ダンガンロンパ・scripter~絶望の舞台劇~   作:月乃と星乃

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【CHAPTER1。幕間】girl・boy last №2

『一章。クロ編』

 

晴天四葉は「普通」だった。

容姿も普通だし。体型も肥満でもやせ型でもない普通。

テストを受ければ平均点を少しだけ上回るか下回るかくらい。

平凡な家庭に家族。平凡な家庭。

あるのはあってもなくても変わらないようなささやかな「幸運」だけだ。

 

でも彼女は「特別になりたい」「退屈」「才能が欲しい」等、一切思わなかった。

今の自分や環境に不満なんてなかった。

自分より劣っている人も、自分より不幸な人もいるし「普通」すら手に入れることができない人もいる。

優れている特別な才能を持っている人は周りの期待とかが重いだろうし、

特別な環境で育った人はその影響を悪い方で受けてしまうかもしれない。

自分の好きなように不自由なく過ごせていける。

そんな自分は「幸運」だと思っていた。

 

そんな彼女のもとにあの希望ヶ峰学園の通知が届いた。

信じられなかったし、正直行きたいと思えなかった。

周りは天才だらけなのに凡人の自分が行くなんて悪い意味で浮いてしまうだろう。

でも周りの友人達や家族は大喜びだった。

気の強い性格だったら「行かない!」と断れていたかもしれない。

でも「普通」の彼女にはそれができなかった。

 

結果。

 

殺し合い学園生活に参加することになってしまった。

 

 

初日は自分の居室のベットの上に寝っ転がってぼんやりとすることしかできなかった。

いまだに現実を受け止めきれなかった。

学園側の悪趣味なドッキリだろうと思ったし、万が一そうじゃなくても大丈夫。

何とかなる。自分以外の人もいる。助けが来ると何度も何度も自分自身に言い聞かせていた。

 

しかし、事態はまったく好転しなかった。

ドッキリでした!っていうプレートは出てこなかったし脱出の糸口もないし非協力的な人達もいる。

動機まで出されてしまった。

でもまだ現実を直視できなかったし自分にまだ大丈夫って言い聞かせていた。

 

それくらいしか出来なかった。

 

…仕方ないじゃないか。

自分は力も知恵も才能もない普通の一般人なのだから。

 

ベットに横になっているといつの間にかドアの前に紙が落ちていた。

拾って見てみると差出人は江ノ本だった。

大事な話?何だろ?一人で来てほしい?

まぁいいか。

心細くて不安だったので誰かと話したかった所だったし相手が体力も力もなさそうな江ノ本なら安心だ。

せっかく大事な話をしてくれるのだから断るのも悪いし。

 

この時、晴天四葉はもう一度考え直すべきだった。

そうすればあの気弱な江ノ本が女子を一人で呼び出すなんておかしいと、

直接本人に言うんじゃなくて手紙でだすなんておかしいと気づけたかもしれなかった。

自分の置かれている現実にも目を背け楽観的に考えてしまっている彼女はそれをしなかった。

 

食堂に早めに向かい、自分の好きなカフェオレを作る。

カフェオレを飲んでのんびりとしていた。

もう6時過ぎたのにまだかなぁ。

後10分くらいたっても来なかったら一度自分の部屋に戻ろうとぼんやりと考えていた。

 

ガチャ…。

 

「え、秋雨くん?どうして?」

 

来たのは江ノ本ではなく秋雨だった。

マスクをしているため口元は分からないが、それでもはりつめたような雰囲気や

恐い顔をしていることは分かった。

 

「秋雨くん?どうしたの?恐い顔してるよ…?」

 

「すみません…。死んで下さい!」

 

声を掛けた直後に襲い掛かられた。

 

「きゃっ…!」

 

間一髪で避けた。いや避けられたのは本当にたまたまだ。

少し遅かったら運が悪かったら確実に殺されていた…!

 

必死に抵抗する。秋雨は本気で殺しにかかってきている。

 

「冷静になって!」

 

「殺すなんてやめて!」

 

「落ち着いて!」

いくつも言葉を投げかけるが。

相手が納得するには至らなかった。

 

死にたくない!殺されたくない!助かりたい!

 

無我夢中で厨房に逃げ込む。

当然相手は追ってきた、だがその後に転んだ。

 

「…!」

 

  ガシャン!!!

 

気が付くと近くにあった醤油瓶で殴ってしまっていた。

秋雨はぐったりとしていて動かない。頭から血が出ている。

自分が硬い瓶で殴ったのだから当然だ。

 

脳裏を過ったのは校則のことだった。7,8の校則だ。

 

人を殺してしまった。学級裁判で指摘されればお仕置き…。処刑されてしまう。

 

(嫌だ!嫌だ!どうしよう!死にたくない!!)

 

殺すつもりなんて毛頭なかった。必死に抵抗した。無我夢中だった。

 

こんなの不可抗力だ。

 

人を殺す決意も皆を犠牲にする覚悟だってしてないのに!

今更秋雨を手当てをしても無駄だということは素人でも分かる。

 

皆に事情を説明して助けてもらう?

いや、クロを指摘できなかったら残りの皆が死んでしまう。

出会って数日しかたっていない人の為に死んでくれなんて言えないし言っても無駄だろう。

人を殺してしまったという事実と学級裁判で負けたらお仕置きされるというルールで頭が混乱する。

だけど無情にも時間は過ぎる。

 

急いで証拠隠滅をしなければ。早くしないと誰かが来てしまう。

 

(どうしよう…!取り合えず床を綺麗にして)

 

そう思い厨房から出ようとした所で校則を思い出す。

床を綺麗にするにはモップか雑巾が必要だ、でも念入りに綺麗にする時間なんてない。

 

外に取りに行って帰ってくる時に誰かに見られてしまうかもしれない。

 

こうなったら…!

 

木を隠すなら森の中っていう言葉があるくらいだ。逆に散らかしてしまえばいい。

床に調味料の瓶を勢いよく叩きつけて割る。コップも割っておこう。

匂いとかでカフェオレを飲んでいたことがばれるかもしれない。

後は江ノ本に疑いが向くように手紙をわざと分かりやすい所に置く。

 

急いで部屋に帰って着替える。

この服はどうしよう?洗濯する時間もないし焼却炉で処分したくても鍵を持ってない。

自分の部屋に隠すしかないか…。

 

 

〈ピーンポーンパーンポーン♪死体が発見されました!一定の捜査の後、学級裁判を開始します!〉

 

捜査なんて碌にできなかった皆に対する罪悪感と、良心の呵責で泣きそうだし吐きそうだ。

今すぐ全てを話して楽になってしまいたい。

でも、皆に非難されたくない、怒られたくない、人を殺したことを知られたくない、認めたくない。

 

死にたくない。

 

…大丈夫だ。

14人もいるとはいえ、映画や小説のように探偵がいるわけではない。証拠隠滅だってした。

自分より江ノ本が疑われるはずだし、自分の部屋には入れないはずだ。

余計なことをしないでいつも通りに振舞っていれば、ミスをしなければ、ばれないハズだ。

 

(皆、ごめん。本当にごめん。でも私は死にたくない!)

 

 

結局、学級裁判に負けお仕置きされてしまった。

 

…でも殺人が、裏切りがばれても尚、庇ってくれる人達がいる。

これ以上に苦しむこともなく、悲しむこともなく、

残酷な真実を知る前に殺し合い学園生活を退場することができた彼女は幸運なのかもしれない。

 


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