孫悟飯は五つ子姉妹の家庭教師をするそうです【本編完結】   作:Miurand

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 前回のあらすじ…。
 セル、バーダック、ベジータと共に魔人ブウを倒そうと考えた悟飯。セルの20倍スーパー界王拳のかめはめ波に加え、悟飯のかめはめ波、バーダックのスピリッツキャノンによって魔人ブウは完全に消滅したかと思われたが、なんと生きていた。各々の技で力を使い果たしてしまった3人は、順番にあっさりと魔人ブウに撃破されていく……。セルは核ごと消し去られ、悟飯はなんとか一命を取り留めるも、意識を失ってしまう。バーダックは最後まで抵抗したが、それも虚しくバーダックも消えてしまった……。
 なんとか動けるようになったベジータは、人生で最初で最後の、『人を守るための戦い』に身を投じた……。


第80話 愛の力

超2ベジータ「……!!!!」

 

ブウ「……!!!!」

 

ベジータはこれまでにないほどに気を高めていく。並の攻撃ではびくともしないことは既に分かっており、細胞1つでも残すことを許されない。となれば、その細胞を一つも残さないほどの大技を魔人ブウに放つ必要があった。

 

しかし、ベジータにはそんな力も技もない。…………だから、文字通り自分の命を燃やしてでも魔人ブウを倒すことを決意した。だから先程ピッコロにあんな質問をしたのだ。

 

超2ベジータ「…(……あの小娘もバビディの術にかかってやがったな。あれも多分俺のせいだろう…。許せ。その代わりと言ってはなんだが、魔人ブウと共に心中する。…………さらばだ、ブルマ、トランクス………。そして、カカロット)

 

 

 

 

 

 

 

うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

最後に聞こえた彼の勇ましい雄叫びと共に周囲は気に包まれる。そして一気に爆発を引き起こして魔人ブウごと巻き込んだ。

 

誇り高き戦闘民族のサイヤ人の王子、ベジータ4世は、この瞬間を持って絶命した………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリリン「なに…!!?ベジータが…?」

 

ピッコロ「ああ。あいつは生まれて始めて誰かの為に戦おうとしている。自分の為ではなく、他人の為にな……」

 

クリリン「あのベジータが……」

 

クリリンとピッコロは悟天とトランクスを抱えながら、なるべく全速力で魔人ブウとベジータがいる場所から離れていた。

 

 

 

ブォオオオオオオオオオオッッ!!!!

 

クリリン「べ、ベジータぁああああああああッッ!!!!!!!」

 

ピッコロ「ぐっ…!!!!!!」

 

ベジータが自爆覚悟で気を解放したことによって、大分離れたはずのピッコロとクリリンの元にまで爆風が届いた。

 

 

 

少しするとその爆風も収まった。するとピッコロはトランクスと悟天をクリリンに託す。

 

クリリン「えっ?お前、何するつもりだよ?」

 

ピッコロ「俺は様子を見てくる……」

 

クリリン「取り敢えず俺は戻るけど、悟飯もベジータも死んじまったんだろ…?どう言えばいいんだよ…?」

 

ピッコロ「隠してもいずれはバレる。正直に話した方がいいだろう……」

 

そのままピッコロは来た道を引き返していった。

 

クリリン「嘘だろ……。チチさんやあの五つ子……特に3人にはどう言えばいいんだよ………………」

 

 

 

 

 

 

一方で、ドラゴンボールを7つ集め終えたジェットフライヤー組は、カプセルコーポレーションで神龍を呼び出す…。

 

二乃「………待って。一度会場に戻りましょう」

 

四葉の心配をする二乃の提案によって一旦引き返そうとするのだが…。

 

「ふーん?そんなに四葉が心配なんだ?相変わらずだね、二乃は」

 

返り血に染まった一花が現れた。

 

二乃「い、一花…!!!」

 

18号「あんたっ……!!」

 

一花「おっと、あなたもいたのかぁ…。これはちょっと不利かも……」

 

三玖「ね、ねえ一花…?その血は何…?」

 

一花「ああ?これ?これは四葉の血だよ?」

 

一花はなんてことないと言った様子で答えた。まるで今日の朝食を聞かれて気軽に答えるような、そんなテンションで。

 

五月「よ、四葉の………?」

 

二乃「ま、まさか………よね?」

 

風太郎「………」

 

一花は辺りを見回すと、彼女の目当ての人物である風太郎がそこにはいた。

 

一花「あっ、フータロー君!なんでお姉さんから逃げるの?さあ一緒に行こ?」

 

風太郎「……待て。これだけは聞かせてくれ」

 

一花「なーに?フータロー君の質問にならなんでも答えてあげるよ?バストサイズ?それとも好みのプレイかな?あっ!もしかして欲しい子供の人数とか!?もー!フータロー君ってば気が早いんだから〜!!」

 

風太郎「……お前、四葉はどうした?」

 

一花「……………」

 

先程まで笑顔だった一花の表情が、突然闇を孕んだものに変わった。

 

風太郎「四葉は、お前を食い止める為に戦っていたと聞いた……。四葉はどうしたんだ?」

 

一花「………それを聞いてどうしたいの?」

 

風太郎「答えろッッ!!!!

 

一花「……!!!!」

 

風太郎が突然怒鳴った。一花もこの反応は予想外だったのか、足を踏み外して尻餅をつく。

 

風太郎「お前はさっき、その返り血は四葉のだって言ったな?四葉はどうした?いや、聞き方を変えよう。お前は四葉に何をした?」

 

一花「……………」

 

風太郎はしつこく一花に対して質問をする。だが一花は答えないし、答える気配すらない。

 

風太郎「………一花。お前はそんなにも弱いやつだったのか…?魔道士ってやつにちょっと操られる程度で、四葉を…!姉妹を傷付けるようなやつだったのか…?!」

 

一花「………さい……」

 

風太郎「お前はいつも姉妹の為に頑張っていた!!俺が家庭教師をやめた時なんかは、お前一人で生活費を賄っていたじゃないか!5人で一緒にいることに拘っていたじゃないか!!そんな妹想いのお前が…!!!!」

 

一花「うるさいッッ!!私はフータロー君さえいてくれればいいの!他には何もいらないの!!!今までがおかしかっただけだよ!!!」

 

風太郎「くそ…!」

 

風太郎はなんとか一花の説得を試みるが、どうやら効果はなさそうである。

 

一花「聞きたいことはそれだけ?もうないなら行くよ」

 

風太郎「待て。結局お前が四葉をどうしたのか聞いてない」

 

一花「…………そんなに知りたい?」

 

風太郎「ああ。四葉も俺の大切な生徒だ。生徒の安否を確認するのも教師の努めだろ?」

 

一花「…………分かったよ。なら教えてあげる。四葉は死んだよ

 

風太郎「…………なんだって?」

 

あまりにも衝撃的な事実をあっさりと告げられてしまった為、風太郎は理解できずに一瞬困惑した。

 

風太郎「………もう一度、いいか?」

 

一花「だ〜か〜らぁ、四葉は死んだんだって」

 

風太郎「…………嘘、だよな?」

 

一花「嘘じゃないよ

 

突きつけられる過酷な現実。今まで風太郎を笑顔で支えてくれていた四葉は死んだと、あまりにもあっさりと、滑らかに伝えられた。

 

二乃「四葉が…………死んだ……?」

 

五月「そ、そんなはずは………!!」

 

三玖「ね、ねえ…?嘘でしょ?嘘だって言ってよ…!!!」

 

一花「だから嘘じゃないって。そんなに疑うなら、見てみる?」

 

そう言うと、前髪に隠れたMの字が不気味に光り出した。

 

一花「こんな感じかな……?ぱっぱらぱ〜。なんてね」

 

 

パッ‼︎

 

それは突然出現した。

 

悪目立ちする緑色のリボン。走りやすそうなスニーカー。428という文字がプリントされたTシャツに、動きやすそうなズボン……。

 

それらが赤黒く染まっていることを除けば、紛れもなく四葉の形をしたものであった。

 

「「「「四葉!!!!」」」」

 

唐突に現れた四葉に駆け寄る4人。三玖は泣き叫びながら四葉を呼ぶ。五月はひたすら小声で四葉を呼び続ける。二乃は『大丈夫!?しっかりしなさい!!!!』と呼びかけるが、どの呼びかけにも応じなかった。

 

二乃「……!!!!!」

 

二乃が四葉に触れた時、あることに気づいてしまった。

 

二乃「………つ、冷たい……………」

 

よく見てみると、完全に開ききった腹部。そこから抉れるように不自然な形をしている内臓。服に滲みきった血。完全に開いた瞳孔………。専門知識がない二乃でも、今の四葉が"四葉の形をした肉"に成り果ててしまったことを理解してしまった。

 

 

二乃「よつ……ば……!!四葉ぁあああああああッッ!!!!!!!

 

五月「いやぁあああああああッッ!!!!!!!!

 

 

18号「マーロン!見るな!!」

 

らいは「えっ?四葉さんがどうしたの!?」

 

勇也「ら、らいは!!見ちゃダメだ!!!」

 

ビーデル「ひ、酷い………!あんまりだわ……!!!」

 

あまりの惨状に、18号と勇也はそれぞれの子供の目を隠して視界を阻害する。零奈が意識を失っているのが不幸中の幸いといったところだろうか……。しかし、それでもこの状況は酷かった。特に、四葉と親しい姉妹や風太郎にとっては、想像を絶するほどの絶望感を味わうことになる………。

 

三玖「ひ、ひどいよ……!!一花…!!どうしてこんなことをするの…!!?四葉が何をしたっていうの!!!?」

 

三玖が必死に訴えるが、一花はそんな姉妹達の様子に気にかける様子もなかった。

 

一花「ねっ?これで四葉がどうなったかは分かったでしょ?分かったら………」

 

風太郎「よつ……ば?嘘だよな?あんなに無駄に元気だったお前が、死ぬなんて、あり得るわけがないよな……?」

 

意外にも、四葉が死んだという現実を突きつけられて一番動揺しているのは姉妹達ではなく、風太郎だった。

 

風太郎「なあ………?返事してくれよ?いつもみたいに笑顔で話しかけてくれよ?いつもみたいに、馬鹿やってくれよ…!」

 

三玖「ふ、フータロー…。四葉はもう……」

 

風太郎「なっ!三玖からもなんとか言ってやってくれよ!!なんで黙っているんだ?なあ?」

 

三玖「…………」

 

三玖は意外とこの状況を冷静に把握できていた。二乃と五月は未だに泣き叫んでいる。その2人を見たからだろうか。自分がしっかりしなければならないと無意識に思ったからなのかもしれない。

 

風太郎「二乃もなんとか言ってやってくれよ!いつまでも寝ているこの大馬鹿野朗に!」

 

二乃「…………」

 

風太郎「五月!!お前もなんで泣いてんだ?」

 

五月「…………」

 

勇也「風太郎…………」

 

一花「ふ、フータロー君…?」

 

上杉さんが悲しむ

 

四葉に言われた言葉が、不意に一花の頭の中に浮かんだ。四葉の言うことはまさに正しかった。現に四葉の死という現実から逃げている風太郎がいた。それは悲しむ以前の問題で、四葉の死を認めたがらなかったのだ。しかし、それは四葉の死を誰よりも悲しんでいるという証拠でもあった。だから認めたくないのだ。

 

風太郎「はは……。なあ?一花、お前は何をしたんだ?二乃みたいに睡眠薬でも飲ませたのか?」

 

一花「ふ、フータロー君。だから四葉は………」

 

風太郎「あっ、これドッキリってやつか?ったく、冗談でもやっていいことと悪いこともあるんだぜ?そんなことも分からないくらいにお前達が馬鹿だとは思わなかったぜ。罰として次の課題は倍な!」

 

もう見ていられなかった。ひたすら現実逃避し続ける風太郎にどう声を掛ければいいのか、彼の父親である勇也でさえも分からなかった。

 

一花「(ああ…。四葉が言っていたの、このことだったんだ……)」

 

風太郎「なんで、誰も答えてくれないんだよ……?四葉が死んだなんて、タチの悪い冗談を……、なんで誰も否定してくれないんだ………?なあ………?」

 

大切なものは、失って初めて気づく。よくそんな言葉を聞くが、今の風太郎にはそれがよく当てはまっていた。

 

家庭教師初日。悟飯と一緒なら多少はきつくても大丈夫だろうと思っていたが、はっきり言って風太郎は舐めていた。四葉以外は皆風太郎の授業の受けたがらなかった。五月は食堂の件で険悪だったし、三玖は同級生から教わりたがらない。二乃に至っては睡眠薬を飲ませてくるほど。一花はこの3人よりは遥かにマシとはいえ、乗り気ではなかった。

 

そんな時、彼を支えてくれていたのは四葉だった。彼女だけは最初から風太郎の授業を笑顔で受けていた。そんな彼女に幾度となく助けられていた。彼女の太陽のような笑顔に照らされていたから、今日まで頑張ってこれた。このことを風太郎は今更気づいてしまったのだ。だからこそ、四葉の死を認めたくなかった。

 

風太郎の心が壊れる。まさにその時だった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『上杉さん』

 

風太郎「……!!?四葉か!?四葉なのか!!?」

 

不意に聞こえてきた、風太郎にとって特別な存在の声。だが、四葉の方を見ても相変わらずの様子。しかし聞こえてきた声は紛れもなく本物であった。

 

『どうか、一花を恨まないであげて下さい……。一花は悪い奴に操られているだけなんです。その証拠に、一花は自分と戦っていました。姉妹を殺したくない、四葉を殺したくないって、はっきり言ってしていました』

 

風太郎「……!!それ、本当か……?」

 

風太郎の目の前には、半透明になった四葉の姿があった。手を伸ばしても、体をすり抜けて触れることは叶わない。しかし、声と姿は確認できた。

 

『私では一花を救えなかった。でも、一花にとって特別な存在である上杉さんなら、きっと…………』

 

風太郎「ま、待ってくれ、四葉…!」

 

『大丈夫ですよ、上杉さん。私はあなたに協力するだけです』

 

そう言うと、半透明の四葉は風太郎に手を触れる。何故自分からは触れられなかったのに、四葉からは触れることができるのかは不思議でならなかった。

 

風太郎「……!!これは………」

 

『分かりますか?これが私の気です。これは君に託すよ。私が持っていた力に比べればちっぽけなものだけど、君なら一花を救ってくれるって信じてるよ…………』

 

風太郎は自身の力が漲っていくことを自覚した。これが気…。悟飯達が扱っていた力………。それに、ただ力が漲るだけではなかった。その力はどこか暖かった。まるで彼女の太陽のような笑顔が与える安心感のような………。

 

 

 

 

亀仙人「……むっ!!」

 

ヤムチャ「あいつの気が、急激に…!!」

 

ビーデル「………なんか違う。あの気は………何か違う」

 

存在しないはずの四葉から託された力によって、気が急激に膨れ上がった風太郎。彼から発せられる気は……。

 

一花「温かい………?」

 

風太郎は涙を腕で雑に拭き取ると、立ち上がって一花の方を向く。

 

風太郎「……一花。お前の呪いを解いてやるよ…!俺と四葉でな!!」

 

ボォオオオオッ!!!!!!

 

ヤムチャ「……!!!」

 

亀仙人「修行もしていないのに、なんという気じゃ…!!!!」

 

風太郎から発せられるオーラは、四葉や地球人Z戦士達が発するような無色のオーラではなかった。どこか温かさを感じさせるような、自然を連想させるような、黄緑色。見ているだけで心安らぐような、そんな色だった。

 

五月「上杉……君……?」

 

二乃「な、なにしてんの……?」

 

一花「う……ふふふっ……。そっかぁ…。私じゃなくて四葉を選ぶんだね…?分かったよ。そこまで言うなら………」

 

ドォオオオオッ!!!!!

 

風太郎の優しさ溢れるオーラとは対照的に、どす黒いオーラを発する一花が対峙する。

 

一花「力づくで私しか見えないようにしてあげるよ…………」

 

風太郎「………やれるものならやってみろ……!!(四葉…。お前のお陰で目が覚めたぜ。……本当にありがとう)」

 

誰もが予想だにしなかった、家庭教師 vs生徒という構図が完成した。

 

 

ドンッッッ!!!!

 

まず聞こえたのは、一花が地面を蹴る音。

 

一花「たあッッ!!!!」

 

四葉と戦った際に積み上げた経験を駆使して風太郎の懐に蹴りを決めようとするが……。

 

 

ガッ……!!!

 

一花「……!!!」

 

何故か一花の足が途中で止まる。何かに掴まれているような、そんな感覚だった。風太郎が掴んでいるのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

 

一花「…………四葉?」

 

風太郎のすぐ後ろに半透明の四葉の姿を確認できた。しかし、二乃達は一才反応していなかった。どうやらこの四葉が見えているのは一花と風太郎だけのようである。

 

風太郎「一花…。本当は姉妹を殺したくなかったんだろう…?気付いてやれなくてすまなかった……。一瞬でもお前を疑っちまった俺を恨んでくれ………」

 

 

ドカッッ!!!!

 

一花「……!!!!」

 

風太郎の殴りが炸裂する。しかし、一花は不思議と痛くも痒くもなかった。

 

一花「……?なんのつもり……?ふざけてるの?」

 

風太郎「ふざけてなんかないさ。俺は大真面目だ」

 

しかし、これほど攻撃力がないとなれば、一花にとってはビッグチャンスだ。とっとと風太郎を気絶させて連れ去ろうと意気込む。

 

ガガガッ…!!!!

 

一花「………!!?」

 

風太郎「お前の攻撃パターンは四葉が教えてくれた……!!!」

 

一花の繰り出す攻撃は全て風太郎にいなされるか避けられるだけだった。

 

風太郎「おんどりゃああッッ!!!」

 

ドゴォッッ!!!!!

 

一花「ぐっ……!!!!」

 

またしても風太郎の攻撃をまともに受ける一花だったか、相変わらず痛みは一切感じない。

 

一花「……(フータロー君は一体何がしたいの…?もしかして、本気を出せば私を殺せるって意味……?)」

 

だが、その一花の推理は綺麗に外れていた。風太郎は一花を倒す為に戦っているわけではない。先程言った通り、一花を救うために戦っているのだ。

 

 

一花「……!なに、今の……?」

 

風太郎からの攻撃を受けて少し経った時、一花に異常が現れ始める。

 

 

 

 

 

 

幼少期から、姉妹や母親と共に過ごしてきた記憶が突如掘り起こされる。その記憶は()()()()()()()()()()()だった……。

 

 

 

 

風太郎「……(どうやら効果が出始めたみたいだな)」

 

風太郎が扱っている力は、単に人や物を傷つける力ではない。四葉のような優しさが篭った特殊な力である。これを纏って攻撃する場合、相手を傷つけることはできない。その代わり……。

 

 

一花「ふ、フータロー君…?君は一体何をしたの………?」

 

風太郎「さっき言っただろ?呪いを解いてやるってな。俺と四葉で」

 

 

 

悪の心……。もっといえば、邪気を浄化する効果がある。だがこれが効くのはあくまでも同程度かそれより少々実力が上回る者だけで、相手の方が圧倒的に強い場合は効果がない。

 

この力の正体は優しさ。それは欲望、悪意、邪気とは正反対に位置するものだった。故に、邪気や悪意を利用して効果を発動させたバビディの魔術に効果的なのである。

 

 

一花「(よく分からないけど、私が私じゃなくなる気がする…!早めに決着をつけた方がいいかも……!)」

 

一花は風太郎の攻撃の正体に気づいたわけではないが、自分に対して何かしらの効果が作用していることを察知し、気を更に解放して風太郎に向かう。

 

風太郎「やべ…!」

 

ここで決めてやる…!と、一花は右手に渾身の力を込めて風太郎の顎に近づける。強力なアッパーを決めて一気にノックアウトしようと企んでいたが……。

 

ガッ……!!!!

 

一花「なっ………!!?」

 

またしても風太郎ではない誰かに止められてしまった。その正体は勿論……。

 

 

一花「四葉………!!!」

 

風太郎の少し後ろで彼をサポートするように行動する半透明の四葉だった。

 

一花「死んでも私の邪魔するなんて…!!これなら半殺し程度に済ませておくんだった……!!」

 

風太郎「それ、本気で言ってるのか?」

 

一花「勿論」

 

風太郎「嘘だな」

 

ドカッッ!!!!!

 

一花「うっ………!!!!!」

 

風太郎「つくならもっとマシな嘘をつけ」

 

不意にアッパーを止められた一花に、風太郎のアッパーがお見舞いされる。なすすべもなく一花は吹き飛ばされ、倒れる。

 

一花「なん……で……!!どうして私の邪魔を……!」

 

一花はゆっくりと起き上がって風太郎を………否、そのすぐ後ろにいる他の人には見えない四葉を睨む。その睨まれている半透明の四葉は、一花を敵視するような目で見返すのではなく、優しく微笑みかける。

 

一花「………!!!!」

 

それが今の一花の癇に障った。

 

一花「このぉ…!!四葉さえ……!四葉さえいなければ、運命の再会をしたのは私だけだったのに……!!四葉なんて生まれてこなきゃ良かったッッ!!!!!!」

 

 

一花は大声で狂うように吐き捨てる。今の言葉は聞き捨てならないと二乃が立ち上がって一花に何かを言いかけるが………。

 

勇也「待て」

 

二乃「……!!」

 

それを勇也に止められた。

 

 

 

 

 

一花「この…!このぉおおおッッ!!!!!」

 

一花は更に気を解放して風太郎に飛びかかる。風太郎は特に防御もせずに待ち構えていた為、一花と共に転がる。

 

一花「たあッッ!!!!」

 

 

ドカッッ!!!!

 

 

一花「なんで!!!!」

 

 

ドゴォッッ!!!

 

 

一花「死んでも!!!」

 

 

ドカッッ!!!!!

 

 

一花「私の邪魔を……!!!!」

 

 

ドカッッ!!!!

 

 

一花「するのっ!!!?」

 

 

ドゴォォオオッッ!!!!!

 

 

馬乗りになった一花は、無抵抗の風太郎に何度も殴りかかる。風太郎はただそれを痛そうにするわけでもなく、かと言って抵抗するわけでもなく、無言で受け続ける。

 

ヤムチャ「あ、あれは……!!」

 

亀仙人「やはりまだ戦うのは早すぎたか…!!!」

 

ビーデル「………違うわ」

 

亀仙人「むっ……?」

 

ビーデル「よーく見てみて」

 

 

 

 

 

風太郎「一花、随分弱ってきたんじゃねえか?」

 

一花「そ、そんなはずは…!!」

 

現に一花は気を最大限まで解放している。その一花の攻撃を何度も喰らっている風太郎は無傷でいられるはずがないのだが、何故か風太郎は無傷。それも全く痛がる素振りすら見せない。

 

一花「な、なんで……?どうして…?」

 

風太郎「お前はかかった魔術によって四葉と同等以上の力を身につけた。その魔術の動力源はお前の悪の心…。いや、欲望や独占欲、悪意だ。でもそれが薄まれば、力が弱まるのも無理はないだろ?」

 

一花「……!!!」

 

ここで初めて風太郎がどういう攻撃をしてきたのかを理解した一花だったが、時すでに遅し。既にかなりの効果を受けていた。

 

一花「そ、そんなはずは…!!」

 

カァァッ!!!!!!

 

気功波を放って、それが風太郎の顔面に直撃するが、風太郎は息を吹いて鬱陶しそうに煙を退かすだけだった。

 

一花「くっ…!だったら…!!」

 

1発で効かないなら連射してやる。そう思って手から気弾を発射しようとしたが………。

 

 

 

 

ぼんっ!!

 

一花「………えっ?」

 

小さな煙が出るだけで不発となった。偶然かと思って何度も発射するように試みるが………。

 

 

ポンっ…

 

こんな間抜けな音が何度も鳴るだけだった。

 

 

一花「そ、そんな……!!嘘だ…!!!私はフータロー君を自分のものにできるだけの力を手に入れたはずなのに……!!!」

 

風太郎「さあ、もう終わりにしよう、一花。元の一花に戻る時だ………」

 

一花「……!!」

 

その台詞を聞いた一花はあることを閃くが………。

 

一花「ぐっ………がっ………!!!!」

 

頭を抱え、膝から崩れ落ちる。力で黙らせたもう1人の………。本来の一花が再び抵抗し始めた。体の支配権を握ったはずの闇の一花だったが、風太郎の攻撃によって闇一花のみがダメージを受けていたのだ。そうなれば、本来の一花がこのチャンスを見逃すはずがない。

 

しかし、それでも闇一花は立ち上がる。

 

一花「今のうちに……!!消し去らないと……!!私が私じゃなくなる…!!」

 

自分の中に眠る本来の一花を撃退するために、まだ微かに残っている力を使って本来の一花を潰そうとする。

 

そんな一花に向かって、風太郎がゆっくりと歩き出す。

 

一花「ま、待って…!今は来ないで…!!」

 

風太郎「断る」

 

一花「そ、そんなことしちゃったら、私が消えちゃうんだよ?それでもいいの!?」

 

風太郎「元の一花に戻るだけだ。消えるわけじゃない」

 

一花「分かってないよフータロー君は…!!今私の中には"2人の一花"がいるんだよ?そのうちの1人が消えようとしているの…!それが"私"…!!」

 

風太郎「……確かに、一花は独占欲やらそういうのが強い方なのかもしれない。だが、お前は一花じゃない」

 

一花「…………えっ?」

 

風太郎「いつも妹達のことをよく見ていたあの長女が、なんの躊躇もなく妹を殺せるはずがねえ……。どんな理由があろうとも、一花なら四葉を殺すようなことは絶対にしない…。だからお前は偽者だ…!!」

 

闇の一花は、風太郎に『一花』だと認めてもらえなかった。それが精神的にきたようで、膝から崩れ落ち、地面に両手をつける。

 

一花「そ、そんな……。フータロー君が、『私』を拒絶した……?認めてくれないの…?私も一花なのに……?」

 

風太郎「………!!」

 

前髪で隠れているM字だったが、風太郎はこの目ではっきりと見た。今まで色濃く記されていた黒いM字が、徐々に薄まっており、今は殆ど見えない状態になっていた。あともう少しで本来の一花が戻ってくるところにまで迫っていた。

 

一花「あはは……。そろそろタイムオーバーか…。四葉にフータロー君。君達は本当に凄いよ……。ここまで来るといよいよ認めざるを得ないね………」

 

風太郎「そうか。大人しく元に戻ってくれると助かるんだがな」

 

一花「……フータロー君。最期に頼みがあるんだけど………」

 

風太郎「…………なんだ?」

 

闇の一花は諦めたような顔をしながら風太郎にこう言う。

 

一花「最後に、抱きしめて?」

 

風太郎「…………」

 

一花「『私』は人の温もりを知らない…。知らないまま消えるなんて嫌だ…。だから、お願い…………」

 

風太郎「…………分かったよ」

 

思いの外、あっさりと風太郎は承諾する。少々恥ずかしがる仕草も見られたが、風太郎は男を見せた。一花の背中に手を回し、優しく彼女を抱擁した。

 

一花「ああ………。温かい……………」

 

闇の一花と言えど、元は一花の心の一部から生まれた者。故に、風太郎に恋する乙女ということは一花本人と何ら変わりがなかった。風太郎に抱擁された一花は幸せそうな笑みを浮かべてゆっくりと目を閉じる……。

 

一花「………ねえ、どうして私のお願いを聞いてくれたの?」

 

風太郎「……最後なんだ。これくらいはいいだろ?」

 

一花「ふふっ…。やっぱりフータロー君は優しいね……。そんな君が大好き」

 

風太郎「……ああ。知ってるぞ」

 

一花「そっか……。じゃあ許してくれるよね?」

 

風太郎「はっ?今なん…」

 

 

 

ドォォオオオッッ!!!!!!

 

 

 

ビーデル「………!!!!!」

 

ヤムチャ「な、なんだ……!!?」

 

18号「ま、まさか……!!!」

 

一花の気が急激に膨らみ続ける。オーラがどんどん膨張し、肥大化していく。

 

風太郎「な、なんだ……!!?今のお前にはそんな力は残ってないはず…!!」

 

一花「やっぱり『私』はフータロー君が大好き…!"私"にも渡したくない。どうせ『私』が消えちゃうなら、フータロー君と一緒に消えるよ…。そうすれば、永遠に一緒だよね?」

 

 

18号「自爆する気か…!!!」

 

一花の意図を読み取った18号は、主にマーロンを守る為にエネルギー砲を風太郎ごと巻き込んで放とうとするが……。

 

五月「ま、待って下さい!!そんなことしたら、上杉君と一花が…!!!」

 

18号「ここで殺らなかったら、あんた達も死ぬことになるんだよ!?」

 

二乃「待って…!これ以上は家族を喪いたくない…!!一花!!やめて!!!」

 

一花「もうダメだよ…。引くことなんてできない…。『私』が消えて他の誰かにフータロー君が渡るくらいなら、一緒に死んでやるもん…」

 

風太郎「やめろ一花…!!お前まだ…!!」

 

一花「フータロー君が悪いんだよ?『私』を一花って認めてくれなかったから………。君が『私』を拒絶したからッ!!!!」

 

自暴自棄になった闇の一花は、元に戻ってしまう前に自爆をして風太郎と共に無理心中をしてしまおうと思い立ってしまったらしい。一花は自爆を中断する気は全くないようで、18号が風太郎ごと消滅させなければ、他のみんなも纏めてお陀仏になってしまう。

 

風太郎「くそ…!!(すまん四葉……。俺じゃ無理だった………。寧ろお前の他の姉妹も巻き込んじまう…!!俺はお前に力を託されたっつうのに…!!やっぱり俺は勉強以外は何もできない男だ…。悟飯のように、誰かを救うことなんてできない……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

『できますよ』

 

風太郎「……!!」

 

諦めかけた時、四葉の声が再び聞こえた。

 

『上杉さん、諦めるにはまだ早いですよ。あなたにしかこの状況を打開できません』

 

風太郎「(馬鹿な…!そんな方法があるわけが…………)」

 

『私が聞いた話によると、どうやら2人の一花の心を一つにすればいいそうです』

 

風太郎「(はっ?それどういう意味だ……?)」

 

『要するに、2人とも同じ感情にすればいいんですよ』

 

風太郎「(同じ感情に……?例えば、2人とも怒るとか……?)」

 

『そうそう!そんな感じです!』

 

風太郎「(でも、そんなのどうすりゃいいんだ……?)」

 

『私にいい考えがあります………』

 

四葉は他の人には聞こえない声量で風太郎にその方法を伝える。と言っても、今の四葉を認識できるのは一花と風太郎のみなのだが………。

 

 

風太郎「…………はっ?それ本気か?」

 

あまりにも突拍子もない提案だったのか、風太郎は思わず声に出して驚いてしまう。

 

『はい。これなら一花を今すぐにでも元に戻すことができると思います』

 

風太郎「(だ、だが…!俺がその……き、き……をするんだろ…!!?本当にそれで効果があるのか!?)」

 

『はい。姉妹の私が言うんだから間違いありませんよ!名探偵四葉のお墨付きですの?』

 

風太郎「("迷"探偵の間違いだろ…)」

 

そんな軽口を叩くが、今の四葉は何も言い返さなかった。

 

『上杉さん…!』

 

風太郎「(分かったよ…!やればいいんだろ!!?それしかこの状況を打開する方法がないっていうなら!やってやる!!!!)」

 

風太郎は意を決して一花を強く抱きしめる。

 

一花「えっ…?フータロー君?」

 

風太郎「一花、我慢してくれ………」

 

風太郎は片手で一花の顎を添えて少し上向きに誘導する。そして顔をゆっくりと近づけて………。

 

 

 

 

 

 

一花「…………!!!?ッッ」

 

 

 

………風太郎と一花の唇が重なった。

 

 

二乃「…………はっ?」

18号「…………はっ?」

 

二乃と18号の声が同時にハモる。

 

三玖「ふ、フータロー!?」

 

五月「こんな時に何をしているんですか!?トチ狂いましたかッ!!!?」

 

らいは「お、お兄ちゃんっ!!!?」

 

ほとんどの者が風太郎の行動に困惑していた。それも当然のことだ。自爆しようとしている相手に誰がキスをするのだろうか?普通は誰もしない。殺し合いの最中に呑気にお菓子を食べているようなものである。

 

少しすると、2人の口は離れる。一花は顔を真っ赤にして風太郎を見るが、その仕掛けた本人も顔を赤くする。

 

一花「えっ………?ちょ、私何されたの…?」

 

しかし、これは四葉の狙い通りだった。一花も闇の一花も風太郎のことが大好きである。2人の唯一の共通点と言ってもいい。それを利用したのだ。好きな人からいきなりキスをされれば、誰でも困惑するし、同時に嬉しくもなる。

 

ドクンッッ…!!!

 

一花「………!!!」

 

心臓が張り裂けそうになるほどバクバクと振動する。それと同時に顔に血液が送り込まれているのか、熱を帯びて顔が更に赤くなる。心の中は最早穏やかなものではなくなった。

 

この時、初めて2人の一花の感情が一致した。それと同時に、一花が闇から解き放たれた。

 

一花「あっ…………」

 

先程まで吹き荒れていた気の嵐が突然収まり、周辺は一気に静寂に包まれた。

 

18号「……あいつ、自爆を阻止したのか………?」

 

倒れかけてくる一花をしっかりと支える風太郎。その一花の額には、今までくっきりと刻印されていたはずのM字が綺麗さっぱりなくなっていた。つまり、バビディの呪縛からようやく解放されたことを意味していた。

 

二乃「も、もしかして……!?」

 

三玖「元に戻ったの………?」

 

五月「ええ!!?あんな方法で…!!?」

 

 

 

 

 

 

一花「ふーたろーくん…………」

 

風太郎「……お帰り、一花……………」

 

目元に涙を溜めた一花を慰めるように、抱きしめ続けながら風太郎が頭を撫でてあげる。その優しさがとどめになってしまったのか、一花は風太郎の胸に顔を埋めて大声で泣き叫んでしまった。

 

一花「フータローくん…!!私、怖かった……!!!暗いところにずっと閉じ込められて……!!!四葉を…!!四葉を……!!!!!!」

 

風太郎「一花…。お前は本当によく頑張った………」

 

風太郎と四葉の『愛の力』が、バビディの呪いを解いた決定的瞬間であった。

 




 なんだかんだいって名シーンは簡潔に描写しちゃいました。
 この回は原作主人公もたまには活躍させなきゃなぁと思って作った回であります。この回を逃したら風太郎単独で戦う回が2度と来ないと思ったので…。実を言うと五つ子の他4人もバビディの洗脳魔術に引っかけようかと考えておりましたが、風太郎が活躍すること、今の四葉じゃ闇落ちはあまり似合わないことを考えて、一花だけになりました。
 なんか死者の力を借りる展開どっかのアニメだか漫画にあった気がするんだよなと思ったら、普通にセル編終盤の悟飯と悟空やんけ。そういった意味では普通にドラゴンボールっぽかったですね。でもキスで終わらせるのはドラゴンボールっぽくはないでしょ。……ないよね?
 ちなみに一花vs風太郎(&四葉)の時のイメージbgmは、『未来への咆哮 feat by 松岡禎丞』です。まさかの風太郎の中の人が未来への咆哮を歌っていたというね…w。こちらもYouTubeで検索すると出てくると思います。

……あれ?ごと嫁サイドの主戦力の零奈さんは……?

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