次の日。テイオー、ルドルフ、スズカの三人はクレナイが退学なんて気を起こさないように外堀を埋め始めた。
具体的には、学内新聞や学外の新聞にまでクレナイが退学の意向を見せていることを掲載したのである。もちろんファンやウマ娘のみんながそれに驚くとともに、辞めないでくれという声を上げ始めた。
トレセン学園に入れない外部のファンは門の外から声をあげたり手紙を出したりというところだったが、寮に入れるウマ娘はみんなクレナイの部屋に行って辞めないでくれと声をあげた。
大半のウマ娘はまた一緒に走りたいとかトレーニングしてもらいたいとか、退学したらさみしいと告げた。一例を上げると、以下のようになった。
・また一緒に飛行機見たい(マヤノトップガン)
・研究はどうする(アグネスタキオン)
・お姉ちゃんがいなくなるのは嫌だ(カレンチャン)
・お姉様と走りたい(ライスシャワー)
・一緒に長距離に向けたトレーニングを(ミホノブルボン)
・チームメンバーなのに一緒にトレーニングしてない(スペシャルウィーク、ダイワスカーレト、ウオッカ、ゴールドシップ、沖野トレーナー)
・もっと甘やかしたい(スーパークリーク)
・ダンスの指導を(ナイスネイチャ、ニシノフラワー)
・憧れの先輩とまた並走したい(キタサンブラック、サトノダイヤモンド)
・レースは楽しいよ(ハルウララ)
・友達もさみしがる(マンハッタンカフェ)
・またお茶会を(メジロマックイーン)
・お魚釣ろー?(セイウンスカイ)
・粉もの料理研究はどうするんや(タマモクロス)
・さんざん生徒会に迷惑かけてるんだもっと手伝え(エアグルーヴ、ナリタブライアン)
・もっとトレーナー談義を(桐生院トレーナ)
・トレーナーが寂しがる(ハッピーミーク)
さすがにここまで言われて退学しますなんて言える心の強さを持っていないクレナイは公式に退学しないとの声明を発表することになった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「まさか、あの娘達がこんなことするとはね・・・」
車椅子から何とか松葉杖に戻ることができ、私は既に完治したといわれた両腕から軽いトレーニングを始めた。走るかどうかは別として、このままだとテイオー、スズカ、ルドルフに何かされたときに対応できないと、軽い身の危険を感じていたから。
あの娘達、暇があれば私のとこに遊びに来てはべったりくっついてこようとしたり、私の治療具合を見たり、治った後のトレーニングメニューを考えようとしたり、世話を焼こうとしたりとほんとすごかった。いえまあ世話を焼いてくれるのはうれしいのだけれど、だからって添い寝したり、必要以上にスキンシップ取ってきたり、どんどん部屋に私物を置いていくのは、ね?
そのまま腕にある程度の筋肉が戻ったころ、足の方も何とか治って普通に歩けるようにはなったものの、走るためのリハビリはあまり進んでいなかった。
アグネスタキオンや主治医(メジロマックイーン家のではない)と話してわかった結論は、私が走ることに対して何かの忌避間を持っているからということみたい。
それなら理由はわかる。多分練習して、鍛えて、トレーニングして。そのうえで以前の速さを取り戻せなかったら、どこかを故障してしまったら。それが怖いんだろう。それこそ、勝手にATフィールドを・・・いえ、これ以上はやめておきましょう。
そうして少し過ぎたころ、私を訪ねてくるくるウマ娘がいた。
「久しぶりだね。あの有馬以来になるのかな」
「ええ、そうね。あの有馬では1着おめでとう」
「すごい皮肉に聞こえるね。君が転ばなければ勝負はわからなかったというのに」
訪ねてきたのはオウカだった。あの有馬で私に勝つと宣言し、私の事故があったとはいえその通りに勝ったウマ娘。
確か、あの後私を見たことでトラウマを負って走れなくなり、最近スズカのおかげでようやく復活、最近また成績を上げているウマ娘とか聞いた記憶がある。一時期あの勝利についても色々言われていたらしいけど、どうにか立ち直ったみたいね。少しその過程が気になるわね。
「で、あなたが何で私を?」
「キミに走ってほしいレースがあって、それを伝えに来た。有馬。もう一度、有馬でボクと勝負してもらいたい」
「・・・走るかどうかはおいておいて、何でかを聞いてもいいかしら?」
オウカはこくりと頷いて続けた。
「あの有馬で、ボクはキミに勝てなかった。あの事故が無かったら勝てていたかわからない。でもキミが転んだからボクが勝ってしまった。それだけがずっと心に残っているんだ。
ボクはあの有馬の後、一度走れなくなった。直線に入ると、どうしてもキミの姿が頭に浮かんできてしまってね。今でこそ何とかなったが、それでも心残りを晴らしておきたいんだ」
ふむふむ。
「悪いけど、うんと頷くことはできないわ。今あの時と同じに走れるとかわからないし、何よりも今私はろくにトレーニングが進んでないし」
「それ、キミが勝てなくなるのが怖くてトレーニングできてないって聞いてるけど?」
「・・・」
誰だこればらしたの。ルナか、ルナなのか? いやルナはそういうウマ娘ではない。一番ありそうなのはスズカだけど、スズカには言ってないはず。
「あなた、勝てないのがそんなに怖いの?」
「ええそうよ、私は勝てないことが怖い。その辛さが私には怖い」
「だからもう走らない? 挑戦も試しもしない? あれだけの成績を出したウマ娘がこんな臆病だったなんて」
なんか無性に腹が立ってきた。
「有馬走りなさいよ」
「嫌よ」
なんか腹立たしい。
「走りなさいよ、トレーニングしなさいよ」
「・・・(イライライラ)」
「・・・(じーっ)」
真顔で視線を向けてくる。それで私の何かが切れた。
「やってやろうじゃないのこの野郎!!!!!!!」
私がそう叫んだ途端、オウカがニヤッとした」
「今のセリフ、録音しておいたからよろしくね。有馬、楽しみにしてるよ」
それを聞いた私はこう叫んだ。
「くっそ載せられたああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」