Fate/Librarian   作:いんしゃーく

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ランサーⅠ

互いの武器がぶつかり合う音のみが──空間を支配する。

 

「は、ッ────────!」

 

 怖気(おじけ)づき、恐怖で思考が停止する前に素早く後方へ跳ぶ。

 とにかく全力で、力の限り、あのサーヴァントから距離を取らなくては……! 

 ──瞬間。視界の隅に銀の閃光が(ほとばし)る。何が起きたのかが分からないまま、反射的に目を手で覆い隠す。

 光より僅かの間を開けて、舞い上がる旋風。全身に砂塵が当たる感覚。

 閉じられていた瞼を見開くように開ける。

 ────()()()()()()()()()()()()()

 更待月(ふけまちづき)が照らす夜空の下。わたしを守るように前に出ていたアーチャーの手には、鎖が巻かれた漆黒の剣鞘と、月光を反射させる一振りの長剣(ロングソード)が握られていた。

 

「────戦いの前に二つ、伝えておくことがあります」

 

 アーチャーの背中越しに、白銀のサーヴァントが抑揚のない口調で淡々と告げる。

 

「サーヴァント、ランサー。そして私は──アンジェリカなどという名前ではありません。以後、お見知りおきを…………其方(そちら)のサーヴァントはセイバー、という訳では無さそうですね」

 

 白銀のサーヴァントは、自らのクラスが槍兵(ランサー)であること。先刻、アーチャーが呟いた『アンジェリカ』その人ではないという事実を述べた。

 

「────」

 

 対してアーチャーは無言、だが繋がれている魔力を通して伝わってくる。アーチャーはランサーに対して明らかな戸惑いを抱いていた。

 ──気付けば、両者の間合いは既に五メートル程度にまで縮まっている。白銀のランサーが持つ握り(グリップ)部分が長い馬上槍のような凶器は二メートル強はある。

 差し引きしても残り三メートル。だが、彼らには────その程度の距離は意味を成さないように思えた。

 

「……ふむ。であれば──消去法でアーチャーですか」

 

 ……依然、アーチャーは沈黙を貫いている。渦巻いていた感情も束の間、今やアーチャーは驚くほど冷静に状況を把握し、彼我(ひが)の戦力差を見極めていた。

 相対するは黒と白銀。

 二者の騎士は、既に互いの必殺を計っている。

 

「──出会ったからには礼を弁えないといけませんね。貴方の弓を出しなさい、アーチャー。それくらいは待ちましょう」

「──────」

 

 アーチャーは(なお)も答えない。

 ただ、沈黙が己の答えだと。

 そう、黒い背中が語りかけていた。

 

「────」

 

 ……そこで(ようや)く気付く。なんて鈍さ。アーチャーはただ一言、(マスター)の指示を待っているだけなのだと。

 

「アーチャー」

 

 佇む黒い騎士に、語り掛ける。

 

「手助けはしないわ──貴方の力、ここで見せて」

「────ああ」

 

 冷ややかな、しかし確かな意志を感じさせる声とともに。

 黒い騎士は長剣と剣鞘を構え、疾駆する。

 ────再び巻き上がる砂塵。

 彼の踏み込みは弾丸の如き速度を以て、相対する白銀の槍兵に迫る────! 

 

「──愚か」

 

 白銀の槍兵は(うそぶ)いた。

 手にした長物を軽々と扱い、神速の槍突にて黒い弾丸を迎え撃つ。

 ギィンッ!!!!! と甲高い金属音が鳴り響く。

 アーチャーが、槍による刺突をすんでに長剣で受け流していた。

 

「ッ────!」

 

 黒い弾丸が停止する。迎撃の一撃を放ったランサーは──間髪入れず鋭い刺突を見舞い、たまらずアーチャーは飛び退いた。

 両者の距離、わずか四メートル強。

 ……敵はアーチャーの接近を許さない。

 長柄の武器である槍にとって、リーチの差はそのままアドバンテージと成り得る。

 そのため──ランサーは向かってくる相手を迎撃するだけで有利となる。

 

「その気勢は──」

 

 刹那、ランサーは神速の踏み込みを以て自ら距離を詰めた。

 武器同士の戦闘に於いて──槍兵が間合いの有利を捨てることは自殺行為に近い。

 敵の間合いで刺突を外したが最後、()()間隙(かんげき)を突かれ、懐に飛び込まれて死に至る。

 

「──認めましょう」

 

 否、それはただの定石。

 踏み込む度に────人知を超えた速度で迫る槍閃には戻りの隙など存在しない! 

 首、眉間、心臓、肩、腕────放たれる刺突の一撃一撃が、間断なく人体の急所に迫る。

 人間であれば、百、いや千回は優に殺されているだろうと確信する速度で躍る槍。

 アーチャーは刺突を受け流す度に、押し留まりつつもジリジリと後退を余儀なくされているように見える。

 互いの武器がぶつかり合う音のみが──空間を支配する。

 

「は──────!」

 

 だが、アーチャーとてサーヴァント。穂先をいなしながら連撃の合間を縫うように、ランサーの踏み込みもかくやという速度で徐々に詰め寄り、遂に長剣が届く間合いまで到達する。

 長柄の武器──槍の基本戦術は『刺突』ではなく『払い』にある。

 長大なリーチにモノを言わせた広範囲に及ぶ薙ぎ払いは、生半可な回避を許さない。

 もしランサーの戦法が薙ぎ払いを主体としたモノであれば──そも、アーチャーは攻めることすら許されないはずだ。

『線』で迫る攻撃はリーチで劣る武器を使う相手に対して、理不尽なまでの不利な選択肢を突き付ける。

 ……確かに、高速の刺突による一撃は恐ろしい。攻撃全てが急所狙いならば尚更だ。

 さりとて、描く軌跡が『点』である以上。見切り、受け流し、(かわ)してしまえば、攻略は容易である。

 ──アーチャーのクラスであれば、接近戦に優れていない。にも関わらず相手から接近戦を挑んできた、このチャンスを逃す手はない。

 槍兵はそう見たのだろう。リーチの差によるアドバンテージを捨ててまで、詰め寄りながら必殺せんと挑んできた。

 そして、返す刃で振るわれたアーチャーの長剣がランサーに迫り──────。

 

「ふ────」

「──────!?」

 

 ────漆黒の軌跡は、加速した槍によって打ち払われた。

 幻や比喩などではない、一瞬にして槍が加速し、アーチャーの剣閃を弾いたのだ。

 アーチャーは長剣こそ手放さなかったが、わずかに身を後退させる。

 ────その間隙を見逃すランサーではない。またも槍が加速し、先ほどよりも威力が増した刺突を次々に放つ。

 かろうじてアーチャーは連撃を捌くが────とどめとばかりに放たれた刺突の威力を殺し切れず、防ぎはしたものの大きく吹っ飛ばされる。

 飛ばされる瞬間、地面に片膝を擦り、長剣を地面にガリガリと突き立て、退がる勢いに抗うアーチャー。

 ────相手を甘く見ていたのはわたしたちの方だった。

 白銀の騎士、あのランサーには──槍兵の常識など通用しない。

 

 * * * * *

 

 ────強い。

 口の中に、有難くない事実を噛み締める。

 事ここに至って────英霊という存在が如何に規格外であるかを、己が身を以て実感する。

 打ち合いの数はすでに十合を超えていた。──膂力(パワー)技巧(テクニック)ともに、俺はランサーと互角。否、上回られている。

 加えて、真っ向から否定されたというのにアンジェリカの姿形と瓜二つな相手。懐に踏み込んだ一瞬、自分の意思とは無関係に剣筋が鈍ってしまったことも否定できない。

 だが、刃を交えたことで理解する。断言しよう。彼女──ランサーは『アンジェリカ』ではない。

 彼女ならば──先刻の打ち合いの最中、槍捌きのみで俺の命を軽く奪えただろうから。

 ……片膝立ちの姿勢から立ち上がる。痕を刻み、地面に深々と突き刺さったデュランダルを力を込めて抜く。

 

「────」

 

 相手に悟られぬよう静かに呼吸を整えた。

 ……ランサーがその気になれば、一瞬にして間合いを詰め、瀑布(ばくふ)の如き攻撃を展開することも出来るだろうに。

 目の前に居る白銀の騎士は、顔に微笑を貼り付けたまま真っ直ぐに槍を構えていた。

 ────この女、()れている。

 ──意識を両手に集中させる。身に着けた黒い手袋の掌から──特異点由来の白い光が微かにこぼれ出す。

 手袋の中心から、質量を無視する空間である異次元と接続されたポータルが開く。

 両の手に生成されたポータルは、デュランダルと剣鞘を瞬く間に呑み込む。

 抱いた疑念は確信に変わった──続けざまの様子見など不要。

 

「──ようやく本気を出す気になりましたか」

 

 言い放ちつつ、ランサーは()()()()()伸び来るような殺気を隠そうともしない。

 思考より早く──身体は動く。今がその機と見る。

 相手の慢心以上に、付け入り易い隙はこの世でそう無いであろう。

 俺は空手のまま正面を見据え、前のめりの態勢を取った。

 ──数瞬の内に、獲物を(かす)め取る肉食獣の如く。

 

 * * * * *

 

 ────黒い騎士と白銀の騎士。両者の間合いが、真空となる。

 明らかに先刻とは異なる、独特の構えを取ったアーチャーから放たれる殺気。

 対するランサーは構えを微塵も崩さず、迎え撃つ姿勢を取り────全身から膨大な魔力を迸らせる。

 ──呼吸を忘れる。

 仮面のような微笑を浮かべながら。槍の穂先、蒼白色の双眸はただアーチャーを貫かんと────

 

「アーチャー、貴方────死ぬつもり?」

「…………」

 

 ──アーチャーは、ランサーの再三の問い掛けにも徹底して応じない。

 返礼とばかりに──校庭を支配する、凍り付いたような殺気が一段と増す。

 黒き弾丸は再び、撃ち出される瞬間を今か今かと待ち望んでいる。

 

「────まずい」

 

 ()られる。

 今、アーチャーが()のランサーに突貫してしまったら────()す術も無く殺される。

 直感、それも信じたくない類のモノだが────間違いはない。

 構えた槍が黒き弾丸を捉えた瞬間、その時点で死が確定する。

 そう言わしめる程に────ランサーの槍は『必殺』の威力を持っているのだ。

 

「────、あ」

 

 確定した未来。

 逃れられない運命。

 迫り来る理不尽の一つや二つ、私の持つ力で変えられると思っていたのに────。

 今、この瞬間。そんな傲慢(ごうまん)はかき消える。

 アーチャーに援護を行う事さえ出来ない。無力感がわたしを支配し、膝から崩れ落ちそうになる。

 ──故に。この状況を打開し、アーチャーの死を回避できる可能性があるとしたら、それは。

 

「……………………誰です」

 

 誰でもない、第三者の介入。

 サーヴァントとマスター以外誰もいないはずの夜の校庭に現れたわずかな気配を、ランサーは見逃さなかった。

 ランサーから放たれていた殺気がかき消える。

 

「え…………?」

 

 校舎の方角に走り去っていく人影。

 その後ろ姿は────学生服に違いなかった。

 

「────まさか、学園の生徒!?」

「の、ようだな。ああ──生きた心地がしなかったよ。命拾いした……」

 

 肩をすぼめ、如何にも疲れましたといった調子で生に感謝するアーチャー。

 先の戦いで見せた、相手との会話の一切に応じない沈黙っぷりはどこへやら。

 ……まあ、命拾いしたのは事実なのだけれど。

 

「──意識がランサーに釘付けで、気配に気付けなかった。失敗ね……って、アーチャー。あんた何してんの」

「被雇用者に与えられた休息の一時を楽しんでいる」

「んな訳あるか、ランサーはどうしたのよ」

「校舎の方に、さっきの人影を追っていったよ。──あの生徒は消されるんじゃないか? 相手のマスターが真っ当な魔術師なら、目撃者は皆殺しにしろって命令されているだろうしな」

 

 アーチャーは、抑揚が感じられない声で淡々と推察を述べた。

 ──あらゆる思考が停止する。

 

「──────ランサーを追って、アーチャー! わたしもすぐに追いかけるから…………!!」

「──了解」

 

 短い肯定の言葉と同時に、ランサーの追跡を開始するアーチャー。

 ────自らの迂闊(うかつ)さを呪う。

 魔術の存在が一般人に知られる事は、最大の禁忌である。

 ()ればこそ、魔術師には最大の禁忌を犯した者への口封じが掟として定められているのだ。

 ……だから、そういう掟で人の命を奪うなんて嫌だったから。

 目撃者を出さなければ良いんだって、今までずっと上手くやってきたのに──────今日という日に限って、最大のミスをやらかした……!! 

 考えるより速く、半ば反射的に行動する。

 アーチャーの後を追い掛けなくては────

 

 * * * * *

 

 夜は更け、月の光すらも閉ざされている。

 全くの人気のない廊下には────仰向(あおむ)けに転がっている生徒の死体があった。

 図書館で──都市の中では当たり前のように見た景色。

 俺は、目の前に広がる現実から──心を閉ざし何も考えないようにして────

 ……無理だった。感情を抑圧する前に、抱く信念がそれを強く拒絶する。

 以前の俺であれば、顔も知らない他人の死などいとも容易く割り切れた事。だが今や不可能だ──他人の苦痛から目を背ける事実が許されざる行いであるが故に。

 ……周りの現実も目に刻んで、苦痛に向き合うと決めた。

 

「…………それもこれで、これもそれだ」

 

 俺は血を流しながら倒れている生徒の側に駆け寄り、ざっと見て被害者の容体を判断する。

 

「……ランサーの槍で心臓の中心を一突き、か」

 

 ランサーがこの生徒を何秒前に殺したのか、知るもない。

 生徒の胸には貫通こそしていないものの、一目見て分かる大穴が穿たれており、鮮血が刻一刻と流れ続けている。

 ──死のニオイに顔を顰める。適切な応急処置を頭の中で素早く探っていたその時。

 俺の左胸、スーツの内ポケット。そこからもぞもぞと何かが動いている感触が這い上がってくる。

 まさか────

 

「アンジェラ? 起きたのか?」

「……ええ」

 

 内ポケットから頭を出して俺の顔を見上げているアンジェラ──尋常ならざる様子を感じ取ったのか、器用にも自力で内ポケットから脱出し、スーツの内側から上半身を滑り降りて地面に着地した。

 そのまま生徒の死体の側まで歩き、こちらを振り向いて問い掛けてくる。

 

「この人、死んでるの?」

「いや、まだ命はある。だが一刻も早く処置しないと助からないだろうな」

「……助けたい?」

「もちろんだ」

「────私の力を使えば、助けられるかもしれないわ」

 

 アンジェラは生徒の死体の上によじ登り、胸に穿たれた大穴の前に立つ。次に(おもむろ)に小脇に抱えた本を片手で広げた。

 ──一体何を。と考えた数瞬の後。アンジェラが持つ本が、鮮烈に光り輝く。

 ──俺の周りには宇宙が広がっていた。輝く夜の星空、その正体。俺が見た夜空のどれよりも鮮明で、雄大な風景。

 星空が空から降りてくる。光り輝く本から、裸足の少年が顕現する。

 少年の(ささや)きと息遣いが聞こえる。少年の身体の全ては、銀河だった。

 

≪君が何処に行こうと、何をしようと……いつも全部見てるよ≫

≪僕と一緒に天の川を歩こう。あの日の夜みたいに、また戻ろう。君に会えて、僕は本当に嬉しいんだ。僕がまた泣いてたら、僕の涙を拭って≫

 

 少年の囁きが、頭で響く。

 少年は絶えずすすり泣きながら、慈愛に満ち満ちた微笑みを浮かべ、傷付いた『友だち』に手をかざす。

 何かを握りしめているような手が、『友だち』の胸に穿たれた大穴の上で開いた瞬間。

 小石が、溢れ出る。

 小石は、『友だち』の中で輝き、揺らめき、くすぐり、宇宙になる。

 

≪君がこれを持ち歩くのなら、僕はいつも君のそばにいるよ≫

≪友だちが傷ついたら……悲しいよ≫

 

『友だち』が少年の小石で満たされた時。胸の大穴は何事も無かったかのように消え、周囲にどくどくと溢れ出ていた血溜まりも最初から無かったかのように無くなっていた。

 ──銀河の子。(かつ)てL社でそう呼ばれていた幻想体は、『友だち』の額に口づけする。

 彼の姿もたちまちの内に(おぼろ)げになり、瞬きをする間も無くかき消えていた。

 

「アンジェラ、今のは……」

「ええ、幻想体の力を借りて彼を治療したの。『子機』の接続が安定したからかしら、上手くいくかは賭けだったけど予想以上の効果が出たわ」

 

 銀河の子によって治療された生徒は、先刻まで死の瀬戸際を彷徨っていたのが嘘のように穏やかな表情で寝息を立てていた。

 

 * * * * *

 

「…………」

 

 わたしは廊下の真ん中に立ったまま、呆然としていた。

 生徒の死体の前に(かしづ)いているアーチャーに声を掛けようとしたその時に。

 わたしは銀河を見た。

 幻想ではなく、確かにそこにあると実感できる本物の宇宙。

 誰のかも分からない、子供のようなすすり泣きや囁きが消え、白い光────恒星の如き輝きが辺りを包み込んだ。

 何が起こったのかも、どのような経緯でそうなったのかも理解できない。

 言えるのは一つ、廊下を支配していた死の匂いが消えたということだけだ。

 

「────アーチャー、無事?」

 

 分かっていながらも、わたしは駆け寄って黒い従者の安否を確認する。

 

「ああ、生徒も無事だ。治療は済ませたよ」

「……良かった。──引き続きランサーを追ってくれる? アーチャー。サーヴァントはマスターの居所に戻るはずよ。相手の顔くらい把握しておかないと、帳尻が合わないわ」

「────」

 

 アーチャーは軽く頷き、開かれた廊下の窓から驚異的な跳躍力で飛び立っていった。

 廊下にはわたしと、床で気持ちよさそうに寝ている生徒だけが取り残された。

 わたしは生徒に近付き、そいつの顔を確認して────

 がつん、と。後頭部をハンマーで殴られたような衝撃が、走ったような気がした。

 下唇を噛む、眉間には皺が寄り、知らず涙も流れそうになっている。

 わたしは、本当に頭にきていた。

 よりにもよって、何でコイツなんだろう。

 本当に、こんな日に、こんな時間で、学校に残っていたコイツが──憎たらしいという気持ちで胸がいっぱいになる。

 ……いつか見た景色を思い出す。

 遠い夕焼け。出来るはずもないのに、バカみたいに一人でいつまでも走っていた誰か。

 そして、そんなバカをぼんやりと遠くから眺めていたつまらない女の子。

 

「……本当、生きててよかった。あんたに死なれたら、桜にどんな顔して会えば良いか分からなかったもんね」

 

 強がりと本音が入り混じった、震えた声で言葉を紡ぐ。

 床に寝ているソイツの制服には、左胸の辺りにランサーの槍で空けられたと思しき大きな穴が空いている。

 そこから見える肌は、骨肉はおろか、傷一つ付いていない綺麗なモノだった。

 一体何の手品、どんな魔術を使えば。こうも完璧に治療できるのか。

 疑問は尽きなかったが────

 

「……コイツが目を覚ますまでに、とっとと学校から出ないと」

 

 生きていると分かれば、こんなところに長居は無用だ。

 アーチャーはランサーを追っているだろう、離れていようが念話はいつでも通じる。

 であれば、本拠地に(こも)って休みつつ魔力回復に専念すべきだろう。

 気持ちを切り替える意味も込めてすくっと立ち上がり、わたしは振り向かずにそのまま帰路に就いた。

 

 第5話に続く




――サーヴァントの情報が開示されました――
アーチャー
---固有装備
-【デュランダル】
ランク:B+

ローランが所持している数々の武器の中で唯一出自が不明なモノ。
彼の代名詞でもある長剣。黒い沈黙の手袋を受け継ぐ前から愛用していた逸品。
本体に特異点を応用した物体が一部埋め込まれている。
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