※本話は私が別作品で投稿したものをベースに作り直した一話ですので、一部の読者様にとて、一度読んだことがあるかもしれません。ある意味で使いまわしかもしれませんが、本作の話の都合上で必要となりました。よって、本話を投稿することといたしました。もちろん、読まないでも全然大丈夫です。
ザ~ッ
ザ~ッ
ザ~ッ
定期的に一呼吸を置いて、赤い海が砂浜に寄っては退いて、寄っては退いてを繰り返している。波を作る海の先には見慣れない構造物が建っていた。何らかのエヴァに見えるが、見た目はボロボロになっていて、辛うじてエヴァと判断できるか微妙なラインにある。
そんな砂浜に少年が1人ポツンと座っていた。
「どこなんだろう。ここは」
まったく知らない場所だった。目の前に広がるのは赤い死の海であるのはわかるが、この砂浜を訪れたことが無い。ここでずっと座っているのもつまらないため、とりあえず移動することにした。延々と続く砂浜でも、きっと何かがあるかもしれない。
ジャリジャリと砂を踏みしめながら歩いていると、突然、やっと自分が知っている者が現れた。
「アスカ?よかった。僕だけかと思って、寂しかったんだ」
一緒に生活しているアスカが目の前に立っている。にこりと笑っている彼女は彼女そのものであって、間違いなくアスカだった。しかし、どこか様子がおかしい。本当に彼女ならば今すぐ話しかけてきて、2人で仲良く楽しく会話することになるはずだ。それを考えてシンジは強い安心の気持ちを覚えている。
「あれ、アスカ?どうしたの?」
なかなか喋ろうとしない彼女。なんだからやけに無口だと訝しく思う。せめて、動くだけでもいいので反応をして欲しかった。彼の気持ちが伝わったのか、彼女は笑顔のままで、こちらににじり歩み寄って来た。
「なんだよ。いじわるだなぁ」
なんだ、アスカのいつもの意地悪か。このようにシンジは分析した。毎日一緒に過ごしている2人だが、彼女は頻繁にちょっかいをかけることが多かった。人との交流が少なく寂しい思いをすることが多かった彼にとっては、たとえ意地悪でも嬉しいものである。よって、今回もそれだと判断するのが順当であろう。
だが。意地悪にしては度が過ぎるとも言えた。
「ア、アスカ。嘘と言ってよ」
ゼロ距離の眼前に迫ってきて彼に抱き着こうとした瞬間に、彼女はパシャっと四散した。何よりも残酷な方式。体内の物がまき散らされるとか、そんなチャチナな子供だましではない。やや濃いめのオレンジ色の液体になって、周囲に散らばったのである。現実的ではないからこそ、彼の心に突き刺さる凄惨な光景だった。生活を共にしている家族が四散する形で、命が還元されることは何よりも耐え難い苦痛だった。彼はこみ上がってくる嫌悪感と逆襲を始めた体液を必死になって止めようとする。
悪い意味で全身から力が抜け、膝から崩れ落ちてしまった。砂にまみれてしまうことになるが、先の出来事のショックと比べれば、気にすることは到底不可能である。このままで終われば本当に良かったが、そうもいかないのが世の常というもの。周囲の光景が目まぐるしく変わって、高度に編集された短い映像が連続して流される。
自分の知る人物が、クラスメイトが、NERVの職員が、全員が先のアスカと同様に四散するだけ。目を背けようとしても、まるで金縛りにあったように体が言うことを聞いてくれない。否が応でも見せつけてやると言わんばかりに。
「苦しい…やめてくれよ。わかった。僕が悪いんだ。そうだよ、僕が悪いんだ!これは僕への罰だって言いたいんだろ」
いったい彼は何を言っているのか。なぜ、彼が悪いのだろうか。彼はエヴァに乗って使徒を撃破することに成功していたから、何も悪いことはしていないはず。むしろ、誰からも手放しに誉められることでしかない。そう、その通りなのだ。
でも、本人には微かな記憶があった。
遠く遠くの昔、一人の少年が世界を亡ぼしたことを。
愛する人を救えず、誰も救えず、自分が他者を拒絶したことで世界は書き換えられたことを。
後の世界で、少女から「気持ち悪い」と言われてしまったことを。
「はぁ…はぁ…」
映像は終幕を迎えた。金縛りから解放されて、やっと動けるようになる。しかし、体は疲労困憊の状態であり、四つん這いになるのが精一杯にあった。息を整えようとして深呼吸を何度も試みる。体感で10分以上、何回も深呼吸をしたことで、なんとか呼吸は正常に戻ってくれた。
「もういいんだ。ここで苦しむぐらいなら」
少年は覚悟を決める。その足取りはフラフラとしながらも、一歩一歩着実に進んで行っていた。この砂浜は本当に永遠に続いている。いくら進んでも、何にもならないように思われた。それは彼も理解できていたため、砂浜をなぞることはしない。
砂浜から離脱しようとしている。
そう、彼が向かう先は死の海だった。まっすぐ海へ向かって行く。両足が波によって濡れる。それを全く意に介さず、ただただ海に向かった。次第に足場は深く深くなっていって、終いにはつま足が底と着かなくなってしまう。それでも意に介さない。もう、どうとでもなれ。
「僕もそっちに行けるかな…」
足が着かなくなったことで、自然に彼の体は海に引きずり込まれる。飛び込みの要領で綺麗な直角で入るわけがなく、海と平行なうつ伏せで引きずり込まれる。全身が海水に包まれ、呼吸が不可能になる。苦しみが襲ってくる。でも、構わない。このままいけるならば。早く意識が完全に途切れないかと無抵抗を貫こう。
「えっ、誰?」
海の底へ沈んでいくはずなのに、なぜか体が持ち上げられる感覚を覚える。その力は恐ろしく強くて、抵抗しても無駄らしい。恐る恐る、閉じていた目を開ける。誰かの人が自分の身体を抱きしめていた。この世界には自分一人だけのはずなのに。
「シンジ」
「母さん?」
一気に海から引き上げられた。
「はっ…夢だったんだ。それにし…」
急に目が覚めた。そこは見知っている、自分が生活している部屋だった。なんてことはない、ただの夢だったらしい。
しかし、夢の中で感じた謎の感覚は何だったのかと思えば、あの感覚をもう一度覚える。まさか、これも夢なのか。ふと視線を横に移すと、日常的に一緒に寝ているアスカがいた。そして、彼女は自分のことをがっしりと抱きしめている。あの夢と同じだ。さらに、寝言らしい声で自分の名を呼んでいる。なるほど、この現実世界の行動が彼の夢に干渉していたということだ。シンジは疑念に対応する答えを得られたし、まだ時間があるしで、このまま二度寝をする。
ずれた毛布を直してから寝直す。すっと意識を失って、眠りの状態に戻る。
「私だけのシンジ…ずっと一緒よ」
アスカは良い笑顔でつぶやいた。
続く