孫悟飯は五つ子姉妹の家庭教師をするそうです【本編完結】   作:Miurand

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 前回のあらすじ…。

 一花はギニューのボディチェンジによって、一時的にとはいえ、蛙になっていたことを気にしていた。そこに風太郎が現れるが、本人はそんな一花のことを特に気にしてないという。そんな答えを聞けたからだろうか、一花は自信が付いたのからなのか、衝動的なものからなのかは不明だが、風太郎に告白をした。風太郎はギニューの騒動の件で一花に嫌われていると思い込んでいたが、それは風太郎の杞憂だった。

 こうして、一花は大きな第一歩を歩み始めたわけだが、四葉だけ何故か浮かない顔をしていた。それに気付いた悟飯は、1人いなくなった四葉を追い、悩みを聞くことにした。そして、四葉の過去が悟飯に明かされる…。



第68話 "失敗"と"後悔"

私は風太郎君と約束をした日から、勉強に専念することにした。給料が高い職に就いて、お母さんを楽させるために……。その一心で勉強を頑張り続けていた。最初は確かに順調だった。姉妹のみんなに変わったと言われたっけ……。

 

…………だけど、お母さんは亡くなってしまった。私は私達を一生懸命育ててくれたお母さんに恩返しすることができなくなってしまった。今にして思えば、成績が伸びなくなったのもこの頃からだったと思う。当初の目的はお母さんを楽させるため。でもそのお母さんはもういない。心のどこかでそれが分かっていたからか、勉強に力が入らなかったのかもしれない。でも風太郎君との約束もあったし、人に必要とされる人になりたいから勉強を続けた。

 

でも、成績は全然伸びなかった。寧ろあれだけ勉強しても赤点すら回避できなかった。そしてゲームをして遊んでいた三玖に社会の点数で負けた時は本当に悔しかった。私が勉強以外の手段で人に頼られようとしたのはここからだったかもしれない。私はとにかく私自身が特別であることに拘った。

 

結果、私は勉強よりも運動の才能の方があったらしく、幾つもの部活に多重入部をして数々の功績を残した。『中野さんのお陰だ』。その言葉を聞いた時は、『ああ…。私は人に必要とされる存在になれたんだ』と心の底から本気で思っていた。

 

私はもう姉妹とは違う…。他の姉妹とは違って特別な存在だと自分を持ち上げていた。なんなら他の姉妹を見下していたかもしれない。

 

部活に時間を使っているから、勉強する時間など当然ないし、当時の私は勉強など必要ないと思っていた。だけど私が通ってた高校はあくまで成績を残して当たり前のところだった。部活でいくら功績を残そうが、赤点を取る生徒は不要だったみたいだ。

 

それを知られてから、部員達の見る目も変わった。まさか部活だけで満足していたのか?勉強もせずに部活だけやっていたのか?何故そんなこともできないのか…?飛んでくる言葉は色々あったけど、要は私は無駄な時間を過ごしたのだ。

 

他の姉妹はなんとか追試を突破したけど、私だけ突破できなかった。だから私だけが転校するはずだった。だけど姉妹のみんなはこんな私の為に不正をしたと嘘をついてまで私に付いてきてくれた…。私はその時初めて5人でいることの大切さというものに気付かされた。我ながら馬鹿だったと思う。この時までそれに気付けなかったなんて。

 

この時から、私は自分が特別であることを目指すのは辞めた。これからは私の為に付いてきてくれた姉妹の為に生きようと、そう心に誓った。そんな時だった。"彼"と再会したのは……。

 

 

『あれ、これなんだろう…?うわっ!?100点!?すご、誰だろう…?』

 

 

ある人が答案用紙を落とし、それに気付いた私は答案用紙の名前を確認する。そこに載っていた名前は『上杉風太郎』。一瞬風太郎君かと思ったけど、まさかそんなことあり得るわけがない。とはいえ、この答案用紙を失くしてしまったら、この風太郎という人は困ってしまうだろうと思ってその人の元に行った。

 

……顔を見た時は本当に驚いた。まさか本当に風太郎君だったなんて……。噂によれば、彼は常に学年トップの座を維持していたらしい。勉強に専念しているせいか、交友関係という関係も殆どなかったらしい。唯一それらしい関係があったのは、同じく同立で学年1位を維持し続けている『孫悟飯』という優等生だと聞いた。

 

『風太郎く………』

 

……この話が本当なら、風太郎君は全てを犠牲にしてまで勉強をしてきて、この結果を残した……。私との約束を守る為に、ここまで頑張ってきたのだ……。それが分かってしまうと、私があの時の少女であると名乗ることなんてできなかった。だから………。

 

『……上杉さん…!うーえすーぎさーん!!』

 

私はそう呼んだ………。

 

孫さんと共に風太郎君が新しい家庭教師になると聞いた時は、その場で大喜びをしたくなるほど嬉しかった。偶然転校先で風太郎君に会えただけでも奇跡なのに、家庭教師まで彼になるなんて………。でも………。

 

 

『うーん……。私はパスかなぁ…』

 

『嫌っ!!なんであんな奴らに教わらなきゃならないのよ!!』

 

『私も……。同級生に教わりたくはないかな』

 

『孫君はともかく、あんなデリカシーのない人から教わることは何もありませんッ!!』

 

 

何故か風太郎君の好感度が低かった。ちょっと悲しかったし、少し説教しようかと思った。でも私のせいでみんなを転校に巻き込んだのだ。そんなことできるわけがない………。

 

でも、風太郎君から教わって、それで人に見せられる成績になったら、その時は私の正体を明かして、風太郎君に対してずっと秘めていた想いを告げようと思っていた。姉妹の誰も風太郎君に対して興味ないなら、私がもらっちゃってもいいよね……?

 

………でも、一花は風太郎君に段々惹かれていった。他の3人は孫さんにぞっこんだったけど、それでも風太郎君の良さを理解し始めた。

 

私はそれが嬉しかった……。でも……。

 

私はみんなを転校に巻き込んだというのに、みんなを差し置いて私だけが特別になるのは、私自身が許せなかった。だから、この恋は忘れよう。そして一花の幸せを願おう……。そう心に誓った………。

 

 

 

 

 

 

四葉「………こんな感じです。どうですか?私がどれだけ上杉さんに相応しくないか、理解していただけましたか…?」

 

私はなんでこんなことを赤裸々に話してしまったのだらう……?風太郎君にでも、姉妹にでもなく、孫さんに………。

 

悟飯「………そうかな?四葉さんは四葉さんなりに約束を守ろうとしたんでしょ?」

 

四葉「私はあろうことか、姉妹をも見下していたんですよ…?それは恐らくみんなも気付いていた……。それでも私の為に付いてきてくれたんです。なら、私は身を引くべきです……。そうでしょう?見下したのに助けてもらっておいて、上杉さんも頂戴?そんなの虫が良すぎます………」

 

悟飯「…人はね、何かで上に立った時はみんなそうなると思うよ。誰かの為に役に立とうとしていた四葉さんなら尚更不思議じゃないと思う。それに四葉さんの場合はそこまで迷惑をかけてないでしょ?強いて言うなら、他の4人に心配させたくらいじゃないかな?」

 

四葉「でも、私は………」

 

私が発言しようとした時、孫さんは無言でこちらを見る。恐らく孫さんがまだ何か話すのだろう。

 

悟飯「……僕のお父さんがなんで死んだか、四葉さんは知ってる?」

 

四葉「はい…。確か、8年前のあの戦いでセルに殺された…。そうですよね?」

 

悟飯「うん。確かにそれで合ってるよ」

 

このタイミングで何故孫さんはこのような質問をしたのだろう?私には意図がまるで見えない。今までの話の流れからして脈略がない。突然話題を変えたようにしか見えない。

 

悟飯「………直接お父さんを殺したのはセルで間違いないよ。でもね……。実質お父さんを殺したのは、僕なんだ」

 

四葉「………………えっ…?」

 

今、孫さんはなんて言った…?私の聞き間違い…?孫さんが悟空さんを殺す…?

 

四葉「な、何かの冗談ですよね…?」

 

悟飯「冗談なんかじゃないよ。これは実話さ。聞いてみる?きっと四葉さんの失敗がちっぽけに聞こえると思うよ?」

 

孫さんが珍しく自虐するような言い方をする。孫さんがこんな言い方をすることは滅多にない…。……そういえば、時々何かを後悔しているような………。そんな哀しげな表情をしているところを見たことあるような気がするけど、それは孫さんが過去に失敗したのが原因……?

 

 

 

 

 

 

 

あれは8年前のこと……。僕が精神と時と部屋でお父さんと共に修行し、超サイヤ人を超えた力を身につけた後に参加したセルゲーム……。僕は仲間のみんなが傷付けられる姿を見て………。16号さんに説得されてキレた時………。僕は自分の限界を超えた。そして目の前にいたセルをも凌駕する力を得た。それは今まで最強だと思っていたお父さんを超えたことを意味していた。僕は嬉しかった。憧れの存在だったお父さんを超えられたことが。同時に、みんなを散々痛めつけたセルを懲らしめることができることを認識した時、僕の中に眠るサイヤ人の血が目覚めたような気がした。

 

あの時の僕なら、一瞬でセルを倒すことなどできた。だが僕はそれをしなかった。自分の力を過信し、もっと懲らしめてやる。死ぬよりも苦しい目に合わせてやると、わざと時間をかけて追い詰めた。

 

そういえば、あの時お父さんに言われたな…。早くとどめを刺せと。でも僕はそれを拒否した。自分の力を過信しきっていた。最早慢心さえしていた。そのせいで、セルは自爆という手段に出た。でもお父さんの瞬間移動によってなんとか地球は爆発を免れた。その後セルが復活して帰ってきたが、なんとか倒すことができた。

 

だけど、僕がやったことの代償はあまりにも大きかった。僕のせいでお父さんが死んだも同然だった。お父さん自身は気にしていなかったし、寧ろ僕が強くなったことを喜んでくれていたようだった。だけど……。

 

 

 

 

 

 

悟飯「……真相はこんな感じかな……。ねっ?四葉さんの失敗なんてちっぽけに思えてくるでしょ?だからあまり気に病む必要なんてないんだよ」

 

四葉「……………そんな…。でも、セルを倒せたのなら………」

 

悟飯「よくないよ。僕があんなことをしなければ、お父さんは死なずに済んだ。お父さんが死んだと知った時、お母さんは当然悲しんだよ。お父さんの仲間達も……。それに、悟天に至っては一度も父親の顔を見たことがないんだよ。これも全部僕のせいさ」

 

悟飯は思い悩むような素振りをするわけでもなく、自虐するように話すわけでもなく、ただ淡々と語っていた。

 

悟飯「……はっきり言って、こんな僕があの3人に言い寄られるほどの人間なのかって気になっているんだ。3人とも僕は素敵な人だって言ってくれるけど、僕はそうは思わない……いや、思えないんだ」

 

しかし、急に考え込むような素振りをしながら自分の考えを述べていく。

 

悟飯「正直、僕は彼女達にふさわしくないんじゃないかと思っている……」

 

四葉「そんなことありませんよ!!過去がどうであれ、今は地球を守る為に必死に戦っている!!私達はそんな姿を何度も見てきました!!だからこそ、二乃も!三玖も!!五月も!!!!孫さんのことが好きになったんだと思います!!!!」

 

悟飯「………そっか。四葉さんならそう言ってくれると思ってたよ」

 

四葉「えっ……?」

 

四葉は急に悟飯が何を言い出すのか訳が分からず、困惑するような声を出してしまう。

 

悟飯「過去がどうであれ、今はいいならいいじゃないか。そう言いたいんでしょ?なら四葉さんも同じじゃないかな?昔は他者を、姉妹を見下してしまったかもしれない。でも今は、ただ純粋に人の為に動いている。人の役に立っている。それで十分じゃない?」

 

悟飯が今まで自虐するように自身の失敗談を話したのは、こういう形で四葉のネガティブな考えを変える為に誘導したに過ぎないのだ。

 

悟飯「………それに、君は上杉君の役にも立っている」

 

四葉「私が…?上杉さんの……?」

 

悟飯「最近、上杉君が社交的になったでしょ?それは他でもない四葉さんのお陰なんだよ?」

 

四葉「私が……?」

 

悟飯「そう。四葉さんが人と関わることの大切さを行動で示して教えてくれたんだよ。四葉さんが上杉君を変えたんだ。これは僕にはできなかったことだよ。四葉さんだからできたことなんだよ」

 

風太郎は唯一悟飯と関わりを持っていた。だがそれは成績が互角だったから。きっかけはそれだけなのだ。互いに勉強を本分としていたことからも、考えが似通っていたからこそ仲が良かったのだ。そんな悟飯では、風太郎を社交的な性格に変えることは不可能だっただろう。ある意味風太郎と正反対だった四葉だからこそできたことなのだ。

 

悟飯「はい。これで四葉さんは僕の役にも立った。どう?勉強という形で役に立ったかはまだ怪しいけど、他の方法だと沢山人の役に立っている。そういった意味では、四葉さんは上杉君との約束を守れていたんじゃないかな?」

 

四葉「………どんな屁理屈ですか、それ……」

 

悟飯「そうかな…?別に屁理屈なんかじゃなくて事実だと思うけど……」

 

四葉は口では否定しているが、顔を見てみると、自然と微笑んでいることがよく分かる。

 

悟飯「僕は四葉さんに感謝しているんだ。僕じゃ上杉君をあんな風に変えることはできなかった。だから、ありがとう」

 

四葉「………私こそ、孫さんに感謝しているんですよ?」

 

悟飯「へっ……?」

 

悟飯は自分自身も礼を言われるとは思っていなかったようで、情けない声をあげる。

 

四葉「転校したばかりの時、上杉さんに関する噂はいいものではありませんでした」

 

四葉の言うことは事実で、風太郎に関する噂は良くないものばかりであった。その噂は事実が混じっていたものもあったが、根も葉も根拠もない噂も存在していた。どれもネガティブな印象を与えるものばかり。これらが風太郎の孤立化を更に深刻化させていたのだろう。とはいえ、風太郎本人が他人と連むことを好んでいなかったから、風太郎自身は傷付くことはなかった。

 

四葉「でも、そんな中で孫さんは上杉さんに接していた……。上杉さんの良さを知ってくれていた……。それだけで、私は嬉しいんです。だから、ありがとうございます…!」

 

先程まで今にも泣き出しそうだった四葉の暗い顔は、いつの間にか太陽のように明るい笑顔に様変わりしていた。どうやら悟飯との会話は悟飯の目論み通りかどうかは不明だが、いい方向に転がったのは確実だろう。これを機に恋に対して前向きになってくれればと悟飯は思った。

 

四葉「…………私、孫さんのお陰で少しだけ前に進めたような気がします。少し考えてみますね……」

 

風太郎をいい方向に変えたのは自分。悟飯がその事実を伝えたことによって四葉はもしかすると、自分の恋に対して前向きになったのかもしれない。それはまだ分からないが、少なくとも悩みは消えたように見える。

 

四葉「私、二乃と三玖と五月が孫さんのことが好きになった理由が分かった気がします」

 

悟飯「えっ?」

 

四葉「もしも、私があの時、上杉さんと出会っていなければ…。もしかしたら私の初恋は孫さんだったかもしれません」

 

四葉は、しししと白い歯を見せながら笑う。四葉にとっては軽いジョークだったのだが、悟飯にとっては胃が痛む発言だった。

 

悟飯「は、ははは……。そ、そう……」

 

こうして、悟飯による四葉のためのお悩み相談会は幕を閉じた。カッコよく締まらないのがなんとも悟飯らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

修学旅行はもう終わり、バスで京都駅に向かっていた。もう既にバスは京都駅に到着しようとしていた。

 

武田「そういえば聞いたかい上杉君。例の盗撮騒動」

 

前田「悪りぃ。ミスった」

 

風太郎「やっぱりお前だったのか……」

 

武田「全く、空気を読みたまえ」

 

前田「つい気合いを入れすぎちまった…」

 

風太郎「はぁ……。まあ、頼んだのは俺だから気にすんな」

 

バスは京都駅に到着し、生徒達は新幹線に乗る為にゾロゾロと下車する。そんな中、修学旅行で疲れてしまったのか、一番後ろの5人席で仲良く居眠りをしている五つ子の姿があった。

 

風太郎「はい、チーズ」

 

風太郎は彼女達のそんな寝顔を前にしてシャッターを切り、姉妹の思い出の一枚として記録した。

 

 

 

 

 

 

ギニューの入れ替わり騒動があったり、風太郎が一花に告白されたり、悟飯が四葉の悩みを聞いたりと何かと色々あった修学旅行の数日後……。風太郎は"零奈"と名乗った女の子と例の池で会っていた。その"零奈"とは、五月が昔の自分達に変装した姿なのだが…。

 

風太郎「これ、渡しといてくれ」

 

五月「えっ?なにこれ?」

 

風太郎「お誕生日のお返しだ」

 

五月「……!これ、アルバム…!」

 

風太郎が前田に頼んで五つ子の写真を撮ってもらっていたのは、全てこれの為だった。姉妹の修学旅行の思い出として、アルバムを贈る為だったのだ。

 

風太郎「俺、金もねえし5人分も用意できねえんだ。ってことでそれを作らせてもらった。悟飯達にも協力してもらって完成した。お前達5人の思い出の記録だ」

 

五月「…そういえば、5人で写真なんて撮ってなかったかも……。ありがとう、風太郎君。これはみんなに渡しておくよ」

 

風太郎「てっきりお前も修学旅行で何か仕掛けてくると思っていたんだけどな」

 

五月「わ、私は私なりに仕掛けていたんだけどなぁ…………」

 

風太郎「……ともかく、零奈。お前には感謝している。あの日お前に会わなければ、俺はずっと1人だったかもしれない。お前のお陰で悟飯にも出会えたし、今の俺がある。6年ぶりの修学旅行はあっという間に終わっちまったが、良い思い出になると思ってこのアルバムを作ったんだ。ありがとな……」

 

 

 

 

風太郎がその場を去った後、零奈に変装した五月が後ろの影に話をかける。

 

五月「勝手な真似をしてごめんなさい…。ですが、打ち明けるべきです…!6年前、本当に会った子はあなただったと……」

 

四葉「……うん。今、打ち明けるべきか考えているところなんだ……」

 

五月「………えっ?」

 

五月は、四葉がその意見を否定してくるものだとばかり思っていたので、予想外の返答に呆然としてしまう。

 

五月「一体何があったんですか………?つい先日までは………」

 

四葉「まあ、色々あったんだよ!」

 

四葉はニコッとした笑顔を五月に向ける。その笑顔は、上部のものだけではない、心の底から浮き上がったものだった。

 

五月「四葉…………」

 

 

 

 

 

四葉「ということで、よろしくお願いします!孫さん!!」

 

悟飯「いや、いきなりどうしたの?」

 

四葉が悟飯に急用があると電話が来たものなので、筋斗雲を向かわせて四葉を孫家に連れて来たのだが………。

 

四葉「私なりに決意したんです…!」

 

四葉の考えはこうだ。

四葉も悟飯のように誰かを守れるような力を身につけたい。そして風太郎を守れるような自分になったら、その時は自分のことを打ち明けようと決意したようである。

 

四葉「そういうことで、孫さんに協力してほしいんです!!」

 

悟飯「いやいや、勉強の方は…?」

 

四葉「そっちも怠るつもりはありません…!!よろしくお願いします!!孫悟飯師匠!!」

 

悟飯「し、師匠……?」

 

悟飯が師匠と言われたのはこれが初めてである。未来悟飯はトランクスの師匠であったが、この世界の悟飯はそうではない。師匠という言葉を聞いて、悟飯は憧れの師匠であるピッコロを連想し、悪い気はしなかった。

 

悟飯「………四葉さんが本気なのは分かった。でも"気"は勉強とは違って、努力をすれば必ず報われるわけじゃないよ?そこは理解してもらえるかな?」

 

四葉「はい!私、頑張ります!!」

 

理解しているかどうかは微妙な返答だったが、こうして悟飯は四葉を一番弟子にするのであった………。

 

四葉「おや?それが孫さんの道着ですか?お似合いですよ!」

 

悟飯「ありがとう。これは僕の師匠と同じ道着だから気に入ってるんだ」

 

悟飯は修行する時に愛用している魔族の道着に着替えた。

 

悟飯「まずは気のコントロールからだね。四葉さんは運動はできる方とはいえ、気を扱えなきゃ話にならないからね」

 

四葉「気って……。確か、生きるエネルギーみたいな……?」

 

悟飯「そうそう」

 

悟飯は分かりやすくするために、実際に目の前で実演をすることにする。その場に座って意識を落ち着かせ、手に気を集中させる。すると、ホワッと光のようなものが出現する。

 

四葉「おお……!」

 

悟飯「まずはこれをやってみよう」

 

四葉「ええ!?こんなことできるんですか!?」

 

悟飯「うん。心を落ち着かせて集中すればいいんだよ。自分の中にある力を手に集中させる感じで」

 

四葉「むむむっ…。分かりました……」

 

四葉は悟飯の見よう見まねで気を具現化させようとする。途中で悟飯に何度も指摘されながら、方法を変えて何度も挑戦する。

 

ところが、四葉は戦ったことが殆どない。数時間経っても効果が表れる様子がなかった。

 

四葉「私、才能がないのでしょうか……」

 

悟飯「仕方ないよ。でも段々と進歩してきていると思うよ?もう少しやればできるかもしれないね」

 

四葉「本当ですか!?」

 

悟飯「うん。でももうこんな時間だし、取り敢えず昼ご飯にしようか」

 

四葉「はい!!」

 

四葉と悟飯は一旦孫家に戻り、チチに昼食を振舞ってもらうことになった。

 

チチ「いいだなぁ…!愛する人を守る為に強くなろうとするなんて…!!悟飯!しっかり四葉さを鍛えてやるだぞ!!」

 

チチは反対するということはなく、むしろ四葉の決意を聞いてなんか感動してしまっている。チチも武闘派の女性なので、女性が戦うことに違和感など感じないようだ。

 

四葉が修行するということで、悟天もそこに加わりたいと駄々をこねたが、運悪く今日は勉強する日だったため、一緒に修行するのはまた今度ということになった。

 

昼食を終えて、修行を再開すること数時間………。

 

四葉「お、おお……!!!」

 

悟飯「おお…!」

 

四葉は気を具現化させることに成功した。

 

四葉「す、すごいですよ…!これ、私自身の力で……?」

 

悟飯「まさか今日中にできるようになるとは思わなかったよ……。四葉さんは僕が思ったよりも才能があるかもしれないね」

 

四葉「……!!私、頑張ります!!姉妹のみんなを、上杉さんを守れるように!!」

 

悟飯「うん、その勢いだよ!」

 

悟飯は四葉が気を扱う才能が一定以上あることは既に分かっていた。四葉に稽古をつけることを頼まれた後に悟飯は四葉の気をよく探った。そして潜在パワーがあることに気付き、今回の修行が成立したのだ。

 

修学旅行後、このような修行をほぼ毎日のように行った。その結果、1週間が経つ頃には気を具現化させることは難なくできるようになったので、次のステップに移行することになった。

 

悟飯「四葉さんは本当に凄いよ。短期間であれだけ気を使い熟せるようになるなんて………」

 

四葉「いえ!これも孫師匠のご指導があってこそです!!」

 

四葉は謎のテンションで返答をする。普段の悟飯ならそのテンションを不思議に思うのだが、師匠という単語が自分自身に向けられているものだと知ると、それも気にならなくなる。

 

悟飯「それじゃあ次のステップだよ。次は舞空術だね」

 

四葉「ぶくう術……?」

 

悟飯「まあ説明するよりは見てもらう方が早いかもね」

 

悟飯はいつもの要領で宙に浮き、適当に空を飛び回って再び四葉の前に戻ってきた。

 

四葉「ああ!って、第二ステップがそれなんですか!!?」

 

悟飯「大丈夫。気を具現化できるならそんなに難しいことじゃないから。空を飛ぶイメージを思い浮かべながら気を集中させればいいんだよ。ちょっとでも浮ければ、あとは感覚でどうにかなるよ」

 

ということで、今度は舞空術の修行に移行することになった。

 

四葉「むむむっ…!!空に浮かべ〜!!」

 

悟飯「言葉に出せばいいってものじゃないよ?」

 

 

 

四葉「ふ、ふんぬ〜ッ……!!!」

 

悟飯「ダメダメ!力みすぎないで!心から落ち着かないと…。リラックスリラックス!」

 

 

 

四葉「孫さん、これはどうですか!?」

 

悟飯「えっ?それどうやったの?凄いけど舞空術ではないかな…?」

 

四葉はなんと、階段を作るようにして気を生成し、それを利用して上ることによって擬似的に浮かんだのだ。確かにこれは凄いことなのだが、これができて何故舞空術ができないのか不思議であった。

 

 

舞空術は気を具現化するよりも難しい技術だ。流石の四葉でも、戦闘未経験者だからだろうか、舞空術の会得には時間を要した。

 

 

更に1週間が経とうとした時……。

 

 

四葉「おお!やっと浮かびましたよ!!」

 

悟飯「いいよ!!その状態を維持して!!」

 

ようやく四葉は宙に浮かぶことに成功した。たった数cmとはいえ、これは大きな進歩だった。一度浮かべてしまえば、舞空術のコツを掴むのはとても簡単だ。

 

悟飯「よし、もう少し練習すれば舞空術もマスターできそうだね。まずは長時間浮き続けることができるかどうかだ」

 

 

 

 

 

四葉「どうもありがとうございました!!まだまだこれからですけど、大分成長できた気がします!!」

 

悟飯「うん。この調子なら、あと1ヶ月すれば確実に舞空術はマスターできるだろうし、下手したら気のコントロールも完璧になるかもしれないね」

 

四葉「それでは、明日もよろしくお願いしますね!孫師匠!!」

 

悟飯「それじゃまた明日学校でね!」

 

この日の修行は終わった。修行を続け、成果が出るたびに四葉は大喜びをしていた。きっとその成功が四葉の自信に繋がっているに違いない。この修行を機に恋に対しても前向きになってくれればと、悟飯は思っていた。

 

悟飯「……よし。それじゃ、みんなの為に問題を作るとしますか………」

 

そして彼は、家庭教師としての仕事を遂行する為に、自室に篭って今日も風太郎と共に問題作成に励むのだ…。

 




 今回のタイトルの意味について解説。失敗は四葉の過去を意味しており、後悔は悟飯の過去を意味しています。

 四葉は過去のことが原因で自分の恋に消極的になっています。姉妹に迷惑をかけてしまったからだと自分で自分に呪いをかけているような状態ですが、悟飯は自分自身の過去を四葉に明かします。自分の失敗に比べれば四葉の失敗は大したことないから気にする必要はないという意図で悟飯は過去を明かしました。
 悟飯は敢えて自虐するように語っていきますが、それは四葉が自分を擁護することを読んでの行動。四葉の擁護に悟飯がブーメランを投げることによって四葉の悩みを解消しようと試みました。
 結果、完全に解消されたとまでは行きませんでしたが、影響を及ぼしたのは紛れもない事実。原作よりは四葉の心は軽くなっています。

 ビーデルさんに比べて四葉は成長速度がやや遅めです。ビーデルは武道家であるのに対し、四葉は運動やスポーツができるというだけなので、実戦経験があるかないかでは大いに差が出ます。まあそれでも四葉の成長速度の時点で早い方だと思いますけど。次回もほぼオリジナル回になるかと思います。

 というか、最近無茶苦茶暑いですね。外に出るだけで疲れるレベル。ここ最近思考がまとまらなくて大変でしたよ。いやホントに。

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