【無職転生】ミリシオン出張記〜姫ものがたり〜   作:麓63

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※あとがき部分に拙い挿絵を1枚付けています。
 イメージが壊れたり、限定される恐れもありますので、好まれない方はご注意を。
※書籍派以外の方への注記あり


ミリシオン出張記〜姫ものがたり〜3

「しばらく遠征任務はないはずだったのにね」

シルフィがふくれっ面だ。

 

〝これからは一緒の時間が増えるから〟なんて言ったのは昨日だったか、一昨日だったか……

「なんだかほんと、申しわけない」

頭を下げると、シルフィは笑って隣のルーシーの頭をサラリと撫でた。

「ルディに怒ってるわけじゃないよ、仕方ないもん」

 

「皆さまには悪いですけれど、わたくしは嬉しいですわ」

いっぽう、エリナリーゼはご機嫌だ。クライブとふたりで夕食に招待し、我が家に来てもらっている。

 

急な話にも関わらず、エリナリーゼはミリス行きをふたつ返事で了承、以降ウッキウキだ。

クリフとの久しぶりの逢瀬だから、テンションが上がるのも無理はない。

 

「行ってみないとわかりませんが、トンボ返りかもしれないし、事情によっては何日もかかるかもしれませんよ?」

「大丈夫。冒険者たるもの、臨機応変は得意ですもの。

クライブもすっごく楽しみにしてますわ」

 

わくわくテカテカしているエリナリーゼと、キョトンと座っているクライブ。

まことに微笑ましい姿だが、それよりも俺はルーシーの様子が気がかりでならなかった。

さっきから、こちらをチラチラしながら、なにか言いたげに落ち着きがない。

 

ひょっとして〝パパの嘘つき!〟とか叫ぶんじゃないか? 

それとも〝パパ大嫌い!〟か? そんなん言われたら、絶対死ねるぞ。

 

恐ろしい予感におののいていると、ついにルーシーが決然と顔を上げた。

「わたし……」

な、なんだ? 

 

「わたしも、」

なに言い出すんだ?

 

「パパたちといっしょに行きたい!」

 

……おう。そう来たか。

 

でも、まあ……良かった。そういうことね。

俺はホッと息をついて、上がっていた肩から力を抜いた。

 

「そうだなあ、ミリシオンには転移魔法陣も設置済みなんで、移動自体はまったく問題ない。

ただ、パパと赤ママはお仕事があるんで、ずっと一緒にはいられないよ? 大丈夫かな?」

 

すると即座に、エリナリーゼが助け舟を出してきた。

「あら、わたくしがおりますわ。それはまったく問題ないじゃありませんか。

可愛いひ孫の世話なら、いくらでも引き受けますわよ。

クライブも、ルーシーがいたほうが楽しいですわよね?」

彼はコクンと頷いた。おませなクライブは、同い年のララより年上のルーシーと仲がいい。

 

「そうか……」

俺はうーむと考える。

 

いっそのこと、クレアさんに会いに、家族みんなを連れていくっていう手もあるが……

いや、でもやっぱり、ジークがもうちょっと大きくなってからのほうがいいような気がする。

天大陸行きは、赤ん坊ひとりに大人4人いて、それなりに大変だったもんな。※1

母さんと、小さい子ども4人の世話はやっぱり厳しいか……。

しかも今回、先方の事情がほとんどわかってないし。

面倒な仕事だったらすぐにシャリーアに帰せばいいけれど、それって逆にいつでも行けるってことでもあるよな。

……うん、家族旅行は数年後だ。クレアさんもまだまだ元気でいてくれるだろう。

 

おや??

 

気付けば、みんなが俺のほうをじっと見ている。それも、なにやら緊張の面持ちで。

ルーシーなんて泣きそうだ。

思わせぶりなタイミングで、自分会議してたのはマズかったかな。

 

「ああ……ごめん。黙り込んだら心配するよな。

ルーシーのことはオーケーだ。一緒に行こう。

エリナリーゼさん、俺たちで手の回らないところはよろしくお願いします」

 

張りつめていた空気が緩み、エリナリーゼがクスリと笑った。

「家長としての威厳が〜なんて嘆いていましたけれど、じゅうぶんですわよ。

家族みんなが、ルーデウスの決定を待ってるじゃありませんの」

 

そうなのか?

ハタから見たら、そんなものなのだろうか。

 

 

「さっき黙りこんだのは、いつか家族全員でミリシオンに行かなきゃなって、考えてたからなんだ。

クレアさんが、みんなに会いたがっていたしね」

 

「クレアさんってだあれ?」と、アルス。

「ゼニスおばあちゃんのお母さん。だから、アルスたちのひいばあちゃんだな。

みんなを連れて会いに行くからって、パパが前に約束したんだ」 

「ひいばあちゃん?」

子どもたち3人が、俺とエリナリーゼを見比べて不思議そうにしている。

 

「エリナリーゼさんのほかにも、みんなのひいおじいちゃんとひいおばあちゃんは、たくさんいるんですよ。

パパと3人のママそれぞれにお父さんお母さんがいますから、みんなのおじいちゃんおばあちゃんは合わせて……8人」

ロキシー先生が指を立てて説明してくれる。

「そして8人のおじいちゃんおばあちゃんにも、お父さんお母さんがいて……」

ただ、この先は両手でも足りない。

 

「こらこら、アルス。食卓で靴を脱ぐんじゃない。気持ちはわかるけどさ」

俺も小学校の教室で、足指を数えようとして怒られた覚えがある。

男の子は、このアホっぽさが可愛いんだよなあ。

 

天才の血を引くクライブは、クリフと同じ黒目がちの瞳をキョロリと上に向け……暗算でもしているのだろう。

同じ男の子でも、やはりアホの子ではないらしい。

と、いうことは、アルスのアホは俺の血のせいだったのだろうか。

 

「要するに、ひいおじいさんとひいおばあさんがいっぱいいるのよ! それでいいじゃない」 

エリスらしい言葉に、アルスも納得して頷いた。

確信した。アルスは俺とエリスの合作で間違いない。

ロキシーは苦笑している。

 

シルフィの指まで動員して数えていたルーシーが、やがて元気に答えた。

「……合わせて16人!」

おー! パチパチパチと一同拍手。

クライブも計算と一致したのか、「うん」と満足げだ。

 

「そのとおりだ。ルーシーは賢いなあ。

たくさんのひいじいちゃんひいばあちゃん、それから、おじいちゃんおばあちゃん……誰かひとり欠けても、今のキミたちはいなかったんだ。

そう考えると、不思議だよな。

もちろん全員と会えるわけじゃないけれど、大切にしたいよね」

子どもたちが〝うん〟と頷くのを見届けて、パパのありがたい訓話は終了。

 

サウロスさんが生きていたら、さぞや賑やかだったろうなあ。

目に入れても痛くないほどだった孫のエリスの子どもだなんて、ベッタベタに可愛がったに違いない。

みんなを甘やかしまくって、大変だったかもしれない。

 

 

翌朝、シルフィがちょっとだけ心配そうだった。

それでも、「パパと赤ママ、ひいおばあちゃんの言うことをきちんと聞くんだよ」とルーシをギュッと抱きしめ、明るい笑顔で送り出してくれた。

 

家族に手を振って出発。

俺の荷物はほとんど事務所に置いてあるし、他のメンバーも着替えなど荷物は最小限だ。

服は途中で洗濯するか、足りなければ向こうで買ってもいい。ミリスのものは品質がいいから、それもありだろう。

身軽な道行きである。

 

幼いルーシーとクライブにとっては、自宅から事務所までの道のりもそれなりに遠い。

ふと思いついて、子どもふたりを両肩に乗っけてみた。

魔導鎧を着込んでるから、ご希望とあらば、高速で走ったり、向こうの崖にジャンプしたりのアトラクション・サービスも可能だ。

試しにちょっと跳んでみたら、ルーシーから本気で嫌がられたんで諦めた。

 

……が、横からキラキラした視線が注がれているのを感じる。

「ルーデウス、次は私ね!」

 

よしきた、望むところだ! 

彼女の仰せのままに、エリスに肩車をして、太ももを……

とか考えかけたところで、思い止まった。

そのまま股で頸動脈を締められて、落ちる未来が見える。と言うか、それしか見えんな。

 

「まことに残念ですが、この乗り物は子ども専用となってます」

「なによ、ケチ!」

明るいお天道さまの下で、大人専用の乗り物になるのは、さすがの俺でもはばかられる。

しかし、近いうちにきっと〝大人の乗り物遊び〟をやろうと心に決めた。

 

軽く言葉を交わしながら、青空の下をのんびり歩く。

これで仕事がなければ……ミリスじゃなければ最高だったんだがなぁ。

 

子どもふたりは高くなった視界からエリスやエリナリーゼを見下ろしてはしゃいでいる。

いい感じだ。

たまの休日を家族サービスに費やす、前世の世界でのお父さんたちの気持ちがわかるな。

家族が喜べば俺も嬉しいし、日頃子どもにあまり関われないことへの罪悪感も、ちょっとだけ軽くなる。

 

問題があるとすれば、頭をつかまれて髪の毛が乱れることぐらいか。

俺の毛は、残念ながら龍聖闘気に守られていないのでひ弱なんだ。いたわってほしい。

 

 

エリスとエリナリーゼ、クライブを入り口で待たせて、ルーシーとふたり、手を繋いで事務所に向かう。

「オルステッド様にご挨拶できるね?」

「うん」

「よし、いい子だ」

 

ノックをし、返事を待って中に入る。

「失礼します、ルーデウスです」

オルステッドは光の差し込む明るい室内で、朝も早くから書類とにらめっこだ。

 

「来たか」と紙面から顔を上げたところで、ルーシーがペコンと頭を下げた。

「オルステッドさま、おはようございます」

「……おはよう」 

ルーシーに向けられる視線は、俺へのものより柔らかい。なんなら声も若干ながら穏やかだ。

 

というか、ルーシーのオルステッド耐性はすごくないか?

呪いがなくても普通に怖い顔だぞ? こんな怖いおじさんはそうそういないはずだ。

俺に対する時の態度のほうが、身構えている感すらある。ちょっとジェラシー。

 

「連れて行くのか?」 あ、社長の顔が通常モードに戻ったよ。

「ええ。エリスとエリナリーゼが同行するので、支障はありません。

長引くようでしたら、先に帰すつもりです」

「ほかは外にいるのだな」

オルステッドがヘルメットを手に取って、書斎を後にした。

 

朝の日差しの中、もの珍しそうに動き回っているクライブと、それを見守るふたりの女性。

「エリナリーゼ・ドラゴンロード」

「あら、オルステッド様、良い朝ですわね。

ルーデウスと一緒に転移魔法陣を使わせていただきますけれど、構いませんかしら?」

「ああ、問題ない」 

駆け寄って朝の挨拶をするクライブに軽くて頷いて返すと、言葉を続けた。

「スペルド族の村ではほんとうに世話になった。

クリフ・グリモルに、オルステッドが感謝していたと伝えてくれるか」

「わかりましたわ」

 

「エリス・グレイラット!」

「……なによ」

「向こうでなにがあるかわからん。〝お姫様〟ふたりを頼んだぞ」

一瞬ポカンとしたエリスだったが、横で頭を抱えた俺の様子に、合点承知とばかりに力強く答えた。

「任せて。大丈夫よ!」

 

「まあ、お姫様ですって?

そう見えても無理はありませんけれど、わたくし、もうお姫様って歳ではないんですのよ?」

「あー……その話はいいから、出発しますよ。

それでは、オルステッド様、行ってきます!」

 

と、いうことで、俺は急いで荷物をまとめると、エリナリーゼの背を押しながら地下の転移魔法陣へと降りていったのだった。

 

 

 

 

 

 





【挿絵表示】

ほのぼの家族〜


また、すみません。
WEB版にない、書籍版での加筆部分関連です。
※1 書籍版23巻 第1〜3話「天大陸への旅路」参照
  ペルギウスの命により、生まれたばかりのジークに洗礼を受けさせるために妻たちと天大陸を訪れた。背中に背負った赤ん坊からオシッコされたりしながらも、パパデウスも奮闘。

なんて注記をするくせに、私自身書籍版は半分弱しか持っていません。



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