砂漠化した大地にプラグが突き刺さった。
ガタンという音と共に扉が開かれる。技術が高度に発達した世の中では原始的な操作が行われた。プラグのロックを解除する操作は内側からでない。外側からの操作だ。
眩い太陽光が差し込んでくる。
中の少年は思わず両目を細めた。
「ひどい有様だね」
「フォースは黒い月を完全顕現させた。それが魂の浄化であり、中途半端な形でも、アディショナルの条件を満たしている。この大地が酷い様相でも、創り直すこのよ」
「よいしょっと。リリスの結界の突破や第十参号機の制御に疲れちゃったや」
少年シンジは大人アスカに手を貸してもらう。彼はリリスの結界突破に始まった。Willeのエヴァとの戦闘から第十参号機を覚醒させた。最後にフォースインパクトが収束する。これには疲労を覚えざるを得なかった。自ら望んで人を捨てて神と同義の碇シンジも疲れることはある。
「NERVに帰ったら、今度は、僕たちの式を挙げようね」
「永久不滅の愛を証明する。とりあえず、キスしよっか」
「うん」
この2人とって、たったの数分の別行動すら、望まない離別と言えた。今回は計画から受け入れている。数分の離別を埋めるために砂漠化した大地の上で唇を合わせた。
お互いに両手を回して抱き合い。
しかし、大人アスカと少年シンジに身長差を確認できた。シンジは疲労が蓄積して普段は受け止めるところ、大人アスカに押し倒される格好となり、ザラザラとした砂の上で身体を重ね合わせる。
願わくば、キスから男女の交わりに発展したいが、外野が許すはずもなかった。
「まったく、お熱いこと」
「男女は関係なく、私とあなたも関係なく、お楽しみのところを邪魔するなんて。とてもだけど、褒められないわよ」
「あいにくね。私はガキを引き剥がすことが任務だから」
ゆっくりと立ち上がった先にWilleの少女アスカがいる。彼女は怒りと呆れの混じった表情を浮かべた。明らかに不機嫌な怒声を滲ませている。この場で刺し違える覚悟だ。
「それで?あなたに何ができるの?」
「できる、できない。そんな次元の話じゃないでしょ」
シンジは己の出番が無いと一歩後ろに下がる。Willeはシンジの身柄を拘束したくて堪らない。少女アスカが最先鋒を務める。スタンガンなど非殺傷性の武器から自動拳銃など殺傷性の武器まで手段は問われない。僅か数cmでも距離を置いた方が身のためだ。
「式波シリーズの一体と対話すること。またの機会にさせてもらうから」
「迎えが来たんだ」
「こんなL結界密度が高い地区に迎えが来れるとでも?」
大人アスカとシンジ、少女アスカの3人は、2対1の構図に見える。実際は1対1の対話である。それも次回に持ち越されるようだ。エヴァ同士の武力行使を伴う対話も延期を余儀なくされる。
NERVもWilleも荒廃した大地に長居することは危険と判断した。
WilleはAAAヴンダーが大破と中破の間の大損害を被る。エヴァ弐号機はNERVのエヴァと相討ちし、八号機と五号機が健在と雖も限界を迎えていた。NERVはフォースを発動して黒い月の完全顕現に成功した。相応に消耗を強いられて第十参号機が活動を停止させられた。
お互いにこれ以上は厳しい。
最後の戦いは全てが始まった大地に定まる。
「あれは、まさか!」
「おじいちゃんの迎えがきた」
「NHGシリーズの2番艦こと『Erlösung(エアレーズング)』は既に完成している。あなた達のヴンダーが生命を守る艦なら。わたし達のErlösungは生命に等しく救済を与える」
シンジと大人アスカの背後に舞い降りる美しき巨大戦艦だ。WilleのAAAヴンダーと誤認しかける。正しくはNERVの『Erlösung(エアレーズング)』だった。Willeが保有する巨大戦艦をNERVが保有しないことがあるだろうか。
「それじゃ、また逢う日まで、さようなら」
「僕はいつでも待っているよ。君たちが僕の創造する新世紀を受領する日を」
巨大戦艦に直接乗り込むことは面倒が多いため、無垢のエヴァMk-4が回収に訪れた。回収にエヴァMk-4を用いることも面倒に思われるがご愛嬌と受け入れる。両手で作られた器に乗り込む際に再会を予約した。
「サクラに回収してもらうか」
エヴァMk-4は甲板上に着艦する。
シンジはアスカをエスコートした先に渚カヲルが出迎えた。彼は先に第十参号機から脱出している。いち早くNERVに戻ると、両名の回収を勧め、Erlösungに同乗した。
そして、指揮を担う艦橋まで案内役を買って出る。
艦橋では姿勢を正す老人が迎えてくれた。
「こんなL結界密度の高いところで…」
「老人は老骨に鞭打つ生き物だ。どうせ老い先の短いのだからね。ここで消費しても気にならんよ」
久し振りの再会の場はL結界密度が異常に高い。渚カヲルは平然としているが、アスカは驚きを隠せない。元は人間な故に純粋な人間で老体の冬月コウゾウを案じる。
しかし、老人は労わりをやんわりと断った。
「それより、次のインパクトまで時間がある。その時間は無駄に費やさない」
「地上からNERVまでメチャクチャだけど…」
「NERVは機能を削ぎ落した末の儀礼所が残っている。そこで君たちの式を挙げようじゃないか。2人とも前向きなことは知っている」
フォースは表向きこそ未完である。しかし、Willeも把握している通り、NERVの狙いは黒い月の完全顕現に置かれた。黒い月は見事に地下深くから完全顕現を成功させる。
フォースに次ぐ最後の儀式を発動するまでに準備期間を長く設けられた。儀式の準備に関しては冬月コウゾウと渚カヲルが担当する。シンジとアスカの仕事は皆無でこそないが、原則として、制約のない自由な時間を過ごした。
そこで、老婆心が2人の挙式を後押しする。
「あいにく、ケーキも豪華なコース料理も何もない。2人を祝福するは爺と使徒だけ」
「ドレスもモーニングもなかった。貧相と言われても」
「そんな、僕が文句を言える立場は欠片も」
「良いじゃない。コンパクトな式の方が楽でしょ」
こんな窮乏の激しい世の中に結婚式は常軌を逸した。誰もが想像する豪華絢爛な洋風や古典的な和風は存在しない。その上で参加者はお爺さんと使徒タブリスに限定された。何もかもがコンパクトな式にならざるを得ない。
もっとも、主役の2人は理解を示すを超え、究極的なコンパクトを志向した。
「プラグスーツは残っていますか?」
「そう言うと予想していたよ。初号機用プラグスーツ、弐号機用プラグスーツ。どちらも新品同様だ」
「ありがとうございます。僕とアスカはプラグスーツでお願いします」
「わかった。ただし、私と彼はいつも通りだよ。すまないね」
結婚式の新郎はモーニングやコートに身を包む。新婦はウェディングドレスや白無垢に身を包んだ。新郎新婦は適切を心掛けなければならない。普段着も惜しまれるこの世において、儀礼用の衣服は贅沢の範疇に収まらず、大きな妥協を強いられた。
シンジはプラグスーツを提案している。彼らにとってのプラグスーツは正装と等しい。エヴァパイロット同士の結婚式にプラグスーツを不適当と切ることが不適当だ。さらに、原初のプラグスーツとして、初号機用と弐号機用はクリーニングを受けている。
冬月により新品同様の状態が維持された。
「さてさて、これ以上の詰めは明日以降に回そう」
「身体も心も休めると良い。僕と冬月司令に任せてね」
シンジとアスカはお言葉に甘えて休息を取った。
数時間もお預けにされた濃密な時間を取り戻した。
続く