割物語   作:折合夢見

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さて、どうしたものか。

 

何か面白いことない?

と、友人に言われてしまったのでこうしている訳なんだが。

 

特に何もない。

 

いや、あるにはあるが。

 

うん、これ以外無いな。

 

 

では、とある一つの物語を綴るとしよう

 

 

が、その前に、

これだけでは前置きが短すぎるので

適当に語っておこう。

 

ガラスの皿でも、コップでもいいのだが、

そんな感じのものを思い浮かべてほしい。

 

壊れ易いもの、というより割れ易いものというのは

広く使われている。

 

それは何故だろうと問われれば、

量産しやすいという理由が一番に出てくるだろう。

 

割れても代わりがある。

 

ただし、割れてしまったものと

決して同じものではない。

 

どれだけ割れてしまったものに似せて作っても、

それは結局、新しく創ることと変わらない。

 

どれだけ精巧に作れる職人や機械があったとしても、

ミスやズレは出てきてしまう。歪な形に歪んでしまう。

 

見た目だけ完璧な別物。

 

それが特注品だったりすれば尚更だ。

 

これから僕が語る、

騙る物語は、

そんな物語。

 

ヒビが入って、欠けて、終いには割れてしまった、

姉妹の物語。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

勉強しない事と勉強を休む事は似ているようで

結構違う。

 

「勉強をしない」は、ただ無意味に時間を過ごすだけであるが、「勉強を休む」は、次の勉強の為に英気を養う行為である。

 

よって…

 

 

 

 

 

今僕が大学で先生の話もロクに聞かず、

熟睡しているのも勉強を休んでいるだけである。

 

 

授業終了のチャイムが鳴る。

 

チャイムの直後に先生から

他の人より多めに課題を渡された。

(具体的には2倍くらい)

 

何故だ。

 

と、まあ

 

そんなことはさておき。

 

何がそんなことで何をさておくのかは分からないが。

 

現在地は某大学のフリースペースの一角。

僕はそこで優雅にお茶を飲んでいた。

 

今はいわゆる昼休み。

そこかしこで、談笑しつつ昼食を食べる学生を見かける。

 

「またかい?河隈 雪(かわくま そそぎ)さん?

君も懲りないよね。」

 

と、一人の男性が話しかけてくる。

 

「今時フルネームで人を呼ぶ人はそう居ないよ…

小沼 深谷(こぬま しんや)くん?」

 

君みたいな僕っ娘の方がよっぽど珍しいけどね、

と隣に座りながら彼は言う。

 

彼は小沼 深谷。

高校からの付き合いで

高校ではクラス委員長をやっていた。

スポーツ万能・成績優秀・質実剛健の模範人間だ。

そんな彼の周りからの評価はいわゆる "天才" である。

 

そして僕の名前は河隈 雪。

 

ショートカットで男口調なので

初対面の人に時々男と間違われる。

 

それ以外はこれといって特徴のない影の薄い女だ。

 

「雪さん、君も、いや、君は懲りないねえ。

その性格を治す、直す気はないのかい?」

 

「直す気はあるけど直らないと思うよ。深谷君。

というか、英気を養っているだけなんだけどね?」

 

「雪さんの場合はただ怠けているだけだよ…」

 

なんと。

 

僕が一番気にしていることを。

 

 

しかし、

真面目に不真面目な僕に話しかけてくるなんて、

深谷君ぐらいのものだ。

 

天才はやっぱり暇なのだろうか?

 

「そんなことはないよ、雪さん。

僕は天才じゃないし、実は結構忙しい。」

 

サラッと言われた。

 

「僕は努力している、し続けているだけなんだ。」

 

………

 

しかし、それだって一種の才能だ。

天から授かった才だ。

努力し続けることが出来るというのは。

 

努力し続けることができる人間は意外と少ない。

 

「…まあいいや。それはそれとして。

毎日毎日僕に話しかけてくるけど、君は飽きないのか?」

 

「飽きないさ。それどころか、話すたびに

新しい発見があるくらいだよ。

とても面白いし、とても興味を惹かれる。」

 

僕にそんな意味を見出さないでほしい。

 

というか後半ちょっと気持ち悪い。

 

なんなんだこの親友。

 

まあ、親友と言ってもこっちが

一方的にそう思っているだけだが。

 

「それに、見た限りでは僕以外とは

あまり話していないみたいじゃないか。」

 

「………」

 

「あえて言わせて貰うけれど、

雪さんって友達少ないんじゃないかい?」

 

言わないで欲しかったなー

 

ただまあ、深谷君の言う通りである。

 

僕は友達が少ない。

 

しかし、これは昔からそうなのだから

どうしようもない気がする。

 

何というか、あれだ。

 

友達を作ろうとしているのに友達が出来ないという

事が起きてしまっている。

 

なんて、

そんなことを言うとまたお節介を焼かれそうなので

黙っておこう。

 

「さて、無理矢理話が変わるけど雪さん。

この大学の七不思議は知ってるかな。」

 

「ああ、図書室の不気味な影とか、

夜1時以降に入ると恐ろしげな音楽が流れるとか?」

 

七不思議、と言っても一つ足りないので

六不思議だが。

 

しかしまあ、大学生にもなって七不思議というものを耳にするとは思ってもいなかった。

 

どんな世代・時代にも、そういう根も葉もない噂が好きな人間はいるのだろう。

 

「それが今回の "七つ目" はどうも根も葉もあるみたいなんだよねえ。実際に、複数人からの目撃証言が同じ時間に何度も上がっているんだ。」

 

「よくある見間違いとかじゃ…」

 

「逆に聞くけど、"複数人" が "同じ時間" に "何度" も "同じ見間違い" をするなんてことあると思うかい?」

 

…無いだろうな。

 

この手の噂話が広がったとして、噂を確かめるために何人かが確かめに行ったとしよう。

 

それがただの噂であり、見間違いから始まったものならば、同じものを見る者はいないし、仮に同じものを見たとしてもそれはごく少数であり、ただの見間違いである。

 

所詮噂は噂、なのだ。

 

それが噂として留まらず、事実として形成されつつあるということは…

 

「…それで?そんな話を僕に聞かせて一体どうするつもりなんだ?」

 

猛烈な嫌な予感。

 

こういう時の僕の予感は大抵当たる。

 

その予感が噂話に対するものか、彼のこれから発せられる言葉に対するものかは、分からないが

 

 

 

 

 

「いやなに、雪さんと一緒に"七つ目の噂話"を確かめに行こうと思ってね。」

 

 

 

 

 

少なくとも、

今回の僕の予感ははたして当たったらしい。

 

 

 

 


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