【無職転生】ミリシオン出張記〜姫ものがたり〜   作:麓63

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※あとがき部分に拙い挿絵を1枚付けています。
 イメージが壊れたり、限定される恐れもありますので、好まれない方はご注意を




ミリシオン出張記〜姫ものがたり〜12

「実はわたくし、冒険者に憧れていた時期がありまして……

『ペルギウスの伝説』や『三剣士と迷宮』などは、繰り返し読みましたわ」

「まぁステキ! なんて心強いのかしら。

私は読み物といえば、経典ばかりでしたもの」

 

おっとりと交わされる会話は、声だけ聞けばテラスで紅茶でも飲んでいる雰囲気だ。

平常心を装いつつ、お姫様ふたり手を取り合って、ほの光る守護魔獣ナースのあとを付いていく。

トンネル状の通路を抜けて、ふたたび広めの空間へ。

ナースの身体から発する光では、遠くまで見渡せるわけではなかったが。

 

「本で読んだだけで、確かではないのですが……ここは雰囲気が迷宮に似ているように感じます。

神子様、どう思われますか?」

「ミコリスです」

「え?」

「ミコリス。敬称略でお願いしますね」とニッコリ。

「……どう思われますか? ミコリス」

「私も迷宮だと思います。それで、迷宮といえば魔も……」

ギーッ! 

ナースが鋭い声をあげた。

 

「なっ、なんです?」

目を凝らすと、明かりが届くギリギリのところに、大きく黒々としたなにかがいる。

「……魔物、でしょうか?」

忽然と現れたソレは、すいかサイズの頭胸部にひと回り大きく膨らんだ腹部、〝く〟の字に折れた太い8本脚を蠢かして近づいてくる。

脚を広げれば2メートル近くありそうだ。

 

「ひぃっ! ……く、蜘蛛?」

神子にとって、蜘蛛ほどお近づきになりたくない生き物はいなかった。

〝命あるものに慈しみを〟というありがたい教えも吹っ飛ぶほど、理屈ではなく生理的に受け付けないのだ。

「いっ、いいえ、これは似ているけれど蜘蛛じゃない。まったく別もの、ただの魔物ですよねっ!」

自らの言葉をむりやり打ち消した神子は、姫君の手を離すと、背後に庇うように一歩前に出た。

 

ブツブツと盛り上がったたくさんの目が、キョロリと動くのがわかる。

黒々とした毛の生えた脚が、おぞけたつほど気持ちが悪い。

「これは魔物、魔物なのよ……!」

涙目になりながら、神子は木剣を両手で構える。

 

大きな蜘蛛型の魔物が神子に向かって跳躍したのと、ナースが滑空してきたのは同時だった。

空中でもつれ合い、獰猛な声を上げながら両者は地面に落下。

そのままナースは少しもひるむことなく、自分よりひと回り大きな相手を鋭い爪で攻撃した。

しかし敵は鉤爪までついた脚が8本、ついでに牙もある。

正面から組み合ったら不利だ。羽毛が飛び散った。

 

「ナース、離れなさい!」

黒々とした頭部に爪を突き立てたまま、バサバサと音を立ててナースは飛びあがった。

バランスを崩しながらも天井スレスレまで上昇すると、たくさんの脚で抵抗するのをものともせず、翼を使ってはたき落とす。

腹を見せて地面に落ちてきたところに、木剣を持った神子が襲いかかった。

「えいっ! えいっ!」

勇ましいかけ声に反し、大きなダメージは期待できそうもない。それでも、ポカリポカリと殴りつづけた。

 

大蜘蛛が体勢を戻しかけた時、ふたたびナースがつかみあげて裏返す。

「このまま連携プレーで行きましょう! ナース!」

ポコッ! ポカリ!

気長な戦いが始まりかけたところを、ナリス姫の緊迫した声がさえぎった。

「ミコリス! 後ろから白っぽい魔物が近づいてきていますわっ」

 

隙をみて一瞬だけ振り返ると、通路奥の暗がりに、なにかがぼんやり浮かびあがっているのが見えた。

ガシャガシャという硬質な音を響かせながら、急速に接近してきているようだ。

「ま、まさか、スケさんっ?! なんで、こんな忙しい時に来るのっ!」

木剣を振るいながら、神子は絶望的な状況に声を上げた。

 

前門の大蜘蛛、後門の骸骨兵(スケルトン)だ。

現状でさえ持て余しているのに、両方相手にできるはずはなかった。

 

「あぁっ!」

背後で姫君の悲鳴。

つられるように思わず身をすくめた神子の視界を、白っぽいものが高速で横切った。

かなりのスピードで転がり込んできた一体のスケルトンが、大蜘蛛を巻き込んで数メートル転がると、フッと姿を消した。

 

 

「……え?」

「消えちゃい……ました……?」

2体の魔物が消えたあたりに恐る恐る近寄って確認すると、地面に亀裂があった。

この中に落ちていったのだろう。

 

「あ、あの蜘蛛のような魔物が突然現れたのも、きっとここから出てきたのですね……」

姫君の声は、わずかながら震えている。

「1匹見かけたら100匹いるって……騎士さんの誰かが言っいてたのを思い出しました」

姫君をいたわるようにその腕をそっと取った神子が、地割れ部分を覗きこんでつぶやいた。

「魔物が、ですか?」

「さあ、なにか害虫の話だったかと……」

100匹の蜘蛛など、地獄絵図でしかない。

うっかり想像しかけたのを、神子は頭を振ってなんとか打ち消した。

 

「そういえば……迷宮の魔物って基本的に群れで動くみたいなのです。

さっきのはきっと、迷子の子だったのでしょう」

姫君が本で得た迷宮知識を披露するも、まったく嬉しくない情報だった。

「早く、どこかに避難したほうがよさそうですね。

ナース、ケガはありませんか? 

毒とか糸とか出されなくて、ほんとうに良かったです。

さあ、出発しましょう!」

 

深く空いた亀裂部分を迂回して、先ほどよりも周囲を警戒しながら進むうちに、かろうじて形を残す石造りの建物を発見した。

シンと静まり返った内部を、用心しながら確認してみる。

屋根の辺りが崩れ、床も一部抜けているのが多少不安なものの、壁は比較的しっかりしているようだ。

窓がないところをみれば、住居ではなく倉庫のような用途で使われていたものだろう。

 

「ちょっと待ってくださいな」

ハンカチを取り出したナリス姫が、建物外部のできるだけ高いところに引っ掛けた。

「ルーデウス様のハンカチです。目印になるかしら。

お返しするのを忘れていたのですが、役に立ちそうで良かったですわ」

 

扉など、とうの昔に朽ち果てていたであろう入り口に、瓦礫でバリケードを築いた。

 

 

これ以上崩れないよう、結界の開口部付近を土魔術で固めておく。

地下迷宮への出入りができるのは、ここからだけだ。

土砂で埋まって場所がわからなくなったら、本気でシャレにならない。

 

光の精霊がふわりと照らすのは、いたるところに瓦礫が積み重なる以外、空虚な空間だった。

建物の痕跡が墓標のように、荒れた地面に歪んだ影を落とす。

昔、たしかにここで生きていた人々の営みの名残が、殺伐とした静けさを余計に際立たせていた。

 

「なんか陰気な場所ね」

迷宮大好き娘のエリスが、残念そうな声を漏らした。

もとより探検に来たわけではないのだが、用事さえなければ、一刻も早く退散したい空気だと思う。

 

「教団本部はこっち方面で合ってますか?」

正面を指差してテレーズを見やると、彼女はわずかに眉を寄せて自分の方向感覚をたどった。

「そうだな……もうちょっと右手かな。しかし、本当にこんなところがあったとは……」

直線コースは無理だろうが、なるべく方向はずらさないようにしないと、今は時間のロスが痛い。        

 

「光の精霊です。スクロールを広げればすぐ使えます。

なるべく一緒に行動したいもんですが、必要に応じて利用してください」

数枚ずつ手渡したスクロールを、ふたりそれぞれが懐にしまうのを待って歩きはじめた。

 

 

「さっき、君自身が地下に落ちたことがあると言っていたが、あれは?」

「まあ、言葉のアヤというか……正確には、俺自身ではないんです。

眠りこけてた時に、ほかの誰かとして体験を……」

「まさか、夢での話だったのか?」 

テレーズの声に滲んだ疑いの色に、エリスが即座に反応した。

「ルーデウスが信じられないなら、今すぐ帰りなさい!

自分たちだけで、どうにかすればいいわ!」

「い、いや、そんなつもりでは……」

ピシャリとしたエリスの物言いに、たたらを踏んだテレーズが俺にぶつかって立ち止まる。

 

「かまいません。テレーズさんのお気持ちはわかりますよ」

エリスが俺を全面的に信用してくれるのは嬉しいけれど、仲違いしている場合ではない。

 

「教団の意向に背く覚悟で付いて来たのに、根拠が〝夢〟じゃ、たまったもんじゃないでしょう。

でも、あれは通常の夢とは違います。俺に憑依した、ナリス姫様に関係する誰かの過去の記憶です。

ミコさんにも見てもらいましたし、なによりも、この場所の存在自体……っと、

岩砲弾(ストーンキャノン)』!」

テレーズの背後からヌッと現れた大きな影を、瓦礫ごと弾いた。

エリスもすでに跳躍し、別のヤツを袈裟懸けに斬っていた。

 

石や瓦礫を含んだ大きな泥のかたまりと、そこから伸びる太い腕と脚。

要するに、首から上がない泥の人型だ。こいつは……

「マッドスカルか?」

 

体長は俺よりちょっと高い程度、ベガリッド大陸で見たものよりも背が低い代わりに、幅や厚みが大きいぶん威圧感がある。

さらに、泥以外のものもゴロゴロ取り込まれたボディー。マッドスカルの亜種っぽい。

 

俺とエリスが倒したはずの2体が、瓦礫の向こうでムックリ起きあがると同時に、こっちに向かって泥の塊や岩砲弾を飛ばしてきた。

身体はすでに修復されているようだ。

 

「エリス! テレーズさん! こいつは泥の身体を斬っても再生します。

胸のあたりにドクロがあるはずですから、そこを狙ってください!

土魔術も使うので、注意して!」

1体目が繰り出す魔術に対処する間にも、新手が現れて泥やら岩砲弾やらを放ってきた。

テレーズの援護をしつつ、手近にいるマッドスカルの相手をするのが次第に忙しくなってくる。

「って、あれ? おかしいな」

ドクロを壊せば一発のはずが、肝心なモノが見つからない。どうなってんだ?

 

「ドクロなんて入ってないわ!」

マッドスカルのズングリした大きな身体を、大根でも切るように横にスライスしながらエリスが叫んだ。

 

一応、A級の魔物なんですが?

さすが剣王様、切れ味すげえな。

俺も真似して氷霜刃(アイシクルエッジ)で輪切りにしてみるが、こっちのヤツにもドクロは見当たらない。

ひょっとして、マッドスカルじゃない別の種類か?

 

「ルーデウス君、下だ! 蜘蛛だ!」

泥に剣を取られて苦戦していたテレーズが、なにかを蹴飛ばした。

サッカーボールのように跳ねあがったソレを岩砲弾で破壊。

すると、彼女が相対していた魔物が人の形を解いて、土塊となってバラバラと地面に落ちた。

 

なるほど、コイツらはドクロを自分以外に持たせていたんだな。

その気で見ると、物陰に何匹もの大蜘蛛がいる。腹部が不自然に膨れているのは、ドクロを収納しているせいか。

蜘蛛はすばしこいだけで、いったん捉えると簡単に斬り伏せられた。

この見かけからして糸くらいは吐きそうなもんだが、単なる荷物持ちだったのだろう。

 

「これは私に任せてくれ!」

「わかりました!」

エリスが次々とマッドスカル本体を無力化していき、テレーズは蜘蛛を斬る。

俺はふたりをサポートしながら臨機応変に動き、岩砲弾でドクロを砕いていった。

 

最初に遭遇してからものの5分で、あたりは蜘蛛やドクロの残骸を覗かせる泥の山になった。

 

 

「呆気なかったと感じてしまうのは、魔物が弱いというより、君たちが強すぎるのだろうな。

剣士と魔術師で相性もいいし、ふたりの息もピッタリ合っている」

「もちろんよ!」

エリスが機嫌良く言葉を返す。

褒められたのもあるけれど、暴れてスッキリしたというのが大きいんじゃなかろうか。

ミリスに来てから鍛錬も思うようにできてなかったし、鬱憤も溜まるだろう。

 

「……先ほどは、感じの悪い言い方になってしまって悪かった。

どちらにしろ、君たちの力を借りないと、私にはどうすることもできない。

神子様の存在は、教団にとってだけではなく、我々〝聖墳墓の守り人(アナスタシア・キープ)〟の宝なんだ。

幼い頃から見てきたせいで、私個人としては、恐れ多くも自分の娘のような思いを抱いている。

上で待っている部下たちのためにも、お助けできる可能性があるならば、どんなところにだって行こう」

「ええ……大丈夫ですよ。俺たちも気持ちは同じです」

 

「ちなみに、その夢の内容を教えてくれないか」

先を急ぎながら、テレーズにもできるだけ簡潔に伝える。

 

途中、何度かマッドスカルの生き残りが現れたけれど、要領がわかっているので手分けしてあっという間に処理。

そのほか巨大な兵隊アリやら動く鎧やら、迷宮らしい魔物がちょいちょい現れたものの、いずれも小物だ。大した足止めにもならない。

 

「……その騎士は、結局どうなったんだ?」

「大量のスケルトンに囲まれ、潰されて……たぶん」

テレーズが、なんとも言えない表情を浮かべた。

「確かに悲劇だ……けれど、短い人生であっても運命の相手に出会えたのは幸せなのかもな」

独り言のようにポツリと発したテレーズを振り返ると、口調を強めて言葉を継いだ。

 

「まあ要するに、数多くのスケルトンと、アンデット系のさらに上位の魔物が潜んでいるということだな」

「力で押せないこともないですが、モノによっては神撃魔術でないと手間取るかもしれません。

その時には、よろしくお願いします」

 

体感的に、そろそろ教団本部の地下に差しかかる頃かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





【挿絵表示】

以降、同じような絵になってしまうような……
洞窟、魔物……どうせなら、キラッキラのお姫様の絵を描きたいですが。




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