【無職転生】ミリシオン出張記〜姫ものがたり〜   作:麓63

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※あとがき部分に拙い挿絵を1枚付けています。
 イメージが壊れたり、限定される恐れもありますので、好まれない方はご注意を。



ミリシオン出張記〜姫ものがたり〜1

―1―

 

プロローグ

 

ヒラヒラのドレスに身を包んだ、可愛らしい女の子がふたり。

 

ひとりは、その場でクルクル回っては、柔らかなオレンジ色の裾を花びらのように揺らしてご機嫌だ。

もうひとりは〝着てやったが、なにか?〟という顔で突っ立っている。

この子のドレスは冬の日の空のような淡い水色で。

 

さすがはシルフィの見立てだ。

 

そして俺は、そんな娘たちの姿に鼻の下が伸びっぱなしなのである。

「アルス、お姉ちゃんたち可愛いなあ」

3歳の長男に同意を求めると、「うーん……」と煮え切らない。

一体なにを悩むというのだ。花の妖精のようじゃないか。汚れなき天使じゃないか。

 

「やっぱり、アイシャ姉が可愛い」

「いや〜ん、アルス君も可愛いよ〜」

 

アルスは赤ん坊のころからアイシャに、とりわけアイシャの胸にそれはそれは懐いていた。

こいつは巨乳派だ。パウロの遺伝子が色濃く発現したのだろう。

 

いや、ちょっと待て!

アルスの半分はボレアスの血。

巨乳のノトスとケモ耳のボレアス、グレイラット家のサラブレッドだ。

まさか将来、リニア・プルセナと結婚するとか言い出さないよな?

それと、ギレーヌはやめときなさい。パウロのお手付きだから。

……パパ、なんだか怖くなってきたぞ。

 

ちなみに俺も巨乳は大好きだが、慎ましやかなものもまた大好物だ。

みんな違って、みんないい。手触りも味わいも(R指定)、それぞれの良さがある。

おっぱい仙人から免許皆伝を授かった俺をナメないでほしい。むしろ、ナメるのは俺のほうの仕事で……エヘン、オホン。

 

ジークはどうなんだろうなあ。

午後の光が差し込む暖かなリビングの片隅、ベビーベッドでスヤスヤお昼寝中の次男。

この子の場合は、グレイラット家の呪われた血も比較的薄まっているはずだ。

シルフィのおっぱいで育つということは、微乳派か……?

微乳は失礼だな。びにゅう……そうだ、美乳のほうだ。

手のひらにスッポリ包まれる絶妙なサイズと形が

……今はおっぱいの話はどうでもいいか。

 

晴れ着姿の愛娘。

ルーシーとララを囲むように、家族がそろった賑やかなこの部屋は、俺の幸せそのものと言っていい。

この空気を深く吸い込み、柔らかな光景を目に焼き付けながら、みんなの笑顔を守りたいと願うばかりだ。

 

 

今のところヒトガミに目立った動きはない。

戦いの果てに、北神カールマンⅢ世アレキサンダー・ライバック(仰々しい呼称だな)という実に頼もしい味方もできた。

気持ち的にも時間的にも、ちょっと余裕ができたように感じる今日このごろ。

 

ビヘイリル王国での決戦時は、俺はもちろん、3人の妻、ついにはノルンやアイシャまで家を空けることとなった。

子どもたちは寂しさ心細さに耐え、涙をこらえて送り出してくれたのだという。

後日、留守を守るルーシーの健気な様子をノルンから聞いて、俺は胸えぐられる思いがしたのだ。

 

ただでさえ第一子というのは、いろいろと我慢を強いられることが多い。

自分がしっかりしなきゃと、つい頑張りすぎてしまったりもする。

グレイラットとしての俺は、妹と離れていた期間も長いので大したことはなかったが、前世での兄きや周囲の人間を見ていてつくづくそう思う。

ルーシーはひたむきな子だから、なおさら気になっている。

 

俺は思った。

彼女のために、なにかしてやりたい。

ルーシーを喜ばせたい。心からの笑顔が見たい。

 

ルーシーの好きなものって、なんだっけ?

3人のママたち、おばあちゃん、ノルンにアイシャ、もちろん妹と弟。パ……パパも、きっとこの枠でいい、よな? 

ああ、それからレオやジローのことも可愛がっている。

よちよち歩きの頃、手放さない毛布があった。寝る前に読んでほしがったお気に入りの絵本。

えーと、それから……

それから??

 

考えを巡らすうちに愕然とした。

もうじき7歳になろうとするルーシーが、今一番どんなことを喜ぶのか。

見当がつかなかったのだ。

 

俺は子どもたちのことを、どれくらい理解できているのだろう。

 

ここ1年ほどの俺は、たまに自宅に戻っても、頭の中は対ヒトガミ戦でいっぱいだった。

もちろん子どもたちの存在は大きな癒しで、心の支えだったのは間違いない。

だが、じっくり寄り添うことができていなかったのも、また事実。

日々成長する子どもたちは、ものの数か月で変化を見せる。

できることが増え、興味の対象もどんどん変わっていっただろう。

 

おのれの所業を振り返ってひとしきり青ざめたあと、なんとか気を取り直して妻たちに尋ねた。

「最近は、お姫様ごっこがブームみたいだよ」

「ああ、この前つる草で冠を作ってあげたら喜ばれましたね」

「王子様役を言いつけられたわ!」

忙しいのはお互い様だったはずなのに、彼女たちはきちんと子どもと向き合えていたようだ。

 

これが噂の、一点集中型の男性脳とマルチタスクの女性脳の違いなのか。

いやいや、脳ミソのせいにすべきではないだろう。

俺のせいだ。反省しなければなるまい。

 

〝お姫様ごっこ〟が好きだと言うのなら……

俺のちょっと残念な脳ミソがはじき出したのは、ドレスをプレゼントすること。

我ながら安直だと思うし、〝モノより思い出〟そんな言葉が頭をよぎらないでもなかったが。

 

来春には魔法大学への入学も控えているルーシーに、その祝いも兼ねて、早速アスラからドレスを取り寄せた。

それもアリエル御用達の店……つまり、本物のお姫様のドレスというわけだ。

 

ルーシーだけっていうのもなんなので、ララの5歳の誕生日用のドレスと、一緒に息子たちの服も用意してみた。

アルスは興味無さげな「ふーん」のひと言で終わったし、ジークに至ってはまだろくに喋れもしない赤ん坊だ。

まあ、男の服はもののついでに過ぎないのだが。

 

 

「ねえ、わたし、おひめさまみたい?」

ほんのり上気した顔ではしゃぐルーシーが無邪気に笑う。

 

これだ!

俺はこの笑顔が見たかったのだ。

ルーシーに対する罪の意識のようなモヤモヤも、天使の笑顔で浄化され、昇天して消えた。

 

「ああ、もちろんだ。お姫様みたいだ。

いや、みたいじゃない。お姫様だよ。ルーシーもララも、パパの大切なお姫様だ!」

感極まって抱きしめようとしたら、ルーシーはキャーッと声をあげて俺の腕をすり抜け、エリスの後ろに逃げ込んだ。

 

予想外の動きに、空振りの腕クロス状態で固まる俺。

妻たちも反応に困ったのか、ほんの一瞬、場がシンと静まった。

 

……いかん。

 

ここは、〝捕まえちゃうぞ〜〟とか言いつつ、おどけて追いかけるべきだったんじゃないか?

ルーシーだって本気で嫌がったわけじゃないはずだ。たぶん、だけれど。

ただ、俺が腕っ節でかなわないエリスを防波堤にするってことは……いやいや、考えすぎだ。

きっと、ちょっとふざけてみただけなんだ。

 

ところが一度フリーズした空気は、今さら笑い飛ばすことを許さない。

完全にタイミングを逃してしまった。

ど、どうしよう。

 

「ほら、パパ」

トコトコと近寄ってきたララが、俺の目の前で「ん?」と両腕を上げた。

間違いない。〝苦しゅうない、抱っこを許す〟という体勢だ。

 

「ララ〜!」

よし! 父娘のほのぼのシーンの仕切り直しだ。

 

俺はララの身体を高く抱きあげ、さっきのルーシーのようにクルクル回った。

水色のドレスの裾がフンワリ広がる。

ララの口元がニンマリと緩むのが見えた。いや〜可愛いな〜。

 

……うん、満足だ。

 

堪能した俺は、ゆっくりとララを下ろす。

その時、エリスの脚の間から半分身を乗りだしているルーシーと目が合った。

 

「ルーシーも、おいで」

両膝を床に付いて腕を広げると、エリスに背を押されオズオズと近付いてきた。

俺はルーシーを抱きしめた。

 

シルフィと同じ、いい匂いのする小さな身体。

この子が物心つくころから、俺はオルステッドの配下として動きはじめた。

俺にとっての戦いの日々は忙しくも充実したものだったが、この子もまた同じだけの年月頑張ってきたのだ。

 

「いつも頑張っていなくてもいいんだよ。時にはワガママ言ってもいいんだよ。

妹や弟がいるお姉ちゃんかもしれないけれど、お前はまだまだ小さな女の子だ。

いや、たとえルーシーが大人になったって、パパにとって大切なお姫様なのは変わりない」

抱きしめる腕にもう少し力を込める。

「寂しい思いをさせちゃってごめんね。

これからは、一緒に過ごせる時間も増えると思うから」

 

ドレス姿のルーシーの身体を、ララと同じく腕を伸ばして持ちあげた。

その場で俺がくるりと回れば、オレンジ色の裾がフワリと開く。

「パパはルーシーが大好きだよ」

しっかり目を合わせて伝えると、ルーシー姫は、はにかんだ笑顔を見せてくれた。

 

 

「ルーシー姉とララ姉が おひめさまなら、ぼくは おうじさま?」

それまで黙って見守っていたアルスが、誰にともなく素朴な疑問を投げかけた。

皆の視線が俺に集まる。

……え? 

答えるの、俺か?

 

「う、うーん……そういうことに、なるのかな?」

〝俺の大事な王子様!〟とか、抱きしめたらいいんだろうか?

しかし、なんかちょっと違う気がするし、アルスもそんなこと望んでいないだろう。

俺に巨乳は付いてないしな!

 

「そうですよ。みんな、この家の大切な王子様とお姫様なんです」

ロキシーのナイスフォロー!

「そうだよね」「決まってるわ!」

シルフィとエリスも同調してくれて丸く収まった。めでたし、めでたし。

しかし。

 

「じゃあ、パパは おうさま?」

せっかくキレイに着地したところに、ララが一石を投じた。

これが実は石ではなくて、爆弾だったりする。

 

「「「もちろん……」」」

笑顔で頷きかけた3人の妻たちが同時に俺を振りかえり、そして揃って口ごもった。

なにやら、ビミョーな表情を浮かべている。

 

ちょっと奥さん、なに? なんなの?

ここは〝もちろん、パパは王様だよ!〟って言ってやる場面じゃなかったのか?

 

「ルディは……王様……ってイメージじゃない、ような……?

なんだろう……なにかが違う?」

シルフィが首をかしげた。

「ほ、ほら、アレじゃないですか?

まだ若くて、威厳というか貫禄が足らないというか。

だからむしろ、王子様……? う、うーん??」

再びフォローを試みたロキシーも、なにか違和感があったようで歯切れが悪い。

顔を見合わせるふたり。

 

……シルフィさんにロキシーさん、なんでそこで悩むかな?

 

事も無げに言い放ったエリスの言葉が、鶴のひと声となった。

「ルーデウスは、お姫様よ!」

 

「あー、なるほど!」

ポンと手を打つシルフィ。オイオイ、違うでしょう。

 

「思い出しました。そうです。

ルディは、不死魔王アトーフェラトーフェが認める、れっきとしたお姫様でした」※

コラコラ、ロキシーまでなんちゅうことを!

 

「えー、なに? その話、ボク知らないよ」

「ぜひ、聞かせてください」

ノルンまでが身を乗り出す始末だ。

「実はですね……」

勘弁してください……黒歴史なんです、それ。

 

結局〝王様〟は、剣王エリスだという結論に落ち着いた。

 

それはそうなんだろうけどさ。

たしかに、エリスは世間が認める王でしょうよ。

でもさ、なんか違わない? 家庭内での話をしていたのでは?

 

子どもたちはキョトンと俺を見ている。

いや、ララだけは、なんだか知らないがニヤニヤしている。

 

〝大切に守りたい〟対象を〝お姫様〟と呼ぶのなら、愛しい3人の妻たちもまた、俺にとってのお姫様だ。

子どもたちはもちろん、妹たちも、母さんたちだって。

 

ん?

ということは、この家はお姫様が群れをなして暮らしているってわけか。

ルーデウス邸、おそるべし。

 

 

 

 





【挿絵表示】

とにかくビラビラしまくったドレスです。
パパさん、鼻の下伸びてます。


※書籍版22巻 第9話「参戦! ルーデウス姫」参照
 WEB派の方、ごめんなさい。書籍用書き下ろし部分です。
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