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※書籍派以外の方への注記あり
⑴
「しばらく遠征任務はないはずだったのにね」
シルフィがふくれっ面だ。
〝これからは一緒の時間が増えるから〟なんて言ったのは昨日だったか、一昨日だったか……
「なんだかほんと、申しわけない」
頭を下げると、シルフィは笑って隣のルーシーの頭をサラリと撫でた。
「ルディに怒ってるわけじゃないよ、仕方ないもん」
「皆さまには悪いですけれど、わたくしは嬉しいですわ」
いっぽう、エリナリーゼはご機嫌だ。クライブとふたりで夕食に招待し、我が家に来てもらっている。
急な話にも関わらず、エリナリーゼはミリス行きをふたつ返事で了承、以降ウッキウキだ。
クリフとの久しぶりの逢瀬だから、テンションが上がるのも無理はない。
「行ってみないとわかりませんが、トンボ返りかもしれないし、事情によっては何日もかかるかもしれませんよ?」
「大丈夫。冒険者たるもの、臨機応変は得意ですもの。
クライブもすっごく楽しみにしてますわ」
わくわくテカテカしているエリナリーゼと、キョトンと座っているクライブ。
まことに微笑ましい姿だが、それよりも俺はルーシーの様子が気がかりでならなかった。
さっきから、こちらをチラチラしながら、なにか言いたげに落ち着きがない。
ひょっとして〝パパの嘘つき!〟とか叫ぶんじゃないか?
それとも〝パパ大嫌い!〟か? そんなん言われたら、絶対死ねるぞ。
恐ろしい予感におののいていると、ついにルーシーが決然と顔を上げた。
「わたし……」
な、なんだ?
「わたしも、」
なに言い出すんだ?
「パパたちといっしょに行きたい!」
……おう。そう来たか。
でも、まあ……良かった。そういうことね。
俺はホッと息をついて、上がっていた肩から力を抜いた。
「そうだなあ、ミリシオンには転移魔法陣も設置済みなんで、移動自体はまったく問題ない。
ただ、パパと赤ママはお仕事があるんで、ずっと一緒にはいられないよ? 大丈夫かな?」
すると即座に、エリナリーゼが助け舟を出してきた。
「あら、わたくしがおりますわ。それはまったく問題ないじゃありませんか。
可愛いひ孫の世話なら、いくらでも引き受けますわよ。
クライブも、ルーシーがいたほうが楽しいですわよね?」
彼はコクンと頷いた。おませなクライブは、同い年のララより年上のルーシーと仲がいい。
「そうか……」
俺はうーむと考える。
いっそのこと、クレアさんに会いに、家族みんなを連れていくっていう手もあるが……
いや、でもやっぱり、ジークがもうちょっと大きくなってからのほうがいいような気がする。
天大陸行きは、赤ん坊ひとりに大人4人いて、それなりに大変だったもんな。※1
母さんと、小さい子ども4人の世話はやっぱり厳しいか……。
しかも今回、先方の事情がほとんどわかってないし。
面倒な仕事だったらすぐにシャリーアに帰せばいいけれど、それって逆にいつでも行けるってことでもあるよな。
……うん、家族旅行は数年後だ。クレアさんもまだまだ元気でいてくれるだろう。
おや??
気付けば、みんなが俺のほうをじっと見ている。それも、なにやら緊張の面持ちで。
ルーシーなんて泣きそうだ。
思わせぶりなタイミングで、自分会議してたのはマズかったかな。
「ああ……ごめん。黙り込んだら心配するよな。
ルーシーのことはオーケーだ。一緒に行こう。
エリナリーゼさん、俺たちで手の回らないところはよろしくお願いします」
張りつめていた空気が緩み、エリナリーゼがクスリと笑った。
「家長としての威厳が〜なんて嘆いていましたけれど、じゅうぶんですわよ。
家族みんなが、ルーデウスの決定を待ってるじゃありませんの」
そうなのか?
ハタから見たら、そんなものなのだろうか。
⑵
「さっき黙りこんだのは、いつか家族全員でミリシオンに行かなきゃなって、考えてたからなんだ。
クレアさんが、みんなに会いたがっていたしね」
「クレアさんってだあれ?」と、アルス。
「ゼニスおばあちゃんのお母さん。だから、アルスたちのひいばあちゃんだな。
みんなを連れて会いに行くからって、パパが前に約束したんだ」
「ひいばあちゃん?」
子どもたち3人が、俺とエリナリーゼを見比べて不思議そうにしている。
「エリナリーゼさんのほかにも、みんなのひいおじいちゃんとひいおばあちゃんは、たくさんいるんですよ。
パパと3人のママそれぞれにお父さんお母さんがいますから、みんなのおじいちゃんおばあちゃんは合わせて……8人」
ロキシー先生が指を立てて説明してくれる。
「そして8人のおじいちゃんおばあちゃんにも、お父さんお母さんがいて……」
ただ、この先は両手でも足りない。
「こらこら、アルス。食卓で靴を脱ぐんじゃない。気持ちはわかるけどさ」
俺も小学校の教室で、足指を数えようとして怒られた覚えがある。
男の子は、このアホっぽさが可愛いんだよなあ。
天才の血を引くクライブは、クリフと同じ黒目がちの瞳をキョロリと上に向け……暗算でもしているのだろう。
同じ男の子でも、やはりアホの子ではないらしい。
と、いうことは、アルスのアホは俺の血のせいだったのだろうか。
「要するに、ひいおじいさんとひいおばあさんがいっぱいいるのよ! それでいいじゃない」
エリスらしい言葉に、アルスも納得して頷いた。
確信した。アルスは俺とエリスの合作で間違いない。
ロキシーは苦笑している。
シルフィの指まで動員して数えていたルーシーが、やがて元気に答えた。
「……合わせて16人!」
おー! パチパチパチと一同拍手。
クライブも計算と一致したのか、「うん」と満足げだ。
「そのとおりだ。ルーシーは賢いなあ。
たくさんのひいじいちゃんひいばあちゃん、それから、おじいちゃんおばあちゃん……誰かひとり欠けても、今のキミたちはいなかったんだ。
そう考えると、不思議だよな。
もちろん全員と会えるわけじゃないけれど、大切にしたいよね」
子どもたちが〝うん〟と頷くのを見届けて、パパのありがたい訓話は終了。
サウロスさんが生きていたら、さぞや賑やかだったろうなあ。
目に入れても痛くないほどだった孫のエリスの子どもだなんて、ベッタベタに可愛がったに違いない。
みんなを甘やかしまくって、大変だったかもしれない。
⑶
翌朝、シルフィがちょっとだけ心配そうだった。
それでも、「パパと赤ママ、ひいおばあちゃんの言うことをきちんと聞くんだよ」とルーシをギュッと抱きしめ、明るい笑顔で送り出してくれた。
家族に手を振って出発。
俺の荷物はほとんど事務所に置いてあるし、他のメンバーも着替えなど荷物は最小限だ。
服は途中で洗濯するか、足りなければ向こうで買ってもいい。ミリスのものは品質がいいから、それもありだろう。
身軽な道行きである。
幼いルーシーとクライブにとっては、自宅から事務所までの道のりもそれなりに遠い。
ふと思いついて、子どもふたりを両肩に乗っけてみた。
魔導鎧を着込んでるから、ご希望とあらば、高速で走ったり、向こうの崖にジャンプしたりのアトラクション・サービスも可能だ。
試しにちょっと跳んでみたら、ルーシーから本気で嫌がられたんで諦めた。
……が、横からキラキラした視線が注がれているのを感じる。
「ルーデウス、次は私ね!」
よしきた、望むところだ!
彼女の仰せのままに、エリスに肩車をして、太ももを……
とか考えかけたところで、思い止まった。
そのまま股で頸動脈を締められて、落ちる未来が見える。と言うか、それしか見えんな。
「まことに残念ですが、この乗り物は子ども専用となってます」
「なによ、ケチ!」
明るいお天道さまの下で、大人専用の乗り物になるのは、さすがの俺でもはばかられる。
しかし、近いうちにきっと〝大人の乗り物遊び〟をやろうと心に決めた。
軽く言葉を交わしながら、青空の下をのんびり歩く。
これで仕事がなければ……ミリスじゃなければ最高だったんだがなぁ。
子どもふたりは高くなった視界からエリスやエリナリーゼを見下ろしてはしゃいでいる。
いい感じだ。
たまの休日を家族サービスに費やす、前世の世界でのお父さんたちの気持ちがわかるな。
家族が喜べば俺も嬉しいし、日頃子どもにあまり関われないことへの罪悪感も、ちょっとだけ軽くなる。
問題があるとすれば、頭をつかまれて髪の毛が乱れることぐらいか。
俺の毛は、残念ながら龍聖闘気に守られていないのでひ弱なんだ。いたわってほしい。
⑷
エリスとエリナリーゼ、クライブを入り口で待たせて、ルーシーとふたり、手を繋いで事務所に向かう。
「オルステッド様にご挨拶できるね?」
「うん」
「よし、いい子だ」
ノックをし、返事を待って中に入る。
「失礼します、ルーデウスです」
オルステッドは光の差し込む明るい室内で、朝も早くから書類とにらめっこだ。
「来たか」と紙面から顔を上げたところで、ルーシーがペコンと頭を下げた。
「オルステッドさま、おはようございます」
「……おはよう」
ルーシーに向けられる視線は、俺へのものより柔らかい。なんなら声も若干ながら穏やかだ。
というか、ルーシーのオルステッド耐性はすごくないか?
呪いがなくても普通に怖い顔だぞ? こんな怖いおじさんはそうそういないはずだ。
俺に対する時の態度のほうが、身構えている感すらある。ちょっとジェラシー。
「連れて行くのか?」 あ、社長の顔が通常モードに戻ったよ。
「ええ。エリスとエリナリーゼが同行するので、支障はありません。
長引くようでしたら、先に帰すつもりです」
「ほかは外にいるのだな」
オルステッドがヘルメットを手に取って、書斎を後にした。
朝の日差しの中、もの珍しそうに動き回っているクライブと、それを見守るふたりの女性。
「エリナリーゼ・ドラゴンロード」
「あら、オルステッド様、良い朝ですわね。
ルーデウスと一緒に転移魔法陣を使わせていただきますけれど、構いませんかしら?」
「ああ、問題ない」
駆け寄って朝の挨拶をするクライブに軽くて頷いて返すと、言葉を続けた。
「スペルド族の村ではほんとうに世話になった。
クリフ・グリモルに、オルステッドが感謝していたと伝えてくれるか」
「わかりましたわ」
「エリス・グレイラット!」
「……なによ」
「向こうでなにがあるかわからん。〝お姫様〟ふたりを頼んだぞ」
一瞬ポカンとしたエリスだったが、横で頭を抱えた俺の様子に、合点承知とばかりに力強く答えた。
「任せて。大丈夫よ!」
「まあ、お姫様ですって?
そう見えても無理はありませんけれど、わたくし、もうお姫様って歳ではないんですのよ?」
「あー……その話はいいから、出発しますよ。
それでは、オルステッド様、行ってきます!」
と、いうことで、俺は急いで荷物をまとめると、エリナリーゼの背を押しながら地下の転移魔法陣へと降りていったのだった。
【挿絵表示】
ほのぼの家族〜
また、すみません。
WEB版にない、書籍版での加筆部分関連です。
※1 書籍版23巻 第1〜3話「天大陸への旅路」参照
ペルギウスの命により、生まれたばかりのジークに洗礼を受けさせるために妻たちと天大陸を訪れた。背中に背負った赤ん坊からオシッコされたりしながらも、パパデウスも奮闘。
なんて注記をするくせに、私自身書籍版は半分弱しか持っていません。