キセキの世代の敵であろうと思う   作:naonakki

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第三話

 ……日本か、懐かしい感じがするな。

 

 自身には前世の記憶は無いが、日本の街並みを見て懐かしさをを覚えるという事はやはり前世は日本人だったのかもしれない。

 まあ、日本語が喋れてた時点でそれは分かってはいたが。

 しかし、まあ予想はしていたが……。

 

 すげぇ注目集めてんな、俺。

 

 まだ中学二年生ではあるが、既に身長は190cmを超えており、ごつい体躯を備えた俺は道行く人々皆に振り返られた。

 それに日本人は身長が低いから余計目立つんだよな。

 

 ――さて、早速、帝光中学に向かうとしますか。

 

 俺が想定する五人目の候補。

 

 それは、『灰崎祥吾』。

 

 黄瀬涼太が現れるまで、キセキの世代の五人目だった男である。

 身体能力は勿論、他人の能力を奪う『強奪』を使いこなし、バスケプレイヤーとしての実力は申し分ない。本作でも黄瀬を追い詰める活躍を見せていた。

 しかし、スポーツマンシップに欠ける部分があり、喧嘩っ早い所や練習のさぼり癖が酷いといったことから本作ではヘイトを集める存在として描かれていた。

 そして俺もそんな灰崎のことは、好きではなかった。

 では、なぜ五人目に灰崎を選んだのかと言うと理由はしっかりある。

 勿論、実力があるというのは大きな理由の一つではある。

 だがそれ以上に――。

 

 似てるんだよな。本作の俺と。

 

 粗暴である。練習をさぼる。実力はある。

 うん、やはりそっくりだ。

 でだ、俺は中身が変わり、バスケに打ち込んだ結果、本作の俺以上に力をつけることができた。

 

 じゃあ、灰崎は?

 

 灰崎も心を入れ替え、バスケに真摯に打ち込むことができたなら、それこそ黄瀬にも負けないほどの実力を身に付けることができたのでは……?

 確信は無い。赤司も黄瀬の方がポテンシャルが高いみたいなことを言っていた気がする。

 しかし少しでも可能性があるのなら、それに賭けてみたくなるのが男ってもんだろ。それに、実力的にもキセキの世代に対抗できる筆頭候補であることに間違いは無い。

 

 しかし、灰崎は今、ちょうどバスケをやめたばかりのはずだ。そうなると灰崎がバスケをやってくれるかどうかは、バスケに対して情熱を持っているかどうかが最終的に鍵になってくる。

 確か灰崎は、バスケにさして興味が無く、ただの暇つぶし程度でしかないと言っていたはずだ。

 それが真なら灰崎を仲間に加えることは不可能だ。

 

 だけど、俺には灰崎が完全にバスケに興味が無いとは思えないんだよな。

 さぼり癖があったとはいえ、途中まであの厳しい練習を行う帝光中学のバスケ部に所属していたのだ。バスケに対して、全く情熱を持っていないような奴がこなせるものだったのだろうか? 紫原だって、最初はバスケに興味無いとか言っておきながら、結局バスケが大好きだってことが判明したわけだしな。

 とはいえ、この辺りは本編で語られていなかった部分でもある為、確実性は無い。ただの俺の勘である。

 

 

 

 ――ただ、俺の勘って結構当たるんだよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後になり、俺はまっすぐ靴箱に向かいそのまま帰宅していく。

 部活を辞めてから、しばらく経つがこの一連の流れにももう慣れた。

 帰る際に、校舎の壁にかけられている垂れ幕が目に入る。そこには、バスケ部が全中で優勝したことが書かれていた。

 足を止め、じっとそれを見つめる。

 

 ……優勝したか。まあ当然だな。

 

 そんな感想と共に、放課後や休日に部活でバスケをしていた記憶が蘇ってくる。

 しかし、すぐに思考を止め、垂れ幕から視線を外し正門へと向かっていく。

 俺にはもう関係の無いことだった。

 

 

 

 ……ちっ、こういう日に限ってどいつもこいつも。

 

 仲の良い女子に連絡し、適当に遊ぶつもりだったが、運悪く全員予定があるときたもんだ。

 携帯の画面を見つめ、イライラする気持ちを隠しもせずに、たまたま傍に落ちていた空き缶を前をよく見もせずに思い切り蹴りつける。

 それは勢いよく真っすぐに飛んでいき止まった――いや、受け止められた。

 

「おいおい、危ないだろう? こんな町中で空き缶を蹴るんじゃない」

「……あぁ? ……って!?」

 

 自分を注意する声に威嚇を込めて返答するが、前方にいる人物を確認し、驚き固まってしまう。

 自分を遥かに上回る身長を持ち、その全身は鍛え上げられた筋肉によって包まれていることが服の上からでも分かった。その全身から、溢れんばかりのエネルギーから放たれているようだ。

 目の前の人物が只者でないことは一目瞭然だった。

 日本人ではない様だが、流暢な日本語をしゃべっていたから日本に住んでいるのかもしれない。

 驚いたものの、それでも俺はすぐに冷静さを取り戻す。

 

「……おいおい、誰だか知らんが俺は今機嫌が悪いんだよ。とっとと失せな」

 

 シルバーを相手に物怖じせず、そう言い放つ。

 対するシルバーは、そんな灰崎の態度には特に気にした様子を見せることも無い。

 

「まあ、そう言うな。俺はお前に用があって来たんだ。灰崎祥吾」

「あ? なんで俺の名前を? というか俺に用?」

 

 目の前の大男が自分のことを知っていたことに違和感がある。

 ……前にどっかで会ったか?

 いや、こんな奴に会ったらそうそう忘れはしない。

  

「あぁ、そうだ。俺はジェイソン・シルバーだ。それで灰崎、単刀直入に言うが、一緒にバスケのチームを組んでほしいと思ってな。こうして誘いにきたわけだ」

「……バスケだ?」

 

 意外な提案に面食らってしまう。

 やけに体格が良いと思ったら、バスケをしていたようだ。この威圧感、そして体つき、恐らく相当な腕前のはずだ。

 ……それこそ下手すればあいつらよりも。

 だが、そんなことは関係ない。

 『バスケ』、それは今、一番聞きたくない単語だった。

 

「――っは、何を言うかと思いきやバスケだ?」

「ああ、そうだ。灰崎、お前のことは知っている。是非、お前の力を借りたいと思っている」

 

 目の前のシルバーとかいう男を見つめる。

 その様子は至って真面目であり、冗談を言っているわけでは無さそうだ。

 

「いきなり訳の分からないことをペラペラと言いやがって。なんで俺がお前なんかに協力をしねえといけねえんだ?」

 

 ここで、これまでテンポよく受け答えしていたシルバーが少し黙る。

 そしてやや間をおいて、口を開く。

 

「お前もよく知っている、『キセキの世代』と呼ばれる者を倒すためだ。時期は二年後。俺たちが高校に入ってからだ」

「は? ……あいつらを?」

「……そうだ。元、お前のチームメイトをだ。俺は今メンバーを集めている。もう高校も決めている。――という高校だが、ここのバスケ部に入部し、キセキの世代達と戦うことを考えている」

 

 ようやくシルバーの目的が分かった。

 経緯は分からないが、あいつらをやっつけたい。だから俺の力を借りたいというわけか。

 まあ、俺も周りからはあいつらと同格だなんていわれ続けてきて、バスケの世界ではそれなりに名も売れていた。それでこいつも俺の元に来たのだと思われる。

 それにある程度、こちらの事情も知っているようでもあるようだ。

 

 ……なるほどな。

 

 ようやく合点がいき、納得がいった。

 それなら俺の回答は決まっている。

 

「ふざんけんじゃねえ。誰がてめえなんかに力を貸すか、失せやがれ」

「……そうか、残念だ」

 

 シルバーの本当に残念そうな言葉に返答することもなく、俺はその場を後にし、帰路へとついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一日経過した今になっても未だに信じられない。

 

 全中が終了し、バスケ部を引退してまだ日も経過していないこの頃。

 虹村にとって、部活を行ってきた三年間を振り返っても、おおむね満足できるものだった。

 

 そんなわけでここ最近は、比較的晴れやかな気分で過ごしていたが、昨日、それを上回る大きな出来事が起きた。

 父の病気が完治したのだ。

 父の病気は難病であり、いつ倒れてもおかしくなかった。

 俺が中学卒業後には、治療のためにアメリカに行くことを予定していたほどだ。

 

 突然だった。最初、病院から連絡があったのだ。

 最初は父の容態が悪化したのだと、心臓が止まりそうになった。

 しかし、次の瞬間言われたのは、父の病気が突然完治したと聞かされたのだ。

 最初は呆気にとられた。

 その後、すぐに病院へ行き、医者から説明を受けた。病院側もなぜ完治したのか不明であり、奇跡が起きたと言っていた。

 

 親父に会って話してみたが、病から解放された親父の表情は晴れやかであり、「今まで迷惑をかけてごめんな。もう心配はいらないからお前のやりたいことを全力でやってほしい」と言ってくれた。

 

 そんな夢かと思うような出来事が起きて、いまいち現実感が無いのが今までである。

 しかし、一日も経つと流石にだんだんと現実を受け止めてくるものだ。

 

 ……俺の好きなことを全力で、ね。

 

 父の言葉を頭の中で繰り返し、考えてみる。

 真っ先に思いつくのは、バスケだった。

 最後の全中。自分なりには全力で取り組んでいたつもりだった。

 しかし、やはり心のどこかで親父のことが心配な自分がいて、100%集中しきれていなかった自分がいるのも事実。

 だからこそ、俺は赤司に主将の座を譲ることを決意した。

 

 ……そうだな、今度はまじでバスケ一本に集中して、敵としてあいつらの前に立つのも悪くないかもな。

 

 飛びぬけた素質を持ち、全中でも優勝に最も貢献した六人の後輩の姿を思い浮かべる。六人は間違いなく今後のバスケ界を背負っていく存在になる。

 これまでは味方としてしか接してこなかったが、自分だってバスケプレイヤーとして、強敵と戦いたいと思うことは至極当然だった。

 

 ……そう言えば、灰崎の奴。どうなったかな。

 

 こらからの未来に待ち受けることを想像し、期待に胸を高めさせる俺だったが、ふと、灰崎の事を思いだし、暗い気持ちに襲われてしまう。

 中学の部活動において、一つだけ後悔がある。

 

 灰崎を導けなかったことだ。

 

 父親のこともあり、いっぱいだったこともあるが、あいつのことを見きれなかったことは俺なりに責任に感じていた。

 灰崎は、性格が歪んでいる部分があり、さぼり癖もある。しかしその実力は本物だった。

 赤司は、黄瀬の方が潜在能力が優れていると見ていたらしいが、俺は灰崎も負けていなかったと思っている。

 ただ、あいつは感情的になりやすく、暴走してしまうことがあるだけなのだ。そんな灰崎のことをしっかりサポートできる存在がいればあいつは、もっと輝けていたはずだと俺は確信している。現にあいつは、黄瀬が現れるまで他の奴らと同格の実力を有していた。

 その灰崎は部活動を退部した。

 赤司から事の顛末は聞いたが、俺は納得しきれていなかった。

 勿論、灰崎が心底バスケのことをどうとも思っていないようなら俺も好きにすればいいと思っている。

 だが、灰崎は間違いなくバスケが好きだ。口では真逆の事を言っているが、俺にはそれが分かる。

 

 ……俺がもっと見てやれれば良かったんだがな。

 

  

 

 学校からの帰り道、部活を引退した俺は真っすぐ帰宅していたわけだが、目の前に見慣れた姿を見つけた。

 

 ――あれは灰崎?

 

 先ほどまで思い浮かべていた人物が目の前にいて、奇妙な偶然を感じつつ、近づいていく。どうも灰崎は誰かと喋っているようだった。

 

 ――って、灰崎と喋ってる奴って!?

 

 俺はそいつが誰だかすぐに分かった。

 

 おいおいおい、ジェイソン・シルバーがどうしてこんなところに!?

 

 それは、アメリカのバスケ界で急激に有名になりつつある選手だった。アメリカのバスケ情報もちょくちょく仕入れている俺だったが、そんな俺でも知っているほどの有名人だ。

 

 ……で、でけぇ、あれで俺より年下とか、どんなだよ。

 

 予想しない出来事に興奮を隠し切れないが、すぐにそんなシルバーが何を灰崎と話しているのかと疑問が浮かんでくる。

 様子から見て揉めているわけではなさそうだが、仲良く喋っているようにも見えない。

 様子を見る意味も含めて、近くにあった電柱の陰に隠れ、会話を聞いてみる。

 

 

 

 そこで俺は、シルバーが赤司達六人を倒すために仲間を集めていること、そのために灰崎を誘っていたことを知った。

 

 ……なんだよ、あいつらと戦うためにシルバーが仲間を集めているって。

 滅茶苦茶熱いじゃねえか!

 

 俺はシルバーの話を聞きながら興奮を隠しきれていなかった。

 俺がシルバーに注目しているように、シルバーもまた、日本でめきめきと頭角を現しつつある赤司達に注目していたのだ。

 

 赤司達とシルバーの対決。

 それは間違いなく胸の熱くなる戦いになると断言できた。

 

 ――俺も見てみたい。

 いや、見るだけでいいのか?

 

『お前のやりたいことを全力でやってほしい』

 父の言葉が蘇る。

 

 そうだよ、見るだけなんて冗談じゃない。

 ……俺も。

 

 そんなことを考えていると、灰崎が「ふざんけんじゃねえ。誰がてめえなんかに力を貸すか、失せやがれ」、そう言い捨て、去っていくのが見えた。

 

 ……そしてあいつのことも今度こそ。

 

 去っていく灰崎の背を見て、俺は決意した。

 俺はシルバーの元へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……だめだったか。

 

 去りゆく灰崎の背を見て、溜息が出てくる。

 灰崎を加入させることができるかは賭けであったが、失敗してしまった。こうなってしまった以上、勧誘を続けても無意味だろう。

 

 まあ、灰崎がいなくても俺たちがいく高校には有力な選手もいる為、戦力的に不安があるわけではない。

 しかし、それでも灰崎にいてほしかったというのが正直な感想だ。

 

 ……それにあいつからは、やっぱりバスケに対する想いが少なからずあるように感じた。

 だが、何が灰崎の中で引っかかっているのか、それが俺にはわかないのではどうしようもない。

 

 勿体ないと思った。

 ……まあ、しょうがないか。

 

「よう! ジェイソン・シルバーさんよ。ちょっといいかい?」

 

 俺が、灰崎のことを諦めかけた時だった。

 背後から、明るい口調でそう声を掛けられ、振り向く。

 そこには、帝光のバスケ部のキャプテンとして赤司達を導いて来た虹村修造がいた。

 

 

 

 この虹村との出会いが、俺が想定していた以上のチームを作り上げることに繋がることになるとはこの時は思いもしなかった。

 




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