【無職転生】ミリシオン出張記〜姫ものがたり〜   作:麓63

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※あとがき部分に拙い挿絵を1枚付けています。
 イメージが壊れたり、限定される恐れもありますので、好まれない方はご注意を。





ミリシオン出張記〜姫ものがたり〜19

「なぜ僕に知らせなかった」

クリフが不機嫌だ。

 

日付も変わろうとする遅い時間のこと、今まで仕事だったのだろうと思えば、ちょっと申しわけない。

そんな彼の誠意に応えるために、自分の中での整理も兼ねて、地下であったことを包み隠さず話していた。

 

「いや、ものすごい急展開だったし。

〝クリフ先輩がいてくれたら!〟って思ったことは、正直何度もあったんですよ?

でも道連れにしていたら、きっと今頃教団内で、いろいろ面倒なことになってたはずです。

俺は部外者だから、少々やらかしたところでお目こぼしもされるでしょうけど」

 

最初から神撃魔術の遣い手がいればもっと楽だったかもしれないが、いかんせんアンデッドの数が多すぎた。個人が対処できるレベルじゃない。

最終的には、魔道具がなければどうにもならなかっただろう。

まあ、すべては結果オーライと言うことで。

 

結局オルステッドは、俺を地上まで引っ張り出してくれたあと、闇に紛れるようにシャリーアに帰ってしまった。

無様にも、足腰立たない状態で置いてけぼりを食らった俺はと言うと。

「私に任せて!」と胸を張るエリスを必死に説き伏せて、神殿騎士ふたりに肩を貸してもらい、正しくは引きずられながら教団本部に戻った。

というか、本部への説明のため連行されたと言うべきだろう。

 

移動中、神殿騎士たちの生ぬるい視線、さらにはナリス姫からの優しい労りの言葉に、俺のなけなしの男の矜持がゴリゴリ削られた。

今回はマジでロクなことがない。つくづくミリスとの相性が悪いような気がする。

 

そして今いるのが、はからずも馴染みとなってしまった回復棟のベッドの上だ。

この感じなら、ひと晩寝たらなんとか自力で歩けるくらいにはなっていると思う。

教皇とは少しだけ話したが、俺が椅子にまっすぐ座っていられなかったために、事情聴取は明日に持ち越しとなった。

ナリス姫も、念のため医師の診断を受けたあと、今頃は貴賓室のあの天蓋付きベッドで休んでいるだろう。

 

「おそらく明日は、根掘り葉掘り聞き出された挙げ句、地下迷宮の存在ごとすべてを秘匿するよう迫られる。

神子と姫君が行方不明になったこと自体、限られた人間しか知らない。

さいわい半日程度で戻られたし、今後も公表されることはないだろう。

だが奇跡の光のほうは、町中でけっこうな騒ぎになっていたから、隠すのは無理だな」

「奇跡の光?」

なんじゃ、そりゃ。

 

「さっきお前が言っていた〝七星刀〟の浄化の光だ。

日没後の周囲がすっかり暗くなった頃、神聖共同墓地から真っ白い光が吹き出して天に刺さったと、市民から多数の目撃情報が寄せられたんだ。

その後もしばらくキラキラした粒子が舞って、あたり一面に降り注いだそうだ。

僕も見に行ったが、あれは灰だったな。

ルーデウスがやった〝浄化〟は、神級の神撃魔術に相当する威力だったと考えている」

 

「……地上ではそんなことになってたんですか。どおりで魔力をごっそり持っていかれるはずだ」

その光もきっと、聖ミリスの起こした奇跡だとかなんとか、ミリス教団の権威づけに利用されることになるのだろう。

 

あのあと地下迷宮内の空気が軽くなり、霊感なんぞはない俺だが、彼らの魂だか残留思念だかは残っていないと感じた。

教皇の言うところの生命の〝泉〟に戻れたのだろうか。それともただ消滅したのか。

 

「? なんだ? 浮かない顔だな」

「俺のしたこと……浄化の剣を使ったのは、正しかったんでしょうか? 

ひょっとして、自己満足の余計なお世話だったのかも……」

俺の言葉の真意を探るようにこちらに視線を向けたクリフが、おもむろに口を開いた。

「……僕や僕の大事な人たちが本来の姿を失ってしまっていたとしたら、終わらせてもらえたことを喜ぶだろう。

そしてそれが教団の抱える負の側面の犠牲者ならば、死後も縛り付けるシガラミから解き放ってやってほしいと……思う」

一度死んで転生した俺すらわからないんだから、考えても答えは出ない。

 

「ルーデウス、お前が来るとさまざまなものが変化する。前回もそう感じたが、今回はもっと影響は大きい。

ミリス教団に由緒があり、権威があるのはいい。しかし同時に硬直し、停滞しているのも事実だ。

無理矢理にでも、風穴を開けてくれたことに感謝する」

 

前回と同じく、俺はミリス教団を引っ掻き回しただけだ。

精一杯の浅知恵を巡らせ、自分がその場を切り抜けるために足掻いた。

もし良いほうへ変化すると言うのなら、教団に関わる多くの人間がもともと改善する力を持っていたということだろう。

暗く汚い部分からも目を逸らさない。そんなクリフの揺るぎのない誠実さのほうが、明日のミリス教にとっての僥倖だと思う。

 

 

教皇との面談、というか尋問は、正直かな〜り辛かった。噂の異端審問もかくや、といった感じだ。

本来なら関わらなくてもいい面倒ごとに巻き込まれた俺。

大きな報酬が約束されているわけでもないのに、身体を張って頑張ったのだ。

オルステッド関連や、〝聖墳墓の守り人(アナスタシア・キープ)〟の面々の立場を悪くする恐れのあるところは少しぼかさせてもらいながらも、教団の未来のためにと、聞かれたことにはできるだけありのままに答えた。

昨夜のクリフからの言葉を受けての、俺なりの誠意だ。

なのに、この仕打ち。

〝ありのまま〟を言いすぎたせいかもしれないが。認めたくない部分も多いだろうからな。

 

断ったら地獄に突き落とされそうな重圧で口止めされたあと、それでも最後には

「ご協力には心から感謝しているのです。今後のご発展と幸いをお祈りしております」

と教皇スマイルで送り出してくれた。

 

地下迷宮はどうするのか、墓地はあのままなのか。

そこまでは教えてくれなかったが、もう俺には関係のないことだ。

 

まだ怠さは残っているものの、体調はそう悪くない。

たった今教皇にHPを減らされたが、それでもなお余裕がある。

 

実は昨晩、エリス・パワーをちょっとだけチャージさせてもらったのだ。

 

あれからクリフと入れ違いのように、沐浴を済ませてきたというエリスが戻ってきた。

宿に帰すには遅い時間、けれど部屋にベッドは1台きり。

そうなれば、やむを得ない。

そう、仕方なかったのだ。

 

目立った汚れを拭って借りた寝衣に着替えただけの俺が、ホコホコと良い匂いをさせたエリスを汚すのは気が引けたのだが。

それ以上にエリスが優しかったので、甘えさせてもらうことにした。

うっかり下半身にオーバーチャージされたらどうしようと思ったが大丈夫だった。ちょっと複雑な気分。

 

引き締まった腕を枕に、鍛えられた大胸筋を豊かに覆う極上の感触に顔をくっつけて。

あまりの心地良さに、すぐに眠り込んでしまったのが残念無念というところだ。

でも久々に、幸せな満ち足りた眠りだった。

 

「ルーデウス!」

エリスだ。廊下で待っていてくれたらしい。

 

「終わったのね! これからどうするの?」

「ミコさんと姫君に挨拶して……ああ、そうだ。テレーズさんや騎士たちにも声をかけておくか」

 

明り採りの窓からの光を、エリスの髪が華やかに照り返している。

「? どうしたのよ、ひょっとして体調悪い?」

うっかり視線を奪われ、動きが止まってたらしい。

顔を寄せて俺を覗き込んだ彼女の白い頰に、長いまつ毛が影を落とした。

「いや……綺麗だなって思っ」

バシィッ!!

突然の衝撃で吹っ飛びかけたところを、腕をつかんで引き戻される。

 

……なんだ、なんだ?

俺をつかんでいないほうの手で、赤面して口元を抑えるエリスがいた。

 

まだ万全の回復ではない。

ヨロケる俺の腕をがっちりホールドしなおした彼女は、無言のまま足早に歩きはじめたのだった。

 

 

「なんだか、いつにも増してラブラブですねっ」

 

言われて気付いたが、腕を絡めたままナリス姫の部屋に入ってしまっていた。

控えの間にいたのが見知らぬ神殿騎士だったせいで、それに気をとられて忘れていたらしい。

「これは失礼を」

すぐに腕を外したものの、ミコさんはニコニコのまま。

「寄り添っておられるのもそうですが、おふたりの間の空気が3割増しにお熱いですよ」

バレバレだ。

 

昨日あんなことがあったというのに、教皇のほうの用事が終わる頃合いに合わせて、ミコさんはナリス姫の部屋で待っていてくれていた。

俺はいつもの窓際の席へ。

エリスは今度も座るのを断って、戸口に立った。

 

「ミコリスもナリス姫様も、昨日は大変な目にあわれましたね。

まずはご無事で良かった、そしてお元気そうでなによりです」

彼女らの普段の暮らしを思うに、いきなり暗闇に落とされた心細さや、魔物との切った張ったはさぞ恐ろしかっただろう。

それでも今、ふたりは日差しの中で穏やかに微笑んでいる。

 

女性って、強いよな。

エリスもそうだ。シルフィもロキシーも。

弱さも醜さも隔てなく、柔らかにふんわり包み込む、そんなしなやかな強さだ。

 

「ルーデウス様こそ、昨日は倒れられてしまったとか。

あのたくさんの気の毒な方々を救ってくださったこと、ミリス教団の人間として心から感謝しています」

「……救えた、のでしょうか」

「はい。彼らはたしかに救われたのです。私にはわかります」

目の奥に俺の迷いを見て取ったに違いないミコさんからの、揺るぎない言葉だった。

 

……そうか。救われたのか。良かった。

「ありがとうございます」

俺自身も救われた気分だった。

 

なぜ俺が礼を言うのかと不思議そうに首をかしげたミリス姫が、改めてこちらに向き直った。

なんだか彼女は、まとう雰囲気が少し変わったように思う。

 

「ルーデウス様には、なにからなにまでお世話になりました。

心を砕いて守っていただきましたし、なんども助けていただきました。

恐ろしい思いもしましたが、今は本当の自分を見つけたような、生まれ変わったような……そんな気分なのです。

おそらくあの病気も、もう二度と出ないことと思います」

結局のところ、憑依だったのか転生者なのかよくわからないままではあるが、きっとこれで良かったのだろう。

 

「ナリス姫様はこれから、どうされるんですか?」

「せっかく親しくなれたミコリスとお別れするのは寂しいですが、また2年かけて帰国して……もし望まれるなら結婚をして、王族としての務めを果たすか……」

ちょっと考えるように視線を上に向けて、姫君は続けた。

「そうですね。識字率向上政策を進めるために、子どもたちへの本の普及活動にも携われたら、と」

「!! 子ども向けの本?!」

突然食いついた俺に目を見張る姫君に、俺は勢い込んでルイジェルドの絵本の話をする。

 

「嬉しいわ。これからもルーデウス様と繋がっていられるのですね」

コロコロと笑うナリス姫に、こんなに明るく笑う人だったっけと驚いた。

 

なぜかジト目のエリスが視界の端に入って、ちょっとこわい。

 

 

教団本部を出る前に、テレーズを呼び出してもらった。

一連の出来事の責任を被せる形になってしまったので心配だったが、部下たちを引き連れて例の中庭に来てくれた。

思いのほかスッキリした顔つきをしていたことに安心する。

 

「表沙汰にできない事情もあって、処分は思ったより軽くて済みそうだ。

ただ、私はこれを機に現場から退くことを決めたんだ。

騎士養成機関の教官への異動願いが受理されたよ。

神子様とは、ご本人が望んでくださったお陰で、交流を続けることはできるようになった。

部下たちは3日間の職務停止ののち、これからも変わりなく神子様を守ってくれる」

「それはなによりです。ちょっと責任感じてたんで、俺も嬉しいです」

地下に引きずり込んだの、俺だしな。

 

「君がなぜ責任を感じる? もともと巻き込んでしまったのは我々のほうだ」

「なんというか……ミリスでトラブル・メーカーになってる気がして」

「まあ、それは違いない。いつもはこんなに頻発して事件は起こらないんだ。

今回のことで我々も、教団の体質について思うところもあるのだけれど……それは時間をかけて、それぞれの中で折り合いをつけていくことになるだろう」

複雑そうな表情から一変、吹っ切れたようにテレーズは笑った。

 

お、赤マント騎士の斬り込み隊長だ。

「ダスト・ボックスさん、俺たちそれなりに良いコンビでしたね」

「……そうだな。だが、もうあんなのは二度とごめんだ」

同感です、と笑って受け流す。

「それでは、皆さんのご活躍をお祈りしています」

 

「じゃあ元気でね!」

「はっ!」

エリスと聖墳墓の守り人の騎士の一部に、主従のような奇妙な関係ができているような気がする。

俺とダスト・ボックスのように、戦いの中で結ばれた絆なのだろうか?

 

そうして俺たちは、ミリス教団本部とミリス神聖国を後にした。

 

 

 

 





【挿絵表示】


残り1話です。
週末にはアップしますね。


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