった。それが果たされた以上、我らも永い眠りにつくとしよう」
冬月司令を取り囲む浮遊モノリスは、一つずつシャットダウンされる。
モノリスの赤黒さは灰を経由して白に至った。
「この後はNERVが遂行します。SEELEの皆様は、ごゆっくり、お休みください」
最後の一体まで白色化する。
その場に残されたは冬月司令と渚カヲルだった。
「これでSEELEとの付き合いも終わりましたね。フォースはもうすぐ」
「あぁ、始まるぞ」
続く