しばらくして、何とか退院までこぎつけることができた。体は完全に訛り切っているが、未だ完治は見えない。
「ありがとう、テイオー」
ルドルフ会長と話した後、テイオーと沖野トレーナーが見舞いに来てくれたようで、二人の土産が置いてあった。私が寝ている間に来たのかしらね、あの二人。タイミングが悪いのだけれど、沖野トレーナーと名前貸しの話をしないで済んだのはよかったのかもしれないわね。なんかあのトレーナー、重く考えて居そうだし。まあそれよりも重い娘がここに一人。
「ううん、これくらいなんてことないよ♪クレナイもやってくれたことだしね~♪」
なんでかよくわからないけど、あの後テイオーが私の世話を焼いてくれるようになった。実際のとこ、車椅子生活になって不便しそうだったからうれしいのだけども。ところで、なんで私の車椅子が無動力なのかしら? 電動のをお願いしていたはずなのだけども・・・?
「これからもボクが面倒みるからね、全部ボクに任せてよ!」
「そうしてくれると助かるのだけれど・・・あなたトレーニングは大丈夫なの・・・?」
実際、ここ数日付きっ切りでいてくれているテイオーである。そろそろトレーニングしないといけないはずなのだが・・・。
「大丈夫大丈夫。トレーナーからは良いって言われてるから♪」
と言っていたテイオーだが、突然現れたにメジロマックイーンに首根っこをつかまれた。
「大丈夫なわけないでしょう。無断で数日も休まれて。いくらクレナイの手伝いとはいっても見過ごせません」
そのまま「やだやだやだやだ~」と駄々をこねながらずりずりと引きずられるテイオー。
「はぁ、テイオーのやつも困ったものだな」
「ほんと愛されてますね、クレナイさん」
そう言いながら苦笑いで現れたのはルドルフ会長とスズカ。
「あ、ルナちゃん会長とスズカ。ちょっと頼みがあるのだけれど」
「その名前で私を呼ぶな。それでなんだ?」
「はい、何でしょうか?」
「車椅子、押してくれないかしら?」
「お安い御用だ」
では私は荷物を持ちますね。
そのまま会長とスズカに寮の部屋まで連れて行ってもらう。車椅子ということもあり、一時的に1階の部屋に移動ということになっている。
「ありがとう、会長。今度から電動のにしてもらわないといけないわね」
「ああ、そうだな。こちらで手配しておこう。そうそう、一つ聞いておきたいことがあったが、いいだろうか」
「ええもちろん。何かしら?」
「一応報告をあげなくてはいけなくてな。今のとこ、また走れる見込みはどのくらいだ?」
「正直、まだわからないけれども厳しそうというのが答えになるわね。ちょっと、私の右腕掴んでくれる??」
そのまま会長が私の腕をつかむと、年相応のぷにぷにとした二の腕の感触がした。
「あら、結構柔らかいわね。こう、ずっとつまんでいたく」
「いえあの、なんでスズカまで触っているのというかずっとつままれているのは私も困るのだけれど?」
軽くごめんなさいと謝りつつ手を放すスズカ。そして改めてルドルフが私の二の腕をつまむ。
「そうか、これほどか・・・」
「ええ、ここまでになると、本当にわからないわね。一応明日にはタキオンに来てもらってデータを取る予定になっているけども」
「厳しいというのをはっきりさせるだけかもしれないな・・・」
こくりと頷く。
「わかった。理事たちには不明で返答しておく。が、一応理事長には本当のことを伝えておく」
「ありがとう、ルドルフ。あまり気持ちのいい役回りじゃないでしょうけど、よろしく頼むわね」
「いや、これが私の役目だからな。気にするな」
「私は、いつまででもあなたを待っていますからね、クレナイさん」
ルドルフ会長が去り、部屋に一人になった私は、動く右腕でなんとかベッドに移動する。
筋肉の衰えが予想以上にひどい。このままだと、本当に走れないかもしれない。とはいえ、スズカにああいわれると、そのまま去るのも何か・・・という思いが沸き上がってくる。
そんなことを考えつつ、私はそのまま眠りに落ちていった。
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それからしばらくして、私のケガは少しずつではあるが、確実に治っていった。ギプスも段階的に取れ、軽い工作くらいならできる程度に腕が動かせるようになった。だがそれに反比例するように筋力やスタミナは落ち、今では普通の人間と変わらないくらいにまで落ち込んでしまっていた。
そんな中、テイオーに車椅子を押してもらって、散歩に来ていた。テイオーはあの後も頻繁にトレーニングをさぼろうとしてはマックイーンに連れ戻され、最近ではメジロ家の主治医を脅しに使うことでようやく改善したらしい。今日は普通にトレーニングはお休みの日らしいので、マックイーンが回収に来ることもなく、二人でのんびりと散歩をしている。
「外は風がきもちいいね~」
「ええそうね、ほんと」
途中で買い食いしたり、ウィンドウショッピングをしたり、色々と回っていた私たちは、帰りがけに河原の土手に来た。オレンジ色の夕日が綺麗に映えている。
ふと河原を見下ろすと、ウマ娘が必死にランニングしている姿が見えた。自然と、唇を強く嚙み、血が出るほど強く手を握りしめていた。
悔しかった。まだまだ治らず、治るにつれてどんどん鈍るこの体が恨めしかった。もっと走りたい、また速く走りたい。そんな思いだけが先行し、私の心を黒く染め上げる。
「やっぱり、生きてても、もう・・・」
小さく、とても小さく呟いた。そしてそれが、テイオーに聞こえてしまった。