病室の前で二人を見つけた私は、そのまま病院の喫茶店に連れて行った。あそこにいたということはまあ、多分話を聞いてしまっているだろうから。というか顔を見ればわかる。テイオーにいたっては顔面蒼白になっている。
とりあえず席につき、二人分のコーヒーとテイオーに紅茶を頼んだ。幸いにも人は少ない。ここなら話しても誰かに聞かれることはないだろう。
「さて、先に言っておくが、あの話は他言無用だ。いいな」
まずこれだけは釘を刺しておかなければいけない。二人とも頷いてくれたので、話を進めることにする。
「ならいい。それで、二人ともあの話を聞いて何が何だか分からなくなっている、といったところか?」
「か、カイチョーはあれを聞いて何ともないの!?」
テイオーが驚いたように言う。
「ああ、私と彼女は幼馴染で付き合いも長いからな。それこそ、ルナとレイと呼び合っていたころからの付き合いだ」
「ルナ・・・カイチョーの幼名だったっけ」
「ああ、そうだ。レイというのはあいつの幼名だ。確か、クレナイを縮めてレイ、だったか」
今でこそそう呼ぶことはなくなった、いやあいつは勝手に呼んでくるが・・・。
「でも、だからって・・・」
そのままテイオーは黙り込んでしまう。
「ああそうだ、沖野トレーナー。すまないな、こんな話に担当トレーナーである君を呼ばないで」
「いえ、元からクレナイには何もしてやれていなかったんです。呼ばれなくても当然でしょう。そもそも、彼女は俺とはあまり合わなかったようですし」
私達の間ではクレナイがよく言っていたので知っているが、彼女はあまり沖田トレーナーと合わないと言っていた。というのも、方針とかはまだしも、トレーナーの奇行であったり、しっかりトレーニングに付き合うところであったりとか。また熱いのも好きではないとか言っていたな。とはいえ、こんな大事な話に呼ばれもせず、しかも不意打ちで話を聞いてしまったとなれば、落ち込むのも当然であろう。
「もしよかったら、君たちの考えを整理する手伝いはできるかもしれないが、どうかな。話を聞くだけならできる」
そういうと、まず沖野トレーナーが、ではお願いしますと言い、語りだした。
「まず、あいつが死にたいって言ってるのを聞いて、そんなこといいはずがないって思ったんです。でも、じゃあどんな言葉をかけたらいいのかって思うと全く浮かんでこなくて。今生きてるだけでも奇跡。じゃあそれだけで満足しろなんて言えないし、また走れるようになるなんて無責任なことも言えない。ほかの道を進めることも、それでクレナイが幸せになるとも思えない。それに、まず俺はテイオーの時と違って一度も指導したことが無い、接点がない。そんな奴がクレナイの行く先に口を出してもいいのかというのもわからない。もうわかんないことだらけなんです」
一気に言い切る沖野トレーナー。手も声も震え、トレーナーの威厳など感じないが、こういう男だ。どこまでもまっすぐで、ウマ娘の気持ちになって考えられる。ほんといいトレーナーだ。
「次はボクだね。
ボクは今まで何度もケガをして、走れない悲しみも悔しさも、もっと走りたいって気持ちも知ってる。ううん、これはクレナイが教えてくれた。でも、あの時のボクのケガよりもクレナイのケガははるかに重い。重すぎる。普通なら死んでいてもおかしくないってケガだ。だから、また走れるなんて言葉はかけられない。でも、うん、でも・・・。これなら・・・!」
だんだん顔をあげるテイオー。って、なんか目からハイライトが消えていないか? ついでになんかうっすらとテイオーがジメっとしている気がするのは気のせいか?。
「ま、まあいい。とりあえずテイオーはうまく答えが出せたようだな。トレーナー君はどうかな?」
「俺は、答えは見えませんが、とりあえず今やることは見えた気がします」
ん、ならよしとするか。
「さて、では私はそろそろ帰るとするよ」
「「はい、会長(カイチョー)、ありがとうございました!!」」
ふふ、これも私の会長の役目だからな。みんなの心は快調に保たねばな!!