赤く染められたドームが巨大なロボットアームの手によって引き破られた。様々なスポーツに使用できるドームを想像した者を裏切るよう、大量の赤い水が津波の如く湧き出ている。本当に津波と勘違いしそうな勢いであり、物にぶつかると盛大な水しぶきを生じさせ、高所で見学する老人を僅かに濡らした。
「エヴァンゲリオン第十三号機はちょうど完成した。彼と彼女なら試運転もならし運転も必要ない。ダブル・エントリーシステムも初の試みであるが、特段の問題はなかろう」
クレーンに吊り上げられるエヴァは拘束具へ移動させられる。その間に出撃の準備と少年と大人の女性がプラグスーツに着替えた。実はシンクロするだけならプラグスーツは不要であり、極端な例では、学生服姿でもシンクロする。
それでは、プラグスーツを着用する理由はは何だ。これはパイロットの生命維持が大きく関係する。スーツは衝撃の吸収だけでない。緊急時の生命維持装置が装備され、エヴァが完全に動けなくなり、回収班の到着を待つまで、パイロットの命を守り抜くのだ。
「はい、これでよし」
「ありがとう」
エヴァ第十三号機の特性からプラグスーツも特製品である。アスカの大人用とシンジの少年用でサイズが異なるため、シンジは大人のアスカに着せてもらうが、これを依存と詰られようが構わなかった。外野は何とでも言えば良い。当人しか知らぬ事情が存在した。手首あたりのボタンを押すと、自動的にジャストフィットされる。プラグスーツはピッチピチとならざるを得ないため、シンジはともかく、アスカの豊満な母性に吸い込まれた。
「帰ったらね」
「うん」
2人は仲良く手を繋いで発進所まで向かって歩いた。NERV本部は廃墟と化している。その大半はダミーの偽装が込められた。エヴァ第十三号機の建造を隠して発進所も機能不全に誤魔化す。しかし、実際はエヴァの運用に不必要な施設を削ぎ落した。エヴァ第十三号機と護衛機の運用の円滑化が図られている。
さて、エヴァ第十三号機も例に漏れることなく、パイロットはプラグに乗り込んだ。驚くべきことに、2本のプラグが交差するように挿入される。これは本機のみが採用したパイロット2名による『ダブル・エントリーシステム』を示した。
何のためなのかは後に明かされる。
アスカとシンジを乗せたプラグが完全に収まり切った。シンクロが開始されると景色が目まぐるしく変化するが、もう慣れたことであり、特に動揺の焦りは生じない。暫く待って外の様子を確認することができた。
「一時でも離れることなるなんて許せない。だから、冬月司令に頼んで、お互いに行き来できるようにしてもらったの」
「すごいや。14年もあればエヴァも進化している」
シンジは自分を中心に右側に置かれ、当然ながら、左側にはアスカが置かれた。2本のプラグが交差する配置な故にご近所さんであるが、なんということでしょう、左側から右側へ又は右側から左側へと自由に移動できる。ただでさえ、パイロットの2名によるダブル・エントリーシステムが革新的だった。それにもかかわらず、お互いが自由に行き来できることは、もう、目から鱗が落ちて止まらない。
シンジの眠っていた14年もの間でエヴァは脅威的で驚異的な進化を遂げた。
(あ、あ。聞こえるかな)
「はい、聞こえます」
「バッチリよ」
ここで冬月司令からの通信が挟まる。私的な会話は一時中断を余儀なくされた。
(よろしい。君達には護衛機として渚カヲルの肆号機を与えた。何か起こった際は彼に任せるがよい。ただし、シャフトを塞いでいるリリスの結界だけは例外である。リリスの結果は二人にしか突破できないよ)
「存じています」
(うん。とにかく、皆の無事を祈っている。グッドラック)
確認事項のすり合わせを完了次第に移動を開始する。NERV本部のセントラルドグマまで一本に通ずるシャフトの入り口に向かった。その入り口からは長大で極々太のワイヤーに捕まって降下している。セントラルドグマの深さは尋常じゃなかった。
「酷い有様だな」
「インフィニティに進化できなかった哀れな者ね。私たちはなり損ないって呼んでる。まぁ、別にシンジに関係することじゃないから」
「そうだね」
セントラルドグマへ通ずるシャフトだが、そこら中にある人型のナニカが視界に入る。アスカの説明では「人が進化した先のインフィニティになり損なった哀れな者」と聞かされた。特にシンジとの関連は薄いため、速やかに思考から除去される。
「ここからは暗いからライトを点けようか」
「あのエヴァは?」
「かつて北米支部が消失した際に遺された。エヴァンゲリオン肆号機ね」
「僕のエヴァはMk-6だったんだ。この種明かしは後にしよう。お楽しみは取っておくべきだね。それより、僕が君たちを守護るから安心して」
第十三号機だけでなく、肆号機もワイヤーで降下した。この肆号機には渚カヲルが搭乗しており、第十三号機と2人の護衛を務める。第十三号機は儀礼用と戦闘力を低く見積もられた。反NERVを掲げたWilleの妨害を鑑みて護衛機を与えて当然である。
その後は任務と手順の再確認を行っていると、ライトが照らす先に青々しい蓋を視認できた。サード・インパクトを起こしたリリスが残した結界と判断するが、これがまた見事に綺麗にシャフトを塞いでおり、14年もの間を誰一人として通さない。
「これがリリスの結界か」
「そうよ。これを破るためにエヴァ第十三号機が建造された。リリスの結界を破るためには純潔な魂が二つ必要だった。そのためのダブル・エントリーシステムということ」
「なるほど」
リリスの結界を突破する手段は「純潔な魂を二つ用意する」の唯一だった。それも面倒なことに作られた魂ではいけない。そして、一個と一個を別々に拵えることも認められなかった。純潔な魂を纏めて二個用意してようやく突破を許される。
「さぁ、この結界を崩すことをイメージするの」
「うん」
アスカとシンジにリリスの結界を突破するための装置が固定された。そして、将棋崩しの要領でリリスの結界を崩すイメージを浮かべる。イメージの歩調を合せることは非常に難しかった。いやいや、この二人にかかれば造作もない。
カーン!
小気味良い音と同時に第十三号機のつま先を中心に据え、リリスの結界はブロック状に崩れ始めている。セントラルドグマまで開通した瞬間の喜びを分かち合った。ここは抱き合いたいところだが、任務を優先して、笑い合うことの留める。
「ここがセントラルドグマか。あれが…リリス?」
「サード・インパクトの首謀者であるリリスの骸だよ。背中には僕のMK-6がある」
巨大な首無しの模型はリリスの抜け殻であり、背中の部分を拡大して見ると、2本の槍に磔られたエヴァの姿を確認できた。渚カヲルが言うには、彼のエヴァンゲリオンのMK-6らしい。Mk-6は全身が白色化していて、とても、生気を感じられなかった。
「Mk-6は自律可能に改造された末にリリスのサード・インパクトに利用された。とても哀れなエヴァなんだよ」
「へ~」
それはともかく、2本の槍を抜き取らなければない。サード・インパクトに次ぐフォース・インパクトを発動させることはできなかった。リリスの骸に向かうため、ワイヤーから飛び降りるが、地面は劣悪を極めている。一帯に人の頭蓋骨が敷き詰められ、趣味の悪い事この上なかった。しかし、シンジとアスカは一寸たりとも嫌悪感を覚えない。
ニアサーもサードも人類の進化と言う救済なのだから。
「あれが目標か」
「ロンギヌスの槍とロンギヌスの槍か。対どころか並行の2本とはね。はぁ、いやなことよ。シンジと私を絶望と評価するの?」
ズシン!ズシン!
頭蓋骨を踏み潰しながらリリスの骸へ向かう。
その時だった。
「なんだっ!?」
「流石に見逃してくれないか」
第十三号機の後方に強烈な爆発が発生する。
「Willeのエヴァが三体かっ!」
敵性エヴァンゲリオンの反応が3体だ。
「碇さぁぁぁぁぁん!」
続く