孫悟飯は五つ子姉妹の家庭教師をするそうです【本編完結】 作:Miurand
孫悟飯の1年生時代
この世界では高校1年生の春から高校に通っている。わざわざ日本の高校に通っている理由として、特待生制度や補助金制度が充実しているからだそうだが、詳細は不明。通いたての頃の悟飯は世間知らずかつ力加減がよく分かっていなかった為、体育の野球で盛大にやらかしてたりする。
本編開始時には既に風太郎と仲良くなっていたが、初めから仲が良かったわけではない。色々あって現在まで至るのだが、その詳細は別で語ることにする。
『これより、朝日高校学園祭、後夜祭。全てのスケジュールを終了とします』
時は日の出祭初日……。それよりも前のある日にまで遡る。
悟飯「どうも下田さん」
下田「おっ?なんだ孫君じゃないか。どうしてここに?」
悟飯「今日はあの人が来る日なんでしょう?僕だけ実際に会ったことないので、一度見ておこうかと………」
下田「……お嬢ちゃん……五月ちゃんは大丈夫なんだよな?」
悟飯「ええ…。上手く彼女を説得できましたよ。あまりいい反応ではありませんでしたけど……」
説得には成功したものの、有名講師による講義が中止されたということで、五月はとても残念がっていたとか…。
下田「……ぶっちゃけ授業を受けただけじゃあいつの本性なんて見えてこないと思うけどな……」
そんな下田の本音が吐露される。悟飯は無堂のことは五月やマルオから聞かされたとはいえ、実際に会ってないからまだ判別ができない状態なのだ。だからこそ今日会っておこうと思ったのだ。
下田「………まあ、お嬢ちゃんとの接触さえ避けられれば何も問題はない。好きなだけ見ていくといいさ」
悟飯「ありがとうございます」
悟飯は下田に一礼して塾の中に入ろうとしたその時だった………。
下田「うおっ!?お、お嬢ちゃん!?来てたのか!?」
五月「おはようございます下田さん。講義は中止になってしまいましたが、勉強はした方がいいかと思いまして」
なんと想定外のアクシデント。五月は講義に受けられなくとも勉強をしに塾に来てしまった。これは悟飯や下田も想定外だった。
五月「……あれ?特別講義あるじゃないですか?念の為来てよかったです!自習だけではどうも不安だったので、是非受けたかったんですよ!!」
悟飯「い、五月さん!!今日は僕の家で勉強しようか!!そうしよう!!」
五月「えっ!?孫君の家で…!?た、大変魅力的な話ではありますが……」
下田「おーお!いいじゃねえお嬢ちゃん!!そのままヤってこい!!」
五月「下田さんは何を言ってるのですか!!?」
悟飯は緊急対応策として、自分自身を利用することにした。度々家に来たがる五月なら釣れると思ったが、意外と五月の意思は固かった。下田もなんとなく察して悟飯の後押しをするが……。
五月「……やっぱり今日はこちらの授業を受けることにします。目指す夢の為に今はできることをしたいと思います!!」
五月の真っ直ぐな姿勢に悟飯は罪悪感を感じつつも、元父親との接触を避ける為に下田となんとか策を練ろうとする。しかしそれも無意味に終わってしまった。
「素晴らしい!こんな暗い世の中では夢を持てるというだけでも一瞬の才能だ!!」
そんな熱い言葉をかけてきたのは……。
下田「………こちらが今回の特別講師、無堂仁之助先生だ」
五月「よ、よろしくお願いします!」
もう対面してしまったので、下田は諦めて無堂をあくまで"講師"として紹介することにした。
無堂「才気溢れる若者よ。私は君にエールを送るよ」
悟飯「……………」
こうして、五月との約束通り特別講義を共に受けることにした。五月は悟飯の隣に当然のように座っているが、視線は無堂に集中していた。雑念を吹き飛ばして熱心に勉強しているところを見ると、どうやら本当にこの授業を受けたかったようだ。
悟飯も無堂の講義を聞きながら彼を観察していた。五月達の実父はどんな人間なのか?何故子や妻を見捨てたのか?そんなことを考えながら無堂を観察していたが、その日の講義で見る彼は特に悪い人間には見えなかった。寧ろやる気さえあればできてもできなくても手厚くサポートする。そんな印象だった。それにとても分かりやすい授業だった。これなら確かに教師としての評判が良くなるのは頷ける。
五月「本日はありがとうございました、無堂先生!!」
無堂「こちらこそ礼を言わせてくれ。君のようにやる気のある子ばかりならいいんだけどね………」
五月は授業が終わった後も無堂に質問していた。その質問に対してイヤな顔一つせずに丁寧に答えていく姿を見ると、本当に妻や子供を見捨てるような人なのだろうかと疑ってしまうほどだった。
五月「素晴らしい授業でしたね、孫君!!」
悟飯「そうだね……」
質問が終了したので、満足気に五月が帰宅している。悟飯は念の為彼女の自宅まで付いて行くことにした。
詳細を話すと、あの後無堂が五月と個人的な接触を望むようなことは一切なかった。聞いた話では生まれる前にいなくなったそうなので、彼も子供の顔が分からないのかもしれない。とはいえ、もうすぐ受験を控える彼女には余計なストレスをかけたくないので、念の為護衛することにしている。
五月「わざわざ家の前までありがとうございました。また明日お会いしましょう」
悟飯「うん。気をつけてね?」
五月「ここはもうエントランスですけどね…。でも孫君に心配されるのは悪い気はしませんね♪」
ご機嫌になった五月がエントランスに入って行く様子を笑顔で見送った悟飯は、学園祭当日は一応警戒しようと考えながら帰宅するのだった……。
そして特に何事もなく…。ということはなく、たこ焼き派とパンケーキ派の溝は深まっていたが、それ以外は特に何事も起こらなかった。そのまま日の出祭初日を迎える……。
風太郎「はっ?学園祭中も一人で自習してるのか、お前…?勉強ばかりで大丈夫か?友達いる?学校つまんねえなら相談に乗るぞ?」
五月「あなたにだけは言われたくなかった言葉です……」
寧ろ去年の風太郎なら『1秒も時間を無駄にできん』と言って勉強していただろう。なんなら学園祭に来ている五月はまだマシな方で、去年の風太郎ならそもそも学校にすら来ていないだろう。
風太郎「……俺ですらこの場の雰囲気に少しワクワクしちまってるのに…。だが不可解だな。これだけやってりゃあ、いくらお前ほどの馬鹿でも何かしらの成果が出ても不思議じゃないんだがな……」
五月「想像を絶するほどの馬鹿で悪かったですね!……約束は15時でしたよね?それまでには用意した問題集を全て終わらせます!!それまで教室にはいきません!!」
それから、五月は適度に水分補給しつつもずっと勉強を続けていた。先日返却された模試の結果……というより、志望校判定があまりいい結果と呼べるものではなかったからだろう。
悟飯「五月さん、随分頑張ってるね」
五月「そ、孫君…!!お仕事の方はいいんですか?」
悟飯「うん。働きすぎだから少しは羽を伸ばせってクラスの人が気を使ってくれたんだ。これ食べる?上杉君に聞いたよ。ずっと頑張ってるんでしょ?」
五月「ありがとうございます。でもお気持ちだけで十分です」
悟飯「でももうお昼だよ?何か食べないと回る頭も回らなくなっちゃうし…」
五月「ううぅ……。で、ですが………」
「じゃーん!たこ焼き!」
「おお!結構本格的じゃん!」
周りも屋台の食べ物を楽しんでいる為、五月の食欲が刺激されるも、強い意志で断ったが……。
悟飯「……しょうがない。これならどうかな?」
五月「………(えっ?)」
悟飯はたこ焼きを爪楊枝で刺し、五月の方に差し出す。
悟飯「ほら、口を開けて」
五月「(これは、俗に言うアーンでは!!?こんなビッグチャンス見逃すわけにはいきません!!)」
と、五月の強い意志は悟飯の意外な行動によって崩された。
五月「お、美味しいです…!」
悟飯「それは良かった。まだまだあるから沢山食べてもいいよ?」
五月「………」
悟飯「……ん?どうしたの?」
箱ごとたこ焼きを渡した悟飯を上目遣いで見る五月を見て、一体何を求めているのかと疑問に思う悟飯は取り敢えず聞くと……。
五月「……もっと食べさせてください」
悟飯「………!!!」
五月のその言葉に今更ながら自分が何をしたのか気づいてしまった。五月が頑なに食べないものなので、食べさせてあげようという親切心から出た行動だったが、冷静に考えれば所謂「あーん」をしたわけである。
「いや〜、初々しいねぇ…。これぞ学園祭という感じだね。数十年前の記憶が蘇ってくるよ」
五月「ふぇ!!?む、無堂先生!?」
なんかいい雰囲気になったところで、先日の講師であり、五月の実父でもある無堂が姿を現した。
悟飯「………」
先程まで柔らかかった悟飯の表情が一気に引き締まった。
無堂「確か君は、先日の講義に来てくれた五月ちゃん……だよね?」
五月「その節はお世話になりました、無堂先生」
無堂「そういえば君も来てたよね?確か全国模試一位の孫悟飯君」
悟飯「……!!何故そのことを……?」
無堂「まあまあ、細かいことは気にしないで。ところで、五月ちゃんはこんな時に勉強かい?」
五月「えっと、まあ………」
無堂「なんとストイックな!素晴らしい向上心だ!!授業に参加する生徒がみんな五月ちゃんみたいな心持ちなら僕も楽なのに…。僕はね、昔教師をしていた時から……」
悟飯は無堂に警戒しながらも様子見をしていた。だが今のところは特に何の変哲もない話だった。無堂が自分の経験談を話そうとすると、五月も教師を目指していることを聞いたと言う。
無堂「どうして教師を目指すんだい?」
五月「……正直に言うと、今まで苦手な勉強を避けてきました。ですが夢を見つけ、目標を定めてから学ぶことが楽しくなったんです。そんな風に私も誰かの支えになりたい……。それが私の………」
無堂「素晴らしい!なんて素敵で清らかな想いだろう!!」
五月は全て言い切る前に無堂が賞賛の言葉を贈る。その様子に悟飯は調子が狂いそうになるが、引き続き警戒することにする。
五月「…少しだけ報われた気がします。本当に私の夢は正しいのか……。今になってもそんなことばかり考えてしまって机に向かっても集中できず……。実は母が言っていた言葉があるんです。……あっ、母も学校の先生でして…」
無堂「知ってるよ」
悟飯「……!!」
五月「………えっ?」
無堂「僕は彼女の担任教師だったんだ。君は若い頃のお母さんにそっくりだよ」
五月「そっくり……?」
無堂「ああ、歪な程にね」
やはり五月の正体に気づいているようだ。それを察知した悟飯は今すぐにでも会話を止める準備をする。
無堂「君がお母さんの影を追っているだけならお勧めしない。歪んだ愛執は自分自身を破滅へと導くだろう。まるで呪いみたいにね………」
五月「………!!」
悟飯「あの………」
堪忍袋の尾が切れそうになった悟飯は我慢できずにその話に割って入った。
無堂「なんだい?」
悟飯「……いくらなんでもその言い方はあんまりじゃありませんか?」
無堂「そんなことはないよ。現に五月ちゃん自身が夢に追いついていない。自分の意思で目指していると無意識に思い込んでいる。だから呪いなんだよ」
悟飯「………なんなんですか、あなた?いきなりこんなことを……。まさかとは思いますけど、それを言いにくる為だけに来たんですか?」
無堂「そんなことはないよ。けど確かにキツい言い方になってしまったかもしれない。それは謝るよ。でもね、五月ちゃんにはお母さんと同じ道を辿ってほしくないんだ。彼女は僕に憧れて似合わぬ教職の道へと進んだんだ。最後までそのことを後悔していたよ…」
どういう意図だか分からないが、これは明らかに五月を妨害している。仮にも父親を名乗りたいのなら、娘の夢を応援してあげるべきだ。多少の忠告はあってもいいと思うが、今のは明らかに五月の夢を否定している。どうやらマルオの言っていたことは正しかったようだと、悟飯は自分の中で結論づける。
五月「すみません。この後約束があるので失礼します」
無堂「五月ちゃん。悩んでいるのならいつでも相談に乗るよ?きっと君にも合った道が見つかるはず…」
悟飯「………ちょっとお話いいですか?」
無堂「……なんだね?」
悟飯「五月さん。先に行ってて」
五月「わ、分かりました」
悟飯は五月をその場から立ち去ることを要求すると、彼女は荷物を整理した後に食堂を後にした。
悟飯「……一体どういうつもりですか?いくらなんでもあんな言い方はないでしょう?」
無堂「ごめんね…。だけどさっきも言った通りだよ。五月ちゃんのお母さんとは同じ道には進んでほしくない。そう思ったから………」
悟飯「随分、五月さんに拘るんですね?何か理由でもあるんですか?」
無堂「いやだなぁ……。せっかく真剣に僕の授業を聞いてくれた生徒をミスミス破滅させるのは心苦しいものがあって………」
悟飯「………いい加減猫を被るのはやめたらどうです?無堂先生……。いや、零奈さんの元夫であり、5人の実父の無堂仁之助さん?」
無堂「………誰から聞いたんだい?」
無堂の質問に悟飯は無言を貫く。
無堂「………何故君が私のことを知っているのかは聞かないでおいてあげるよ。それで……?」
悟飯「……あなたが五月さんにしつこく関わってくるのは、五月さんがあなたにとっての実の娘だから……。そうでしょう?今更何しに帰ってきたんですか?あなたのことは五月さんから聞いてますよ?零奈さんのお腹の中の子が五つ子だと聞いた瞬間に行方をくらませたと………」
無堂「君はなんなんだい?人の家庭に口を挟まないでくれるかい?」
悟飯「10年以上放っておいて自分の家庭扱いしないで下さいよ」
無堂「…………君の言いたいことはよく分かるよ。当時の僕に甲斐性があれば苦労させることなんてなかっただろうね…。それについては本当に申し訳ないし、許されることではないと思っている。だが、もし罪滅ぼしをすることを許してもらえるなら、五月ちゃん達の力になりたいんだ………」
…………話を聞く限りでは、今になって罪悪感を感じてきたというところだろう。だが戻ってくるのが遅すぎた。零奈は奇跡的に生き返ったとはいえ、無堂が逃げなければ、少なくとも零奈が死ぬことはなかっただろう。悟飯はどうしても無堂という人間を信用しきることはできなかった。そもそも何故今なのか?それが疑問で仕方なかった。
悟飯「………では、これだけ聞かせて下さい。何故今なんですか?」
無堂「…ずっと娘達のことを想いながら講師として全国を回っていた。そんな時、一花ちゃんが出演するCMを見たんだ……」
悟飯「………はい?」
無堂の言葉に唖然としてしまった。一見ずっと後悔しているような口振りだが、よく考えてみよう。ずっと娘達のことを想っていた。そして一花のCMを見た………。
ずっと娘達を想っていたことと一花のCMに何の関係があるのか…?いやないはずだ。無意識に出たであろう一花のCMという言葉から、悟飯はある結論を見出した。
悟飯「(この人、一花さんが出演するCMを見て思い出したから来たんだろ……!!?)」
恐らく、一花のCMを見て自分に娘がいることを思い出したんだろう。それで昔の記憶を掘り起こして罪悪感を感じ始めたというところだろう。
悟飯「………なるほど。あなたに娘さん達を会わせるわけには行きません。何を考えてるのかは知りませんけど」
無堂「な、何故だい!?君にそんなことを言う権利などないはずだ!!」
悟飯「ありますよ。僕は彼女達のボディガードとして正式に雇われています。彼女達に悪影響を及ぼすようなら到底見過ごすわけにはいかない。必要ならば証明書も提示しましょうか?」
無堂「なっ………」
悟飯「とにかく、あなたと五月さんをもう2度と会わせるわけにはいきません。学園祭を楽しむのは大いに結構ですけど、娘さん目的なら帰って下さい」
無堂「そ、そんなの理不尽だ!!私は彼女達の!五月ちゃんの父親なのだぞ!!?」
悟飯「知りませんよ。今の父親はマルオさんですよ?法律上はそうなっています。今更あなたが父親を名乗ったところで認められませんよ?それに、あなた、一花さんのCMを見て彼女達の存在を思い出したでしょ?」
無堂「……!!!!」
悟飯「それでは、忠告しましたからね」
悟飯はそれだけ言って食堂を後にした。悟飯はすぐさま背を向けた為、無堂がどんな表情をしているのか見えなかった……。
そして教室に移る。集合時間まで割と余裕があったので、先に行った五月しかいなかった。
悟飯「五月さん。さっきの言葉は気にしなくていいんだからね?君の夢は君自身が決めることなんだから。誰かの意見に流されることはないよ」
五月「………はい」
五月は元気なく返事をした……。
五月を慰めて翌日、学園祭2日目になった。マルオ達には連絡し、五月と無堂が接触してしまったことを伝えた。取り敢えず悟飯は無堂に釘を刺したことを伝えた。勇也は昨日に引き続きパトロールをすることにし、マルオも時間さえあれば必ず行くと言う。下田も同様だった。
悟飯「………」
悟飯はたこ焼き屋台が焼けてしまったため、女子達が担当するパンケーキ屋で裏方作業をしていた。悟飯だけは学級委員でもないのに中立派として扱われているため、特に問題はなかった。
悟飯「…………!」
しかし、彼は作業には集中してなかった。無堂の気は昨日の一件でしっかり記憶しておいた。その為、今五月と無堂が近くにいることを遠くからでも察知できた。
悟飯「ごめん!ちょっとトイレ!」
「ええ!?そ、孫君!?」
悟飯は大急ぎで五月の元に駆けつけた。だが、その時には既に無堂との会話は終わっていたようだった。
無堂「なっ……!き、君は…!!」
何故かおでこから血を流している無堂に、何かショックを受けているようにも見える五月がいた。
悟飯「昨日言いましたよね?娘さん達目的なら帰ってくださいって…」
無堂「君に何を言われようが関係ないだろう?僕と五月ちゃんは親子なんだから」
……どうやら自分が父親であることも明かしてしまったらしい。しかも相手は五月。状況が最悪だった。
悟飯「五月さん。行くよ」
無堂「お、おい!まだ話は終わってないぞ!」
悟飯が五月の手を取ってその場から退散しようとすると、無堂はまだ話したいことがあるようで、五月の肩を掴んで止める。
五月「……!!!!」
すると、五月の体が跳ねた。
シュン‼︎
無堂「……!!?い、いつの間に…!?」
五月が怖がっているのを感じ取った悟飯は、高速移動で無堂の腕を掴むと同時に彼の顔を見る…。
無堂「な、なんだね君は………ヒッ…!!!!」
無堂はその場で尻餅をついてしまった。何故なら悟飯が殺気を放っているからだ……。ここまで殺気を放ったのは魔人ブウと戦う時や、バビディを目の前にした時ぐらいだ。流石にそこまでとはいかないが、その時といい勝負をする程の殺気を放っていた。これには戦士でない無堂も恐怖してしまった。失禁しなかっただけでも強い方だろう。
悟飯「……柔らかい言い方じゃ理解できませんでしたか?だったらもう一度、分かりやすく言いますね?
二度と五月さん達に近づくな……」
悟飯は最早敬語も取り払って再度無堂に警告した。次はないという意味を込めて眼力を放った。
悟飯「……行こう、五月さん」
五月「………は、はい」
今度こそ、悟飯は五月の手を取ってその場を去った。
悟飯「五月さん。あんな人の言うことを間に受けることはないよ。あの人は一花さんのCMを見て初めて君達のことを思い出したと同時に罪悪感を感じ始めたんだと思う。そんな薄情な人は父親なんかじゃない。赤の他人の言葉なんて、無視していいよ」
五月「……そうかもしれませんが、あの人の言うことは一理あると思います」
悟飯「えっ……?」
五月「今日はありがとうございます…。今日はこれで失礼します」
悟飯「あっ、五月さん…!」
小さくなっていく五月の背中を、悟飯はただ眺めることしかできなかった。追うことができなかった……。
その日の夜。悟飯は勇也の携帯電話を介して風太郎と会話していた。
『やっぱりあのおっさんが実父だったのか……。俺はなんてことを………』
悟飯「仕方ないよ。その時点では知らなかったんだし、僕も伝えておくべきだった」
実を言うと、学園祭初日に無堂が食堂に現れたのは、風太郎が道案内をしたからだった。まあ風太郎が道案内をしなくても他の人に道案内をされた可能性もあるので、今更と言ったところだ。
『……五月のことはお前に任せてもいいか?』
悟飯「………うん。こうなったのは僕の責任でもあるからね。僕にやらせてほしい」
『頼んだ。そっちは任せたからな…』
翌日…。悟飯は学園祭に行く前に、五月の家を訪れていた。番号を指定してインターホンを鳴らすが、返事はなかった。
悟飯「………困ったな。やっぱりあの人の言うことを気にしてるんだ…!」
こんな時に零奈は何をしてるんだと思ってる方もいると思うが、彼女は昨日まで泊まり込みでブルマ家で検診をしていた。今日はそのまま学園祭に訪れているといった感じの流れだ。その為、まだ五月が家に篭っていることを察知できていないのだろう。
悟飯「よっ…!」
ドシューンっ!!
エントランスから入ることは諦めて、ベランダから五月のいる部屋に入ることにした。広いベランダに辿り着いた悟飯は、ガラス越しにリビングで勉強をしている五月を見かけた。
だが、五月はベランダにいる悟飯に気づくことはない。だから、ガラスを軽く叩いて音を立たせる。
五月「!!?」
すると、五月は悟飯の存在に気づいた。いた場所が場所だったため、すぐに鍵をあけて扉を開けた。
五月「こんなところで何をしてるんですか、孫君!!?」
悟飯「ごめんね。五月さんが心配で来ちゃった……。インターホンを鳴らしても出てくれなかったから、何かあったのかと………」
五月「………取り敢えず、上がって下さい」
悟飯「うん。お邪魔します」
ようやくお邪魔することに成功した悟飯は、しばらく五月が勉強する姿を眺めていた。いつ話題を切り出そうかと思考していたら、五月が先に口を開いた。
五月「……孫君。こんなこと意味がないというのに、私は何をしているんでしょうか?」
悟飯「昨日も言ったけど、あの人は適当なことを言ってるんだよ。君達のことは考えてない」
五月「いいえ、そうじゃなんですよ。お母さんも言っていたんですよ。それなのに諦められない…!未だにお母さんを目指してしまっている。そう願う私は間違っているのでしょうか?」
悟飯「………まあ、確かに教師になってもいいことばかりじゃないしね」
五月「えっ……?」
悟飯「優秀な生徒ばかりとは限らない。世の中には想像を絶するほどの馬鹿がいるのだと思い知らされる。自分のポリシーを曲げても付き合っていかなければならない。他人と関わるってのは、心身共に疲れること間違いなしだ」
五月「あ、あの…?孫君……?」
あまりにも悟飯っぽくない喋り方に五月は困惑してしまう。目の前にいるのは確かに悟飯だ。だが、喋り方から、どうしてももう1人の家庭教師、風太郎の姿が思い浮かんでしまう。
悟飯「中には反抗する生徒も出てくるだろう。そんな時も逃げ出さずに向き合わなければならない。マジで大変だったぜ。俺はもうこりごりだ。教師になんて絶対になるもんじゃない」
そこまで言って一旦息を吸う悟飯。そして……。
悟飯「だがそれがどうした!他人の戯言なんて聞く価値もない!!お前の夢だろう!!?どれだけ逆風だろうが、進むも諦めるもお前が決めろ!!」
聞き続けてやっぱり思うのが、あまりにも悟飯らしからぬ口調だった。だからといって変装しているわけでもない。もし変装ならばベランダから侵入することなど不可能な芸当だ。
悟飯「………と、風太郎から預かってた伝言はここまで」
五月「やっぱり上杉君でしたか…。馬鹿って言われた時はびっくりしましたけど………」
悟飯「………でも、五月さんは馬鹿だと思う」
悟飯自身の言葉で馬鹿だと言われた五月は不意打ちを食らったように驚いた顔をするが…。
悟飯「五月さんの夢は、いきなり現れた他人にどうこう言われただけで諦められるようなものだったの?そんなに軽い夢だったの……?」
五月「いいえ!そんなわけありません…!!でも、本当に私の夢なんでしょうか…?私はただお母さんになりたいだけ……。ある人にそう言われたことがあります」
悟飯「違うでしょ?別にお母さんになりたいだけなら他にもいくらでも方法があるでしょ?でもその中で五月さんは教師という道を選んだ……。それはなんで?」
五月「……私は、あの気持ちを大切にしたい……。人に教えた時に感謝される時の気持ちを……!学ぶ喜びを大切にしたい……!」
悟飯「……なら、答えはもう決まってるでしょ?」
五月「私は……。私はお母さんのような先生になりたい!!私は私自身の意思で先生を目指します!!」
悟飯「………(そうだよ。五月さんは最初からお母さんになろうとしていたわけじゃない。お母さんみたいに素晴らしい教師になりたかった……。やっと気づいてくれたか………)」
ようやく五月の悩みが解決した悟飯はほっと一息をついた。だが、まだ一仕事残っている。
悟飯「……五月さんがそう願うなら、家庭教師として僕にできることはただ1つ。全力でサポートすることだよ」
五月「………ふふ。いいことを思いつきました」
五月は先程の雲がかかったような暗い顔から一転し、青空の中で輝く太陽のようないい笑顔でこう言う。
五月「勉強、教えてください」
悟飯「もちろん!」
悟飯は五月の願いに即答した。
五月「上杉君にもそう伝えておいてください!」
悟飯「分かったよ」
五月「こうなったら、自分の夢を意地でも叶えるためにお二人を最大限利用させてもらいます。覚悟してて下さいね?」
悟飯「ははは…。やる気があるのはいいことだ」
五月「でも、その前にやらなければならないことがあります」
そう。五月自身の問題はまだ解決していなかった。ある者と決着をつけなければならなかった。
悟飯「それじゃ、僕も…」
五月「待ってください。孫君にも、上杉君にも感謝しています。しかし今回は手を出さないで下さい。この問題は私達家族で解決します」
悟飯「………分かった。でも、危なくなったら介入させてもらうよ?」
五月の覚悟を聞いた悟飯は、ピンチになった時以外は決して舞台に上がらないようにしようと心に誓った。
そして、五月と悟飯は学園祭に帰還し、決着をつけることとなる……。
五月の説得?シーンは本当なら風太郎にやらせたかったんですけど、それだと展開的に違和感があったので悟飯にしましたが、風太郎からの伝言という形でそのまま引っ張ってきたことで擬似的に風太郎を登場させてます。
さて、次で100話にいくわけですが……。先に言うと100話では誰が悟飯のお相手となるかは判明しません。その次の101話で分かると思います。
前書きに書いてある通り、風太郎と悟飯の出会い等の前日章的な話は本編終了後に書くはず…?場合によっては本編中に書くかもしれませんけど。
こんな話が見てみたいといった意見があればさりげなく伝えて下さいな。早めに伝えてくれれば考える時間もそれだけ長くなるので。
P.S. やっぱり五等分RE面白い