Fate/Librarian   作:いんしゃーく

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聖杯戦争Ⅰ

のっぺりとした、黒い仮面を被る。

 

「──────で」

 

 遠坂邸の居間を離れ、彼女──遠坂凜の私室まで案内されることとなった。凜はリラックスしたようにベッドに腰掛ける。取り乱していた様子だったが、今は大分落ち着いているようだ。所作にも優雅さが感じられる。

 

 凜はゆっくりと、しかし確かな意志を込めたような面持ちと声色で話を切り出した。

 

「ローラン──? 単刀直入に聞くけど、貴方はかの『シャルルマーニュ十二勇士』が一人、『ローラン』で間違いない?」

「シャルルマーニュか、懐かしい名前だ──」

 

 その名前には忘れがたいほどの思い入れがある。かつて俺が所属していた12人の凄腕フィクサーを集めた少数精鋭の事務所、『チャールズ事務所』の所長の名だった。各々が異なる分野のスペシャリストであり、小規模な事務所でありながら『都市の星』クラスの事件を多く担当する協会直属の事務所かそれ以上の扱いを受けていた。

 オリヴィエ、アストルフォ、リナルド、オジェ、ブラダマンテ、テュルパン……。

 そして、アンジェリカ。

 懐古とも、哀しみにも、それでいて歓喜にも似たような複雑な感情が渦巻き、無意識に口元が緩んでしまった。

 

 そんな俺の反応をどう受け取ったのか、凜がより一層目を輝かせる。

 

「──じゃあやっぱり!」

「その名前と同じ人とは知り合いだったよ、でも所属していた組織では俺含めて『12フィクサー』とは呼ばれることはあっても『シャルルマーニュ十二勇士』なんて御大層な名前じゃなかった」

「────は? 12フィクサー……?」

「ああ、君が言った『十二勇士のローラン』という存在は聖杯から流れ込んできた知識として理解している実感はあるけど──」

「──けど?」

「俺は、その英雄サマとは別人であることは断言できる」

 

 ガーン、と。そんな擬音が良く似合う顔で凜は口をあんぐり開けて目を白黒させた。表情がコロコロと変わるのは見ていて面白い。だがこの反応は明らかに失望のそれだ……。

 居間で出会いを果たした時と同じような微妙な空気が、部屋を支配する。俺は居心地が悪くなる思いを抱いて、ポリポリと頭の後ろを掻いていた。

 30秒ほど過ぎただろうか、気を持ち直したのか凜はおそるおそるといった様子で話を切り出した。

 

「驚いたわ──じゃあ貴方、本当にどこの誰よ? そりゃあ座に記録された同姓同名の別人なら存在するだろうけど、サーヴァントに限ってそんな事あり得るのかしら?」

「俺に聞かないでくれ……」

 

 そう言うと凜は眉にしわを寄せながら、顎に手を当てて思案を巡らせているようだった。

 だがそれも束の間、今度は頭を抱えうつむき気味に呟く。

 

「──ドジッたわ、ローランって名前を聞いたときには確実にセイバーを引き当てたと思って内心凄く嬉しかったのに……何で私はいっつもここ一番で肝心な時に大ポカをやらかすのかしら……」

「むっ」

「……あ、でもまだセイバーじゃないって決まった訳じゃないか。──貴方、もしかして剣士?」

「剣士ではないが剣は持っているぞ、何種類か」

「じゃあやっぱりセイバ──―」

「残念ながら違うんだよなぁ」

「はぁ……」

 

 ぬか喜びというやつか。凜は一瞬喜んだように見えたが、また頭を抱えてしまった。

 脳裏に、出会いの時浮かべた微笑の意味の一端が思い当たる。あの表情にどこか誇らしげな雰囲気を感じ取ったのは自分の勝利を確信したからか……。

 確かに、聖杯戦争において剣士(セイバー)のクラスは最優とも称されるサーヴァントクラスだ。セイバー以外の三騎士に該当するクラスである弓兵(アーチャー)槍兵(ランサー)と比較しても能力にバランスが取れており、能力値も中途半端な数値ではなく軒並み高い傾向にある──。と、自分は意識して脳内の情報を整理する。

 ──だが。先ほどの言葉には些か不満が湧いた。自分の実力を侮られるのは大いに結構だが、これから一緒に行動する味方に能力を過小評価されるのは困る。こと、戦いにおいて彼我の戦力差の解像度(ディティール)は高ければ高いほど正しい判断を下し、効果的な戦略・戦術的な行動を取りやすくなるからだ……。

 まして、主従関係を結んでいるなら尚更だろう。どのような戦略を取るか、何を考え、どう行動するかは味方の方針を知り、それを元に作戦を組み立てた方がスムーズに事が運ぶ。

 アンジェリカと共に行動していた時の出来事を思い浮かべながら──俺は居住まいを正し、凜を見据えて話すことにした。あくまでも従者でありながら、確固たる意志を見せるように──。

 

「君が考えていた英雄と同一人物でなくて悪かったな。だがそれなりに修羅場も経験したし、荒事に対処する心得も人並み以上に持ち合わせていると自負しているよ。並の相手なら負けない自信がある」

 

 自分でも自信過剰な振る舞いか、と思ったがうつむいていた凜も顔を上げてこちらの話を聞く姿勢を見せてくれた。良い兆候だと感じる。

 俺を見据える目はジトーッとした湿り気を含むものだったが。

 

「──いいわ、これは私のミスだし。────マスターとしての質問よ。ね、貴方はセイバーじゃないなら一体何のサーヴァントなの?」

 

 先程の落ち込みは何処へやら、すぐに気を持ち直して問いかけてきた。

 毎度の事ながら切り替えの早さに驚かされる。精神力──とりわけ回復力(レジリエンス)に優れているのであろう。

 内心で感心しつつ、俺は与えられた知識からクラスを申告する。

 

「アーチャーだ。(もっと)も弓の類は持っていないんだが……」

「剣は持ってるのに──弓を持ってないアーチャー? ますます分からなくなったわ」

「うーん、本音を言うと自分でも実感が持てないんだよな」

「そうなの?」

「まあ──気にするほどの事でもないよ。アーチャーとして基本的なスキルは備えてるみたいだし」

 

 凜は納得いかないといった顔で怪訝な目をしていたが、俺は部屋の扉に向かって足を運んだ。

 

「さてと、それじゃあ俺が散らかした後処理をしに行かないとな」

「あ、待って」

「ん? 何だ?」

「期待してるわ、アーチャー」

 

 凜はベッドに腰掛けながらこちらを見て、そう言った。その言葉に嘘は感じられない。

 

「嬉しい事言ってくれるなぁ~。勿論期待に応えてみせますとも、マスター」

 

 去り際に廊下から振り返って恭しく一礼をしながら、俺は静かに部屋の扉を閉めて凜の部屋を後にした。

 

 * * * * *

 

「────こんなもんかな」

 蹴破られたドアとぽっかりと穴が開いて夜空が良く見える屋根以外、散らかっていた居間は大体片付いた。

 掃除している途中、抜かりなく念話をしてきた凜曰く破壊されたドアと屋根に関しても魔術である程度修繕できるそうだ。後は細々とした掃除を済ませれば凜の魔術で朝にはすっかり元通りになっているだろう。

 ……もしかしたら考えている事がある程度筒抜けなのか? と念話を体験した後、そんな事は無いと分かっていてもつい邪推してしまう。

 

 気を取り直して────今のうちに状況を整理しよう。

 

 一つ、本の中身をろくに知らないまま入ってしまった。始まり(プロローグ)筋書き(シナリオ)も、そして結末(エピローグ)さえ俺は知らない。

 図書館に存在するゲストの本を使えば、その物語に介入する形で本の中に入れるとはアンジェラから聞いていた。だが本来なら本の中の人物ではなく観察者や協力者のような形で介入し、好きなタイミングで本の中から脱出できるはずだ……。

 もしかしたら、イレギュラーな入り方によって本来存在するべき人物が俺に置き換えられてしまったのではないだろうか? 

 

 そしてもう一つ、──本の中から無事に脱出できる方法が分からない。

 ──これが自分にとって一番厄介な問題だろう。本の外に脱出する方法は今のところ見当もつかない。この聖杯戦争が終わり、誰かが聖杯を手にして願いを叶えれば自動的に外に出られるのか?

 それとも本の中で──あまり考えたくないが『死』という結末を迎えれば、出られる保証はあるのだろうか。

 いずれにせよ、本の外への脱出方法は現時点での判断材料が少なすぎる。今は目の前の物事に集中すべき時だろう。

 そう、まずは聖杯戦争を生き残らなくては────。

 ふと居間に置かれてある柱時計を見ると、時刻は午前四時をまわろうとしていた。

 眠気は全くない──、どうやらサーヴァントの身では眠る必要はないらしい。頭の中をリセットするため、ソファに腰掛けリラックスした姿勢で精神を集中させる。

 赤い霧(カーリー)……もといゲブラー程ではないが俺も瞑想する事はある。

 時間が経つとやがて五感が研ぎ澄まされ、世界からあらゆる情報が遮断される──。俺はそのままゆっくりと意識を埋没させていった。

 

 * * * * * 『2日目』

 

 そして朝になり────睡眠から目覚めたばかりの遠坂凜が如何に寝起きが悪く、また普段の面影とはかけ離れている事。その戦慄にも似た忘れがたい衝撃を俺は実感した後。

 凜が身支度を済ませ居間の修理を行っている間に、俺はキッチンに立って特製の昼飯作りに挑戦していた。

 無論、家主の許可は頂いた上で。

 サーヴァントの身でも食欲は湧く事が分かり、自分が食べたかったのもある──が信用を得る為には胃袋から掴むのが手っ取り早いと考えた。

 幸いこちらの世界でも料理の調味料や材料はほぼ同じ事が功を奏し、渾身の料理が出来上がった。

 二人でテーブルにつき、食卓を囲んで食べ始める。

 

「へえ! 私このパジョンって料理初めて食べたけど美味しい!」

「だろ? その味を再現できる絶妙な配分を見つけるのに苦労したんだよなぁ~! 気に入ってもらえて嬉しいよ」

「日本にも似た料理はあるわよ、チヂミ……だっけ? それにしても貴方、食べ物の事になると別人みたいになるわね」

「飯が美味いってだけで、人生が豊かになると思うんだ」

「それには私も同感ね、食後の紅茶──は私が淹れるわ」

「助かる、料理は出来るがそういうのはからっきしなんだ……」

 

 別にいいわよ、と凜は軽く流してくれた。 

 紅茶に関してはビナーが思い当たる。だがあの元調律者ときたらイェソドやホドといった他の司書にはすんなり紅茶の淹れ方を教えてくれるくせに、何故か俺には紅茶の淹れ方を頑なに教えたがらなかった。

 そしてまた不可解な事に、時折総記の階にビナーが来て紅茶の茶葉を渡しに訪れるのだ。茶葉をもらう度にそれとなく淹れ方を聞くのだが、意地の悪い笑みを浮かべるだけで何も言わないまま哲学の階層に帰ってしまう。

 大方、俺を自分の階層に招く為の口実なのだろう。あちらは何故か俺の事を気に入っているみたいだし。

 ────紅茶の事はともかくとして、食の事に関しては紛れもない本心だ。二人ともすぐに食べ終わり、食器を片付けて洗い物を済ませた。

 凛が紅茶を淹れ、共に席に着いて向かい合う。

 凛の説明は的確だった。聖杯戦争が開かれる理由、冬木の地においては五度目の聖杯戦争となる事、冬木に顕現する聖杯は本物だという事、魔術師という人種の考え方や存在理由、令呪(れいじゅ)の効果……聖杯に与えられた知識では理解しきれない部分をかいつまんで説明してくれた。

 

 ゴォーンンン……ゴォーンンン……

 

 居間の柱時計が14時を知らせる鐘を鳴らした。すると唐突に凜の方から、真剣な面持ちで話を切り出しはじめた。

「アーチャー、出かける準備をしておいてくれる? いくら聖杯からこの時代の常識を教えられているとはいえ、召喚されたばかりで右も左も分からないでしょう?」

「確かにそうしてもらえると助かるな、とはいえマスターが無警戒に出歩くのは危ないんじゃないのか?」

「ええ、だから霊体になって付いてきて──まだ正規のマスターが揃ってないとはいえ、いつ襲われるか分からないんだし」

「あー……言いにくいんだがなマスター。俺、どうやら霊体になれないんだ」

「霊体化が出来ない? ──冗談よね、アーチャー? 流石に笑えないわよ、それ」

「……これが本当に出来ないんだ。知識としては理解していても肉体がついてこないっていうか、ともかく自分の意思で霊体になる事は無理らしい。君の魔力供給──現界を保つには申し分ない量の魔力があるんだが、どうもこれは俺の問題のようだ」

「そう──だったら別の方法を考えないと。その恰好……黒いスーツ姿は特に違和感はないけど。それでも見る人が見ればサーヴァントだって分かるかもしれないわ、私がマスターって事が筒抜けになるわね」

「ふむ……」

「私も出来る限り隠蔽工作はするけど、それでもリスクは減らせるなら是非減らしたいわ。何かサーヴァントであることがバレないような方法はないの?」

 

 確かに、聖杯戦争において霊体化が不可能という事は常に姿を晒すリスクがあるという事だ。

 姿が見られない、か──思い付きのレベルだが、あれが使えそうだ。

 

「一つ、良い方法がある。いや、目的にぴったりなモノを持ってるという方が正しいか」

「?」

「まあ見ていてくれ」

 

 小首を傾げている凜をよそに、俺は意識を左手に集中させる。

 思考が読み取られ、次元手袋から特異点由来の白い光が微かにこぼれ出す。──次元手袋の中心に、質量を無視する空間である異次元と接続されたポータルが開く。

 左手袋に生成したポータルに右手を突っ込み、ゆっくりと引き出すと黒い物体が顔を覗かせる。

 初めて見せる能力に、凜は驚いたように目を少し見開いた。

 俺が取り出した黒いモノの正体は────()()

 

「────」

 

 のっぺりとした、黒い仮面を被る。顔全体を覆い隠すように。

 固定具の類がまるで無いが、不思議な事に仮面は肌にぴったりと癒着しており激しく動いても容易に外れないであろう事を確認する。

 目の前に黒い靄のようなものが現れるがすぐに消えてなくなり、明瞭な視界が確保される。

 ──久しぶりの感覚、そして胸の辺りに現れる微かな熱。理解する、この感情は『恥』だろうと。

 

「驚いたか?」

「どういうことアーチャー、貴方が二人に見えるわ……」

「それは幻覚だしっかりしろマスター、まだ寝ぼけているのか」

「冗談。すごい魔術礼装ね、貴方の周りに漂っていた魔力が全く感じられなくなった。マスターである私ですらね」 

「──とはいえ、これだけじゃ隠蔽は完全とは言えない。人間の魔術師レベルであれば容易に誤魔化せるが──マスターの方から魔力供給を止めてもらえば、よりサーヴァントである事を隠し通せるだろう」

「そっか、そうだった。霊体に肉体を与えてるのはマスターの魔力だから、魔力の繋がりがばれたら一発で分かっちゃうわね」

「そういうことだ──」

 

 凜には仮面──そして手袋が魔術礼装に見えているらしいが敢えて訂正はしなかった。

 こちらの本の中の常識と、自分が生きていた世界の常識は何もかもが違う。一々認識の齟齬(そご)を正していてはきりがない。

 

「了解、納得がいったわ──剣を持っているって言ってたけど、まさかその手袋に入ってるの?」

「ああ、基本的になんでも収納できるぞ。生き物以外」

「じゃあ──はい」

 

 ずい、と俺の目の前にアタッシュケースが差し出される。

 なるほど──これはつまり、もしかしなくても荷物持ちだな? 

 俺は一縷(いちる)の望みをかけて、自明であろう事を質問する。

 

「もしかしてマスター、俺の事を召使いか何かだと思ってないか?」

「ええ、だって使い魔よ? 便利に扱わなきゃ。まして霊体化出来ないなら、出来るだけ近くにいてもらった方が安心じゃない?」

「────」

 

 仮面の裏の顔が引き攣るのが自分でも分かる、俺の運命は変わらないようだった。

 

「──不満?」

「俺に断る権利がありますでしょうか」

 

 観念して俺は右手でアタッシュケースを受け取り、左手袋に再びポータルを形作る。

 物理法則を無視したような出鱈目(でたらめ)な挙動で、アタッシュケースがすぽんっと一瞬で吸い込まれた。

 

「ありがとアーチャー。じゃあ──行きましょうか」

 

 俺は凜に合わせて席を立ち、遠坂邸の玄関をくぐって見知らぬ土地──まるで知らない世界に足を踏み入れる事となった。

 

 * * * * * 

 

 

 ────冬木市。

 

 これから聖杯戦争が始まるであろう町の名前であり、その土地は大きく分けて二つのエリアで構成されている。

 

 昔からの町並みが今も残っているエリアである『深山町(みやまちょう)』、川を一つ挟み、近代的な開発が進んでいるエリアである『新都(しんと)』。凜が住んでいるエリアは深山町の方である。

 

 その深山町も大きく二つに分けられており、外国からの居住者が住んでいた洋風の建物が並んでいるエリア、山を背にして広がっている古い和風の住宅地エリアはもう一方……という説明を凜から受ける。

 

「で、この交差点が──」

「深山町の分岐点ってところね」

 

 ──分岐点の名の通り、ここを中心として遠坂邸が存在する洋風の建物エリアに続く坂道、反対側に古い和風の住宅地エリアに続く坂道。新都エリアに続く道、商店街、学校、はては山にある柳洞寺というお寺に通じているそうだ。

 

 凜は説明を終えると同時に淀みなく歩を進める。方角から推察するに──新都側に行こうとしているようだ。

 

 しばらく歩くと、巨大な橋が見えてきた。全体的に赤く塗られており、アーチ状の鉄骨が特徴的である。この大橋が新都と深山町を繋げているパイプラインなのであろう。橋の向こう側には高層ビルが立ち並ぶ近代的な町並みが見てとれた。

 

 橋を渡り、新都に入ると深山町とはまるで違う景色が広がっている。凜によると、なんでも十年前に起きた大火災が原因で住宅地がほぼ全焼し、その災害復興の際に高層ビルが次々と建っていったらしい。凜の説明を聞きながら、俺は都市の翼が管理する『巣』に広がる町並みを思い出していた。巣ごとの町並みにそれぞれ違いはあれど、基本的にやたら規模がデカくて近代的な建物が所狭しと乱立しているパターンが多い。

 

 凜は新都の説明をしながら、ビルが立ち並ぶエリアを抜けて郊外に行くつもりのようだ。──しばらく付いていくと公園らしき場所に出た。人の手で整備されているであろう樹木が生えそろい、芝生が敷き詰められている。

 

 ──一見何の変哲もない広い公園に見えるが。何か慣れた(にお)いを感じ取る──都市の仕事を遂行する時、うんざりするくらい幾度もなく味わった()()。しかもここは、そんな匂いの中でも『都市の星』クラスに感じるモノだ。仮面の奥で静かに顔を(しか)める。

 

 俺は公園に漂う違和感の正体を凜に問うてみることにした。

 

「ここは公園か? ──それにしては人気(ひとけ)が無いな」

「貴方もやっぱりそう感じるのね。──ここは(いわ)くつきの場所だから」

「この場所で何かあったのか?」

「さっき、十年前に大火災があったって話を覚えてる? かなりの規模だったそうよ、火は一日燃え続けて──雨が降り出したころに消えたんだとか。町は十年かけて復興を果たしたけど、ここだけはそのまま。焼け野原になって何も残らなかったから、公園にしたらしいわ」

「──────」

 

 合点(がてん)がいった。匂いの正体、おぞましい人の悪意の凝固体。後悔、苦痛、嫉妬、憤怒、憎悪──、フィクサーとして仕事をこなす中で、どうしようもなく敏感に反応せざるを得なくなったモノだ。

 

「……気付いた? そう、ここが十年前の聖杯戦争決着の地。詳しい事情は知らないけど、前回の聖杯戦争はここで終決して、それきり」

「ああ──ここは悪意に満ちている。……間違いなく虐殺に近い事が起きたんだろう」

「へえ、判るんだ、そういうの」

「──マスターは何か感じ取れるか?」

「魔力の残滓(ざんし)が広い範囲で濃く滞留してる。前回の聖杯戦争は相当大規模だったんでしょうね、感じ取れる範囲だけでもざっと見積もって私の魔力量の数倍かそれ以上よ──痛っ……!?」

「────マスター?」

「ちょっと静かにしてて、アーチャー」

 

 凜は右腕の甲を抑えながら、気を張り詰めて何かを感じ取ろうとしているように見える。俺は指示に従い、黙して状況の把握に努めた。ややあって凜が口をゆっくりと開く。

 

「──────誰かに見られてる」

「ふむ……特に視線の類は感じないが」

「……おそらくマスターがこっちを観察してるんでしょうね」

「右腕の甲──令呪(れいじゅ)が痛むんだな。マスターの証であるソレが痛むという事は、令呪は令呪に反応するって寸法なのか? じゃあ凜も誰がマスターであるか、識別できるんじゃないのか?」

「そうは問屋が卸さないわ、相手が優れた魔術師であればあるほど、自分の魔力を隠し通す術に長けている──。令呪同士が反応すると言っても魔力で発動するモノである以上、マスターが魔力回路を閉じていれば見つける事は難しいわね」

「そういうものか……厄介だな」

「ええ、でもこの状況はむしろ好都合よ」

「……さっきは自分がマスターだってバレるのはマズいって言ってなかったか?」

「気が変わったわ、あっちから出向いてくるって言うのなら喜んで受けて立つ覚悟よ。それにこっちから出向く手間も省けるし」

「────」

 

 全く、豪胆というか肝が据わってると言うべきか。俺の複雑な心境を感じ取ったのか、凜が上目遣い気味にこちらを見る。

 

「……貴方の方針には合わないかしら?」

「まさか、むしろ気に入ったさ。──であれば、外に出歩く時にこの仮面は必要ないな」

「ええ、そうしてもらえると助かるわ」

 

 そう言うと、凜はくるりと踵を返して新都の方に向かう。

 俺は黒い仮面をゆっくりと外しながら、その後を追っていった。

 

 第3話に続く




――サーヴァントの情報が開示されました――

○アーチャー
---プロフィール
真名:ローラン
クラス:アーチャー
身長:???
体重:???
イメージカラー:黒
属性:中立・中庸
特技:料理、人付き合い
好きなもの:パジョン、酒
苦手なもの:利己主義者、紫の涙
嫌いなもの:都市、転じて理不尽に奮われる巨大な力そのもの。

---パラメータ
筋力:C
耐久:D
敏捷:B-
魔力:E
幸運:D
宝具:???

---クラス別スキル
-【対魔力】:D
一工程シングルアクションによる魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

-【単独行動】:B
マスター不在でも二日間行動出来る。

---保有スキル
-【執念】:C
『戦闘続行』とは似て非なるスキル、こちらは往生際の悪さではなく所謂「諦めの悪さ」を表す。不利な状況においても混乱せず、戦闘能力に支障が出にくい。

-【黒い沈黙】:EX
???

---固有装備
-【認識阻害の仮面】
ランク:B

他者からの認識を阻害する仮面。
装着者を視認した者は、記憶の中で詳細な姿形を思い浮かべられなくなる。映像機械での録画や写真に対しても同等の効果を発揮する。
あくまでも認識阻害が有効なのは『詳細な姿形』だけであり、パラメータや特徴・戦闘方法の隠ぺいは不可能である。
また聖杯戦争の本の中でのみ、
・装着者の魔力流出を抑制する効果。
・装着者が肉体的及び精神的に一定以上のダメージを受けた際、Aランク相当の【気配遮断】と同等の効果を発揮する。
以上の特性がある。

-【黒い沈黙の手袋】
ランク:EX

都市を牽引する26の大企業『翼』が誇る特異点を利用した手袋。
原則的に質量を無視して様々な物体を格納、取り出すことが可能。
だが例外として『生きている』と判断される物体は格納こそ出来るものの、取り出す際に原形を留めないほど無残に破壊される。

???:???

???:???

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---宝具
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