ダンガンロンパ・scripter~絶望の舞台劇~   作:月乃と星乃

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【CHAPTER1。幕間】girl・boy last

『一章。シロ?編』

 

秋雨彦吉は「不運」だった。

何もない所でも転び。よく怪我をし。

新しい靴を履いたり新しい服を着れば必ずその日のうちに汚れる。

テスト前日に勉強すれば当日に具合が悪くなるかヤマが外れる。

目の前の信号は必ず赤。

じゃんけんで勝ったことがない。

性格と不運のせいで友達なんてものは一人もいない。

お気に入りの物は何回か使ったら壊れるか紛失する。

おみくじでは大吉どころか吉すら引いたことがない。

引いたことがあるのは凶だけだ。

 

そんな彼のもとにあの希望ヶ峰学園の通知が届いた。

信じられなかった。何度も何度も見直したし。顔を冷水で洗った。

これは夢だろうか?と思った。

だけど何度も見直しても、顔を洗っても通知は変わらなかったし。

ほっぺたをつねったらちゃんと痛かった。

 

両親は自分の事のように喜んでくれた。両親は良い親だし大好きだ。

兄は大嫌いだけど、両親は自分なんかにはもったいないくらいの本当に良い両親だ。

どうせこの通知は誰かのイタズラだろう希望ヶ峰学園に行ったら、

その誰かに笑われて馬鹿にされるだろう。

偽物だと証明するために希望ヶ峰学園に行ってやろう。

万が一、億が一にも本物だったら儲け物だ。卒業して親孝行しよう。

そう思って入学を決意した。

 

結果、通知は本物だったが…。

コロシアイ学園生活に参加することになってしまった。

 

初日の自分の居室にて彼は部屋を調べることなく、真っ先にベットの上に座り

頭を掻きむしりブツブツと独り言を言っていた。

まだ初日だが…。

秋雨彦吉は誰よりも不安で不安で仕方がなかったしイライラしていたし焦っていた。

(早く、早くここから出ないと…!どんな手をつかってもどんなことをしても、

何を犠牲にしてでもボクは死にたくありません!)

 

普段からネガティブでマイナス思考な彼が耐えられるはずがなかった。

それに自分がどれだけ不運なのかは自分自身が嫌って言うほどに知っている。

初日にて人を殺す決意を、皆を犠牲にする覚悟をした。

皆で協力する?外からの救助を待つ?そんな悠長なことを言っている場合ではない。

自分は「超高校級の不運」なのだ。

無人島に他の皆が武器や食料を持ってきている中に丸腰で挑むようなものだろう。

生きて生還できる、誰かに助けてもらえる。

そんな「幸運」が自分のようなゴミ虫に訪れるはずがない。

 

どうすればいい?

決意しても覚悟を決めても学級裁判とやらをして勝たなくてはいけない。

 

他の皆のような才能もないし他の皆を騙せるほど頭がいいわけでもない。

自分に出来ることをしようと思い手帳に殺人の事を色々考えて書き込んだ。

頭で思うことを字にして書いた方が後で見直せるしハッキリすると思ったからだ。

それに少しでも気を紛らわすために何かをしておきたかった。

その日はいつの間にか寝てしまっていた。

 

事態は好転するどころか悪化していた。

紛失するのが嫌で手元にないと不安だったので手帳をポケットに入れていたのだが

無くしてしまった。

 

探しても探しても見つからない。

さらにはジョーカーが動機を出してきた。記憶を消す、ランダムで一人を選ぶ?

 

(そんなのボクが選ばれるに決まっているじゃないですか…!)

頭が真っ白になり気が付いたら走り出していた。逃げる場所もないのに。

そしていつも通りに何もない所で転んだ。

 

「えっと…大丈夫?」

そう言っておずおずと手を差し伸ばしてきたのは

「超高校級の脚本家」の江ノ本 望夢だった。

心配で追いかけてきてくれたのだろう。意外だ。気弱そうなのに。

でもそんなことはどうでもいい。

睨みつけた後に無視して立ち去ろうとしたが呼び止められた。

そして「協力しないと」「皆で力を合わせて頑張ればなんとかなる」

「大丈夫」「気持ちもわかる」と綺麗事を言ってきた。

 

何でこの状況で、この期に及んでそんなことが言えるんだ…?

………。そうか恵まれているからだ。才能を持っていて。友人がいる。

不運な奴に対しての哀れみか。

自分はこんなゴミ野郎なんかにも優しくしてやろうという情け。

それか無様で情けない奴を気にかけることで優越感でも得たいのか。

 

周囲に対する点数稼ぎか。そんなところだろう。むかつく…!

大声で怒鳴ったら相手は尻もちをついた。

「構わないでください」と言ったのにも関わらず腕を掴んで止められた。

腕を放された後に頭を下げられた。謝罪をされて「仲間だと思っている」

「友達になってくれないかな?」と言われた。

訳が分からなかった。

何の才能もない「不運」の自分と友達になっても何の得もないだろうに。

それに悪いのは、謝るべきなのは明らかに自分だ。

心配してわざわざ追いかけてきてくれた人に怒鳴って八つ当たりして。

非難されても文句を言われても見棄てられてもいいくらいなのに。

 

「…。すみませんでした。」

「え?」

 

驚いた顔をした仲間に謝った後に逃げるように走り去った。

 

 

秋雨彦吉は江ノ本望夢を殺しのターゲットに決めた。

だけど勘違いしないでほしい。彼が憎いわけでも嫌いなわけでもない。

自分なんかを心配してくれて「仲間だと思っている」と言ってくれた。

気弱なのに、怯えたような…泣きそうな顔で

逃げたりせずに謝罪をして頭を下げてくれた。

こっちの方から友達になってくれと頼みたいくらいにいい人だ。

 

「不運」の自分が友達を殺さなくて済む「幸運」に恵まれるわけがない。

だから上手くいくはずだ。

失敗してしまうかもしれないがこのまま何もしないでいるよりずっとましだ。

 

準備をして食堂に向かうといたのは江ノ本ではなく晴天だった。

(!?…な、なんで晴天さんが?料理当番でもないのに!)

 

「え、秋雨くん?どうして?」

 

(それはこっちのセリフですよ…。どうしましょう。嘘をついて誤魔化しましょうか?)

いや、この機会を逃したら記憶をジョーカーに消されるまで二度と訪れないだろう。

誰かが殺したとしても学級裁判で死ぬかもしれない。

ここで殺るしかない…!晴天がここに来たのは偶然だろう。

その偶然を利用してやる。

 

「秋雨くん?どうしたの?恐い顔してるよ…?」

「すみません…。死んで下さい!」

 

懐に隠していた包丁を手に取って襲い掛かる!

 

「きゃっ…!」

 

間一髪で避けられた。

無我夢中で相手を殺そうとするが向こうも必死で抵抗してきた。

 

「冷静になって」「殺しなんてやめて」「落ち着いて!」

 

色々言ってきた。説得でもしたいんだろう。

うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!

殺しが悪いことなんてそんなの分かってる!

早く殺さないといつ江ノ本が来るのか、誰かが来るのか分からない!

証拠隠滅だってしないといけないのに!

 

相手が厨房に逃げ込んだ。

急いで後を追う。

 

この時、秋雨彦吉は急いで後を追うのではなく。一度冷静になるべきだった。

そうすれば少なくともすぐに死ぬことはなかったし、

もしかしたら晴天四葉を殺せていたかもしれなかった。

しかし恐怖心や焦りでまともな精神状態ではない彼にそんな余裕なんてなかった。

 

「…!」

 

何もない所で足がもつれて転んでしまった。

 

(まずい…!早く立ち上がらないと!)

そう思って立ち上がろうとした直後。

 

   ガシャン!!!

 

後頭部に痛み、衝撃が走る。

 

 

…失敗してしまった。計画も上手くいかなかったし殺しも出来なかった。

それどころか今ここで死にかけている。いやもうじき死んでしまうだろう。

でも悔しいとか思わなかった。

いや…。

友達を殺さなくて済んだと、他の皆に生きているときに裏切りがばれなくて良かったという安心があったのかもしれない。

最期の自分の墓場が厨房なんて思ってもみなかった。

 

走馬灯なんて見えない意識がだんだんなくなっていく…。

「家族」にも会えずにここから出られずに計画も失敗し殺される。

 

(ボクのような皆を犠牲にしようとしたクズにお似合いの最後ですね…)

ふと頭の中にあの時の事が思い浮かんだ。

江ノ本が友達になってくれと情けない声で言ってきた時の事だ。

こんな自分でも、もう一度同じセリフを言ってくれるだろうか?

もしも願いが叶うのなら、殺し合い学園生活じゃなくて

普通の学園生活を送りたかった。

少なくても何人か頑張って友達を作って両親を安心させてあげたかったし

人並みの青春をしてみたかった。

 

(…。本当にすみません。特に晴天さんと江ノ本さん)

もしも普通の学園生活を送れていたら、記念すべき友達一号は

江ノ本だったかもしれないとそんなことをぼんやりと考えながら

 

秋雨彦吉は嘲笑を浮かべて死亡した。

 




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