シルバーとナッシュがキセキの世代達と戦う少し前。
ここアメリカのロサンゼルスにて話題になりつつある二人組がいた。
「やったな、大我。また俺たちの勝ちだな!」
「ああ辰也!」
二人の少年が、滴る汗を拭いながら笑顔を浮かべて拳をぶつけ合う。
日本人である二人は若くして、ここ異国の地で日に日にバスケの実力を伸ばしていっていた。今では二人は自分たちの体格を上回る本国の相手に全く引けを取らず勝利を重ねていくほどである。
彼らの強さの理由は大きく二つあり、まず一つ目は師匠であるアレックスの存在だ。WNBAでも活躍した彼女の適切な指導のおかげで、二人のその才能を正しく導くことができていた。
そして二つ目。これが特に二人に大きな影響を与えていた。
ジェイソン・シルバーとナッシュ・ゴールド・jrの存在だった。
今や二人はアメリカのバスケ界の話題の中心にいると言ってもいい。
火神と同い年である彼らは、同世代が相手では誰一人として追随を許さないほどの圧倒的実力を誇っている。
既に将来はプロ入りが確実とされ、どこのチームが彼らを確保するかという話すら出ているほどだ。
そしてその実力もそうだが、二人が注目される理由は他にもある。
シルバーもナッシュもその強さに驕れることなく、誰よりも努力し強くあろうと必死であったのだ。決して今の自分には満足しない。そう彼らは言っているのだ。
そんな二人の姿勢に、バスケ大国であるここアメリカで同世代の若者達が感化されない訳がなかった。
自分も負けていられない。
そう感じたバスケプレイヤー達は、これまで以上に自己研鑽に励みシルバーとナッシュを超えてやると息巻いた。
火神も氷室もその例に漏れず、アレックスにより練習を厳しくするよう頼み、毎日肉体の限界を迎えるまで、バスケの腕を磨くべく全力を注いでいた。
その甲斐もあって、その実力はめきめきと伸びていったのだ。
「今の俺たち、かなり強くなったよな! この辺じゃもう敵なしだ!」
「ああ、そうだな。毎日アレックスの地獄みたいなメニューをこなした成果が出ているな。」
「このまま二人でどんどんと強くなっていったら、すぐにシルバーとナッシュにも勝てるようになれるんじゃないか?」
「……はは、どうだろうな?」
火神が笑いながらそんなことを氷室に問いかけるも、氷室はなぜか急に歯切れ悪く、そう濁した。その様子を火神が訝し気に思った時だった。
「……へぇ? 誰が俺に勝てるって?」
地から響くようなその声には聞くものが押しつぶされそうなほどの重圧と迫力が込められていた。事実、火神と氷室はその場に凍り付いてしまう。
「……な、お、お前は。」
「……ジェイソン・シルバー?」
声のした方向へ目を向けると、自分たちの何回りも大きな体躯を備えた大男、ジェイソン・シルバーがいた。
同じ年だとは思えないほどの迫力があり、見た目以上に大きく見える。
不敵な笑みを浮かべながら傍までやって来たシルバーは火神と氷室をじっと見つめると一言。
「バスケしようぜ?」
「……はぁっ、はぁ!」
「……くっ!」
数十分後、シルバーの前には悔しさに燃える火神と氷室がいた。
突如始まった一対一。
火神と氷室は交代でシルバーに挑み続けるも、一度たりともシルバーから勝利を勝ち取ることができない。
パワー、スピード、テクニックそのすべてでシルバーは二人の遥か上の次元にいた。当然の結果であった。
常人ならその圧倒的実力差に心が折れてしまう状況。
しかし、この男は違った。
「まだだぁっ!」
咆哮をあげ、疲労に包まれた体で再び立ち上がる。
そんな火神を見たシルバーは嬉しそうな反応を見せる。
そしてまた火神も歓喜していた。
自分たちが目標にしていたシルバーという人物が、本当に自分が超えるべき壁たらしめるということを確信できた事。
そんなシルバーが今目の前にいるという事実が火神を燃え上がらせた。
「ここまでの強敵初めてだ……。絶対勝ってやる。」
ギラギラした戦意の籠った瞳でシルバーを捉える。
火神は無意識の内に極限の集中状態に近づきつつあった。
限界を超えないとこの男には絶対に敵わない。
それを体が理解し、本能的に火神を限界の壁の向こう側へと押し出そうとしていた。
それは一対一を重ねるごとにシルバーも感じる。
火神の肉体はかなりの疲労を感じているはずだ。それにも関わらず、その動きはどんどんと加速していく。
いつの間にか周りにできていたギャラリーの中に火神の動きに付いていけない者が出てくる。
しかし、それでもシルバーから一本を奪い取ることはできない。
だが火神は諦めずに食らいついていく。
そして、その時はとうとうやって来た。
火神の中で音が消えた。
疲労も感じない。
目の前の男に勝つ為の情報だけを加速した意識で理解する。
今なら何でもできる。そんな万能感が全身を包む。
自分が持つ能力を余すことなく100%引き出す『ゾーン』へと入ったのだ。
それまでの数段上のスピード、パワーでもってシルバーに襲い掛かる。
覚醒した火神は容易にゴールの目前まで迫る事ができた。
後はこれをゴールに叩き込むだけ。
しかし
「最高だな火神! それでこそ……」
……それでも。
それでもシルバーは火神の前に立ちはだかった。
後もう一歩だった。
火神が放った強烈なダンクシュートは、さらに強烈な力を込めたシルバーの手によってブロックされてしまう。
その反動で火神は吹き飛ばされてしまい尻餅をつく形で倒れこんでしまう。
「……なっ!?」
信じられなかった。
今、自分は確実にこれまでの人生の中でも絶好調な状態だったといえる。
それなのにシルバーには通じなかった。
その事実に呆然としてしまう。
「よう、楽しかったぜ。特に最後の一本。あれはヒヤッとしたぜ。」
気づくとシルバーが目の前にいた。
彼は屈託のない笑顔を火神に向け、手を伸ばしてきている。
その様子はまさに純情な少年のようであった。
先ほどまでとのあまりの変わりようにポカンとしてしまう。そのシルバーに引き付けられるように無意識的にその手を掴む。
すると、ぐいっと物凄い力で起き上がらされる。
シルバーは改めて火神と氷室を見つめてくると喋りかけてくる。
「この辺で腕がたつバスケプレイヤーがいるって聞いて来たが、来て正解だったぜ。」
嬉しそうにそう言うシルバーを見て火神はふと思い出す。
ジェイソン・シルバーについてある噂がある。彼には人を惹きつける何かがあり、彼の周りには人が集まるのだとか。
その理由が分かった気がする。
火神は負けて悔しいと思う反面、これまで以上にいつかこの男に勝ってやりたいと強く思っていた。
「……今日は負けちまったが、いつか勝って見せるぜ!」
そう心からいう事ができた。
そんな火神の言葉にシルバーはニヤリと口端を上げると、じっとこちらを見つめてくる。
「……なあ、火神。俺と一緒にチームを組まないか?」
「……え?」
今、なんて言った? チームを組む?
突然の提案に理解が追い付かず頭の中が真っ白になる。
「チームだよチーム。俺は火神が気に入った。一緒のチームでプレイしてみたいと思ったんだよ。火神にとってもいい話だろう? チームになればいつでもお前の相手をしてやれるぜ?」
だんだんと状況を理解してきた火神は自分が高揚していることに気付く。
まずシルバーほどの男が自分のことを認めてくれたことが純粋に嬉しかった。それにシルバーの言う通り、シルバーと共にあれば自分はより高みへと駆けあがることができる。そう確信した。
「ああ、勿論だ! むしろこっちからお願いしたいくらいだぜ。」
火神は自然にそう口にしていた。
「……よし、決まりだな。氷室、お前はどうだ?」
「勿論、一緒にチームを組むよなっ! 辰也!」
「……。」
声を掛けられた氷室は、呆然とした様子でそこで立ち尽くしていた。
そんな氷室の様子の異変に火神はすぐさま気づき、「……辰也?」と心配そうに声をかけるも反応はない。
目の前で大我が覚醒する光景を見て俺は悟った。
自分と大我の才能の差に。
薄々と感じてはいた。
しかしそんなものは気のせいだと自分に言い聞かせていた。
それにもし才能に差があったとしても、足りないものは努力で埋めればいいと。
しかし、今日シルバーと火神の対決を目の前で見て、二人と自分の間には超えられない壁があることを確信した。努力では決して超えられない壁を。
火神と共に高みを目指し続けていたまだ少年である氷室の心をへし折るには、この事実は充分すぎた。
「おーい、聞いているか?」
「っ!? あ、あぁ……。」
気づけばシルバーがこちらを覗き込んでおり驚いてしまう。
「そうか? で、どうだ? 俺とチームを組んでくれるか?」
……どうしてシルバーは俺をチームに入れたがる?
からかっているようには思えない。
大我なら分かる。大我はいずれその才能を発揮し、活躍する時が来るだろう。
だが俺は……。
シルバーほどの男が俺と大我の才能の差に気付いていないとも思えない。
もしかしたら大我だけをチームに招き入れるのが気まずかったのかもしれない。
……なら簡単だ。
「……俺では力不足だ。」
自分でもびっくりするほどの小さな声で俯きながらそう答えた。
バスケは大好きだ。強くもなりたい。
そして大我とも一緒にバスケを続けていきたい。
だがそれに見合うだけの才能が俺にはない。
「何言ってるんだ??」
しかしシルバーからは素っ頓狂な口調でそんな言葉を返されてしまった。
顔を上げると、『本当に何言ってるんだこいつ』みたいな表情を浮かべこちらを見つめるシルバーがいた。
その様子にこちらも混乱してしまう。
するとシルバーは俺の両肩を物凄い力で掴んでくると「……はぁ」と深い溜息をつくと、ギンッと力強い目で俺を射抜いてくる。その目は血走っており、はっきり言ってかなり怖い。
「いいか? 俺は氷室と一緒のチームとしてバスケをしたいと思ったから誘ったんだ。実力なんか関係ねえよ。俺はバスケが大好きな奴と一緒にバスケをしたいんだ。氷室のプレイを見ていたら分かる。お前は俺が今まで見たどんな奴よりもバスケに打ち込んできている。あ、でもナッシュには及ばないかもな……。まあ、あいつは病気か疑うくらいの狂ったバスケ馬鹿だから除外だな、うん。まあ、とにかく俺はバスケ馬鹿なお前とバスケをしたいんだよ。それにお前が実力がないなんて言ってたら周りの奴に殴られるぞ? まあ確かに火神と氷室にはちょびっと才能に差があるかもしれないがそんなものは関係ない。……と、色々言ったが俺は氷室、お前と一緒のチームとして戦いたいと思ってるんだ。まじで。俺の言いたいことが分かるか?」
「……あ、あぁ、じゅ、充分に分かったよ。」
その剣幕は凄まじいもので、氷室は圧倒されてしまう。
なぜシルバーがここまで俺に入れ込んでくれているのかは分からない。だが、シルバーが本気でそう言っていることだけは分かる。
シルバーは嘘を言っていない。というか確実に嘘をつくのが下手くそなタイプだろう。
まだ火神との才能の差を自覚してしまったことへのショックは残っている。だが、それ以上にシルバーほどの男がここまで自分のことを買ってくれているということへの嬉しさがあることも確か。
……そりゃあ俺だって大我と一緒にプレイしたいし、シルバーという男と一緒に駆け上がっていきたいさ。
答えは決まった。
「……分かった。そこまで言われたら断れないな。これからもよろしく頼むよ。」
「よし、その言葉を待っていたぜ!」
その表情は本当に嬉しそうで見ているこちらが恥ずかしくなるほどであった。
そんなシルバーを見て、これまでと同じように……いや、これまで以上に努力していこうと心から思えた。
「あ、そうそう。火神に氷室、チームを組むって言っても組むのは高校一年になってから日本でだからな? その時に敵になって立ちはだかってくる奴らは本当に強いからな。お前らも今まで以上に死ぬ気で練習しとけよ? じゃあ、また色々連絡するからよろしく。」
「「……え?」」
こうして火神と氷室の両名がチームに加わることになった。
おっしゃああ!!
火神に氷室と同じチームで戦えるぜぇ!!
俺、シルバーは、最高潮に喜んでいた。
主要キャラである彼ら二人に出会えただけで歓喜極まるというものだ。そこにさらに、今後一緒に戦えるとか嬉し過ぎてどうにかなっちまいそうというものだ。
ニヤニヤしていたのがばれていなかったか心配である。
……それにしても火神、あれ完全にゾーンに入ってたよな?
まだ中学生の段階であそこまでのレベルに到達しているとは恐れ入る。多分だけど、原作より成長スピードが速いと思われる。100%自分の影響だろうが。
まあ、全力で勝ちに来るキセキの世代を迎え撃つには、それくらいしてもらわないと困るというものだろう。
本当、高校の時に一緒に戦える時が楽しみでしょうがない。
一方で氷室にチーム加入を断られた時は心臓が止まるかと思った。
俺は、氷室と言う男が好きだった。
……キャラクターとしてって意味だからな?
だって、キセキの世代や火神のような才能に恵まれなかったにも関わらず、膨大な努力の果てに、キセキの世代と遜色ないほどの実力を備えたとか格好いいと思わないか?
正直、黒子のバスケの登場人物の中でもトップクラスで好きと言っても過言ではない。
そんな氷室と一緒にチームを組みたいと思うのは自然なことだろう。
まあ、最終的には氷室もチームを組んでくれるって言ってたし完璧だな。
やや強引だったかもしれないが、こちらの熱意が伝わってくれたに違いない。
……さて、ナッシュも日本に来ると言っていたからこれで、五人中四人は確保できたわけだ。
中学生のキセキの世代達は、モチベがなく、チーム内の協調性も無い。俺とナッシュがいれば余裕で勝てることだろう。
だが問題はその後。
自分達でも敵わない敵がいると分かれば、彼らは全力で努力し、力を合わせてくるだろう。そうなるとその強さは未知数。
こちらもそれに迎え撃つために、最高のチームを組む必要がある。
火神と氷室はまさにうってつけの人材と言えるだろう。
残りは一人。
正直、あてはある。
キセキの世代と渡り合えるだけの実力を持った者を。
……でも俺、あいつあんまり好きじゃないんだよなぁ。まあしょうがないか。
そんなことを心の中で呟きながら、シルバーは単身日本に向かった。
五人目まで書きたかったけど、時間かかりそうだったのでとりあえずここまで。
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