【無職転生】ミリシオン出張記〜姫ものがたり〜   作:麓63

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※あとがき部分に拙い挿絵を1枚付けています。
 イメージが壊れたり、限定される恐れもありますので、好まれない方はご注意を





ミリシオン出張記〜姫ものがたり〜10

(テレーズ視点)

神子様は今日も元気だ。

 

7人の神殿騎士たちに囲まれて、掛け声も勇ましく木剣を振っておられる。

今やすっかり見慣れたお姿だが、ほんの数年前までまったく想像もつかなかった。

 

以前から明るく振る舞われていたものの、血色が悪く、身体はむくみ、健康的とは言いがたいご様子だった神子様。

それが今は、どうだ?

毎日のように中庭に出ては元気に身体を動かし、はつらつとされているじゃないか。

 

この庭は、ルーデウスと久しぶりの再会を果たした場所でもある。

あれから、いろいろなことが起こったものだ。

個人的にも、ゼニスを巡ってのラトレイア家内部の問題、ルーデウスとの対決と敗北、降格処分……

そのあと、見合いの失敗なんてのもあった。いやまあ、それはどうでもいいが。※1

 

さらに言えば、あれから教団内のパワーバランスが変化したように思う。

力を付けていた枢機卿の勢いに陰りが見えはじめ、教皇派の盛り返しと同時に、教皇の孫クリフ・グリモル神父が頭角を現してきている。

魔族排斥派だった母さんも迎合派へと変節し、今や婦人会会長として教皇を後押しする立場になりつつあった。

 

ルーデウスの来訪と、彼が巻き起こした騒動をきっかけに、少しずつ変わっていったのだ。

良いことか、そうでないのかは現状わからない。

結果として神子様の弾けるような笑顔があるわけだから、私個人としては満足している。

 

今回も、すでに事件が起こった。

ルーデウスの昏倒騒ぎだ。

しかしあれは彼本人の責任というよりも、責められるべきは彼を呼び寄せた我々のほうだろう。

ナリス姫様の症状の不安定さを把握していたのに、無警戒に対面させてしまった。

エリス様が怒ったのも無理はないと思う。

 

それにしても……

エリス様ときたら、ルーデウスにベタ惚れじゃないか。

剣王とはいえ、いちおう女性の細腕だ。ためらいなく大の男を抱きかかえて運ぶか? 

あの状況でほかの誰にも触れさせないって、よっぽどだろう。

ウェスト・ポートの税関で初めて会った時も、ルーデウスを抱きしめていて睨まれたものだが、あくまで彼らが子どもの頃の話だ。

あれからゆうに10年はたっている。

男女の間は当初どんなに盛り上がったとしても、3年もすれば空気になるんじゃなかったか。

残念ながら私が身をもって経験したことじゃないにしろ、まわりの相手持ちのヤツらは大抵そんなことを言ってるぞ。

 

そのうえだ。

エリス様が、ルーデウスにとって3人目の妻だと知った時には耳を疑ったものだ。

あげく4人目が現れたというもんだから、卒倒するかと思ったよ、マジで。

女性本人に確かめてみたら、さすがにそれは誤解だとわかったが。

 

豪奢な巻き髪をした美しいエルフの彼女は、最初の妻の祖母。そして、一緒にいた可愛らしい女の子は、その第一夫人との間の娘だという。

男の子はそのエルフ女性の息子で、ルーデウスとは……どんな関係にあたるんだ? わけがわからん。

どうして、そんなややこしい組み合わせでミリシオンに来たんだよ。

頭が混乱してくる。私の理解の範疇を超えているな。

 

とはいえ、ルーデウスが目覚めて親子3人で抱き合う姿に、ちょっと感動したのも事実だ。

家族の絆っていいな。

うん、あの時ちょちょぎれた涙は、独り身の自分を省みてのものではない。

純粋に、感動の涙なんだ。

 

 

「まあっ! ルーデウス様、エリス様っ!」

ミコさんの大きな声で、その場にいる全員の注目を浴びてしまった。

 

会えればラッキーくらいの気持ちで、教団本部の建物内に入る前に中庭をのぞいてみたら、ビンゴだった。

ベンチにはナリス姫もいる。

本来ならばミコさんも姫君も、俺のような一介の魔術師が簡単にお目通りできる立場の人ではない。

ちょっと顔を見に行くだけでも、面会までの手続きがやたらと面倒臭いから助かった。

 

なんて考えていたら、茂みを揺らしてデカい銀フクロウがひょっこり姿を現した。

受け付け係の教団職員の代わりに、こいつからのチェックがあったのか。

バサッとひとっ飛びで俺の鼻先の柵にとまったナースは、羽を広げれば2メートルはある。なかなかの迫力だ。

大きな目でギョロリと睨んでくるんで、

「悪さはしないんで、ミコさんと話してもいい?」

と、お伺いを立てたら、2〜3秒勿体つけてからギーッと鋭く声をあげた。

なんて言われたのかはわからんが、許可をもらえたと解釈していいよな。

 

フクロウ相手にペコペコする俺を残して、エリスはミコさんのほうへ真っ直ぐ進んでいった。

「ちゃんと鍛錬を続けているようね。なかなか良くなってるわ!」

「わ〜、そうですか? 嬉しいっ!」

剣王の登場に、騎士たちがあからさまにムッとしているが、そんなのに頓着するようなエリスじゃない。

 

鍛錬の邪魔をしないよう、俺はナリス姫と話でもしていようかな。

姫君の背後に控えるテレーズと目が合ったから「懐かしいですね、この庭」と声を掛ければ、苦笑が返ってきた。

まあ、いろいろあったのは確かだ。

 

皆で挨拶を交わしあったあと、俺は姫君の勧めに従って隣に腰掛けた。

が、エリスからの鋭い視線に押されるように、ジリジリと端っこのほうに移動する。

再び襲われたりしないか、警戒してるんだろうか?

もう同じ失敗はしないつもりでいるものの、あんまり信用ないよな、俺。

 

「今日は服装の感じが違うのですね」

「白状すると、先日の服は借り物だったんですよ。失礼に当たったら、申しわけありませんが」

「とんでもない、魔術師らしくてステキだと思いますわ」

俺もエリスも、通常営業の出で立ちに戻した。当たり前だが、こっちのほうがシックリくる。

 

「サラークの花芽は、寒い冬の休眠期を越えて、初めてツボミを付けると聞きます。

ミリスの冬はどうなのでしょうね」

元気なミコさんの様子に目を細めながら、姫君が柔らかく問いかけた。

中庭には、花の時期にはまだ遠いサラークの木々が立ち並んでいる。

 

「わたくしの母はアスラ王国の生まれで、城内にはアスラから取り寄せたサラークが植えられています。

毎年春に花が咲くのを、皆でとても楽しみにしていたものです」

「……ああ、やっぱり。ナリス姫様のお名前が、アスラ風だなと思っていました。

お母君は、俺やエリスと同郷なのですね」

「ラノア王国からおいでと聞いておりましたが……?

そういえば、グレイラット姓はアスラの名家ですわね。なんだか親近感が湧きますわ」

 

「そうか……エリス様といい、アリスやらクリスやら……アスラにはそんな名前が多いですね」

護衛に徹するべく黙していたテレーズが、思わずといった感じで言葉を挟んだ。

そうなのだ、アスラ王国にはいろんな〝リス〟がいるのだよ。

 

ナリス姫が、なおもサラークの木を眺めながら可愛らしく小首を傾げた。

「サラークはまっすぐに伸びる木のはずですのに、ここのはなぜ、みんな斜めに生えているのかしら。

もしかして、わたくしが見慣れているのとは違う品種なのでしょうか?」

俺もサラークの品種には詳しくないが、ここの木が斜めなのには、思い切り心当たりがあったりする。

「ど、どうなんでしょうね。そんな種類があるのかも……」

ごまかしてやり過ごそうとする俺を、テレーズがバッサリ斬った。

「以前、この庭一面をサラークの木が傾くほどのぬかるみに変えた魔術師がおりましてね、その時の名残なのです」

「魔術師……? え?」

姫君が、俺とテレーズを見比べている。なんだか、どうもすみません。

 

「我々にも責任はあるし、サラークを愛する神子様のためにも〝聖墳墓の守り人(アナスタシア・キープ)〟で掘りかえして植えなおそうと申し出たのですが、結局そのままになりました。

しかし、春にはちゃんときれいな花も咲きましたので、問題ないようですよ」

「これはこれで、風情がある……かもしれませんわね」

ナリス姫が優しくフォローしてくれた。

 

当然ながら、教団が斜めに生える木々に風情を感じているわけではないだろう。

俺への当てつけのため、そのままにしているわけでもないと思う。

「テレーズさん、庭の掘り返しというのは、教団上層部からストップがかかったんですか?」

「あ? まあそうなるかな。当時、新隊長から通達が降りてきたからね。

せいぜい1メートルも掘れば良さそうに思えるから、傾いたままにしているのも、なにか理由があるのかもしれないが」

 

 

(テレーズ視点)

神子様が外に出ることを許されていると言っても、せいぜい小一時間だ。

もう戻らねばならない。

神子様もナリス姫様も名残惜しそうで気の毒だが、私もこれが仕事なのだ。

 

「俺たちはもう数日滞在する予定です。

お邪魔でなかったら、夕方にでもまた立ち寄らせてください。もちろん、なにかあったら馳せ参じますから」

「わかりました! 新しくわかったことや相談したいことがあったら、すぐにお伝えするようにしますねっ」

神子様が元気に言葉を返す。

 

彼らが午前中からわざわざ教団本部にやってきたのは、姫君のご様子を確認するためだったのだろう。

立ち去る後ろ姿を見送っていると、曲がり角の向こうに隠れる寸前、ふたりのシルエットがぴったり寄り添った。

エリス様が腕を絡めたようだった。

 

見せつけんなよ、と思わず漏れたため息。

騎士たちもゲンナリと目を逸らした。舌打ちでもしそうな雰囲気だ。

 

「はぁ〜……、ほんっとに仲がよろしいですよね! なんか憧れちゃいます〜」

私のとは違う意味合いでこぼれた神子様のため息に、騎士たちが一瞬で色めきたった。

「ミ、ミコ様! 自分の腕はいつでも空いておりま……あ、アイタ! イタタ!」

調子に乗ったバカが、中空から急降下してきたナースに引っ掻かれている。

いいぞ、ナース! 思い切りやってくれ。

 

先頭に私、後ろには神子様と姫君、姫君の侍女、さらに7人の騎士……長い行列となって、ゾロゾロ建物内部へと引き上げていく。

背後からは、若い女性たちの他愛のない会話が聞こえてきた。

結婚適齢期からすれば、そろそろトウがたちかけてきた二十歳すぎ。それでも私から見れば眩しいくらいに若い。

同年代の女性どうし、気のおけない関係に神子様も嬉しそうだ。

 

「あら? 姫様の左手……あの指輪は外されたのですか?」

「ルーデウス様たちの仲むつまじい姿にふと思い付いて、つい先ほど、大きい指輪と一緒に鎖にとおしてみましたの。

そのほうが、指輪も喜んでいる気がして」

「まあっ、ほんとう! なんだか以前よりもキラキラして見え」

「「きゃあっ」」

 

唐突に聞こえた小さな悲鳴に振り返れば、おふたりがどこにもおられない。

たった今、楽しげに会話を交わされていたのに?

呆然と立ち尽くす侍女と、剣に手を掛けて周囲を警戒する騎士たちの姿だけがあった。

 

なに? 

なにが起こったんだ?

 

頭が真っ白だ。

 

 

「どうかしたか?」

俺のすぐ隣に、ツンと取りすましたエリスの端正な横顔。ちょっとご機嫌ななめっぽい。

 

彼女が左腕を強く絡めているため、俺の利き手は封じられるが、それは構わない。

でもこれって、散策を楽しむ恋人どうしという腕の組み方じゃない。もちろん仲の良い夫婦の組み方でもない。

うむを言わさずグイグイ引っ張られる俺は、さしずめ連行される犯人だ。

 

「べつに。……あの姫君となに楽しそうに話してたのよ!」

俺、ご機嫌を傾けるようなことやったっけ? 

エリス抜きで話していたのを、仲間外れだと感じたのか? それほど盛りあがっていた覚えはないが。

いつもはわかりやすいエリスだが、よくわからん。

「サラークの木についてだよ。普通の世間話だ」

 

サラークを植えなおすために庭を掘り返すのを、教団側がストップをかけた。

うっかり深く掘りすぎて、万が一にも例の地下迷宮に障る可能性を危惧した、ということか。

そもそも結界の強さに自信があったみたいだし、俺が派手に〝泥沼〟を使って大丈夫だったんだから気にしすぎだろうに。

まあ、神経質になるのもわからないでもない。教団の聖地の地下が、夢でみたとおりの惨状というのなら。

 

目の前に広がるのは、聖ミリス公園。

花や木々に囲まれた小道が奥へと繋がり、デートコースにはもってこいのスポットと言えよう。

植え込みの暗がりではチョメチョメもできそうだ。……いやいや、ここは聖ミリス様のお膝元、不埒なことは考えてはならない。

今は、ほかにやるべきことがあるのだ。

 

「これからエリナリーゼの言ってた遺跡に行くんだけどさ……」

この件に関して、俺自身どうしたいのかわからない。なにができるのかもわからない。

同時に、巻き込まれたくないと思うのも本心だ。

ただ、このままミリスを離れたら後悔しそうな予感がする。

そんな中途半端でモヤモヤとした状態なのだが、なにも言わずに付き合ってくれるエリスには感謝しかない。

ああ、もしかしてそれで怒ってたのかな?

 

「今まできちんと話せなくて、すまなかった。

ふたりきりになれる機会がなかったし、いくつか裏は取れたものの、ほとんど憶測レベルの話だったし。

だから信じられなければ、単なる与太話と思ってくれてもいい」

「ルーデウスの言うことだもの。信じるに決まってるじゃない!」

 

眠っている間にみた夢と、それを裏付ける事実について説明する俺の言葉を、エリスは考え込むような表情でじっと聞いている。

俺たちは腕を絡めあったまま小道を歩き、遺跡に向かった。

 

「……まあ、このまま姫君の症状が収まってくれたら、それが一番なんだよな。

教団も、これ以上俺が首をつっこむのを嫌うだろうし」

「でも……なんだか気の毒な話ね。200年も待ちつづけているとしたら」

 

 

目の前の木立ちがひらけて、朽ちかけた石造りの建造物が現れた。

俺はエリスの腕をそっと解くと、半分崩れた遺跡に足を踏み入れる。

 

エリナリーゼが教えてくれた隙間を探しながら歩き回るうち、奥の壁に隠れるように、敷き石がズレている箇所を発見した。

火を灯してみると、内部は深いようで底知れぬものの、隙間から空気が流れているのか、炎が揺らめいた。

石の質感も、ほかと少々異なって見える。

指輪を釣りあげたのは、おそらくここだ。

 

……ふむ。

埋め立てがおこなわれたというのなら、今見えているこの部分は、本来は建物の最上部に当たるんじゃないか?

そう思って改めて見回してみれば、確かにこの地表に基礎がある感じではなく、取ってつけたような造りだ。

だとするならば、もともと階下に通じる階段かなにかがあったはず。

その昇降口を塞いでいるのが、この敷石ということだろう。

 

地下迷宮で果てたはずの騎士の指輪が出てきたのが、ここだ。

と言うことは、結界の破れ目か、なんかのために作られていた出入り口か。

ここからだったら地下迷宮に潜れたりしないか?

 

「ここ? 地下に通じてるとか?」

「う〜ん、そんな気がする。石をどかしてみたら教団から怒られるよな、やっぱり。

ちょっと気になるだけで、正直、地下迷宮なんて行きたくないからいいんだけどさ」

「そう? 面白そうじゃない、迷宮」

……うん、そうだね、エリスは迷宮探検大好きだったよね。

 

「ルーデウス殿! こんなところにおられたのか!」

 

神殿騎士がひとり、ガチャガチャと金属音を響かせながら走ってくる。

さっき別れてから、1時間くらいしか経ってない。

 

「副隊長がお呼びだ。神子様とナリス姫が姿を消された」

 

 

 

 

 

 

 

 





【挿絵表示】

ナリス姫と隅っこに腰掛けるルーデウス


WEB版にない、書籍版での加筆部分関連です。
※1 書籍版21巻 間話「テレーズのお見合い」参照
  母親のクレアが進めた縁談話で、知らずに会った見合い相手が、聖墳墓の守り人メンバーのダスト・ボックスだった。上官の矜持をかなぐり捨てて、ぶりっ子作戦で落とそうと奮戦する。




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