孫悟飯は五つ子姉妹の家庭教師をするそうです【本編完結】   作:Miurand

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※五つ子それぞれの悟飯に対する心情

一花:最初は可愛い子だと思っていたけど、実はとんでもない大物だったことに驚いている時期があった。とはいえ、妹達に優しく接してくれる悟飯を見て、彼なら妹達を守ってくれると信頼している。
 悟飯に対して恋愛感情は持ち合わせていないが、後述する3人が悟飯に惹かれた理由はよく理解している。

二乃:最初は風太郎と共に姉妹の輪に土足で踏み入る不届き者として見ていた。ところがいつもキツく当たっているにも関わらず悟飯は自分に優しく接してくれることをいつも疑問に思っていた。それと同時に少しずつ自分の心が彼に溶かされていることに気付いていなかったが、後々気づくことになる。そして彼が自分の初恋相手であることが分かり、自分の気持ちに気づいた後は猛アプローチを仕掛けている。
 先述の通り、悟飯に対して恋愛感情を持ち合わせている。

三玖:最初は何故か同級生が家庭教師をする変な男の子として見ていた。要するにほぼ無関心である。だが彼と接していくうちに、彼の優しさに心が溶かされてからは少しずつ、確実に彼に惹かれていった。最初は控えめなアプローチだったが、ライバルが増えるとどんどんネガティブ思考に走っていた。しかし、悟飯の素直で優しい性格のお陰で他の姉妹同様に積極的にアプローチできるようになっていった。
 二乃と同じく悟飯に対して恋愛感情を持ち合わせている。

四葉:風太郎と唯一友人関係だった悟飯には興味深々だった。接していくうちに物凄く優しく、頼りになる人だと分かった。風太郎の良さを理解してくれている彼には感謝の気持ちもあった。ひょんなことから過去に風太郎と出会ったことが彼にバレた後は色々とサポートしてもらっていて頭が上がらない。原作よりも四葉が前向きになれたのは孫悟飯のお陰だと言っても過言ではない。今は彼の弟子として五つ子姉妹の中で唯一気を扱える武闘派ヒロイン。
 悟飯に対して恋愛感情を持ち合わせていないが、ある意味一番気軽に物事を相談することができる、そんな信頼できる存在である。しかし、風太郎との過去の出会いがなければ自身の初恋は悟飯だったかもしれないと冗談半分で言ったことがある。もしかすると、彼女が悟飯に惹かれる世界線もあるのかもしれない……。

五月:初対面で勉強を教えてとお願いしたら快く引き受けてくれた悟飯は第一印象が良かった。しかも他の男子とは違って、自分や姉達に対していやらしい視線を一切送ることもなかったため、男に警戒する傾向のある彼女だったが、悟飯には人生で初めて警戒を解いた相手である。勉強の理解が遅くても優しく教え続けてくれた彼に段々と惹かれていたが、彼女自身はその感情に気づくことはなかった……。はずだった。
林間学校でサイヤ人に誘拐されそうになり、絶体絶命のピンチを迎えていた五月だったが、自分の危険を顧みずに助けに来てくれた悟飯を見て、自分の中に存在する恋愛感情に気づいた。そこからは想いを抑え切ることができず、本人の目の前で爆発させてしまったこともあった。それが悟飯が五つ子を恋愛対象として見るようになるきっかけとなったので、地味にとんでもないことをしているムッツリ系ヒロイン。大食い、真面目という観点からも悟飯とは気が合う。
 先述の通り悟飯に対して恋愛感情を持ち合わせている。先述した二乃、三玖に比べて一番危ない獣扱いをされており、二乃と三玖が(悟飯に頼まれたわけではないけど勝手に)悟飯の貞操を守ろうと必死になってるのはまた別のお話。ちなみに余談だが、ある世界では悟飯が五月にパックリ食われてたりする(意味深)。



第96話 学園祭

マルオの一言を聞いた悟飯は、一瞬頭が真っ白になってしまった。

 

悟飯「………えっ?父親って……」

 

マルオ「おや?僕と娘達が実の親子関係ではないことを伝え損ねていたかな?」

 

悟飯「いえ、それは五月さんから以前聞きましたけど………。確か、零奈さんのお腹の中にいる子が五つ子だと判明した瞬間に行方をくらましたと……」

 

下田「……それ、五月ちゃんから聞いたのか?」

 

悟飯「えっ?えぇ……」

 

下田「そうか!お前が例の男の子か!!」

 

悟飯「………はい??」

 

下田「五月ちゃんはさ、いっつも君のことを話してたよ!名前は言ってなかったけど間違いなく君だな!うん!!この前聞いたけど、君達同じ屋根の下で一夜を共にしたんだってな!!五月ちゃんは恥ずかしがって教えてくれなかったからこれだけは教えてくれよ!!ヤったのか!!?ヤってないのか!!!?さあ白状しろ!!!」

 

悟飯「なんなんですかあなた!!今は真面目な話をしてるんですよ!!?」

 

下田「すんません………」

 

高校生に怒られるいい年をした大人というなんとも奇妙な構図が生まれた。悟飯の言い方がキツくなってしまったのには理由が2つある。一つは悟飯自身が恥ずかしいから。もう一つは、実の父親のことについて知りたいから、である。

 

マルオ「全く、身の程を弁えろ下田。孫君のその認識で間違いないよ。そして彼は私達の先生でもある」

 

悟飯「えっ……?じゃあ………」

 

勇也「おう。下田もマルオも俺と同じクラスだったからな。たった1年間だけだけどな」

 

悟飯「な、なるほど………」

 

マルオ「……彼、無堂先生のことをもう少し詳しく説明するとしようか……」

 

 

無堂仁之助…。

 

教員界隈では、講師として招かれるほどの腕を持つ天才。無堂に教えられた者はたちまち成績が上がるという都市伝説的な噂までもが流布されているらしい。意欲のある生徒には根気強く教え、全力でサポートする……。それを聞く限りでは聖人君子にも聞こえる。

 

だが、一方で彼は教員界隈ではある種の権力のようなものを有しているようで、裏ではあまりよろしくないことをしているとのことだ。その詳細は不明だが、要するに善人とは呼べない存在であることを、悟飯は理解した。

 

マルオ「……このような感じだ。そして君にはボディガードを頼みたい。君のできる範囲で構わないから、彼と娘達を会わせないようにしてほしい。彼が下田の勤める塾で講師として来ているのは恐らく偶然ではない。娘達に何かしらアクションを起こそうとしているのだろう…………」

 

悟飯「………分かりました。僕にできることなら……」

 

下田「…………そうなると、まずは五月ちゃんにどう説明するかだな……」

 

悟飯「……そうか。あなたが五月さんが行っている塾の………」

 

下田「そういうことだ。塾では五月ちゃんに勉強をさせたり、教えさせたりしてるもんだ」

 

悟飯「………では、塾の中ではあなたが一番信用されている……ということですよね?」

 

下田「あ、ああ……。そうだけど…」

 

悟飯「………なら、こういうのはどうでしょうか?」

 

悟飯が出した案…。それは、簡単に言うと特別講義が中止になってしまったと嘘の情報を五月に伝えることだ。だが悟飯だけだと塾に確認を取られてはアウト。そこで下田の出番だ。塾関係者の下田から中止の旨を伝えられれば、五月も信用するだろうという考えだった。

 

勇也「悟飯君、結構悪いこと考えるじゃねえか?」

 

悟飯「あ、あはは………」

 

下田「五月ちゃんにはちょっと申し訳ないが、そうした方が良さそうだな…。にしても流石全国模試1位。頭がよくキレるじゃねえか」

 

悟飯「ど、どうも………」

 

五月の件に関してはとりあえず対策を検討できたので、次は全体的な話に移る……。

 

勇也「だが、四葉ちゃん達が五つ子ってのは高校ではよく噂になってるぜ?その噂を嗅ぎつけてやってくるかもな…………」

 

悟飯「……となると、一般人でも気軽に入れる学園祭が狙い目かも……」

 

マルオ「ほう……。この短時間でその結論に至るとは流石だよ。日の出祭の時には上杉にも協力を依頼している。僕と下田も時間さえ作れればそちらに向かうつもりだ。ただ一番娘達の近くにいることができるのは君だろう。もしもの時は、任せたよ?」

 

悟飯「はい!!」

 

勇也「………そういや、今日は随分おしゃれしてないか、悟飯君?」

 

悟飯「えっ?ま、まあ……。今日は三玖さんと出かける予定なので………」

 

下田「何!?三玖ちゃんて五月ちゃんの姉だよな!!?まさかデートか!?付き合ってるのか!!!?」

 

悟飯「違いますよ。ただ三玖さんが話し合いたいことがあるそうなので……」

 

マルオ「……孫君。くれぐれも娘達とは節度ある付き合いを頼むよ?」

 

悟飯「もちろんですよ。彼女達に襲われないように気をつけます」

 

悟飯は最後だけ小声で返事すると、院長室を後にした。

 

勇也「さて、俺達はもうちょっと話し合うとするか………」

 

下田「だな。できれば五月ちゃん達と接触させたくねえけど…………」

 

マルオ「………ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うひゃ〜…!!マルオさん達と話をしていたら大分遅れちゃったぁ…!!三玖さん怒ってるぞ〜……!!!

 

三玖「………悟飯、遅い」

 

悟飯「ご、ごめん三玖さん!!!急にマルオさんに呼び出されちゃって……」

 

三玖「………お父さんに何か言われた?もしかして、私達との距離感のこと?」

 

悟飯「いや、そういうのじゃないよ。ほら、魔人ブウの一件があったでしょ?その給料のことで話があるって言って…………」

 

三玖「ああ、そういう」

 

今日は別件だけど、先日この話をしたのは本当だ。ただ、三玖さんには今日のことを伝えるべきか否か迷っている。三玖さんとしては、自分達と母親を見捨てた実父のことを思い出したくないのではないだろうか……?不用意に伝えることはないかな………。

 

悟飯「それじゃ、行こうか。待たせちゃったお詫びに今日は奢るよ」

 

三玖「えっ?悪いよ。私から誘ったのに」

 

悟飯「遅れちゃったお詫びだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三玖「来週はもう学園祭…。3日間楽しみだね」

 

悟飯「そうだね。ただ、それまでにクラスの二分状態をどうにかできるといいんだけどね…………」

 

悟飯と三玖は、彼女の提案によって水族館に来ていた。三玖は悟飯に伝えたいことがあるのだが、悟飯は純粋に出かけを楽しんでいた。

 

三玖「悟飯もパンケーキ食べに来てよ」

 

悟飯「うん。そうするつもりだよ」

 

その後、彼女達は特に学校の話をふることはなく、チンアナゴやシャチ、熱帯魚など、普段見ることのないような生き物を見て楽しんでいた。

 

三玖「……(悟飯楽しそう。今日来た時は少し元気のない顔をしてたけど、よかった…………)」

 

三玖は以前の勤労感謝デートのことを思い出していた。デートの終わり際に、彼はこう言っていた。

 

『こうやってさ、のんびり食べて、のんびり映画を見て、のんびり買い物をしてるとさ、今日も平和なんだなぁって、実感できるからさ……』

 

『それと同時に、僕はこんな平和な世界を守りたい…。そう思えてくるんだ……』

 

 

この当時、三玖は悟飯が言っていることがいまいち理解できていなかったが、今なら悟飯の言いたいことがよく分かった。彼は戦いを好んでおらず、平和な世界を望んでいる。そんな平和な世界を守るために、力をつけて苦労してきたのだろう……。そんな彼が、こうして普通の人と同じことをして楽しんでいる。それが分かるだけでも三玖の心は何か満たされるようなものを感じた。

 

だが、三玖は彼に伝えるべきことがある。楽しんでいる彼を邪魔するのは気が引けてしまうが、どうしても伝えたいことがあった。

 

三玖「………私、学園祭前に悟飯に言いたいことがあるんだ」

 

悟飯「…そうだ。僕も三玖さんに伝えることがあったんだよ」

 

三玖「……それ、先に聞いてもいい?」

 

悟飯の言葉に若干三玖は期待してしまう。返事は学園祭までにと彼は言っていた。だが、学園祭の前に返事しないとは言っていない。もしかすると自分を選んでくれるのか……?そんな淡い期待をしてしまう。

 

悟飯「大学の入試判定がAだったんだね!本当に凄いよ君は!!最初は落ちこぼれだったのかもしれないけど、こうしてのし上がれたじゃん!!ほらね!諦めずに努力して良かったでしょ!!」

 

三玖「そうだね…。これも悟飯とフータローのお陰……」

 

悟飯「あっ、話を遮っちゃってごめん。三玖さんは何を………」

 

三玖「あっ、見て?ペンギンがいるよ?」

 

悟飯「あ、あれ?待ってよ!」

 

今度は三玖の話を聞こうとした悟飯だったが、三玖は足早にペンギンコーナーに向かってしまったので、早歩きで彼女の後を追った。

 

 

 

 

『そしてこっちがアンちゃん。そこ後ろにいるのがサンちゃんです!さて皆さんに問題です!この子の名前はなんだったでしょうか?』

 

三玖と悟飯が来たところは、ペンギンショーが開催されているところだった。5羽のペンギンの顔はそっくりで見分けなどつきそうにもなかったが、三玖は当てたそうにしていた。自分達も五つ子でよく間違われることがあるので、共感するものがあったのかもしれない。

 

「似てるのも当然で、この5羽のペンギンちゃんは姉妹なんです!」

 

 

悟飯「……こうして見てみると、まるで三玖さん達みたいだね。丁度5羽だし」

 

三玖「確かに。そう言われると、あれ二乃っぽい」

 

三玖は先頭を歩いている気の強そうなペンギンを指差しながらそう言った。

 

悟飯「……じゃあ、あれが三玖さんかな?」

 

悟飯は後ろでゆっくりして歩いているペンギンを指差しながらそう言ったが、そのペンギンは途中で転んでしまった。

 

三玖「………悟飯」

 

三玖は悟飯が意地悪してきたものだと思って、頬を膨らませて抗議の視線を送る。

 

悟飯「ご、ごめん。そんなつもりじゃなかったんだけど…………」

 

そんなことがありながらも、三玖は悟飯に話しかけづらい状況であった。別に会話すること自体は何も問題はないのだが、三玖が悟飯に伝えようとしていたことがある。それは三玖は大学ではなく調理学校に通いたいと伝えるだけ。それだけなのだが、三玖は気まずさを感じていた。

 

「あはは、1羽だけ跳べてないよあの子」

 

そんな三玖を体現するかのようなペンギンが目の前にいた。他のペンギンは既に水中で泳いでいるのに、1羽だけ未だに飛び込まずにその場にいた。

 

三玖「……(ひとまず大学に行ってからでも遅くないかも…。あの時、二乃が言っていたことに少し憧れた。私も、もしかしたら悟飯と同じ大学に行けるかもしれない………)」

 

確かに、一度大学に行った後に専門学校に行っても問題はない。資金さえあればそれも可能だ。

 

三玖「………私、料理の勉強をしたい」

 

だが、三玖は自分の考えを悟飯に伝えることにした。その直前にペンギンが水中に飛び込んだ。まるで決意をした三玖と連動しているように動いていた。

 

三玖「だから大学には行けない。ごめんね、悟飯…………」

 

悟飯「料理の専門学校か………。なんで謝るの?三玖さんがそうしたいのならそうすればいいじゃん」

 

悟飯はなんてことないといった様子で答えた。少しは反対されるかと思っていた三玖はポカンとする。

 

悟飯「勉強はあくまで可能性を広げるためにするものだからね。沢山勉強したからといって大学に行かなきゃいけないわけじゃないし、三玖さんの意思で決めたものなら、僕は応援するよ」

 

三玖「……うん。大学に行くのも間違いじゃないと思う。何が正解かは分からない…。でも、もう自分の夢に進みたくて仕方ないんだ。

今日はそれを伝えたかったんだ。悟飯は私にとって特別な人だから……」

 

悟飯「………!!それって……」

 

三玖「勿論、変な意味で」

 

三玖はまたしても意地悪な顔をしてそう言った。悟飯は少し顔を赤くしながらも、その言葉を真剣に受け止めた。

 

三玖「私は伝えたよ。次は悟飯の番だよね?………待ってるから」

 

今の言葉の意味……。それは恐らく学園祭のことだろう。三玖は随分前に悟飯に告白をした。その返事を待っているという意味に違いない。そもそも悟飯自身が学園祭までには返事をすると言ったのだ。三玖がああ言ったのもすぐに納得できた。

 

 

 

 

 

風太郎「………何故お前がうちにいる」

 

一方でその日の夜。何故か五月が上杉家にいた。

 

上杉母「風太郎!そういうこと言わないの!」

 

ゴンっとらいはと共にカレーを作っていた母親が風太郎の頭をおたまで軽く叩いた。

 

五月「お父様、お母様、お邪魔しています」

 

風太郎「邪魔すんな。帰れ」

 

無愛想にそう言うと今度はらいはに同じようにおたま攻撃を浴びせられた。

 

風太郎「……本当に何しにきたんだよ。つーか、お前俺の家知ってたっけ?」

 

五月「四葉に住所を聞きました。………こちらです。四葉が上杉君に渡した覚えがないというので………」

 

五月がバックから取り出したものは手紙……。中身は旭高校学園祭……日の出祭の招待状だった。

 

五月「中には出し物の無料券や割引券が入ってて便利ですよ」

 

勇也「おい、こりゃあ助かるじゃねえか!ありがとよ五月ちゃん!」

 

らいは「お兄ちゃんなんでこんな大切なものを忘れてたの?五月さんにお礼言って!」

 

風太郎「あ、あり……」

 

珍しく風太郎が素直にお礼を言いそうになったが、勇也の言葉によってそれは遮られた。

 

勇也「学祭は俺達も楽しみにしてるからよ。ところで五月ちゃん。何もなかったか?」

 

五月「………?」

 

勇也「………いや、ないならいいさ」

 

上杉母「風太郎!外はもう暗いから女の子1人じゃ心配よ。送ってあげなさい」

 

らいは「はーい!カレーできましたよ〜」

 

五月「こ、これが噂のらいはちゃんカレーですか…!!いただきます!!」

 

ちゃっかり四葉からの評判を聞いたらいは特性カレーライスを堪能した五月は、風太郎に送ってもらっていた。

 

風太郎「お前、そんなことしてていいのか?判定聞いたぞ?」

 

五月「うっ………」

 

嫌な記憶を掘り起こされた五月は顔を若干青くする。

 

五月「だ、だからって希望校を諦めたりしません!学園祭返上の覚悟で頑張ります!!」

 

風太郎「頼むぞ………。入ってもらわなきゃ困る。これで落ちたら俺のやってきたことが無駄になっちまうからな」

 

五月「…………それは違いますよ」

 

風太郎が若干ネガティブな思考になったところで、五月がそれを否定する。

 

五月「女優を目指した一花…。調理師を目指した三玖との時間は無駄だったのでしょうか?」

 

風太郎「………そうは思いたくないな」

 

五月「……私達の関係は既に家庭教師と生徒という枠だけでは語ることができません。そう思っているのはきっとみんなも同じはずです……」

 

彼らは多くの時間を共有している。共に花火大会や林間学校に行ったり、家出騒動を協力して解決したり、偶然とはいえ一緒に旅行したり……。

 

さらには、脅威を打ち倒すために共に戦ったのだ。これでもただの家庭教師と生徒という関係だと言い張る者がいるのだろうか……?

 

五月「上杉君。たとえこの先どんな失敗が待ち受けていたとしても、この学校に来なかったら、あなたと出会わなければなんて後悔することはないでしょう…………」

 

風太郎「……(この関係は無意味じゃなかった……か。次は俺の番だな……)」

 

この時、風太郎は何かを決意したようだが、それは本人以外は知る由もない……。

 

 

 

 

 

 

 

そして、時は来た。

 

第29回、旭高校「日の出祭」の開幕だ。放送委員の放送によって開会式が開かれる……。

 

これは、悟飯がもうすぐ彼女達(三人)に返事をする時が迫っていることを意味していた。彼は彼女達と多くの時間を共有した。彼は彼女達に振り回されたこともあったし、彼女達から学んだこともあったし、肩を並べて共に戦ったこともあった。

 

だが、いつまでもこのままの関係を維持するわけにはいかない。悟飯は以前に彼女達に返事をすると宣言した。その約束を不意にするわけにはいかないし、悟飯自身がそれを良しとはしない。

 

それに………。孫悟飯の返事は既に決まっていた。一時期は誰も選ばないという選択をした方がいいかもしれないと考えた。だがそれではいけないと思ったし、今まで相談してきた人たちの意見を参考にし、悟飯自身の感情に素直になってみることにした。

 

そうした結果、彼が導き出した答えが、満を辞して彼女達に公開されることとなるのだ………。

 

 

 

 

 

 

『いよいよ始まります!旭高校「日の出祭」!まずは我が校が誇る女子ユニットによるオープニングアクトです!』

 

体育館の暗幕が開かれ、舞台が観客に見えるようになると、そこにはオープニングアクトを担当する女子ユニットがいた。そのメンバーには、中野二乃も含まれていた。

 

二乃「ラブ☆バケーション!恋に休み、なんてものないのよ〜♪2人だけの、特別な〜♪

 

どうやら歌は二乃が担当するようだ。悟飯、三玖、五月の3人は観客席から二乃の勇姿を見届けていたが、彼女の美声に思わず魅力されてしまった。

 

最初は乗り気ではなかった彼女だったが、笑顔でキレのいいダンスも披露している。彼女の見せ場は数分と短い時間ではあったが、容姿も相まって圧倒的なインパクトを残し、開会式が終了した。

 

 

 

 

 

 

悟飯「………おや?」

 

ふと携帯電話を確認した悟飯は、風太郎からメールが届いていることを確認した。

 

『学園祭初日15時に教室に来てくれ』

 

文面はそれだけだった。しかしわざわざ呼び出すくらいだから、余程重要なことなのだろうと悟飯は1人でに納得した。

 

三玖はパンケーキ屋のシェフを担当。毎日失敗し続けても諦めずに練習し続けた成果が実り、本番には綺麗なパンケーキを焼けるようになっていた。完成したパンケーキを見た女子達からは絶賛の嵐だった。だが、三玖は15時までに教室に行けるかどうか、それだけ心配をしていた。

 

 

四葉は学級委員の仕事として、屋台のチェックを行なっていた。食を扱う屋台の場合は、鮮度や衛生面に異常がないかや、火災の危険性がないかなどの検査を行う。

 

四葉「うまっ!このたこ焼き美味しいですね!」

 

「学級長のお墨付きだ!特訓した甲斐があったな!」

 

四葉「あっ、食材の鮮度には問題ないんですけど、この本の紙片は危ないので片付けて下さいね〜!」

 

四葉は15時までに間に合わせるように駆け足で次の屋台の点検に回る。後ろにいる二乃に気づかずにその場を去ってしまった。二乃はなんとしても四葉に声をかけたかったのだ。その理由が…。

 

「オープニングのダンスめっちゃ可愛かったです!」

 

「私、ファンになっちゃった!」

 

「良かったらうちのアメリカンドッグ食べて下さい!!」

 

二乃「……ど、どーも」

 

………と、オープニングセレモニーの影響で二乃の人気が急上昇してしまったのだ。このままでは知らないうちにファンクラブもできてしまいそうな程の勢いだ。

 

 

 

そんなファンから逃れるようにして辿り着いた食堂で五月を見かける。二乃はそんな時に何をしてるんだと聞くが、多分先日の模試の件だろうかと納得する。五月は学園祭という雰囲気に似合わず勉強をしていた。しかし15時までにはしっかり終わらせるとのことだ。

 

 

そして、風太郎も学級長としての仕事に追われていた。肉体的な作業が多く既に息切れ状態だった。

 

ガスボンベの替えを運んだり、迷子の子のために親を探したり、同級生の喧嘩を止めたり初老の男性の道案内をしたりと大忙しだった。

 

風太郎「もう……限界……………」

 

 

 

 

15時過ぎに三玖が駆け足で教室に入ってきた。

 

四葉「三玖!おっつー!」

 

二乃「遅い、遅刻よ」

 

悟飯「三玖さんおつかれ。屋台は大繁盛だったからね」

 

五月「私達だって時間を過ぎてましたよ、二乃」

 

風太郎「………いや、まだ1人いないぜ」

 

ガラッ

一花「やっほー」

 

そして最後の1人……。一花が入室したことで7人全員が揃った。

 

四葉「来てたんだ!」

 

二乃「なんで連絡寄越さないのよ」

 

三玖「よく騒ぎにならなかったね」

 

一花「あはは…。なんとかね〜」

 

風太郎「………これで全員集合だな」

 

五月「上杉君、何故呼び出したのですか?」

 

二乃「わざわざ学園祭中に呼び出さなくてもいいのに」

 

四葉「でも、やっぱこの感じが落ち着くよね!」

 

三玖「確かにそうだね」

 

一花「せっかくだし食べよっか」

 

四葉「屋台で沢山買ってきたんだ〜!!」

 

五月「私!ずっと我慢してました…!!」

 

一花「あーあー……」

 

 

姉妹同士ではしゃぐ5人を見て、どこか嬉しそうな風太郎だ。悟飯も仲のいい姉妹を微笑みながら眺めていた。そんな時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

風太郎「俺はお前達六人が好きだ

 

………彼が唐突にそう切り出した。

 

二乃「ブフっ!!?」

 

三玖「……!!!?」

 

五月「ど、どういう意味ですか!!?」

 

四葉「えっ?あの……!?」

 

一花「………いきなり来たね」

 

悟飯「…………(なるほどね)」

 

唐突の風太郎の告白に顔を赤くする者、固まる者、驚いて吹き出す者、照れる者など反応はさまざまだった。だが風太郎はそんな彼女達に気遣うことなく続ける。

 

風太郎「この7人でずっと、このままの関係でいられたらと願っている。だが、答えを出さなければならないといけないと思う………」

 

一花「……フータロー君。いいよ」

 

一花は風太郎の言う答えが、何に対しての答えなのかを察したようだ。そして回答を促す。それを聞いた風太郎は息を深く吸って………。

 

 

風太郎「とはいえ、こんな祭りの最中に言うほど俺も野暮じゃない。俺も俺で整理しきれてないからな。最終日まで時間をくれ」

 

二乃「な、何よそれ…………」

 

三玖「フータローらしい………」

 

四葉「あはは…。急に真面目な話だから緊張しちゃったね」

 

 

 

 

 

 

 

悟飯「僕も君達六人が大好きだよ

 

気の緩んだ一同に悟飯が追撃を入れた。……一見そのように思える一言だが、悟飯は既に事前に伝えていた。

 

悟飯「僕も風太郎と意見は殆ど同じだよ。でも、いい加減答えを出す必要があるし、僕の中では既に整理できているんだ。僕の気持ちも理解できた。だから断言するよ。僕はこの中で、友人としてじゃなくて、()()()()()()()()()がいる」

 

三玖「………それ、今聞いてもいい?」

 

二乃「………」

 

五月「……ぜひ、聞かせていただけませんか?」

 

悟飯のこの言葉を聞き、三人は一気に真剣な顔になった。だが、悟飯は手を前に出してこう言う。

 

悟飯「でも、まだ言わない。学園祭前に返事をすること自体は僕も構わないんだけど、それが原因で学園祭に悪影響を出したくないからね…。だから、この学園祭の後夜祭に僕の気持ちを伝える。それまでは待っててほしい。後少しの辛抱でいいんだ………」

 

悟飯の言いたいことを簡単に言うと、振られた者は一時的とはいえ心が傷付いてしまうだろう。それによって学園祭の仕事に手がつかなくなる可能性があるのだ。悟飯としてはそれはなんとか避けたかった。折角の学園祭だから目一杯楽しんでほしいという願望も込めてのことだった。

 

二乃「なんだか拍子抜け……」

 

三玖「でも、悟飯の言うことも一理ある」

 

五月「……そうですね。私としてはお返事が気になってしまいますが、確実に答えを出してくれるのなら待ちます」

 

悟飯「ありがとね……」

 

こうして、引き締まった話題は終了してみんなで乾杯する。姉妹達はわいわいと談笑しながら屋台の食べ物を味わっていた。その隙を見計らって悟飯は風太郎を端っこに呼び出した。

 

悟飯「どうしたの風太郎…?まさか君も………」

 

風太郎「……ああ。しかし、まさかお前も同じタイミングで答えを出すとは思いもしなかったけどな」

 

悟飯「僕は彼女達には一応伝えておいたんだ。念の為にもう一度伝えただけ。そして、僕なりに整理できたことを伝えたかったんだ」

 

風太郎「……お前は、さっき異性として好きなやつが一人いるって言ってたよな?それ、誰なんだ?」

 

悟飯「おや?興味ある?」

 

風太郎「………まあな。お前の決断次第で姉妹の関係性が変わる可能性もあるんだ………そりゃな」

 

悟飯「………きっと風太郎は誰か一人を選んだことによって姉妹の絆に傷がつくことを恐れてるんでしょ?」

 

風太郎「………流石だな。なんでもお見通しだな」

 

悟飯「そりゃあ親友だからね…。でも君のその心配は無用だよ。彼女達はそんなことで仲違いしたりはしないさ。……もしかしてだけど、風太郎は誰も選ばない………そうしようとしてる?」

 

風太郎「………さっき言っただろ?俺はこのままの関係を大切にしたい。今の関係を壊すのが怖いんだ……」

 

悟飯「………確かに、一人を選ぶことによって姉妹の関係性は変わっちゃうかもしれない。けどね、誰も選ばなかったらそれはそれで傷つけることになるんだよ。難しいことは考えず、自分の気持ちに素直になってみなよ。そうすれば、案外早く整理ができるかもしれないよ?」

 

風太郎「はは……。お前はいいよな。既に自分の中で決着がついていて」

 

悟飯「長期間悩みに悩んだからね。色々な人にも相談したよ。今まで解いてきた中でも最難関の問題だったからね」

 

風太郎「はは…。そりゃ言えてるぜ」

 

悟飯「それじゃ、風太郎の答え、楽しみにしてるからね」

 

風太郎「見せ物じゃねえぞ?」

 

 

……この後、僕たちは知ることになる。学園祭初日は、無事に終わりなんてしなかったことを…………。

 




 学園祭始まってしまいましたねぇ。ちなみに現段階ではバトルを入れるかは未定です()。学園祭の後に入れるか最中に入れるかだったら、恐らく学園祭後……になると思う。最初から最後までノープランな私を許してくだせぇ……。でも悟飯の花嫁だけはノープランじゃないんですよねぇこれが。

 先に言っておくと、零奈は学園祭中はほぼ出てきません。その理由としては本編中に語る隙があるかどうか分からないので今のうちに言っておくと、所謂定期検診と被ってしまうからです。零奈の身は人造人間であり、今でも定期的に検診している状況です。とはいえ担当医にあたる人はブルマなので、融通を利かせてもらえるのでは?と思う方もいるだろうが、ご存知の通りブルマは社長なのでなかなかスケジュールを変えることはできません。かなり頑張って最終日だけでも来れるようにしてますが、諸事情により殆ど描写されないと思います。最終日だけ来るというのが結構重要。

 さて、今話の前書きは現在の五つ子の悟飯に対する心情を書き記してみました。次回は風太郎に対する心情を書き記す予定です。

 ちなみに、学園祭も原作や映画のように○○の場合って感じで分けると思います。ただ執筆していくうちに一花と四葉だけ原作まんまだったので、そちらはカットさせていただきます。

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