「しかし、貴様まさかこんな手段でレースに出るとはな・・・」
「いいじゃないの、理事共の要求は満たしたんだし」
生徒会室で優雅に紅茶を飲みながらエアグルーヴ、ルドルフ会長と話をするクレナイ。
「しかし、まさか理事共の弱みを握って、トレーナーからの指導を受けないことを条件にレースに出る、ただしチーム所属とは公にしないとはな」
「ああ、最初君からそれを聞いた時には目を見開いたぞ」
「だって、これくらいしかみんなが幸せになる道はないもの。それにスピカが嫌いというわけではないのだから」
クレナイが建てた悪だくみとは、書類上はチームに所属している現在の状態をそのままに、実際のトレーニングは自力で行うというものだった。元々理事共は前話で書いた通り、クレナイが指導を受けないとレースには出さないと言っていたのだが、これは自分の保身(許可をして何か起こったら責任問題になりかねないと考えていたらしい)などもあり主張していたのである。それを知ったクレナイは自前の行動力や交友の広さを最大限に駆使。その結果、理事共の弱みを握ることに成功。そちらの弱みを公にしない交換に、調べた弱みを世間に秘めるということでレースへの参加権を得ることに成功したのである。
秋川理事長は責任問題など関係なく、すべてを一人でやりことに心配していたようだが、クレナイの想いなども聞いたうえで全責任を負うと宣言して許可を出した。理事長のウマ娘を思う心が垣間見えるエピソードではないだろうか。なおチームに関しては、今までの名前貸しの事実はなかったことにした方がいいと判断した生徒会、理事長、クレナイ本人、発案のゴルシの全会一致で伏せることになった。所属チームについては書類は空欄に。チームについての質問には一切に応じない。また学園側もその情報については外に出さないということで決着した。
そうして出たメイクデビューでは見事に圧勝。Make debut!で初センターを飾った。完璧にセンターを踊り切った後の取材で、所属チームの話題が出た時はすべてに対し黙秘を決め込み、また秘密とした方が面白いという論調をどうやってか作り上げ、結果謎の多き、だが確実な力を持つウマ娘のクレナイという感じで名前が広がっていった。レースをこなしていけば、ファンの数も鰻登りとなり、やがては日本を代表するウマ娘になるのではといった期待も寄せられている。
「しかし、これが知れたらあのトレーナー、泣くんじゃないか? スピカの存続に協力し、だが対価を受け取ることなく一人でレースに万進する。そして自分はクレナイの責任を負うことは無いとなったら」
「大丈夫よ、グルーヴ。そうならないように、ここを含めた学園の首脳側に話はつけたのだし」
今のところ、クレナイのチーム情報については情報封鎖が完了している。
「今帰ったぞ・・・ってなんであんたがここにいるんだ」
「お帰りなさい、ブライアン」
と、ここで会長から指示された仕事を終えたナリタブライアンが部屋に入る。
「今日は私も生徒会のお手伝いよ。みんなで仕事終わらせたから、お茶会しているの」
「ああ、そうだ。クレナイがいるとほんと早く終わるからな」
と笑顔をクレナイに向けるシンボリルドルフ。君も早く座って休むといいとブライアンに告げ、そのまま4人でのお茶会に突入する。
「しかしクレナイ、君は本当に速いな。実はあの時、生徒会のメンバーと君が何位になるか予想したんだが、みんな一着の予想で予想にならなかったぞ」
「ああ、本当だ。ここで貴様をもっと導けるトレーナーがいたらと思うと、悔しくてかなわん」
「まあ仕方ないわよ。トレーナーも人材不足なんだし。どこかの職業と一緒で、優秀な人程逃げてくブラックって有名だもの」
以前生徒会の手伝いをして知ったことだが、トレセン学園のトレーナーは人材不足だ。というのも、平日朝から夜まで担当ウマ娘のトレーニング。土日はレースとなり、下手すれば24hいつでもトレーニングできます、トレーニングメニュー考えられますなんて職場。学校の先生なんかと同じく時間外労働当たり前の超絶ブラック、愛がないとやっていけないなんてまことしやかに言われている。それなりの給料が払われているといっても、最近の風潮にはそぐわない。当然まともな人は辞め、愛があるか心と体がもつ人しかトレーナーとして残らない。そうなれば、優秀な人は自然と少なくなる。そして残った人も長く担当のウマ娘といる間に愛を育み、担当ウマ娘の引退や卒業と同時に寿退職というのも非常に多い。ちなみにそれのため、ウマ娘とトレーナーの間では一夫多妻になる傾向があり、それに合うように法改正も目指されているとか何とかがあるらしいが、そのあたりは関係ないので割愛である。なお、前述のハーレムを目指して下心満載でトレーナーになろうとする者もいるが、ウマ娘をしっかり育て上げることができなければトレーナーとして食べていくことはできなくなる。もちろん下心を原動力に名をはせるトレーナーもいないことは無いが・・・
さて、話を戻し、優秀なトレーナーが学園に残っていないというわけではないが、結局クレナイのお眼鏡にかなう人はいなかった。例えば強力なメンバーを有するチームリギルのおハナさんなんかは優秀なトレーナーに名を連ねる人であるが、彼女の方針ではクレナイが自由にトレーニングすることはできないだろう。結局、何かしらクレナイの求めるトレーナー像とは違ってしまうのである。
「この辺りも何とかしたいんだがな・・・」
「私たちのトレーニングを見るとなるとこればっかりは仕方ないでしょう。会社と同じように8時17時なんてきっちりできる職でもないのだから」
「ところで、君はこの後どの路線に進むんだ?」
「ああ、私も気になるな。貴様はオークスかダービーか、とても気になる」
ルドルフとグルーヴが身を乗り出してくる。ブライアンも気にならないという顔をしているが、耳がぴくぴくと動いて気になっているようだ。
「私はダービーを選ぶつもりよ。やっぱりダービーウマ娘の称号は欲しいし。でも、本当ならダービーもオークスも全部ほしいから、どちらかというのは残念なところね」
「全ての勝利と称号を、だったか? 本当に君らしい方針だな」
「まあ、あんたならダービーも、その先の有馬も間違いないだろう。気が早い奴らはこのまま行ってURAファイナルズでうまぴょいセンターとかいってるやつもいるしな」
「ほんと気が早いわね・・・。ウマ娘に絶対なんてないでしょうに」
「・・・それを私の前で言われると、ちょっと複雑だな」
そのウマ娘には絶対があるなんて言われたこともあるシンボリルドルフが何とも言えない顔をする。
「まあ、今のまま行けば問題ないでしょう。今年はもちろん、ダービーからその先の天皇賞関連まで、全部かっさらってうまぴょいセンターも踊ってみせるわね」
「ああ、これからの活躍も楽しみにしてるよ。と、そうそう。また生徒からトレーニングの指導の要望が来ていてね。もし手が空いているなら、そちらもやってくれると助かる」
「ほんと、私って好かれてるわねぇ」
遠い目をしながらそう答えるクレナイであった。