呪われた剣を押し付けられ、装備が外れないようです〜虐げられた男は理不尽を呪い殺す〜   作:フライドポテサラ

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12.人生って

「みんな、よく聞いてくれ。お前達にはいずれ、早くて来月、町へと旅立ってもらう」

 

「え?」

 

「町へ……? そんなの急すぎるよ!」

 

 神妙な面持ちの両親と、わけがわからないような表情の兄弟達。彼らの心情の差が、溝と称せられるばかりに広がっていく。

 

「皆の言いたいことは分かっている。……これから全て話すから、よく聞くんだ」

 

 

 それからスティードは今までの出来事を淡々と語り始めた。

 それは端的に言ってしまえば、ニルスに呪剣を与えたのは、治療師に扮した魔石教団の団員だったこと。そしてリゼットの占いによるとこの村はいずれ滅ぶという内容だった。

 

 そもそも母親に占いが出来たという事実すらニルス達にとって初耳だったのだが、突然の独白に事態を受け入れられない。

 

「村が滅びる……?」

 

 真っ先に顔をしかめたのはユーリだった。この村に良い思い出があるわけではないが、それでも生まれ故郷を失うというのは些か大きいことのように思えた。

 

「ああ。だから近い内にお前達はここを出ていくんだ」

 

「そんな、冗談だよね?」

 

 ユーリは信じられないといった表情でスティードを見る。そもそもなぜそれほど重大な事実を淡々と述べられるのか。

 

「はは、俺は今でもそうであってほしいと願ってるけどな」

 

 その口振りからすると運命からは逃れられない、諦念にも似た感情のようなものがそこにはあった。

 だからこそ、あらゆる感情は捨て去ったのだろう。息子達を逃がすという優先事項に専念するために。

 

「ただの旅行だよね? お父さんもお母さんも、準備ができてるんだよね?」

 

 続けてリナが懸命に訊いてくる。狼狽が表れてか、自身でも言っていることの意味を見失いつつあった。ただ、村に残るつもりでいる両親にも共に逃げてほしかった。

 そう思っての懇願だった。

 

「あたし達はここに残って村を守るよ」

 

「どうして⁉」

 

 願い叶わず、リナは叫ぶ。

 いつだって、両親とは一緒だった。今までも、これからも、だから彼らのいない日常など想像もできない。

 

「リナ、ごめんな。これは俺達のわがままなんだ」

 

「わが……まま……?」

 

 リナは目に涙を浮かべて父を見上げた。それは、自分がしてきたことの通り返しなのかと、小さく胸が響いた。

 

「一度は冒険者として戦いに身を置いた以上、俺達にとって戦いから逃げることは死んだも同然なんだよ」

 

「それにさ、久しぶりにこういう試練みたいなのが与えられると体が震えちゃったりすんのよ」

 

「それは……恐怖で、だよね」

 

 自身の拳を見ながら武者震いをするように笑うリゼットに、ユーリが確認するように尋ねた。

 もし恐怖を感じているのであればやはり共に逃げてほしいと祈るが、両親は答えず、話を続けた。

 

「父さん達のわがままを許してくれ」

 

「そんな……そんなプライドみたいなもののために命を捨てることなんかッ――」

 

「お前にもわかる日が来るさ」

 

 両親はそれだけ言って、彼らの元を去っていった。できることなら彼らと共に居てやりたい、だが、リゼットの占いには彼ら両親が村の壊滅とともに死ぬことも予言されていたのだ。

 

 当然、占いが絶対というわけではない。回避の術はないこともないが、自分達が子供達といることで彼らにも危害が及ぶことを恐れたため、苦しくも離別の道を選んだのだ。

 振り返った彼らはやるせないような悔しい感情に表情を歪ませた。

 

 

 そして一月も経たずしてその時は訪れる。

 

 

 ニルスが昼食をとっていると、村の入口付近で爆発が起こった。

 すばやく立ち上がったのは両親。彼らはいざという時のために作っておいた森への隠し通路へ息子達を誘導する。

 

「こっちだ」

 

 その気迫に彼らは黙ってついていく。ただただ、恐怖を感じていた。

 

「ニルス、まずどこへ行くか、分かってるな」

 

「分かってるけど……」

 

 逃げ出す際の引き取り先は既にニルスに伝えてあり、彼もそれを了承していた。

 しかしニルスは最後まで逃げる気のない両親に困惑する。村人にも疎まれているここには、未練と呼べるものもないだろうに、それほどこの村を愛しているのだろうか。

 

「僕は戦うよ」

 

 言ったのはユーリだった。彼は下を向きながら剣を持つ手に力を入れている。

 とはいえその手は震え、迷いが全く無いようには思えなかった。

 

「駄目。あんたがいなかったら誰がリナとニルスを守んの?」

 

「……」

 

 だから、ユーリの決意はリゼットの言葉で簡単に揺らいだ。

 続いてリナが前に出て泣きながら訴える。

 

「お母さんは⁉ 一緒に逃げないの……?」

 

「うーん、リナちゃんのわがままが直ったら母さんも一緒に逃げられるかも」

 

「うん、いい子にする……! もうわがまま言わないからぁ……」

 

 リナは嗚咽を漏らしながら苦しそうにも声を絞り出した。こんなことならいい子に過ごしていれば良かったと後悔した。

 

「よしよし。それが約束できるんなら母さんもすぐ追いつけるように頑張るよ」

 

 リゼットがリナの頭を撫でると、少女はこくこくとしきりに頷いた。

 

「ニルス、この子達を頼む」

 

「……分かった」

 

 ニルスはどうにも納得できないでいたが、リナに危険を負わせてしまうのも事実。父からの言葉を素直に受け取り、涙を拭うリナの手を引いて家を去った。

 立ちすくんだままのユーリに父が声をかける。

 

「ニルスのこと、頼んだぞ」

 

「あの子はあんな体しといて無茶するからね」

 

 そう言って両親は家の外へ出ていく。ユーリがそれを追おうとすると、腕を掴まれた。

 

「いまさら説得しようとしても無駄だ。早く逃げないと俺達まで巻き添えを食らう」

 

 そうだ。本当に生き延びてほしいならばこの数日間、必死に説得すべきだった。ユーリは、自分が今更都合のいいことを言っているだけに過ぎないと、気づいた。

 そして彼は見た。兄が一番悔しそうな表情をしているのを。自分の事ばかりを考えていては駄目なのだ。ユーリは頭を振って顔を上げた。

 両親に言われた通り、兄を、支えなくては。

 

「急ごう」

 

 ニルスが先導し、村から離れた場所にある、森林地帯まで地下道を進んだ。

 いつの間に両親はこのような手の込んだものを作っていたのかと彼は思うが、スティードが既に逃げる算段をつけたと言っていたのはこのことも含めてだったのだ。

 ここまで掘り進めるのは中々に骨の折れる作業ではあったが。

 

 

「おやおや、こんなところに……」

 

 森林から出てしばらくして背後から声が聞こえてきた。振り返ると体長がユーリの身長の2倍ほどもある魔獣と魔石教団の白い外套を羽織った団員らしき人物が立っていた。

 

「狼の鼻というのはやはりよく利きますね。始めはあらぬ方向へ行くので何事かと思いましたが」

 

 その者の言っていることは理解できる。だが酷く場違いであるような気がした。まるで、ペットの散歩中のような緊張感の無さにユーリは少し苛立ちを覚える。

 もっともこちら側は迫る死の恐怖から逃れようと必死になっているため、温度差があって当然のようなものだったが。

 

「ほう、しかも呪剣の方でしたか。そしてその兄弟と」

 

 彼はニルスの背負う剣を見てどこか嬉しそうに告げた。そしてユーリ達を舐め回すように視界に収める。

 

「まさかここまで逃げているとは。全く、親子共々厄介な相手ですね……」

 

「親子……? 父さん達をどうしたんだ!」

 

 親、その単語が出てきた直後にユーリの間欠泉は突破される。無意識か、剣が抜き去られその切っ先が団員へ向けられる。

 

「殺しましたよ。我々の指示に従わなかったのですから」

 

「……嘘だ。そんな簡単に父さんがやられるはずない!」

 

 ユーリは冷静でいられなかった。その理由の一つにリナが得体の知れない魔獣を見て泣き喚いてしまっていることもあったのだろう。

 

「ええ。それは分かっていましたから、数を揃えて襲ってあげましたよ」

 

「……嘘、だろ?」

 

 もし、ユーリが冷静になれていたら、相手の言っていることに囚われず、嘘だと決めつけて戦っただろう。感情に飲まれては戦いもままならない。

 それ故に、端から交戦が目的であるならば、事の正否ではなくいかに精神を安定させるかが重要なのだ。

 

「冥土の土産に教えてあげましょう。あなた達の両親は数体のケルベロスに囲まれ、その無尽蔵の体力にやがて勢いを失って倒れた。最後まで睨んできましたがねぇ。それで、なぜ体力が尽きなかったか知りたくありませんか?」

 

「黙れ!」

 

「魔石ですよ。村に貯蔵されていた魔石を食わせたんです。この種のケルベロスは魔石を体内へ飲み込むと、その魔力を吸収して自らの力と変えてしまいますからね」

 

 魔石教団団員が不敵に口端を上へ持ち上げる。

 彼ら自身、魔石を使うことを禁じるべきと訴えるのに、自分達のこととなると眼をつぶるのだった。

 だがその矛盾に気づけないほどにユーリは冷静さに欠いていた。

 

「黙れと言ったはずだッ!」

 

 彼は真っ直ぐにその信者へと地を蹴った。しかし彼はずっと同じ表情でこちらを傍観したままだ。

 

「危ない!」

 

 その声がユーリの耳に届いた時には既に遅かった。目の前に魔獣が、凄まじい速度で迫っていたのだ。

 次の瞬間、ユーリは鈍い音とともに勢い良く飛ばされ、木へと体を打ち付けられる。

 

「うぐっ……!」

 

 呻いたのはユーリではない。ケルベロスに腕を噛まれるニルスが発したものだった。

 ニルスは怒りで我を忘れた弟を突き飛ばして、代わりに魔獣からの攻撃を受けた。そして噛まれた方の腕とは反対の腕でケルベロスの首を押さえた。

 

「兄さん!」

 

 ニルスが押さえている間も三つ首の魔獣は未だ自由の利く頭部で噛み付いて抵抗している。

 兄のお陰で幾らか頭の冷えたユーリは魔獣と魔石教団の立ち位置を確認する。やや標高の高い、全体を見通せるような場所で傍観する彼は自ら戦闘の手段をもたないのか。

 

 ユーリはそう思うが、違うようだ。

 

「安心してください。殺し切るつもりはありませんから。まあ、殺さない保証もありませんが」

 

 ユーリは彼の狙いがわからないでいた。彼の「全てはあなたの活躍次第ですよ」というニルスへ向けた言葉からすると、呪いと関係があるのかもしれなかった。

 ただ、クククと奥歯で笑う魔石教団信者を見ていると異常なほどに腹が立ってくる。

 

 ユーリは深呼吸をし、精神を整えることにした。次で、必ず決めると。

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