「やっぱり、生きてても、もう・・・」
クレナイが小さく呟いた声が聞こえた。
それを聞いた瞬間、あの病室でクレナイが言っていたことがフラッシュバックし、気が付いたらクレナイの前に周って、クレナイの前に膝をついていた。それから、次から次へと言葉があふれだした。
「そんなこと言わないで! クレナイがいなくなるなんて嫌だ!!」
さっきの言葉が聞こえていたとわかり、クレナイがはっとした顔をする。
「ボクはケガをして、もうダメって思ったけど、クレナイがいたから復活できた。でもそんなボクのケガなんか目じゃないほどクレナイのケガは重い。それに、クレナイはボクなんかより走りたいって思いが強いから、走れない辛さもボクなんかより辛いのはわかる。でも、それでも、ボクはまたクレナイと走りたい。またボクがけがをしたらクレナイに診てもらいたい。また一緒に遊んだりして過ごしたい。だから、死んじゃうなんて嫌だ。走れるようになるまで、ううん、走れなくってもいつまででもボクが面倒を見る。だから、また一緒に走ってトレーニングしてよぉぉ、死んじゃうなんて嫌だよおぉぉぉ」
気づいたらボクはクレナイの膝に顔をうずめてわんわん泣いてしまっていた。そんなボクをクレナイは、優しくなで続けてくれた。
しばらくそうして、完全に日も暮れたころ、何とか泣き止んだボクは、車椅子を押して学園へと戻っていた。
そんな中、クレナイがボクにこう言った。
「テイオー。あなたはとても強い心を持っている。それは私があなたを間近で見ていたからわかる。あれだけ何回もケガをしてもまた走れるようにリハビリやトレーニングをできるだけの強い心と想いが。
私は・・・私はそんな強い心を持ってない。私の心はこの治療の間でぽっきりと折れた。だから、あなたに走ろうって答えを出せない。ごめんなさい、こんな弱い私で」
それを聞いたボクは、クレナイに何も言うことができず、ただ静かに学園への道を歩んでいった。
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テイオーに泣かれた後、学園の入り口で、二人のウマ娘が待っていた。シンボリルドルフとサイレンススズカ。
「遅かったな、心配したぞ」
「待っててくれたのね、ありがとう。テイオー、ここまででいいわ。また明日」
テイオーは車椅子にブレーキをかけた後、お休みなさいと言って寮の方に走っていった。
「で、スズカが来るなんて珍しいけど、何か用かしら?」
「ええ、あなたとお話したいことがあってきました」
「立ち話も寒いでしょうし、よかったら私の部屋にどうぞ。会長もよね?」
「ああ、スズカの後でいいが、私も言っておきたいことがあるからな。とはいえ、人の話を聞くこともあるまい。私はロビーにいるから、終わったら声をかけてくれ」
「ありがとう、会長」
そのまま寮まで会長が車椅子を押してくれ、スズカと二人、自室に入る。
自室に入ると、テーブルや棚を見たスズカが目を丸くする。
「あの、それはいったい?」
「ああこれ、ガンプラよガンプラ。まだ手元しか動かないし、かといって何もしないのも退屈だからね。適当に買い漁って組んでいるのよ。塗装しなくてもいい出来になるし、手元の訓練にもなるし。ほんといいことづくめよ」
そう、ここ最近暇な私はガンプラを買っては組み、買っては組みと繰り返し、いつの間にか部屋のあちこちに完成済みのガンプラを置く始末になっているのだった。ちなみに、真面目に置き場所に困っているのがデンドロビウムとネオ・ジオング。デンドロビウムにいたっては中に鉄板入ってたわね。もはやプラモじゃない気がするのだけれど・・・。ほんと大きすぎて置き場所が・・・。さすがに早まったかもしれないわ。ちなみに精神的に一番つらかったのはマグアナック36機セットね。おまけにネームドの4基も買ってたから総勢40機。最後の方はハイライト消しながら作ってたわ。
「それで、話とは何かしら?」
それはさておき、と私は話を始めるように促す。スズカは真面目な顔をして、私に問いかけた。
「以前、私がアメリカから帰ってきた時。その時にあなたの体の状態は聞きました。復帰できるかもわからないと。でも、私は退院の時に言った通り、あなたを待つつもりです。ずっと、いつまでも待っているつもりでした。でも、今日あなたとテイオーが話している声が聞こえてきました。それを聞いていると、あなたは死ぬつもりかもしれないと、そう聞こえてきました」
そこから話を続けるスズカの目からは、涙がこぼれ落ちてきた。
「私は!! あなたに勝つために!! それだけのために海外に行きました!! そして力をつけているうちにあなたは事故とは言え大怪我を負い、もう走れないかもしれなくなっています!! それだけではなく、あなたは死のうとしている。これでは、私は何のために走って来たのかわかりません!!」
「そんなこと言われても・・・」
「ええ、先ほども言った通り、事故による怪我は仕方ないと思っています。私も回避することのできない骨折を追い、あなたに助けられました。でも、、もしかしたらそのまま予後不良に、競争不能になっていてもおかしくなかったと思います。それを考えると、もしそれで走れない体になってしまったなら、私も仕方がないと納得したかもしれません。でも、あなたの体は回復しようとしているのに、それを待たず絶望してそれで死ぬなんて、とても納得できません!!」
「スズカ・・・」
「ええ、勝手なのはわかっています。押しつけなのもわかっています。それでも、少なくとも、あなたがまた走れるようになるまで、死ぬことは許しません。もしあなたが勝手に死ぬようなら、私も死んで後を追います」
「っ!?」
「私は私を人質にします。だから、あなたに死ぬなんてこと、絶対にさせません」
さっきまで涙を流していた目に強い意志を感じる。
「私は本気です、クレナイさん。だから、絶対に死なないでくださいね」
静かに、目標に向かって一直線に。模擬試合でしか感じたことのないスズカの圧を感じ、私は何も言うことができなかった。
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「スズカとの話の続きで済まないが、私の番だ」
スズカが出て行ったあと、会長が来た。
「さてレイ、久々に本気で話したい」
「その呼び名は・・・」
「ああ、だからレイもルナと呼んでいい」
「わかったわ、ルナ」
満足そうに頷く会長。
「とりあえず、まあこの前は君の考えをまとめるのもあってああいったが、今日は私の本心だ」
パシンと、会長に頬を叩かれた。
「この馬鹿レイが!! 死ぬなんてことを簡単に口にするな!!」
私が叩かれた場所に手をやると、ひりひりと熱くなっている。
「ルナ・・・」
「どれだけ私が心配したと思っている!! 中山で最前列で観戦していて、目の前でいきなりレイが転がって!! 何とか一命をとりとめたと思ったら今度は走れないから死ぬなんて言い出して!! ああ、最初はいつものだと思ったさ。レイらしいともおもったさ。ああそうさ、君はそういうやつだ。予後不良の道を選んで、選べてしまう。だが、私はそんなことは許さん!!」
ここまで感情的になったルナを見るのは久々、いや初めてかもしれない。
そのままルナは私に力強く抱き着いてきた。
「私はずっとお前の近くにいた。ああそうだ、幼馴染だからな。だからレイがどれだけ走ることに執着しているのかも、今どれだけ辛いかも理解しているつもりだ。でも、それでも、私はまたレイに走ってほしいし、もっとレイと一緒にいたいんだ!!」
涙声でそう語るルナに、私はただ右腕をルナの背中に回すしかできなかった。しばらく私の胸で泣いたルナ。私の胸から顔をあげると、真っ赤な目で私を見つめた。
「多分、テイオーもスズカも、お前に生きていてほしいと告げているはずだ。ここまで言われて、それでも死ぬような奴ではないと、私は信じているぞ」
いいなと念押しをしたルナは、最後に私をベッドに寝かせ、部屋を出た。
部屋に一人残された私は、愛されていることを感じつつ、なぜかあふれてきた涙に枕を濡らした。