呪われた剣を押し付けられ、装備が外れないようです〜虐げられた男は理不尽を呪い殺す〜   作:フライドポテサラ

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8.イチャイチャ斬

 その後も同様にして盗賊達を斬り捨てていくと、一際豪華な部屋があった。装飾は金色が多く、あまり趣味が良いとは言えないものの主張としては悪くなかった。

 

「あぁん? あいつらは何やってんだ」

 

 このような場所までむざむざ侵入を許してしまうとは、そこまで使えない部下だったかと頭目は眉間に皺を寄せる。ましてやこんな、まだ子供から片足を抜け出したばかりの彼らに。

 

「……殺る気は十分みてえだな」

 

 しかしやはり盗賊団を統括するものとして彼はそれなりに頭が使えた。人は見かけによらないものだと理解し、ニルスに舐めてかかり、無闇に襲ったりはしない。

 

 ニルスが睨んだために頭目は静かに立ち上がったのだが、ところが実際にはニルスが見ていたのは奥の壁に掛けられている呪剣だった。

 

 その呪われた剣は盗賊団にとって価値のない物だった。気づいた団員の一人が危うく捨ててしまうところを、頭目が装飾として気に入り、部屋に飾った。まさにドス黒く他人の所有物を盗むことを生業としている彼らにはお似合いだっただろう。

 

「賞金首が偶然いたとありゃラッキーだぜこれは。……って坊や達はなんだ?」

 

 すると部屋へ立ち入ってきたのは茶色くシックな色合いの羽根帽子と腰に鞭を下げた青年だった。

 

「まあいいや、俺はあんたの首をもらいに来たんでね」

 

「はっ。次から次へと、いつの間にここはパーティ会場に変わったんだ?」

 

 頭目を見ながら口角を上げる青年に、彼は皮肉を言いつつ机を飛び越えた。

 そして右手を上に向けると白色の光が集まり、剣を象る。賞金稼ぎらしい青年も今気づいたことだが、今まで得物を手にしていなかったのだ。

 

「何だ……? 魔法か?」

 

「これを知らないようじゃ、あんちゃんは大したことねえな」

 

「なんだか知らないけど、物凄いものってのは理解した」

 

 彼は目つき鋭く、腰から打ち出した鞭で牽制する。それに合わせて振り下ろされた頭目の白色が革を断ち切ってしまう。

 

「……切り口が焼けたように、ってことはその剣、凄く高温なのかね」

 

 冷静に分析を加えつつも警戒は怠らない。口に出したのはわざとで、推測が当たれば動揺を、外れても慢心が誘えると見込んだ。精神が揺らげば隙が生じる。彼はそれを狙った。

 

「外れだな。ま、観察眼はたいしたもんだ」

 

 頭目は率直な感想を述べる。その表情に変化が見られないことから、簡単に油断は誘えないらしいことが窺える。

 

 その最中、ニルスは二人が争っている間に呪剣へと近づく。しかし見逃されるはずもなく、先程と同じ白色に近い色合いのナイフが飛んでくる。

 不思議なのは時折、ナイフが何色とも取れない、虹色のように見えることだ。

 それを瞬時にニルスは右手で受け止める。すると掴んだ部分から力が抜けていくような感覚に陥った。

 

「ほう、幼いのにマナの使い手か。どうりで奴らがやられるわけだ」

 

 どういうわけかナイフを手に取ったニルスを見て頭目は感心していた。ニルスには心当たりはまるでないというのに。

 さらに手の中にあったはずのナイフもいつの間にか霧散してしまった。

 

「故意でなくよそ見をしてくれたとあれば、攻撃するしかないな」

 

 透かさず賞金稼ぎが前へ出る。一般的な人種ならば武器を切ってやるだけで戦意を失うものだがこの男は一味違うようだと頭目は警戒を強める。

 繰り出される右手。その手には松明の光を反射して鈍く輝くナイフが握られていた。頭目は怯みもせず作り出した剣で迎え討つ。

 

 しかし次の瞬間、攻撃の軌道を変えて身を低く青年が脇腹を切り裂いた。それでもその動きに僅かに身を反らし、対応してしまう頭目の身体能力は眼を見張るものがあった。損傷は僅かに衣服が切れた程度。

 

「なっ!」

 

 突然彼は振り向いて飛び退こうとする。決して警戒を怠っていたわけではない。それなのにそよ風のような僅かな動きで強大な力を操るとは何事か、と開いた口が塞がらない。

 瞬間、地を伝う大きな揺れ。呪剣をアシュレイに支えられながら掴み、地面に亀裂を入れるニルスが、そこにはいた。

 

 攻撃はそれだけで止まない。強く叩きつけられた剣により体勢を崩した頭目に、アシュレイが呪剣を手放し素早く肉薄、その胸に剣を突き立てた。

 頭目は黄の剣を不定形に変えるとアシュレイの剣先に持ってくる。硬い物質らしく、それだけで刃は通らなくなった。

 

 今度はニルスが剣を捨て、アシュレイの手に重ねて自らも押し込んだ。自身が直接攻撃を加えることはできない。だがこうして支えて力を入れることならば、容易だった。

 

 ニルスの呪いという際限の見えない空間で育まれた筋力が、頭目の防御をかいくぐる。甲高く何かが割れるような音がしたかと思えば、その剣は既に肉を貫いていた。

 

「マナを、使わず……?」

 

 盗賊団の首領は目を見開いて驚愕を浮かべ、その表情のまま倒れ込み、動かなくなった。

 

「マナ、か。確か大気中に含まれる魔素のことを言うんだっけ。それをどうして『使う』って話になるのかね」

 

 青年が告げる。知識の中にその名はあっても、やはりあの男の言動はわからないものだった。

 

「おっと失礼。俺は賞金稼ぎのエリック、君らは同業者かい?」

 

「いや、違います」

 

「ただ返品の催促に来ただけ」

 

 催促にしては随分と派手に暴れていることに、エリックは少々苦笑しながらも続けた。

 

「なら、こいつの首はもらってくよ」

 

「はあ、どうぞ」

 

 とどめを刺したのは自分ではないのに、おこがましく手柄を全て持ち去ろうとするあたり、賞金稼ぎという人種はこういうものかとニルスは皮肉にも感心した。

 

 彼はすぐに立ち去り、ニルス達もそれに準じ、目的を達成したため早々に帰ることにした。

 

 

――――――――

 

 

「いらっしゃいませ! おや、人間さんですか。こんなに遠くまでようこそ。ぜひぜひ旅の疲れを当宿で癒やしていってくださいね。それで、どちらからいらしたんですか?」

 

 よく喋る少女だ、とニルスが気後れしているとアシュレイが素っ気なく答えた。

 

「知らない」

 

「えぇ! 知らないだなんてそんなぁ! 私、何か怒らせちゃいました?」

 

「ごめん、そういうわけじゃなくて……。一応、エレロの町から来たってことになるかな」

 

「エレロですか? エレロって確か、王都からより遠いじゃないですか! それはまあ、さぞお疲れでしょう。早く休んで……あ、先に宿泊の手続きですよねすみません」

 

 そう言って代金を要求したり、宿の簡単な説明を始めた少女の頭をニルスは見る。羊の角を生やしている彼女は、一纏めに言うと魔族という分類になるらしい。

 

 ここ、ベスティアは魔族の領地に位置する村で、王都へは比較的最も近くに存在するため王都の商人や冒険者にもよく利用される。

 

 魔族には人間を忌み嫌う者は多くない。その大半が中立的、次いで穏健派が見られる。その実、人間を敵と認識しているのは魔族を統べる王、読んで字のごとく魔王とその側近ぐらいのものだろう。

 

 問題は人間側で、休戦協定が結ばれた今はいいとしても、王都の人間はいつ動き出すか分からない。そのような会話が受付の奥から聞こえてくる。

 恐らく、ニルス達が訪れたためであろう。「俺達は関係ないんだから平和に暮らしてえよ」と嘆いている。

 

「ねえ、さっきの子、どう思う?」

 

 ニルスが考えに耽っていると鍵を握ったアシュレイが問いかけてくる。

 

「え? 話好きなのかなとは思ったけど……」

 

 アシュレイの突然の問いに、ニルスは戸惑いながらも答える。そんな彼にアシュレイは突き詰めるべく質問を重ねる。

 

「可愛いかった?」

 

「まあ、可愛らしいとは思ったけど」

 

「見た感じニルスに気があった。もし言い寄られたらどうするの?」

 

 始めのうちはニルスも質問の意図がわからないでいたが、それを理解するとアシュレイに向き直って告げた。

 

「断るさ。俺にはアシュレイだけで十分すぎるよ」

 

「知ってる。ニルスは一途だから」

 

 アシュレイは目線を逸しながら僅かに紅潮する。普段から呪いを克服しようと励む姿に、彼の性格が浮き出ていたのだ。実際は彼をからかってみただけだったものの、言葉にして伝えられれば嬉しいものだった。

 

「でも、私がニルスのものみたいな言い方、気に食わない」

 

「え……」

 

 ニルスは動揺する。もっと言葉を選ぶべきだったか。

 

「一方向じゃない。私にだって、ニルスは大切だから」

 

 そんなことを平気で言ってしまう彼女に、ニルスはたまらなく愛おしく思った。

 

「あの、そういうのは他でやってもらえませんか? 終始まる聞こえだったんですけど。後ろ並んでますし早く部屋に行ってください」

 

 目の前で勝手に繰り広げられる訳のわからない劇に受付の少女は不快だった。とはいえ最後まで止めなかったのは彼女なりの良心というところか。

 

 

 

 部屋へと追い払われてしまい、ニルスが仕方なく寝る仕度をしているとアシュレイがぽつりとこぼした。

 

「本当に私でよかったの?」

 

 ニルスはアシュレイを見る。窺うようなその表情は不安気な雰囲気を帯びている。

 

「私は、この手で人を殺してしまった。あの子みたいに女の子らしく振る舞うこともできない、野蛮……」

 

 見ると手が小刻みに震えている。先に手を打たねば殺されていた、そう考えればその時は本能でどうとでもなったが今になって肉を切る感覚が呼び戻り、どうしようもなく精神を蝕んだ。

 ニルスはそんな彼女の手を上から手を重ねる。

 

「俺はアシュレイ自身に惹かれたんだ。それがたとえ野蛮だからって考えを変えたりしない。アシュレイのためなら俺はどんな悪事でも働いてみせるくらいにさ」

 

「極端すぎ。……でも、嬉しい」

 

 そしてすぐに「この雰囲気のまま押し倒される?」と口にしたアシュレイを安静に寝かせ、ニルスも床についた。

 

 今抱いている思いはいつか大きくなったときに、そう考えた。アシュレイもニルスがそのような反応をすることは分かっていたため、今はすべきことを少しでも早く達成できるようにしよう、と心に決めた。

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